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VTuber 2019.01.02

個人VTuberユニットのさきがけ・ぜったい天使くるみちゃんと「天魔機忍ver.G」が切り開いた2018年

先日行われた、歌衣メイカ天開司の司会による「V紅白歌合戦」。東雲めぐ、ふくやマスター、YuNiなど豪華なバーチャルシンガーメンツが集結。途中のピックアップコーナーではVTuber自薦のMVも流されました。

Twitterでは日本のトレンド1位、世界トレンド5位を記録。またこの企画に参加していたMonsterZ Mateは3700人以上の登録者が増え、急上昇一位になるほどでした。

歌合戦のラスト。シークレットゲストとして登場したのが天魔機忍ver.G。これにはファンも大盛り上がり。Yahoo検索のトップに「天魔機忍ver.G」が上がったほどです。

(※V紅白歌合戦より)

ただ、「天魔機忍ver.G」がなんなのかは、現在はアーカイブ記録がないので口頭伝承状態です。何が起きたのかを、ぜったい天使くるみちゃん(以下・くるみちゃん)というVTuberを中心にまとめてみます。

一ヶ月でVTuber界隈に足跡を残したくるみちゃん

ぜったい天使くるみちゃんが伝説的に語られている存在なのには、いくつか理由があります。

1・VTuberの「コラボ」「ユニット」を一般化するきっかけを作った。
2・けだるいダウナー系VTuberの走り。
3・VTuber歌唱配信の先駆け的存在。
4・突然の消失事件で、視聴者の間から多くの物語が生まれた。

くるみちゃんの活動は1月スタートで2月14日まで。たった一ヶ月です。

そして、コラボの他人視点以外は、今はアーカイブ動画も、チャンネルも、サイトもTwitterも残っていません。それでも、VTuberファンの間での知名度は、ものすごく高い。その存在が語り継がれてきたからです。

くるみちゃん登場

1月に登場したくるみちゃん。最初期は2Dアバターでした。

この頃はキズナアイミライアカリのように明るさ満点だったり、ポジティブなベクトルの思考だったりするのが主流。そんな中、くるみちゃんは、BGMもしゃべりもスロー、ハスキーな声でぶつぶつしゃべったり、その一方で絶叫したりという、ダウナースタイルでした。

ブルース感のあるノリは、一気に話題になりました。ゴシックなひねくれ天使のビジュアル(衣装は何通りかあります)も魅力的。性別不詳(性別:天使らしい)なのも、配信中爪を切り出すような自然体なスタイルも、当時としてはかなり特殊でした。挨拶は「お前のことなど一握り!」

動画投稿がメインのくるみちゃんは、途中から生歌配信も始めるようになります。
1月時はそもそも配信メインのVTuberは少なく、歌唱活動をするVTuberも数えるほどでした。

パンチの聞いた歌声の持ち主で、しっとりしたバラードから、こぶしのきいた歌まで、幅広く得意としていたくるみちゃん。カラオケリアルタイム配信スタイルは、ファンから「場末のバー」「バーチャルスナック」とも呼ばれ、「酒焼け天使」の異名も付きました。熱心なファンは「子羊」と命名されています。

VTuberコラボの開拓

1月、別所で個人VTuber初のコラボが行われようとしていました。
ところがここでトラブルが発生。コラボの難しさが露呈してしまいました。この出来事から、「VTuberコラボ」に対して非常にセンシティブな空気が流れます(後のあっくん大魔王の配信参照)。

そもそもコラボ環境も、世界観の共有も、どうやればいいかまだみんなわからなかった頃。VTuber界隈の土壌が安定しておらず、今後どうなるのか分からないことへの危惧が先走って、ファンもヒヤヒヤしていた部分はありました。

1月28日、くるみちゃんはあっくん大魔王に直接声をかけ、PUBGのゲーム実況コラボの話を持ちかけます。


(※V紅白歌合戦より)

このコラボが大好評。あっくん大魔王はへたれムーブが多く、一方くるみちゃんは姉御肌でガンガン進む。強気な天使と、弱気な魔王。真逆な2人の掛け合いは絶妙なバランスでした。ファンいわく「酒焼け天使と童貞大魔王」。異性との組み合わせ(天使に性別はないですが)でも安心できるエンタメを作れることを証明、見ている側をニヤニヤさせてくれるコンビとして成立しました。

この時の模様は、くるみちゃん側のチャンネルのみだったので、今は見ることができません。V紅白歌合戦の動画で、一瞬だけ映っています。
2人の配信は、VTuber史に残るコラボ成功例になりました。なおあっくん大魔王はライブ配信とコラボ共に初体験だったそうです。

その後、2月8日にぜったい天使くるみちゃん(天使)、あっくん大魔王(魔王)、ニーツ(機械)、乾伸一郎(忍者)による天魔機忍のコラボが行われました。四人が同時に配信する、という初の試みです(なお乾伸一郎は録画を失敗しているというオチ付き)。

世界観がバラバラでも、コラボは成立する、というのを立証したイベントでした。ラノベ主人公のごとく鈍くてへっぽこだったあっくん大魔王、彼をいじるくるみちゃん、負けヒロインと言われていたニーツ、ゲームのうまいスケベ忍者の乾伸一郎と、立ち位置が完璧。ストーリー性も見えやすい組み合わせのため、一気にファンアートが増えました。


(※V紅白歌合戦より)

動画のタイトルに「第1話」、とあるように、この天魔機忍はまだまだこれから続くはずでした。

消えたくるみちゃん

2月14日。バレンタインデーにはチョコをあげたことがない、と言っていたくるみちゃんが、Twitter上であっくん大魔王にチョコを投げつけます。これを見て、ファンは大いに盛り上がっていたのも束の間、突然くるみちゃんのTwitterとYouTubeが全削除。何もなくなりました。新作動画(8分音符ちゃんの実況)をあげた直後のことです。

完全に消えてしまったため、何が起きたのかの調べようがない。その後、直接くるみちゃんに連絡を取れるあっくん大魔王が動き、くるみちゃんの声明をファンに届けます。

乗っ取りというのもどういう状況かわからず、ファンは騒然。色々な憶測が飛び交いました。

その後くるみちゃんは、YouTubeとは無関係の音楽チャンネルを作って歌をひっそりアップしていたことも、ゲーム配信用のLive2Dを作ったこともありました。しかしこれらも全部消されてしまいます。リアルな家族の問題の可能性もでてきて、そうなるともうバーチャル側からはどうにもできない。

ファンやあっくん大魔王らが失意の中、新たに生まれたのが、2月17日の「天魔機忍ver.G」のコラボ。バーチャルゴリラが参加したユニットです。

くるみちゃんはいないけれども「天」の字は、残されていました。あっくん大魔王は以降、様々な人に呼ばれ、数多くのコラボを行います。

3月14日のホワイトデー。くるみちゃんにバーチャルにもらったチョコのお返しとして、あっくん大魔王は生放送を行います。

放送の中で、くるみちゃんとの出会い、1月頃のVTuberの色々難しかった状況、変化してきた出来事などが、あっくん大魔王の思い入れたっぷりに熱く語られています。

2~3月は、くるみちゃん絡みの話題が不明な点だらけであるがゆえに、ナイーブなものになってしまい、名前を出していいのか戸惑う空気があったのは事実。

しかしあっくん大魔王は、はっきりと述べます。

「くるみちゃんが戻ってきた時、あたたかく、いつもどおりにしてもらえますか。だから今悲しいと思うけど、悲しむ姿じゃなくて、くるみちゃんかわいいよとか。今まで通り決してみんなが好きだったものを、腫れ物のように扱うのは、そんなのおかしいから」

この時あっくん大魔王がくるみちゃんに向けて歌っているのは、仲間との旅を歌う「1/6の夢旅人2002」。以前くるみちゃんが歌い、その後消されてしまった歌でした。

天使は蘇る

3月23日。VRChat内に出来た「バーチャルファッションモール」お披露目会の後、事件はおこります。

(3時間20分以降くらい)

みんなが雑談していたところに、普段VRChatでくるみちゃんが使っていた、デフォルトアバターの姿が。IDも間違いない。ただ、集まっている人数が多すぎて、どうにもうまくワールドにログインができない。そもそも本物なのか?とファンも参加者も大騒ぎ。

その後、くるみちゃんの声が聞こえ、本人であることが判明します。
参加していたあっくん大魔王は声をあげてびっくり。ニーツがその姿をしっかり撮影。当時の混乱は動画にそのまま残されています。

あっくん大魔王や雨下カイト、ニーツらが方針を打ち合わせていた場所がこの場所。

4千人近くがリアルタイムで見ていた放送です。ファンは騒然としました。しかし一斉に「配信を切って!」「くるみちゃんのところに行って!」とコメント。自分たちが真相を見ることよりも、あっくん大魔王、くるみちゃん、ニーツが再会することを、ほとんどの人が望みました。

ドラマティックすぎる出来事の連続で、実際に起きていたことと、バーチャル上の物語は、虚実入り交じってどんどん膨れ上がっていきました。あっくん大魔王もくるみちゃんと再会後、本当のところなにがあったのかは、もちろんバーチャルなので言いませんでした。

何がとは言いませんが、「意外と事実はシンプルだ」(33分くらい)とだけ語るあっくん大魔王。

その後くるみちゃんは一切姿を見せなくなりました。理由はともあれ、VTuberとしての復帰はできないとしても、くるみちゃんは、元気だった。たくさんファンアートが描かれ、天魔機忍ver.G周辺の出来事はファンの間で語り継がれ始めます。

https://www.youtube.com/watch?v=QXdFJalDDFw

そして4月25日。とあるオンライン飲み会配信に、数多くのVTuberが集いました。これだけ集まったのは、おそらくVTuber史上初。今も活躍しているVTuberだらけです。音のみのフル尺はこちら

ここのラスト(2時間27分くらい)から、くるみちゃんが登場。視聴者が見ている前で、はっきりと声を出しました。あくまでも復帰ではなく、サプライズです。

あっくん大魔王の誕生日のために歌を歌いに来たという、粋な理由。やりとりは今までどおりの、ホッとする夫婦漫才状態。噂には知っていたけど聞いたことがない、という人にとっては初の生歌のはず。

2018年の終わりに

VTuberに詳しい剣持刀也が、自身の配信の中で、VTuberの歴史の一部として天魔機忍ver.Gについて語っています(1時間26分くらい)。VTuberの「ユニット」の考え方を生み出した影響力は、とても大きい。剣持刀也いわく、ファン側からの「こういう(組み合わせ)のが見たいという需要が生まれる」きっかけの一つ。

V紅白歌合戦では、大とりとして瀬戸あさひのラップが紹介されました。今年2月の、VTuberの開拓者たちを歌ったものです。このあとにシークレットで天魔機忍ver.Gが出てきたことで、2018年の総括的な流れになっています。歌は、かつてくるみちゃんが歌い、あっくん大魔王も哀しみを耐えながら歌った、「1/6の夢旅人2002」の5人バージョン。


(※V紅白歌合戦より)

中盤の桜の演出は、あっくん大魔王とくるみちゃんの出会いからはじまり、天魔機忍が結成され、くるみちゃんが消え、失意の3人の元にバーチャルゴリラがやってきて…という一連の流れと、今回の再集結までを表現しているものになっています。PUBG回が「第1話」とタイトルにあるのに対し、「天魔機忍ver.G 第1話(完)」の文字が入る演出も。

途中一瞬入る、VRChatデフォルトアバターくるみちゃんは、3月23日の時のもの。あっくん大魔王も、当時の旧アバターになっています。


(※V紅白歌合戦より)

実はバーチャルゴリラとぜったい天使くるみちゃんはすれ違っていて、並んだことがありませんでした。彼を含むみんなの放送後の一言は、VTuberが大きく盛り上がり、たまに辛いこともあり、それでも走ってきた一年を締めくくるにふさわしいものでした。

司会の歌衣メイカは「この方々がいなければ、ぼくはおそらくVTuberはやっていませんし、今回の企画もなかったかもしれません」と述べました。

2018年の個人勢として、強い絆を見せてくれた5人。全員が今年の末までに3D化するという、成長も見られました。タフな笑顔の仲間と走り続ける5人の姿勢は、2019年もVTuberたちやファンの間で語り継がれる、苦難を乗り越えた存在としての光になるはずです。

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