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VTuber 2019.04.21

upd8・WFLE・燦鳥ノムのキーマンが語るVTuberの可能性

4月5日、東京ビッグサイトにて行われたコンテンツ東京2019では、「バーチャルYouTuberが切り開く、コンテンツビジネスの新たな可能性」と題したセミナーが開催されました。

株式会社360Channel代表取締役社長 中島健登氏の司会のもと、Activ8株式会社代表取締役 大坂武史氏、株式会社Wright Flyer Live Entertainment 代表取締役社長 荒木英士氏、サントリーコミュニケーションズ株式会社 宣伝部 デジタルグループ 燦鳥ノムプロジェクトリーダー 前田真太郎氏が登壇。

それぞれの企業で行ってきた取り組みを紹介しつつ、今後の課題なども取り上げていました。その模様を本稿にてレポートします。

「upd8」の大坂氏がVTuberの盛り上がりについて解説

まずは司会の中島氏が「360Channel」を簡単に説明。VR動画配信サービス「360Channel」は、配信だけでなく累計1,500本以上のVR動画を制作しており、これまでの経験を活かしたVTuberの開発・制作も行っています。

また、「360Channel」の代表的な取り組みとして、24時間生配信をし続けているVTuber・桜美ゆなを紹介しました。まだ実験的な段階ではあるそうですが、なかなかに興味深い内容となっています。3月6日よりLIVE配信を開始し、いまだに途切れることなく継続しているのも驚きです。

続いて、バーチャルタレントのマネジメントをするプロジェクト「upd8」を運営するActiv8の大坂氏は、VTuberが盛り上がった理由について解説。「アバターを通じてなりたい自分になれる」「ファンが求めている外見を手に入れられる」、そういった誰しもが求める理想像に近づけることが大きな要因であったと語りました。加えて日本のファンがアニメやゲームなどのキャラクター文化への造詣が深いのもひとつの起点だったのでしょう。

日本のバーチャルタレントはキャラクター的な発展を遂げましたが、海外では「タレントのデジタル化」が進行してきていると大坂氏はバーチャルインスタグラマーを例に挙げて紹介。日本とは違った視点でバーチャルな存在を見つめている現状を示しました。

大坂氏からは最後に「upd8」に所属するバーチャルタレントの取り組みの一部をピックアップ。キズナアイは2018年には官公庁のPRキャラクターとして起用されたり、Zepp DiverCityで音楽ライブを開催したりと、YouTube上だけでなくタレントとしての活動も行っていることを事例として挙げました。そのほかにもバーチャルシンガーのYuNiがVRライブを成功させたりと、所属タレントが日々活動の幅を広げています。

WFLE荒木氏「VTuberは全人類がアバターを持つようになる始めの一歩」

次にWright Flyer Live Entertainmentの荒木氏がマイクを取り、「VTuberは全人類がアバターを持つようになる始めの一歩」だと言及し、これからの未来予想図を語り始めました。荒木氏はSNSで名前とアイコンの両方を自分の本名、顔写真にしている人がほとんどいないことを例に挙げ、その様子から全人類がバーチャルな体を持つのではないかと予測していました。

そんな未来のために荒木氏が必要だと感じたのが、バーチャルな存在が活動できるプラットフォーム。そこでWright Flyer Live Entertainmentが開発したのが「REALITY」です。なかでもスマートフォン1台で利用できることに重点を置いたとのことで、その配信風景も録画を用いてデモンストレーション。配信者とファンとがチャット機能やギフトを使って放送を盛り上げている様子が示されました。配信の遅延も少なく、本当に目の前にいるような感覚でやり取りが行われていました。

またWright Flyer Live Entertainmentでは、プラットフォームの魅力を最大限に引き出すために、VTuber専用の生配信スタジオも開設しています。現在進行形でこのスタジオを利用して、つい先日行われた「ぶいおん!!」のような独自の音楽番組も絶賛制作中。MCをオーイシマサヨシさんが務め、バーチャルガールズユニット・KMNZがアシスタントする本番組は、バーチャルな存在の可能性が十二分に表現されています。たとえば、音楽パートでのカメラワークや演出はバーチャルならでは。今後もVTuberたちが大きく活躍する場として活用されていくことでしょう。

サントリー前田氏が語る企業系VTuber運営のコツ

サントリーコミュニケーションズで燦鳥ノムプロジェクトのリーダーを務める前田氏は、企業公式のVTuberの活用について詳しく語りました。企業系VTuberのなかではかなり早い段階でデビューした燦鳥ノム。動画ではゲーム実況に音楽活動と幅広くこなし、そして誰よりも清楚。いまでは約8万人のチャンネル登録者数を獲得しています。

動画では「自社商品を飲む」という行為を行うのですが、このフックが独特で切り口としては非常に魅力的であると筆者も常々感じています。なぜなら、「燦鳥ノムが紹介したのなら一度飲んでみようかな?」と、その気にさせてくれるからです。また、サントリー製品を買う行為は燦鳥ノムを応援することに繋がる、というのも大きいかもしれません。こういった視点でのアピールは企業系VTuberが強みとしていくべき点なのでしょう。

前田氏もそのことは熟知しているとのことで、ひとつひとつの動画で自社商品をアピールするのではなく、動画内でリズムを整えてからさりげなく商品を燦鳥ノムに紹介してもらうことでアピールしているそう。これならば広告もノイズにならず、むしろプラスになるに違いありません。

あのサントリーがVTuberを起用したことで、テレビのニュース番組で取り上げられたこともありますが、チャンネル登録者数には繋がらなかったという、興味深い事例も紹介されました。なぜここまで伸びたのか、前田氏は「自チャンネルから飛び出して、ほかのVTuberとコラボをしたから」だといいます。また、コンピレーションアルバム「IMAGINATION vol.1」への参加やニコニコ生放送への出演など、メディアミックス的な展開を増やしたことも理由として挙げていました。

司会から「KPIはどこを基準に置いているんですか?」と尋ねられると、「数字ではなかなか判断できないので、反応を見るようにはしています」と前田氏。ランニングコストもそこそこ掛かるなかで、効果があるのか企業にはイマイチ不透明。そのため、ときには「いつまでプロジェクトを続けるの?」、なんてことを言われる場面も企業系VTuberにはあることでしょう。

ただ、前田氏は燦鳥ノムを“企業のオウンドメディア”であると前向きに熱弁。人の集まるプラットフォームでもあるYouTubeで企業のチャンネルを持ってメディアとして活動させる事例があまりないことに着目し、活動させていけたらと思っていたとのこと。そして、VTuberをオウンドメディア的に運用してきた前田氏は、「定期的にコミュニケーションが取れるのも大きな利点」だと実際の現場の視点を伝えました。

今後のVTuber界隈は果たしてどうなるのか?

登壇者の見解がそれぞれ独自の目線で語られていたため、今後バーチャルな存在がどのように変化していくのか気になるところです。タレント的な扱いをされていくのか、はたまたVTuberは全人類がアバターを持つようになる第一歩なのか。これからも登壇者含め、先が読めないからこそのワクワクを与えてくれることは間違いないでしょう。

また、企業系VTuberの先駆者とも言える燦鳥ノムの活用事例は、そのどれもが知りたかった内容ばかり。セミナーのなかでは「ただVTuber活動を始めさせたことをニュースとして発信しても伸びるわけでない」と荒木氏が語っていましたが、まさにその通り。自社商品をどういった切り口で発信すればいいのか考えたうえで燦鳥ノムの魅力も引き出す。そういったことを実現してきたからこそ、今のような知名度になったと再確認できました。

今後も企業系VTuberは増えてくるかと思いますが、そのなかでどのように自社をさりげなくアピールして、かつVTuber本人の魅力を発信できるかがポイントとなってきそうです。燦鳥ノムのようにゲーム実況や音楽活動など幅広く展開したり、あるジャンルに特化したりなどさまざまな方向性も考えられ、今後も楽しみな分野であると感じました。


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