地道な歴史考証による“忠実な再現” 『VR戦艦大和』竣工記念インタビュー

2016年12月16日、クラウドファンディングで第1回目の資金調達を実施後、2年の歳月を経て、『VR戦艦大和』が“竣工”、リリースされました。

今回は、VR戦艦大和リリースいたるまでの制作過程や、開発元である神田技研について、そして、VR戦艦大和の今後について、株式会社神田技研・代表取締役の西野元章氏にインタビューを行いました。

「2年間待った甲斐があった」との声が多かった

――実際にVR戦艦大和をリリースされて、反応はどうでしたか。

西野元章氏(以下、敬称略):
まず、2年ほど待たしてしまったクラウドファンディングの支援者の声が気になったのですが、Twitterを見る限り、「2年間待った甲斐があった」という声が多くてほっとしました。

 

また、体験会などを開いてみて、「実際に大和に乗っているみたい」「大和に乗るという夢が叶った」という声が多くて、うれしかったです。台湾の人が反応をくれたのはびっくりしました。ただ、売り上げは、Oculus Riftのみでリリースしているからか、ゆっくりと伸びていっている感じになりますね。

――どういう方がユーザー層なのでしょうか。

西野:
VR戦艦大和自体が目当てだったという人と、VR全般のアーリーアダプターの人と半々くらいではないでしょうか。年齢層でいくと、40代以上の方が多いですね。

 

70代や60代の方はかつて「戦記漫画ブーム」というものがあったので、それも影響しているのかもしれません。10代、20代は『艦隊これくしょん(艦これ)』で興味を持ったという人が多い印象ですね。

足も使って内部構造の再現をこつこつと。

――現在リリースされているものは、西野さんの目指すものを100点とすると、何点くらいでしょうか。

西野:
75点くらいですね。というのも、少人数体制ですから、どうしても手の回らないところが多くなってしまいます。たとえば、サウンドの多く、9割方はフリー素材を使用しています。主砲の発射音にも凝りたかったのですが……。

 

ライティング(3Dモデルへの光の当たり方)に関しても、もう少しいろいろ凝ってみたいですね。モデリングに関しては、人の造形が難しかったです。新規でやりはじめて、1年かかって、ようやく人らしく動き出したな、といった感じです。今後は人がもう少し自然な動作をするよう、もっとはつらつと兵員さんが走ったりするような動きをつけていきたいです。
VRでは、人の動きがちょっとでも不自然だと、プレゼンス(実在感)が剥がれてしまうので、本当に大変でした。

――戦艦そのものでは今後改良したいシーンはありますか。

西野:
大和の主砲内部のシーンなのですが、現状では、給弾する機構が実装されていません。この点は実際に動く様子を作りたいですね。

――この2年間で、どのように大和を制作していったのでしょうか。

西野:
2014年の12月にクラウドファンディングで募集を開始しました。そのときに、2人ほど、「私もやりたいです」と手を上げてくれた人がいたので、初めは3人で制作することになりました。

その後、モデリングをしていって、Oculus Rift DK2ではどのような見え方になるのか、どんな感じになるのかを実験しながら、2015年を過ごしていきました。

ただ、大和の内部構造は誰も作ったことがない上、あまり資料が残っていません。断片的に残っている資料をつなぎ合わせて再現していきました。実際に3Dモデルを制作していく段階では、ミリタリー系の雑誌にCGを投稿しているメンバーがいたため、うまくいきましたね。たとえば、東京・越中島にある東京海洋大学には、戦時中の機材、羅針儀やソナーなどが残っていて、それを確認しながら羅針儀は作っていきました。

また、木甲板に使われているタイワンヒノキも現在ではあまり使用されていないのですが、靖国神社の門や、皇居にかかっている平川橋の柱もタイワンヒノキということを調べ、実物を見て、質感や色などを確かめました。デッキの木甲板も、ずっと磨いていると色が変わっていくため、帆船の海王丸日本丸に乗ってみて、毎日磨いたらどんな色になるのかを確認しました。

冒頭シーンのために小型船舶も取得

西野:
2015年の末から「人を配置しよう」という段階に入り、2016年からモーションキャプチャーなどを始めました。その後、堤明夫氏(元イージス艦きりしま艦長、海将補、海軍研究家)にご協力いただいて、海軍の所作や号令などを教えてもらいながら作っていきました。2016年の春頃から声のアフレコを開始し、2016年の7月に、伝手をたどって、大和元乗組士官の都竹卓郎大尉に体験していただいて、それを元にブラッシュアップをしていきました。
2016年の夏には、小型船舶免許を取って、実際にVR戦艦大和の冒頭のシーンで江田島から柱島まで行くことをやってみました。ようやく2016年の12月16日にリリースという形になりました。

――時代考証に関しては、元から緻密にやろうと考えていたのですか。

西野:
元から緻密に時代考証してモデリングするつもりでした。ただ、大和と聞くと、かなり昔のもの、伝説上の建造物に思えるけれど、大和自体は割と現代に近いものだということも分かりました。たとえば、蛍光灯や、有線、無線などを完備していたところですね。現代の設備と変わりません。
また、「大日本帝国海軍」というと、非合理で、精神主義なイメージですが、大和で大砲を撃つとき、きちんと測距し、計算して照準を合わせるなど、合理的に動いていたところなど、海軍の新しい印象を伝えたかったです。大艦巨砲主義の新しいイメージを伝えることなどを考えていましたね。

――制作過程の中で楽しかったところと苦しかったところはありますか。

西野:
一番楽しかったのは、1分の1で大和をつくって、色々な角度から眺めたり、見上げたり、艦橋から見下ろせる体験ができたことですね。
苦しかったところはたくさんありますね(笑)。5分のデモと異なり、製品版は120分くらい楽しめるものなので、単純に分量が多くて大変でした。工数を見積もることができなかったのも大変でしたね。
また、今回ゲーム的要素を意図的にコンテンツにいれなかったのですが、それでコンテンツが成立するのかという点も不安でした。ただ、ゲーム的要素をいれないことによって、「ふだん見れないものを見て、体験することで、プレイヤー自身が成長する」というコンセプトが上手く成功したことはよかったですね。

――今回建造したVR戦艦大和で一番気に入っている点はどこでしょうか。

西野:
大和を新しい視点で見られることです。たとえば、艦橋の上に昇って見られることや、内部を見られるところが気に入っていますね。
また、戦艦大和というと最期の悲愴的イメージがつきものだけれど、それ以外の期間ではそのイメージは異なっている。だから、「大和の乗組員に選ばれて誇らしい」という、はつらつとしたシーンを描けて良かったですね。VR大和が青空の下を航行しているのはそういったシーンを描きたかったからですね。

――プレイヤーの設定というのはありますか?

西野:
イメージとしては、遠くの場所からきた、公使というか、大使的な扱いですね。というのも、軍人だと色々と階級ごとの作法とか、言葉遣いなどもあるので、ややこしくなります。同じく、皇族関係の人にすると、格式が関わるため、公使や大使になりました。ただ、当時も皇族の方がお忍びできたことはあるとのことですけどね(笑)。

――自由な視点で大和を眺めることができないのはやはりプレイヤーの設定があるからでしょうか。

西野:
最初は乗る体験をしてほしいというのもありますが、単純に自由に空から見られるようにすると90FPS(フレームレート)を維持できるか怪しかったからですね(笑)。人視点のモードと、鳥視点のモードでわけて作りたいとは今後考えています。

――クラウドファンディングの中のオプションで、実際にVR戦艦大和に登場するというものがありましたよね。

西野:
士官の方ですね。全員で5名ほど登場しています。本当は9名対象なのですが、写真を送ってきてくれた方が5名だったので。
通常の水兵の人で、名札だけで登場した人には、ミリタリー系で有名な人がいらっしゃいますね。たとえば、『艦これ』のイラストの一部を担当しているしずまさんは主砲の上にいらっしゃいますね(笑)。

後日筆者が46センチ主砲の上で発見した水兵さん

VR戦艦大和リリース後の体験会を呉、佐世保、長崎などで検討

――2年間続けられ、途中で法人化されて、資金調達はどんな感じだったのでしょう。

西野:
2回クラウドファンディングで資金調達をしたほかは、金融機関からも調達しています。今はベンチャー企業向けにいろいろやっているので、借りやすいですね。
また、クラウドファンディングの実績があったのも金融機関から借りやすくなった一因ですかね。そういう点は、クラウドファンディングの成功のおかげです。進捗が遅れていったことも、ちょくちょく体験会をやって成果を報告していったのがよかったのかもしれません。

――コミュニケーションが取れていたということですね。

西野:
そうですね。ただ、最初から、時間をかかってもいいのでクオリティを高めてくれという声がありました。

――VR戦艦大和リリース後も体験会をやっていくとのことですが、具体的にはどこでやろうと考えているのですか。

西野:
呉でやったり、武蔵ゆかりの地ということで、長崎や佐世保でもやりたいと考えていますね。もちろん、東京や、あとは、PCショップの店頭のデモも考えています。

今後に関して。PlayStation VRやHTC Viveにも対応予定!

――次のマイナーアップデートはいつ頃になるのでしょうか

西野:
1月頃に、酔わないようにするマイナーアップデートを考えています。あとは、大和を10分の1で見ることができる「精密模型モード」なども、次とはいわないですが、マイナーアップデートで実装していきたいですね。

――海外へのリリースなどは考えているのでしょうか。

野:

西野:
2月ごろに英語版が出せればと考えています。HTC Vive版もそのころですね。HTC Vive版が出るころには、元大和乗組士官の方の講演会を考えています。

――PlayStation VRには対応するのでしょうか。

西野:
対応します

――グローバル版に関しては、英語の字幕をつけるのでしょうか

西野:
英語の字幕と、英語の吹き替え音声をつけたいと考えています。前述の台湾の人たちからは、「日本語字幕をつけてほしい」と言われていますけどね(笑)。

――今後は大和以外にも挑戦していくのでしょうか。

西野:
歴史やミリタリーに限らず、新しいジャンルに挑戦していきたいですね。

――緻密な時代考証と内部構造を実現するためのこつこつした努力に、クラウドファンディングでの支援。多くのことがつながってVR戦艦大和の成功につながったのですね。PlayStation VRやHTC Vive対応など、今後の発展も楽しみなコンテンツです。本日はありがとうございました。

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