2025年7月に京都で開催されたゲームイベント「BitSummit」。インディゲームのイベントとして国内外から注目を集めている。13回目となる今年の来場者数は、3日間でのべ58,065人。2024年と比べても1.5倍以上に、2023年と比べるとなんと2.4倍もの来場者が集まった。
日本ではゲームのイベントといえば毎年9月に開催される東京ゲームショウが世界的に知られているが、BitSummitはゲームすべてではなく「インディゲーム」という、いわゆる個人制作や少人数で作られたゲームのみをテーマにしている。そのBitSummitが盛り上がるということは、超有名ゲーム以外にも人々の目が集まっているということだ。
そんなBitSummitの展示フロアの中心部に、2025年は突如「XR横丁」というエリアが出現した。いわゆるVRゲームやMRゲームなど、XRをテーマにしたゲームが国内外から9点集結。筆者は1日目、金曜日のビジネスデーに会場を訪れたが、すでに大盛りあがり。一般デーとなる2日目・3日目はさらに賑わっていたという。
このXR横丁とは一体何だったのか?
仕掛け人であり、このブースを主催していたG-SMASH株式会社の代表取締役である原島駿氏、そして株式会社yospの代表取締役、吉田修平氏に話を聴いた。なお、原島氏は2025年春までMeta Japanにて、国内のVRゲーム開発のデベロッパーリレーション担当を務めていた人物。独立後、初の取組がBitSummitでの「XR横丁」となる。なんと登記も同月2025年7月にしたばかりだという、衝撃のスピード感だ。
そして、株式会社yospの代表取締役、吉田修平氏は「yosp」の愛称で世界中のインディゲーム開発者に慕われているインディゲームのキーマンだ。2025年1月までソニー・インタラクティブエンターテイメントで、長らくPlayStationプラットフォームとともに、インディゲームの隆盛を作り上げてきた。公私ともにインディゲーム好きとして知られる。そして、吉田氏は2016年に発表されて以来、PlayStation VRの顔として、VRゲームも盛り上げてきた人物でもある。
これからVRゲームを盛り上げると息巻く原島氏とこれまで10年近くにわたってVRゲームを盛り上げてきた吉田氏、新旧VRゲームの仕掛け人の対談をお送りしよう。

(今回の対談にお付き合いいただいた株式会社yospの吉田修平氏(左)、G-SMASH株式会社の原島駿氏(右))
BitSummitにXRに集めた理由
ーー今回「XR横丁」を仕掛けた理由はなんだったのでしょうか。
原島駿氏:とにかく日本のXRを盛り上げたいんです。そして北米ではすでに盛り上がっているのでその熱気を伝えたい。さらに、日本がその中にしっかりと位置づけられているようにしたいんです。今回は国内だけでなく、海外の会社にもお声がけしました。日本だけでやっていると、広がりが限定されてしまう。海外の方々を呼ぶことで、彼らが発信して「BitSummitはすごかった、XR横丁は良かった」という話になれば、彼らの出張サイクルの中にBitSummitを入れてもらえるようになります。今回、米国の会社が3社来てくれて、かなり良かったと言ってくれました。日本はIPもたくさんあるので、普段繋がれない方と繋がれることにメリットを感じてくれたようです。
吉田修平氏:Q-Gamesさんは元々京都にいて、日本人と海外の方でやっていることで有名ですよね。
ーー今回出展しているVRゲーム『The Break-In』を作っているクリエイターは大阪在住で、元々はイギリスの金融マンと言ってました。
吉田氏:VRゲームを作るために日本に来たんですかね?
原島氏:日本語を学びたいという理由で日本に来て、大阪で暮らしながらVRゲームを作っています。以前は法人向けのシステムを作っていたそうですが、RedditにVRゲームのアイデア動画を投稿したら、それがすごくバズって「これはいける」となって日本に来てVRゲームを作っている、面白い経歴です。

(XR横丁に展示されていた「The Break-In」の制作元jorgen games)
VRゲーム業界、10年の変化と新しい風
ーーインディーゲームをずっと見てこられた吉田さんからすると、BitSummitのこの10年はいかがですか。
吉田氏:BitSummitは去年(2024年)がエポックメイキングでした。展示フロアが2フロアになって一気に雰囲気が変わったんです。
そして、VRゲームは、インディーゲームがずっと主流を占めていて、切っても切れない関係というのがコンソールと違う最も大きなポイントです。VRは、MetaさんやPlayStationのような大企業が投資してサポートするか、インディーの人が好きでやるか、という感じが続いています。これだけインディーゲームの数が増えると、作っても目立たなくなってしまいます。コンソールやPCで、開発者たちが『ディスカバラビリティ(見つけやすさ)』に一番苦労する中で、VRゲームは作られている数が少ないので、いいものを作ればパンと跳ねる可能性があります。特にアメリカではMeta Questがすごく売れているので、若い子向けのソーシャル的なゲームがたくさん売れていますよね。
原島氏:Z世代やアルファ世代に刺さっているものが、今のメインストリームになっています。これは、以前のVRシーンとは全く違う、大きな若返りだと思います。
ーーまさにVRヘッドセットが市販されて、もう10年くらい経ちます。
吉田氏:VRはB2Bの世界でも浸透してきています。昔のように、「これは新しいからやりたいんだ」という熱意というよりは、もう少しクールな感じで広がってきた。なので、ちょっとくたびれてきた感じはあります。だから、原島さんのように「行くぜ!」みたいな人が出てくると、ちょっと昔を思い出してほっこりします。
原島氏:よく色々な方に「2015年頃にタイムスリップしたかのような人だ」と言われます。
吉田氏:逆にフレッシュで良いですよ。新しい風を吹かせようとしている。
原島氏:そもそも10年間やってきたことがあるから、ここまで来ているわけですよね。国内のVRの開発会社だけでも増えてきました。ビジネスとして成り立つまでに10年かかったんだなと思います。
ーー市場に吹く新しい風という意味では、VRゲームは、『Gorilla Tag』のようなヒット作が出てきて流れがガラッと変わりました。その変化は、吉田さんの目にはどう映っていますか。
吉田氏:すごいことだと思います。VRの普及台数は、日本ではそこまで伸びませんでした。一方、アメリカでは「こんなに浸透していた」わけです。若い子が普通にVR機器を持っているというデータや記事を見ても、にわかには信じられなかったですが、『Gorilla Tag』のヒットを見ると本当だったんだなと思えます。
原島氏:実際に『Gorilla Tag』に入ると、本当に子供の声しか聞こえなくて、明らかに子供だなと分かります。3年前はまだ『Asgard’s Wrath』のような、VRの中でのAAAタイトルが主流だったと思いますが、今はソーシャルでカジュアルなものが一番になっています。
ーーVRの世界は「キラータイトルはいつ出てくるんですか?」という問いをずっと突きつけられてきました。でも蓋を開けてみれば、誰も予想していなかった層が、思ってもみなかったコンテンツに熱狂していた、という感じですね。
吉田氏:(最初にヒットした)『Beat Saber』の次は何か、とみんなが考えていた中で、それがIPものではなく『Gorilla Tag』だった。これはどこからも注目されていたわけではない、全くの予想外でした。
吉田氏:ただ、ヒントはありました。「絶対伸びる」とみんなが思っていた要素、それはソーシャルです。VRの世界に一緒に入ってワイワイやる、これは絶対面白いという感覚はありました。
ーー『Gorilla Tag』が流行ってから、基本無料(Free-to-Play)でソーシャル要素があって、グラフィックにはこだわらず、とにかくアルファ世代がワイワイ遊べるものを作れ、という流れに急に変わりました。
吉田氏:(日本のVRゲーム開発会社だと)MyDearestは、それに早く適応しに行きましたね。私は現在世界中のインディゲームスタジオの支援をしていますが、昔からの仲間であるイギリスのnDreamsも、ハイエンドのアクションゲームを得意としながらも、新しいチームを作ってソーシャルで若者向けのものを開発していると言っていました 。
原島氏:MyDearestは本当に早かったと思います。彼らは本格的なゲームを作った後、トレンドを読んで一気に舵を切りました。複数のタイトルを短期間で開発し、半分以上がヒットしています。
AIがVR/XR開発を変える
ーーヒットしているVRに対して、Meta Quest 3から機能が備わってきたMRはいかがですか?
吉田氏:私は『Puzzling Places』が大好きです。あれは外が全部見えるので、一人の世界に入り込まず、家族がいても居心地の良さがあります。
原島氏:個人的には『Laser Dance』というゲームが好きです。部屋をスキャンしてステージがその場で作られるのが革新的です。VRという言葉を使わず「XR横丁」にしたのも、将来的なことも考えてです。
そのうち「XR AI横丁」になっているかもしれませんが(笑)

(XR横丁に展示されていたMRモードを搭載した戦略ゲーム「クリスタルコマンダーズ」)
ーーAIも大きいですか
原島氏:アメリカのカンファレンスに行くと、もうAIとXRはセットです。
吉田氏:AIによってゲーム開発自体も大きく変わってきています。大手のゲーム会社でも、コンセプトを固める時にAIに色々描かせて、そこから「この組み合わせはありだな」という発想を得るのにすごく便利だと話していました。アーティストとクリエイターが一緒にAIの出力を⾒ながら⽅向性を決め、実際の制作はアーティストが⾏う。これだ、というものにたどり着くまでの時間がものすごく短縮されます。アーティストの仕事がなくなるのではなく、本来集中すべきクリエイティブな部分に、より時間をかけられるようになるんです。
“体験”こそが未来への鍵
ーー北米マーケットがものすごく盛り上がり、世代も若返っている一方で、日本にいる我々にはそのユーザー像が見えづらく、肌感覚がわからなくなっているように感じます。
吉田氏:日本だと、『VRChat』でワイワイしている人たちがいますよね。そちらのカルチャーの方が大きく感じますし、VTuberなども盛んです。
ーー面白い市場だとは思いつつ、どう入っていけばいいのか、ハードルが上がったようにも感じます。
吉田氏:マルチプレイでソーシャルというのがヒットの要因なので、どうしても英語圏以外には広がりづらい。AIでリアルタイムに何語でも聞こえるようになれば変わるかもしれませんが。
原島氏:今回の「XR横丁」は、Meta Questだけではダメだという思いがありました。PS VR2もあれば、これからAppleやGoogleもプラットフォームとして成長してくる。さらにARグラスも出てきます。一つの端末やプラットフォームに縛られず、もっといろんな選択肢がある状況にしたい。
そして、とにかく触れる機会を増やしていかないといけません。
ーーXRはずっと「体験しないと分からない」というのがついて回ります。デバイスは良くなっているので、初代PSVRをやったきりのような人にこそ、今のデバイスを体験して、その記憶を上書きしてもらわないといけないですね。
原島氏:多くのゲーム開発会社の方と話すと、PSVRは大体皆さん体験されているんです。ただ、それ以降のデバイスは体験されていないことが多い。Quest 3のような、かなり進化したものを多くの人がまだ触れていないんです。とにかくイベントで多くの人に知っていただき、ハッカソンなどを通じてコミュニティを強固にしていく。どのデバイスがまず普及するかは分かりません。たとえばメガネ型のデバイスが一気に普及したとしても、日本の開発会社の皆さんがしっかりついていけるような土台を作っていきたいです。
ーー本日はありがとうございました!
