天開司が「VTuber偉人伝」という配信シリーズをスタートしている。VTuberの中でも長く活動を続け、大きな影響力を持っている人をピックアップし「偉人」としてゲストに迎え入れ、年表を元に語ってもらうという番組だ。第1回は電脳少女シロ、第2回目はぽんぽこ・ピーナッツくんだ。
ピーナッツくんと電脳少女シロはデビューが同時期の2017年組。電脳少女シロは「VTuber四天王」と呼ばれる中で7年以上ずっと継続して活動している唯一の人物で、テレビでも大活躍している。ぽんぽことピーナッツくんは個人の動画勢としてのトップランナーで「ぽんぽこ24」などの大型企画や全国ツアーのライブなど、勢力的に活動している。
いずれも、現在のVTuberシーンに多大な影響を与えてきた面々だ。
これらのVTuberの過去について、本人たちが語る機会はほとんどない。だからこそ、天開司がこの企画で「偉人」を呼んで、7年という長い歴史を語ってもらうことには大きな価値がある。今まで語られることの無かった話が次々と出てくるだけでなく、記録が消えてしまった話題すらも本人から語られることがある、貴重な番組だ。
今回は自身も2018年デビューである天開司に、どのような意図でこの番組を企画したのか、また2018年は彼にとってどんな年だったのかなどをインタビューした。
VTuberの温故知新
――まず「VTuber偉人伝」という番組について教えて下さい。
天開:2017年の終わりから2018年、VTuber元年と言っていいと思いますが、それぐらいの早い時期から今まで活動し続けている人たちを偉人として、功績を称えようという番組ですね。
――こういう趣旨の番組は意外となかったですね。
天開:話す場所がないと思うんですよね。かといって自分で昔の功績を話すのって、昔はぶいぶい言わせてたんだぜみたいで喋りづらいと思うので。それをちょっと話しやすくできる番組があったらいいのかなと思いまして、やらせていただいてます。
――番組の中で軸にしたいのはどういう部分ですか。
天開:その人が過去に何をしてきたかをしっかりと掘り下げていくのが主な目的になってくると思います。その中で、今何を頑張っていて、今後何をやっていきたいのか、どういう活動に重きを置いていきたいのかっていうのを聞いていきたいですね。
――いわゆる歴史番組的なものとはちょっと違いそうですね。
天開:歴史番組ではありつつも、過去だけじゃなくてこれからも大事だと思うので、そこもちょっと面白い話聞けたらなっていうのはあります。
――準備が大変そうな番組だと思いますが、やろうと考えたきっかけはなんですか?
天開:2025年になって、VTuberももう7年経つわけじゃないですか。7年間追ってくれてるファンっていうのはもちろんいるとは思うんですけど、つい最近見始めた人もいますよね。そういう人って今まであったことを知らないと思うし、知る場所も機会もないと思うんですよ。
――確かに「VTuber四天王」を知らない人もいっぱいいますね。
天開:もうざらだと思います。そういう人に向けて、VTuberは7年間の間にこういうことがあって今盛り上がっているというのを知ってほしいなという気持ちがありました。
――老人会ではなく温故知新なんでしょうか?
天開:そうですね。最初は老人会でやろうと思っていたんですけど、それにオファーするのすごい嫌だなって。偉人として出てもらうのが一番いいのかなっていうので、タイトルを変更しました。みんな昔の話は好きだと思うんですよ。長く見ている人は昔の話をすごく喜んでくれるんで、もちろんそういう話もしながら、ゲストをリスペクトするスタイルでやっていきたいです。
――それにしても2018年から活動してる人を何人も集めるのは、すごく難しいのではないでしょうか?
天開:自分のコネの中でなんとかしていく形になりますかね。幸運にも自分も2018年デビューで、ある程度知り合いがいるので、なんとかお願いして出てもらおうかなと思っています。本当に2018年デビューで長く頑張ってやってる人たちは、いっぱいいます。
――どんな番組として盛り上げていきたいと思ってますか?
天開:まずは昔から見てくれてる人が盛り上がってくれる番組、楽しんでくれる番組にしたいです。そして出てくれたゲストの人をもっと深く知りたいっていう人が、深く知れるような、 その人をもっと好きになれる番組を目指したいですね。
――コメント欄も拝見してたんですけど、やっぱりVTuberの過去についてめちゃくちゃ詳しい方がいっぱいいますね。
天開:いますよね。こっちでも年表とか調べたりしていたんですけれども、やっぱりもう長く見てきた人は、めちゃめちゃ詳しいんですよ。補足してくれたりとか、Xに当時の写真載せている人がいたりするんです。シロちゃんの回のとき、当時の秋葉原にあった広告を撮影した写真をアップした人が出てきて、やっぱり昔からこういうの残してくれてるんだ、と感慨深かったですね。
――こういうVTuberの文化って、ほっといたら消えちゃいますよね。記録が残るという点でも重要な番組だと思います。
天開:過去のイベントとかを調べていたときに、URLに飛んだら「このページは存在してません」ってなっちゃって、詳細わかんねえ!ってなっちゃったことあるんですよ。情報はサイトごと消えちゃうので、怖いっすよね。
第1回目のゲスト、電脳少女シロさん
――第1回を電脳少女シロさんにしようと決めたのはなぜですか?
天開:四天王の一人、かつ今現在活動されてる中では最も初期の一人でもあるので、シロちゃん以外いない、っていう感じでした。
――第1回では早速ばあちゃるさんの参加を否定されてましたね(笑)。
天開:いえ、偉人ではあるんです。単純にデビュー順からではなくて、色々な観点から考えています。
――なるほど。「偉人」とついた番組に呼ばれた時、そのVTuberさんは恐縮していませんでしたか?
天開:やっぱりシロちゃんですらも恐縮していました。でも間違いなく偉人ではあるので、そこはもう自信持って出ていただきたいですよね。
――シロさんが出たときはすごい和やかで、シロさん自身も過去を振り返るのが楽しい感じでしたね。
天開:そうですよね。やっぱり話したいこともあったんだろうなって。みんな話したいと思うんですよ。
2018年のVTuber事情
――2018年から、天開さんがバーチャルYouTuberを面白いと意識的に感じたのはどのタイミングでしたか?
天開:2017から18年にかけての年末年始です。当時はニコニコ動画を見ていたのでYouTubeをあんまり見てなかったんですよ。で、ニコニコ動画に「VTuber欲張りセット」があがって、話題になっていたので見始めました。
――その時期に「この人めっちゃ面白いな」って思った人いましたか?
天開:月並みですけど輝夜月ちゃん。「なんだこいつ」みたいな(笑)。めっちゃおもろいやんって。あとは親分(キズナアイ)もそうです。それこそ四天王ですね。シロちゃんが、こんな可愛いのに発言やばすぎじゃない?みたいな感じでギャップがすごかったですよね。
――確かに「可愛いのにこんなことを!?」というのが話題でしたね。
天開:そう。すごい可愛いキャラクターからクレイジーな内容が可愛い声で聞こえてくるっていうのが本当に面白くて。今までなかった体験でしたね。その頃ゲーム実況動画が大好きで、ガッチマンさんとか見ていたんですけど、可愛いキャラクターもやっているって知らなかったし、そういうのができる技術があるのも知らなかったです。衝撃でしたね。
――そういうVTuberの方々が輝いてるのを見て、どんな存在だと思いましたか?
天開:夢がありましたよね。こんなことができて、こんなに見てもらえるんだって。シンプルに面白そうだなって思いました。何かやってみたい、ってまずは感じましたね。
1ヶ月差が大きかった2018年のVTuberデビュー
――実際に始めた時いかがでしたか?
天開:自分が6月2日デビューなんで、今から思えば早いんですけど、当時で考えると遅いんですよ。言ってしまえばもうバブルが弾けたあとです。第1回「ぽんぽこ24」が終わったタイミングですね。個人的な感覚で、この辺りからVTuberっていうだけじゃ見られなくなったタイミングですね。それより前ってVTuberっていうだけである程度の人に見てもらえたんです。この辺りからちょっと厳しくなってきました。
――天開さんの考えるバブルってどのぐらいの時期だったと思いますか?
天開:4月までじゃないですかね。それこそ「VTuber欲張りセット」が投稿されなくなったのがその前くらいだと思うんですよ。ニコニコからの導線がなくなっちゃったので。ニコニコ動画はタグでの検索がしやすかったので見つけやすかったんですけど、YouTubeは検索しづらかったので、新しく出てきた人が見つかりづらくなったと思います。
――6月にデビューしてみて、ちょっと厳しい感じはありましたか?
天開:自分はなぜか最初に1万人ぐらいバッと登録してもらえたんで……ちょっとよくわかんないんですけどなぜか見つかったんで。よくわかんなかったんですけど。ほんと恵まれてるんですよ。ただ、やっぱその後は大変でしたね。もうどうしたらいいんだろうなっていう状態でした。
――考えてみたらその時期って企業の、例えばにじさんじやホロライブでも大変な時期でしたもんね。
天開:大変だったと思いますよ。自分と同じタイミングの人はみんなそうじゃないかな。にじさんじだとSEEDsぐらいの時期です。あにまーれとかもですね。
――今一緒にコラボされてるMonsterZ MATEとか佐藤ホームズさんも大体同じでしょうか?
天開:MonsterZ MATEとホームズが多分5月とかじゃなかったかな?
――今だとほぼ誤差ですが当時だと……。
天開:やっぱり当時のやっぱスピード感もあって、ここの1ヶ月めちゃめちゃでかいです!
――初期には天開さんは「ドン勝生活」とかハードな企画をされていましたね。
天開:ドン勝も9月とかなんで全然先なんすよ。初期は何すればいいかわかんなかったので、必死になって何かしら本当に人の目を引くことをやらないとって。このままだったらマジでダメだな、何かしないとって悩んでいました。
――VTuberを実際始めてみて、活動初期の頃どれぐらい続けられると思っていましたか?
天開:なんも考えてなかったっすね。もう毎年、来年ダメなんじゃないかと思ってますよ。当時はまだ業界自体が始まったばっかりじゃないですか。だからある日突然無くなっちゃうこともあるのかな、みたいなのはありましたね。
――その生活は怖くないですか?
天開:めちゃめちゃ怖いです。今もずっと恐怖の中でやってますね。
――その中でも個人でやり続けていこうと思われたのはなぜですか?
天開:楽しいからです。いい企画ができたりとか、自分で納得できる配信ができたら嬉しいですよね。
――特に記憶に残ってる配信や企画はありますか?
天開:「にじさんじ甲子園」は毎回面白いっすよね。あとマイクラの「VTuberバトルロワイヤル」とか。あげたら本当にきりがないです。でもできれば誰かが司会してくれて俺が出たいですね。誰もやってくれないから俺がやってるんすよ。出るだけの方が絶対楽なんで(笑)。
――2018年組で一緒に活動されてきた方いっぱいいると思いますが、特に印象に残っている方はいますか?
天開:やっぱりMonsterZ MATEとか、舞元啓介とか、ねるちゃん(因幡はねる)とか。佐藤ホームズとかとか。あとは兎鞠まりやガッチマンVさん、歌衣メイカとのAllGuysの結成もありました。そこらへんはもう一緒に頑張ってきたなっていう感覚があります。
――当時デビューされた方でリスペクトされている方はいますか?
天開:やっぱ葛葉とピーナッツくん。この二人はすごい、ちょっとかなわんなって思っています。咄嗟の言葉選びとかがセンスありすぎて真似できないですね。あとはずっと、バーチャルおばあちゃんはすごいなと思っています。バーチャルおばあちゃんはずっと一人じゃないですか。18年の最初の頃からずっと身ひとつで勝負してるんですね。あれは半端じゃないっすよね。いろんな新しい試みをしているのは知ってはいるんですけど、基本は変わらないじゃないですか。マジですごいです。
昔からずっと同じ考えでやってきた
――2018年当時から、天開さんの中で7年間やってきて、いい意味で変わっていないと感じていることはありますか?
天開:自分の中ではずっと変わってないっすね。自称ファンの方から「変わっちまったな」みたいに言われることはあるんですけど、自分の中では本当に昔からずっと同じ考えでやってると思っていますね。でも、規模はやっぱりでかくなりましたよね。それこそ「神域リーグ」もそうですし、「にじさんじ甲子園」がすごいことになってますし。ただ規模は大きくなっているけど、やっていることは変わっていない。「トーク方面の企画が減ったから戻そうかな」という意味で「VTuber偉人伝」を始めました。
――「神域リーグ」は大きなイベントでしたが、どのようなきっかけではじめましたか?
天開:いやらしい話ですが、やっぱり数字ですよね。2020年くらいは巣ごもり需要で、普通にやっていても人が増えていたんですけど、2022年は需要がちょっと落ち着いてきたタイミングだと個人的には思っていて、なんか出していかないとなっていうのもあって、やったんすよね。
――かなり危機を感じながらやってらっしゃったんですね。
天開:今更普通の仕事できないですからね。本当に冗談じゃなく死んじゃうんで……。VTuberはできる限りやっていきたいっすね。
昔の話をして、新しい発見をしたい
――「VTuber偉人伝」はどんな方に見てほしいですか?
天開:全人類に見てほしいですね!
――番組としてぶれないように気を付けている部分はありますか?
天開:この配信に限らないですけど、ゲストの人が不快にならない、嫌な思いしないっていうのが一番ですね。ゲストの偉人の人が気持ちよくなって帰ってほしいです。
――今後番組を続ける中で天開さんが期待してることって何かありますか?
天開:偉人の人の知られざることって絶対いっぱいあるじゃないですか。それを知りたいし、知ってほしい。昔の話をして、新しい発見をしたいですね。ただ懐かしむだけじゃなくて「こういうこと考えてやってきた」みたいな話は貴重だと思うので、そういうのを期待してますね。
――番組について、一言お願いします。
天開:くそ面白いから見てね。