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Vision Pro 2025.02.14

Apple Vision Proの可能性を押し広げるのはプロレスかもしれない 大迫力の試合を3D撮影したコンテンツに圧倒される

2月6日、株式会社STYLYオフィスで、空間コンピュータApple Vision Pro対応のコンテンツ『バーチャルプロレス スペシャルマッチ「清宮海斗vs拳王」powered by Pontaパス』が発表された。3月2日に横浜武道館で開催される「プロレスリング・ノア25周年記念大会」にて、一般来場者向けに限定公開される予定だ。

本コンテンツは、プロレス団体NOAHのスター選手2名の試合の様子をそのまま3D撮影し、自由な視点で観られる立体的な映像として出力したものとなっている。その結果、大迫力のプロレスの試合を、レフェリー視点、つまり超至近距離で楽しめるのだ。

Apple Vision Proといえば高解像なディスプレイを搭載しており、大型ウィンドウでの映画体験はもちろん、奥行きと立体感を感じられる空間ビデオの視聴にも向いているデバイスだ。それ故にスポーツの試合や音楽ライブなどの映像と相性が良く、Appleも公式アプリ「Apple Immersive Video」で、ロデオやパルクールといった派手な動きの観られる8K立体映像を配信している。

一方、今回映像で体験できるのは、清宮海斗選手と拳王選手のマッチ。清宮選手といえば、ドロップキックやタイガースープレックスホールドなど派手な技を得意とし、武藤敬司をはじめとした数々のベテランと対峙してきた今注目を集めるプロレスラー。拳王選手は、日本拳法の世界大会優勝というキャリアからプロレスの世界に入ってきた異色の出自で、最近では合気道の技をプロレス技に取り込んで自らの必殺技にするなど、様々な格闘スタイルを柔軟に取り入れながら活躍する選手だ。その2人の対戦をプロレスリングではない“空間”で間近に観られるのだ。

一体、どのような映像に仕上がっているのか、現地の体験を取材した。

思わずのけぞってしまう ありえない距離で体験するプロレスの迫力

さっそく体験の模様を紹介しよう(※下記画像は公式提供映像より引用)

いや、凄まじすぎる……!

現実の空間に3Dスキャンで撮影された2人が出現し、白熱の試合を繰り広げる。ドロップキックやシャイニング・ウィザードなど、豪快な技が次から次へと繰り出され、体験している最中は自分も巻き揉まれるのではないかと思わずのけぞってしまう。


(選手が近づいてきて思わずのけぞる著者)

こちらの映像は現実の空間を歩き回りながら自由な視点でみられるので、(寄りすぎると映像が消失してしまうので、少し距離は必要なものの)本人たちのすぐ側ギリギリまで近づくこともできる。技をかけられ倒れる拳王選手を真下からのぞいたり、自分がしゃがんだ状態でドロップキックを見上げたりも、もちろんできる。

スキャンされた選手たちの3Dの姿が自然に見えるため、本当にその場にいるかのような感覚があり、とても良い。一部、組技の際に、カメラに映らなかったであろう顔の内側部分が見えづらいといったことはあったものの、プロレスの流れ自体がとても早いので、よほど目を凝らさなければ気にならない。そもそも大迫力のアクションに、些細なことはどうでも良くなる。なにせ、一般の人間はプロレスリングに上がることもなければ、こんな間近で戦う人間を目撃することもないのだ。

また、映像を盛り上げるために追加された演出も面白いものだった。選手たちの頭上には、格闘ゲームでよくみられるHPゲージがあり、それぞれがダメージを受けるたびに減少していく。派手な技の前後には、選手の周囲にオーラや技名、選手の顔が出現したりと、とにかく派手だ。攻撃を受けた際に細かなエフェクトが出てくるのも、こだわりが見られる。試合の最後には、自分の目の前に大きなボタンが出現し、連打すると大量の紙吹雪が舞い降る点も、ささやかな演出ながら「自分も試合に参加している」という感じがあった。

総じて、プロレスファンであれば狂喜乱舞するコンテンツなのは間違いない。実際、現地体験会にいた、おそらくプロレスファンの報道陣も、Apple Vision Pro体験時には喜びの声をあげていたし、これまでApple Vision Pro関連のコンテンツ取材を続けてきた著者も興奮させられた。今後、こういった視点での3D映像のアーカイブが残るのであれば、歴史に残る名試合の数々を、全く違う視点で何度も楽しめるようになるのではないか、そういった未来への期待感も込みで、満足度の高いコンテンツだった。

どのような技術で実現しているのか?

今回の映像は、事前に収録スタジオで選手2人が戦っている姿を、3Dデータとして収録している。具体的には、上記画像のように、複数台のカメラで被写体を囲み、収録した映像を3次元のデータとして再構成することによって成立している。これにより、平面の2D映像ではなく、どの視点からでも自由に見られる3D映像となるわけである。

ただし、こういった収録の方法は、データそのものが膨大なため、圧縮する際に非常に手間がかかり、効率が悪いという課題があった。今回、KDDI総合研究所は、3Dデータを、従来の圧縮技術から2倍の効率で圧縮して作成する新技術を活用したという(詳細はこちらのサイトを参照)。これにより、大容量データを必要とする3Dデータを効率的に圧縮して、Apple Vision Proのような端末やネットワークに大きな負荷をかけず、より多くのユーザーに届けられるそうだ。

試合の研究に使えるかもしれない 現役選手の考えるApple Vision Proの活用方法

今回の取り組みは、株式会社STYLY、KDDI株式会社、株式会社KDDI総合研究所、株式会社AbemaTV(東京都渋谷区)の共同企画によるものだ。体験会には、各企業のプロジェクト代表と、清宮海斗選手と拳王選手の両名が出席。それぞれの立場から今作の感想と今後の展開について話が交わされた。

そのなかで興味深かったのは、選手2名の感想だ。今回の映像コンテンツを改めて見返してどう感じたかという質問に、清宮選手は「自分のような選手は、試合をよく見返すが、これぐらいの(立体感のある)試合を観られれば『この瞬間、こうしていけばよかった』というイメージができると思います。何度も見返すことで、選手たちの技術も上がってくるでしょう」とコメント。拳王選手もこれに同意しつつ「対戦相手の研究もできるようになる。試合前から相手の弱点を見つけられるかもしれない」と語り、両選手ともスポーツを立体的な視点で見られることのメリットに着眼点を置いていた。

たしかに、一般的な2次元の映像では、選手たちの距離感を掴みにくく、細かな技の攻防も見えづらいことが多い。立体的な映像を自由な視点で見られるのであれば、プロレスだけでなく、さまざまなスポーツの研究にも応用できそうだ。実際、日本のプロ野球では近年、ボリュメトリックビデオシステムを採用したリプレイ映像が放送されるようになり、これまでは把握しづらかった選手たちの攻防がより視覚的に分かりやすくなっている。

残念ながら、今回のコンテンツを体験できる機会は「プロレスリング・ノア25周年記念大会」での体験会のみで、その後の一般公開は予定されていないという。しかし今回の会見に登場したKDDI、AbemaTVの各担当は、今後もこうした新技術を活用した映像作品の制作に対して意欲的に取り組む姿勢を示していた。これから、どのようなコンテンツがリリースされるのかに期待したい。

参考:公式提供資料


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