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VR動画 2017.11.11

360度カメラをロケットエンジンにつけて、燃焼実験を撮ってみた

360度カメラの登場により、360度全天球の撮影は、比較的簡単にできるようになりました。通常のカメラのように世界を枠で切り取って収めるのではなく、世界そのものを収めてしまう360度撮影。「どのように撮るといいのか」これまでの写真とはまた違った構図を考える楽しさがあります。Mogura VRでは、このカメラをどう活かせるか実験をしています。今回は、ハイブリッドロケットエンジンの燃焼実験の360度撮影を遂行しました。

10月28日(土)。東海大学では、東海大学学生ロケットプロジェクト(TSRP)によるロケットの燃焼実験が行われました。TSRPは、1995年から活動を続けており、ロケットのボディだけでなく搭載される電子機器、 ロケットエンジンまで全て学生が開発しています。ロケットは高度約2.4kmまで到達可能です。

ロケットの大型化と高度100km到達を目標に全長が約2mから3mのハイブリッドロケットを制作しています。ハイブリッドロケットとは、H-IIAのような液体燃料を搭載したタイプと、イプシロンロケットのような固形燃料タイプ両方のメリットを活かしたタイプのロケット。低コストで安全管理がしやすいといった特徴があります。

TSRPは学生が70人程所属しているとのこと。精力的に活動しており、研究室内は興味深いものばかり。

10442_研究室内 – Spherical Image – RICOH THETA

こちらはエンジンを始動するための制御盤。

コンテナ内で、燃焼実験前の最終調整を行なっている様子。

TSRP燃焼実験コンテナ内 – Spherical Image – RICOH THETA

石鹸水を吹きかける事で泡が出ないかを確かめ、チューブのつなぎ目に空気の漏れがないかどうか検証している様子。

研究室内のモニターで、コンテナ内の状況も把握できます。お気づきでしょうか……。写真をよく見ると、エンジンの燃焼室上部にTHETAを取りつけてあるのが分かります。カメラの安全はもちろん考慮して撮影しました。

燃焼実験の様子

燃焼実験は、爆発等の危険があるためにコンテナ内で行われます。また、そのコンテナの半径数十メートルを立ち入り禁止区域にして行われました。遠くで聞いていても、凄い音がするのでとても楽しいです。撮影に使用したカメラはRICOH THETA SとSC。動画解像度は最新機種THETA Vに比べて低いものの、安全に撮影できる最も近い場所に取りつけて頂いたため、迫力満点です。

エンジン上部から撮影。

10437_5mb – Spherical Image – RICOH THETA

エンジンの下から撮影。

12877ver2_5mb – Spherical Image – RICOH THETA

手前から撮影。

10433_5mb – Spherical Image – RICOH THETA

フル尺の動画はこちら(YouTube)

燃焼は2:25秒に開始

燃焼は1:48秒に開始

従来のロケットエンジンとハイブリッドロケットはどう違うのか

今回の燃焼実験で使われたハイブリッドロケットは、従来の個体燃料を使うロケットエンジンと液体燃料を使うロケットエンジンのそれぞれ良いところを踏襲しています。

詳しく知りたい方向けにその違いを解説していきます。

従来のロケットエンジン(液体ロケットエンジン)

従来、H-IIAなどの衛星打ち上げで使われるロケットのほとんどは液体燃料型です。主に液体酸素と液体水素を燃焼させます。この液体酸素の沸点は-200度程で液体水素の沸点は-250度程。これらをロケットに充填した状態で保つのが難しいとのこと。ロケットに魔法瓶構造を作ると、重くて飛ばなくなってしまうため、打ち上げの直前に液体燃料を入れるという作業を行います。そのため、打ち上げ直前の作業時間が長くなってしまったり、燃料を保存するためのコストがかかる事が課題として挙げられます。

固体ロケットエンジン

固体ロケットエンジンの強みは打ち上げ直前に時間のかかる液体ロケットに比べ、一度成形してしまえばそのまま飛ぶところです。即時対応が求められるミサイルにもよく使われる方式です。しかし、固体燃料にも弱みがあります。それは、勢いが出過ぎて調整が難しいという点です。固体燃料ロケットでそのまま飛ばした場合、中に乗っている人は加速度がかかりすぎるため内臓が破裂して死んでしまいます。例えるなら火薬のようなもので、ロケットに何かあった時にも酸化剤を燃料に混ぜこんでいる構造のため、一度爆発が起きると燃料が全て燃えてしまいます。誰も燃焼を止められません。ここから分かる通り、火気厳禁となり、取り扱いの安全性やコストが大きく損なわれます。

ハイブリッドロケットエンジンとは?

他の団体では海外で作られているホビー用のエンジンやパーツをそのまま流用することが多いのとのことですが、TSRPでは独自開発でエンジンを作っています。ハイブリッドエンジンは理論上では、液体ロケットと固体ロケットの長所を併せ持つ低コストで安全性の高いロケットエンジンです。例えば、燃料。液体燃料は、ガソリンでも何でも火をつければ燃えてしまう。固体燃料は、火薬のようなものなので言わずもがな。そういった中で、ハイブリッドエンジンの燃料には、ゴムやプラスチックのような燃えにくいものが使われています。ハイブリッドロケットエンジンの安全性を例えるならこうなります。

もし地面に、ガソリン(液体燃料)や火薬(固体燃料)が落ちていたら怖いものですが、プラスチック(ハイブリッド用の燃料)が落ちていても、危険ではありません。また、管理費用も安くなります。

ハイブリッドロケットエンジンは、酸化剤が液体で燃料が固体です。液体と固体を混ぜて燃焼させるのは、燃焼工学的に難易度の高い技術です。一度溶かしたり、昇華させて、変化をさせないと燃えてくれません。燃焼効率が悪いのが、現在の大きな課題です。一部民間企業では使用されていますが、衛星打ち上げなど安定した運用を目指している打ち上げでは、未だに使用実績がありません。それだけ難しい技術になります。今回のTSRPの実験では、固体燃料や燃焼の調整など、様々な観点から実験を行いました。360度カメラで実験を撮影したことで、今までのカメラでは見つけられなかったような変化を観測できるかもしれません。

東海大学では、このロケット開発をしている左隣りで鳥人間コンテンストを目指す人力飛行機チームTUMPAが活動。そのさらに隣では、オーストラリアで行われるソーラーカーのレース、ワールド・ソーラー・チャレンジでの優勝経験もある東海大学ソーラーカーチームが活動していました。日本のものづくりの精神が育まれている様子を目の当たりにでき、とても良い経験となりました。TSRPでは、子供たちの夢をロケットで飛ばす企画『ゆめロケ!』を小学生を対象に行っており、応募期間は11月1日(水)から11月30日(木)まです。


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