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VR動画 2019.03.23

5G×VRで野球観戦はどう変わる?ソフトバンクがヤフオクドームで行った実験をレポート

2019年3月22日、ソフトバンクと福岡ソフトバンクホークスは、広島東洋カープとのオープン戦で5GとVRを活用した実証実験「マルチアングルVR観戦」を行いました。今回の実験は、ヤフオク!ドーム内4カ所に設置された180度VRカメラシステムで撮影する180度3Dの映像を、5Gを使って球場内のVRヘッドセットにライブストリーミングする取組です。

球場内には3.7GHz帯と28GHz帯の5Gネットワークが構築。データ容量の大きいVR映像を低遅延で視聴しながら、VR空間で最大5名(うち1名はガイド役)が同時視聴しながら音声チャットできることが特徴です。

(違いを試験するため、2つの5Gのアンテナ(3.7GHz帯と28GHz帯)が設置されている)

(ライトスタンドの屋根付近に設置された5Gアンテナ。VR体験する部屋までの距離は約150mほど、とのこと)

(体験ルームに設置された5Gの受信機)

(実験の構成図)

5Gにより、VRでもわずかな遅延でライブストリーミングができるとのことでしたが、筆者が体験したところ、5Gネットワークとはいえ数秒程度の遅延を感じました。この遅延については、使用したVRヘッドセット(Oculus Go)が5G未対応のためWi-Fiを経由していることが理由として挙げられました。これは、VRヘッドセットが5Gに対応すれば改善できるとし、今後のVRデバイスの展開に期待しているとのこと。

(左から)ソフトバンク株式会社 テクノロジーユニット モバイル技術統括 モバイルネットワーク本部 本部長 野田 真氏と同社  新規事業開発室 VR事業推進課 課長 加藤 欽一氏

また、大きな特徴として、視聴者は4つのカメラアングルを好きなタイミングで切り替えることができます。

(カメラはバックネット、一塁側、三塁側、ライトスタンドの4ヶ所に設置されている)

例えば、ホームラン性の打球の時は、瞬時に外野スタンドのカメラに切替えればホームランの熱狂が体験でき、打者がバントを失敗して2ストライクに追い詰められた時に内野ベンチのカメラに切り替えれば、打者がベンチの指示を凝視する様子を間近に見ることができるなど、上手にカメラの切り替えを行えば、これまでには体験できなかった野球観戦を実現することができます

(5Gの最初の活用は、エンターテインメントが牽引するだろうと示した)

「VRによって時間と空間を超えた密で濃いコミュニケーションが可能になれる」(野田氏)と語られた通り、アバターでのコミュニケーションにも工夫が凝らされていました。

3DoFのOculus Goが使用されていましたが、アバターは手と頭だけではなく、腰や足もソフトウェアの自動補正で動いたほか、目の瞬きや口の動きも実現されていました。

ただし、口の動きはマイク入力からリップシンクが行われるため、今回の実験の様に同じ部屋で4人が並んだ場面では、隣の人の音声を拾ってしまい現実では喋っていないアバターの口が動くなどの課題も見えました。

他にも、誰かが喋る出すと実況の音声が小さくなり、会話が聞こえやすくなるといった工夫も。5Gネットワークが全国的に整備された際には遠くの地に離れた家族や友人などと一緒にVR野球観戦を行うサービスを展開したいと説明があり、コミュニケーションに注力していることがうかがえました。

一方で、解像度とFPSは不足に感じられました。解像度は4K、FPSは30FPS、ビットレートは4Gで行った実験に比べると数倍以上とのこと。

しかし、プロ野球は直径僅か7cm超の白球を140km/h以上のスピードでピッチングする、非常に速い動きが展開されるスポーツです。現実でも素人目ではプロの投手が投げる球を目で捉えることは困難ですが、30FPSの映像ではさらに難しいという印象を受けました。

また、一般参加者で体験した子供は「選手が小さく見えた」と話しました。

子供は大人に比べて顔が小さく瞳孔間距離も短い(小学生の平均は55~61mm程、日本人の平均は60~65mm程)ため、2つのレンズを利用する3D180度の映像の場合は、レンズ間の距離を大人の平均に合わせるか、子供の平均に合わせるかという選択の難しさもあります(体験者の瞳孔間距離とカメラのレンズの間の距離がピッタリに近いほど被写体のスケール感が合います)。しかもOculus Goは瞳孔間距離を調整できません。

(バックネットに設置されたカメラ(正面)。共にパナソニック LUMIX DC-GH5とのこと)

(バックネットに設置されたカメラ(背面)。向かって左のカメラの横にはカメラ冷却用と思われるファンも設置されている)

(一塁側に設置されたカメラ)

上の写真を見るとカメラは横置きで並べられているため、2つのレンズの間の距離が多少離れているように思われます。

3D180度の映像のスケール感は、視聴者の個体差やデバイスでも変化があるため、筆者が体験した時は「少し小さく見えるけれども」という程度でしたが、180度VR用のリグを設置するスペースを確保できれば、このスケールの問題も改善される可能性を感じました。逆に今後はVRカメラの設置を事前に想定した設計のスタジアムも出てくるのかもしれません。

Entaniyaの180度VR用のリグ。カメラを縦に並べることでレンズ間の距離を短くしている(参考:Entaniya Rig 3D Stereo 180 VR

「親近感を感じられた」「テレビで見るよりも良い」というポジティブな感想も一般の体験者から出てくるなど、5GとVRの組み合わせの効果を実感した実証実験となりました。本格的なサービス開始は、5Gの環境が整い出す2020年以降とのこと。今後の本格的な展開に期待したいところです。

(参考)ソフトバンク株式会社 プレスリリース


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