Home » スマホが専用機材になる! 今日から始める3Dスキャン入門【XR Kaigi Hub in 札幌レポート】


活用事例 2025.09.10

スマホが専用機材になる! 今日から始める3Dスキャン入門【XR Kaigi Hub in 札幌レポート】

国内最大級のXRカンファレンス「XR Kaigi」の姉妹イベント、「XR Kaigi Hub」。本稿は、札幌で開催された「XR Kaigi Hub in 札幌」にて行われた講演「今日から始めるスマホ3Dスキャン生活」のレポートである。

専門家でなくとも、誰もが「今日から始められる」をコンセプトに、3Dスキャンの魅力と実践的なノウハウが語られた。

話者紹介:岩間 輝氏

モバイルスキャン協会理事として、主にスマートフォンを用いた3Dスキャンの普及活動に尽力。これまでの実績として、Niantic Lightship Summitや東京都デジタル局のXR会議などで講演。近年では「Scaniverse Japan Meetup」への協力や「3Dスキャンミートアップ」の主催など、コミュニティ活動にも積極的に携わる。

失われた建物も蘇る 3Dスキャンの可能性

3Dスキャンとは何か?

岩間氏はこの問いに対し、「現実にある物体や空間を3Dデータとして記録する技術」であると定義する。写真が2次元の記録であるのに対し、3Dスキャンは空間や物体の形状、質感を立体的に、ありのままの形で保存する。

その可能性を示す好例が、デジタルアーカイブとしての活用だ。講演では、老朽化により現存しない東京都の大黒湯という銭湯を3Dスキャンし、バーチャル空間に再現した事例が紹介された。建物そのものは失われても、3Dデータとして保存することで、その空間をいつでも追体験できる。岩間氏は「現実にないものや保存できないものを記録できるのが、3Dスキャンによるデジタルアーカイブです」と語る。

この技術は、様々な業界で実用化が進んでいる。建設業界では、静岡県熱海市で発生した土砂災害の際に、県が保有していた3次元点群データと災害発生時のデータを比較することで、土砂の流出量を迅速に把握した活用事例がある。また、ゲーム業界でも『バイオハザード』や『ファイナルファンタジー』といった著名な作品で、現実の人物や岩、料理などをフォトグラメトリ技術でスキャンし、リアリティのある3DCGデータとして活用している。

しかし、岩間氏が強調するのは、こうした業務利用だけではない、個人のための3Dスキャンだ。

「私が飼っているペットが寝ている姿を3Dスキャンで記録すれば、その姿をいつでもどこでも見ることができます。生き物である以上、いずれはいなくなってしまいますが、3Dデータとして残しておけば、亡くなった後も生きていた時と同じ姿をVR、AR、MRで体験できます」

子供の成長記録や、作った工作物の保存にも3Dスキャンは有効であると岩間氏は続ける。物理的な保管場所に困る工作物も、デジタルデータであればストレージの許す限り永久に保存可能だ。写真では伝わりにくい、子供が散らかした部屋の様子といった「空間そのもの」を記録することもできる。かつては技術的・金銭的なハードルが高かった3Dスキャンは、今や誰もが趣味や個人の記録のために活用できる時代になったのである。

写真から立体を生む3つの技術

スマートフォンで利用できる主な3Dスキャン技術は「フォトグラメトリ」「3D Gaussian Splatting(3DGS)」「LiDARスキャン」の3つである。

フォトグラメトリ

フォトグラメトリは、様々な角度から撮影した複数枚の写真を基に、3Dモデルを生成する技術だ。これは、左右の目で少しずれた映像を見て、脳がその差異から立体感を認識する人間の視覚の仕組みに似ている。コンピュータが写真を使ってその処理を行っていると考えると分かりやすい。

この技術の最大の利点は、カメラさえあれば、高価な専用機材がなくとも、ほとんどのスマートフォンで利用できることだ。岩間氏自身も、iPhoneだけでなく6万円台のAndroidスマートフォンで3Dスキャンを実践している。エナジードリンクの缶のプルタブのような細かなディテールも忠実に再現できるほど、小さい物体のモデル化を得意とする。一方で、広大な空間のスキャンも理論上は可能だが、情報量が膨大になるため、後述のLiDARに比べて難易度は高くなる。

3D Gaussian Splatting (3DGS)

3DGSは、近年登場した新しい技術である。撮影工程はフォトグラメトリとほぼ同様だが、生成されるデータの構造が根本的に異なる。一般的な3Dモデルがポリゴンの「メッシュ」で構成されるのに対し、3DGSは「ある点を中心に外側に向かって透明になる楕円体形状の集合体」で表現される。岩間氏はこれを「見る角度によって色が変わる煙のようなもの」と、感覚的な言葉で説明する。

この特性により、3DGSはフォトグラメトリが苦手としてきた表現を可能にする。例えば、同じ写真データからモデルを生成しても、フォトグラメトリでは水面が汚く表現されたり、穴が開いてしまったりすることがあるが、3DGSでは水面の揺らぎや透明感を非常に美しく再現できる。反射面や半透明な物体、ケーブルのような細い物体の再現性も高い。

LiDARスキャン

LiDARスキャンは、スマートフォンからレーザーを対象物に照射し、その光が跳ね返ってくるまでの時間や距離を計測して3Dモデルを作成する技術だ。写真から形状を「推測」するフォトグラメトリとは異なり、直接物体の形状を「計測」するため、非常に忠実で正確な3Dモデルを生成できるのが最大の特長である。

ただし、スマートフォンでの利用には制約がある。現状、実用的なLiDARスキャンが可能なのはiPhone 12 Pro以降のProモデル、または2020年以降に発売されたiPad Proシリーズに限られる。スキャン可能な範囲も半径約5mまでという制限がある。ホテルの部屋のような空間や、大型の物体のスキャンを得意とする一方で、小さな物体の精密なスキャンは苦手としている。

LiDARまで試すならiPhone Pro一択

「iPhoneとAndroid、どちらが良いか」という問いに対し、岩間氏は「LiDARスキャンまで含めて全ての3Dスキャンを試したい方はiPhone Pro一択です」と回答する。アプリの数や機能の豊富さ、安定性においてもiPhoneが優位な傾向にあるという。

一方で、フォトグラメトリや3DGSだけであれば、Androidでも十分に可能だ。重要なのは、機種の優劣よりも「チップの性能」と「カメラの性能」である。特に、撮影中にバックグラウンドで複雑な処理を行うアプリの場合、チップの処理性能が高いほど快適に動作する。カメラは性能が高いに越したことはないが、AIによる自動補正が強くかかる機種は、3Dモデル生成の元となる特徴点に影響を与える可能性があるため、補正をオフにできるものが望ましい。

処理をクラウドで行うタイプのアプリであれば、スマートフォンの性能はそれほど問われない。そのため、岩間氏は「まずは手持ちのスマートフォンで試してみて、物足りなければiPhone Proなどの高機能機種を検討するのが良いでしょう」と、スモールスタートを推奨している。

厳選!おすすめ3Dスキャンアプリ4選

講演では、初心者でも始めやすい4つの代表的なアプリが紹介された。

Scaniverse(スキャニバース)


Nianticが提供するこのアプリの最大の特徴は、全ての処理をスマートフォン内で完結させるローカル処理方式であることだ。これにより、他アプリの10分の1とも言われるほどの爆速な処理速度を実現し、インターネット接続のない圏外でも使用できる。データを外部サーバーに送信しないため、機密性の高い対象物をスキャンする際のセキュリティ面でも安心感が高い。また、スマートフォン単体で3DGSの生成が可能な点も大きな魅力だ。

Scaniverse(スキャニバース)

Polycam(ポリキャム)

多機能性が売りのアプリで、スマートフォンで利用できるほとんどの3Dスキャン技術を試すことができる。クラウド処理による高品質なモデル生成が可能で、有料版での利用が推奨されている。特にユニークなのが「ルームスキャン」機能だ。これは、空間をスキャンすると、AIが家具や扉、窓などを自動で認識し、簡易的な3DマップやCAD図のようなモデルをリアルタイムで生成してくれる機能である。

Polycam(ポリキャム)

Reality Scan(リアリティスキャン)

Epic Gamesが提供する、フォトグラメトリ入門に最適なアプリだ。最大の特徴は、撮影の自動化と品質の可視化にある。ユーザーはスマートフォンを対象物の周りで動かすだけで、アプリが最適なタイミングで自動的にシャッターを切ってくれる。さらに、スキャン中は撮影データが十分な箇所が緑、不足している箇所が赤で表示されるため、どこを追加で撮影すれば品質が向上するかが一目瞭然となる。これにより、フォトグラメトリで起こりがちな「処理が終わるまで結果が分からない」という失敗を大幅に減らすことができる。

Reality Scan(リアリティスキャン)

Kiri Engine(キリエンジン)

フォトグラメトリの弱点を克服するユニークな機能を持つアプリ。フォトグラメトリでは一般的にモデル化が非常に難しいとされる、ガラスのような半透明な物体や、光沢のある物体からでも、メッシュ化された綺麗な3Dモデルを生成できるのが最大の特徴だ。講演では、半透明なクリームソーダのグラスを、細い支柱まで含めて忠実に3Dモデル化した事例が紹介された。同じ写真データを使っても、従来のフォトグラメトリでは穴だらけになってしまう窓ガラスが、Kiri Engineでは綺麗に面として再現される比較も示され、その性能の高さが強調された。

Kiri Engine(キリエンジン)

「角度を変えて3周」が高品質なスキャンのコツ

最後に、高品質なフォトグラメトリモデルを作成するための具体的な撮影方法が解説された。岩間氏が示したのは、とてもシンプルな手順だ。

「スマートフォンのフォトグラメトリの基本的な撮影方法は、まず対象物の周りを水平方向に1周撮影します。次に、少し角度を変えて斜め上からもう1周撮影します。そして、最後に真上からもう1周撮影する、というように、角度を3段階に変えて撮影します」

この基本を守るだけで、ARで現実の物体と重ねても見分けがつきにくいほどの高品質なモデルが作成できるという。

フォトグラメトリは難しいと思われがちだが、慣れてしまえば簡単であると、岩間氏は語る。まずは靴のような身近で小さな物体から練習を始め、物体の撮影に慣れることで、空間のスキャンにも応用できるようになる。

スマートフォンという身近なデバイスを使い、現実世界をデジタルデータとして切り取り、保存し、共有する。岩間氏の講演は、3Dスキャンが決して専門家だけのものではなく、誰もが日常の記録や創作活動に活かせる身近なツールであることを示すものであった。

次回の「XR Kaigi Hub」は大阪!

「XR Kaigi Hub」の熱気は、次なる都市へ。2025年9月11日、12日の2日間にわたり、eスタジアムなんば本店にて「XR Kaigi Hub in 大阪」が開催されます。関西のXR・AI・メタバースに関心のある皆様、この貴重な機会をお見逃しなく。

XR Kaigi Hub in 大阪
開催日程: 2025年9月11日(木)・12日(金)
会場: eスタジアムなんば本店
公式サイト: https://hubinosaka.peatix.com/view

国内最大級のカンファレンス「XR Kaigi 2025」が東京で開催!

そして、年間の総仕上げとして、国内最大級のカンファレンス「XR Kaigi 2025」が東京ポートシティ竹芝で開催されます。バーチャル領域の担い手がノウハウや技術をシェアし、繋がり、高め合うことを目的とした本イベントに、ぜひご期待ください。

XR Kaigi 2025
開催日程: 2025年12月1日(月)〜3日(水)
会場: 東京ポートシティ竹芝
公式サイト: https://xrkaigi2025.studio.site/


CONSULTING / DEVELOPMENT

コンサルティング・開発サービス

Moguraの知見を、あなたのプロジェクトに

mogura_next

Moguraの知見を、あなたのビジネスに
編集長の久保田を筆頭に、XR/メタバースなどバーチャル領域を知り尽くす専門チームが、リサーチからコンサルティング、企画、開発までを一貫支援。
Mogura VRで培った豊富な情報力と業界ネットワークを強みに、企業・行政機関の成果につながる最適な解決策をご提案します。