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AI 2026.10.14

フィジカルAI=人型ロボットではない 製造業の現場が今知っておくべきこと【XR Kaigi Hub 名古屋レポート】

2026年8月6日、XR Kaigi Hub 名古屋にて、特別企画「フィジカルAIからスマートグラスまで、XR・メタバースの先に訪れたAI時代に企業はどう取り組むべきか?」に連なる形で、株式会社フィジカルAI総合研究所によるセッションが開催された。本記事では、同社代表による講演内容をレポートする。

登壇者紹介:村上拓朗(株式会社フィジカルAI総合研究所 代表取締役CEO)

名古屋大学工学部機械航空工学科卒。学生時代にVRやAI事業を手掛ける企業を創業し、2026年3月に2社目となる同社を設立。名古屋のスタートアップ拠点「STATION Ai」に入居し、製造業の競争力向上を軸に活動する。代表的な制作・研究内容として、シミュレーション空間でロボットを学習させ現実空間へ落とし込む「Sim2Real」技術や、人間の動作データを大量に取得して模倣学習させるVLA(Vision-Language-Action)モデルの開発などを手掛けている。

「何からやればいいんだ」現場のリアル

株式会社フィジカルAI総合研究所は、2026年3月に設立されたばかりの新しい企業である。名古屋のスタートアップ支援拠点「STATION Ai」に本社を構え、東海エリアの製造業を主なターゲットに据えている。これまで自動化できなかった工程をAIによって自動化し、産業全体の課題を解き明かすために、フィジカルAIをどう活用していくべきかを構想し、自社でも積極的な研究開発を進めている。

村上氏の元には、製造業の企業から多くの相談が寄せられるという。その代表的な声が、「会社からは『フィジカルAIが流行っているので、何か考えてくれ』『絶対形にしろ』と言われるが、実際何からやればいいのか分からない」というものだ。

世間のニュースやトレンドワードランキングでは、「フィジカルAIが未来を変える」「次のブレイクはフィジカルAIだ」「ヒューマノイドが社会実装へ」といった華々しい言葉が飛び交っている。しかし、製造業のリアルな現場からは「ヒューマノイドは本当に必要なのか?」「調べてみると、すぐに取り組めるようなものではない」と、期待と現実のギャップに対する戸惑いが生まれているという。

さらに、現場のプロジェクト企画者にとっては、要件定義、技術調査、プロトタイプ開発、データ収集・学習、評価・検証、コスト試算といった膨大な技術的タスクに加え、社内調整やプレゼン資料作成までが重くのしかかる。センサー(LIDAR、カメラ、IMU)をどう組み合わせるのか、自律移動やマニピュレーション、人との協働をどう制御するのか。「納期は3週間後」などと無茶な要求をされ、頭を抱える担当者が多いのが実態である。

「フィジカルAI=ヒューマノイド」は誤解

こうした現場の混乱の原因の一つとして、村上氏は「言葉が先行している」ことを挙げる。多くの人が「フィジカルAI=ヒューマノイド」だと誤解し、トップダウンの指示で焦ってヒューマノイドロボットを買おうとするケースすらあるという。

しかし、フィジカルAIの定義はより広く、「物理世界に作用するAI」である。ChatGPTのように画面の中だけで完結する「脳」だけのAIとは異なり、カメラやLIDARなどのセンサーで現実世界を知覚・観測し、AIが判断を下し、アクチュエータ(モーターなど)を動かして現実世界に変化をもたらす技術全般を指す。

したがって、ヒューマノイドに限らず、WaymoやTeslaのFSDのような自動運転車、自律型ドローン、そして工場ですでに稼働しているアーム型の産業用ロボットや協働ロボットも、すべてフィジカルAIの範疇に含まれる。

なぜ今、世界中がこれほどまでに騒いでいるのか。その背景として、内閣府や経済産業省の資料に基づく市場規模予測が示された。特定の業界・業務に特化した「バーティカルAI」の市場規模は、年率21.6%で成長し2040年に約35.0兆円に達すると予測されている。一方で、フィジカルAIの市場規模は年率34.4%というさらに高い成長率を見せ、2040年には約55.0兆円に達すると見込まれている。

村上氏はこの予測に対し、「世の中の仕事はパソコンの仕事以上に現場で何かを作るところが多く、物理世界で時間を使うことのほうが多い。そちらの市場が大きくなるのは当たり前だ」と語る。2040年頃には、現在のスマートフォンやPCのように、フィジカルAIが当たり前の存在になっていると予想されている。

日本がここから巻き返すには

では、世界各国は現在どのような動きを見せているのか。提示資料によれば、アメリカと中国が技術力で大きく先行しているという。

アメリカはAI技術そのものに強く、民間リスクマネーが主導して市場を創出している。TeslaやFigure AIといった企業に巨額の資金が流入しており、政府も2025年1月に「America’s AI Action Plan」を発出するなど強力に推進している。村上氏は、米国のスタートアップ企業「Physical Intelligence」が開発した「π0(パイゼロ)」と呼ばれるAIモデルの動画を紹介した。

そこには、柔らかく形が変形しやすい洋服を畳んだり、キュウリをピーラーで剥くなど、従来のティーチングでは不可能な動作をAIが行う様子が映し出されていた。これは「世界モデル」と呼ばれる未来予測モデルを使い、動作後の状態(サブゴール)を想像してから動作を実行する最先端の技術である。

一方、中国はロボットのハードウェア領域で圧倒的な強さを見せている。「中国製造2025」や「第十四次五ヵ年計画」により国を挙げてロボットへの投資を展開し、ヒューマノイドロボットにも多額の資金を割り当てている。村上氏が紹介したUnitree社の「G1」というロボットは、人が遠隔操作(テレオペ)で動かしている部分も多いものの、人間の動きに近い滑らかな動作を実現している。

特筆すべきはその価格で、かつては1000万円以上したロボットが、300万円程度で購入できる時代になっている。「人件費よりも高い」と言われていたロボットだが、「すぐにロボットのほうが安い時代になる予感がする」と村上氏は語る。

欧州もまた、2024年のAI法(AI Act)施行や、科学研究プログラム「Horizon Europe」を通じた2030年までの最大約26億ユーロの資金供給など、ルールメイキングと官民連携を急いでいる。

「ITで散々ボコボコにされてきた日本が、ここからどうやって勝っていくのか」と村上氏は問いかける。日本の強みは、「現場のニーズの高さ」と構造的な「人手不足」、そして「工場が多いこと」にある。日本には「ロボット新戦略」(2015年)から続く、産業用ロボットで培った高度な技術基盤がある。

「日本はものづくりが強い。工場でしっかりとデータを取って事例を作り、早めに産業に根付かせてグローバルに持っていくことが非常に重要だ」と村上氏は力を込める。日本政府も動き出しており、2040年度までにフィジカルAI分野に10.5兆円を投資する想定額が示されている。これは人工衛星(6.4兆円)や植物工場(4.6兆円)といった他分野への投資額を大きく上回る規模である。さらにソフトバンク等が主体となる国産AIの開発に3873億円を投じるなど、大規模な産業政策が進んでいる。NVIDIAのCEOが来日し、ファナック、安川電機、川崎重工業、富士通などの大企業と連携して、NVIDIA OmniverseやIsaacを活用した製造業向けのプラットフォーム構築を進める構想も発表された。

小さく始めて、段階的に拡大していく

国や大企業が壮大な構想を描く一方で、現場の担当者は混乱の渦中にある。「協働ロボット、産業ロボット、推論、強化学習、模倣学習。ほとんどの人がごちゃごちゃになっている」と村上氏は指摘する。

世の中の大きな流れの中で、企業が今やるべきことは「しっかりと理解すること」である。各ワードが何を示すのか、技術革新が今後どう進んでいくのかを見極め、自社が今この場で何をすべきか、方針を立てることが極めて重要になる。

講演の最後に行われた質疑応答では、参加者から「1つのモデルに対して何動作くらい作れるのか」という質問が飛んだ。村上氏は「理論上は無限です。データを大量に取れば何動作でも組み込めます」と答えたうえで、「ただ、今の時代、まずは1動作から始めるのがいいのかなと思います」と堅実なアプローチを提案した。多工程であっても、1回の指示で全てを行わせることは技術的に十分可能だという。

また「シミュレーション内での学習と、現実空間での学習のどちらを行っているか」という質問に対しては、「どちらもやっている。ただ、どちらが良いかについてはだいぶ結論が出ている」と述べ、日々PDCAを回しながら最前線で研究を続ける同社の知見の深さをうかがわせた。

「小さく始めて、段階的に拡大していく」。フィジカルAIという未知の領域に挑む製造業にとって、バズワードに踊らされず、現場の課題解決に直結する地に足のついたステップを踏むことこそが、55兆円市場を勝ち抜くための確かな一歩となるだろう。

AI・スマートグラスの最新事例が集合! 国内最大級カンファレンス「XR Kaigi 2026」、11月30日〜12月2日に開催決定

XR Kaigi実行委員会は、バーチャル領域のカンファレンス「XR Kaigi 2026」を2026年11月30日(月)から12月2日(水)の3日間、東京・ポートシティ竹芝内(ポートホール・東京都立産業貿易センター浜松町館)で開催すると発表しました。開催発表に合わせ、協賛・出展企業の募集も開始されています。
※XR Kaigi、MoguraVRはMyDearest株式会社が運営しています。

XR Kaigiは、XR・スマートグラス・VTuberなど、バーチャル領域の担い手を対象としたカンファレンスです。企業・個人・業界団体・行政などが参画する業界横断型のイベントで、海外からの登壇者や出展社も迎えます。開発者やクリエイターを中心とした参加者が集まる場を目指しており、2014年から業界専門メディアとして活動するMogura VRが企画しています。想定総動員数は4,000名、想定出展ブース数は100ブースです。

https://www.youtube.com/watch?v=-cy11rHE5Eg



協賛・出展の詳細は、公式サイトから資料請求できます。

XR Kaigi 2026 概要

名称 XR Kaigi 2026
会期 2026年11月30日(月)〜12月2日(水)
会場 ポートシティ竹芝内(ポートホール・東京都立産業貿易センター浜松町館)
想定総動員数 4,000名
想定出展ブース数 100ブース
公式サイト https://mydearestvr.com/xrkaigi/2026/
主催 XR Kaigi実行委員会

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