12月21日、東京・秋葉原UDXにて、ポリゴンテーラーコンサルティングと往来のダブル主催による「VRC大交流会」が開催されました。主催者の発表によれば、入場が自由だった11時から16時までの昼の部には4,000人以上、17時30分から20時までの夜の部(抽選制)には376名が参加するという、大規模なオフラインイベントとなりました。
本イベントはVRユーザー、VRクリエイター、VR関連企業の三者間交流を促進し、リアルならではの新しい交流を生み出すことを目的とするイベント。VRChatユーザーに自社のプロダクトやサービス、取り組みを紹介したいという思いから、15社もの企業や自治体、メディアが協力しました。会場では、VRやXRに対応したヘッドマウントディスプレイやフルトラッキングセンサーなど、最先端の技術を体験できるブースが設置され、訪れた人々を楽しませました。さらに、VRChatで活躍するクリエイターやパフォーマー、コミュニティ、ライバーも参加し、それぞれの作品が展示される多彩なブースが会場を賑わせました。
VRChatのカルチャーやコミュニケーション、コンテンツ、そしてそれらに関連するハードウェアが一堂に会するという大規模なイベントとなった「VRC大交流会」。その模様の一部をご紹介します。
全身触覚再現デバイス「TactSuit Pro/Air」を展示していたbHapticsブース
強化アーマーを思わせるベストのなかに、32個ものハプティクスデバイスを内蔵した「TactSuit Pro」と、16個のハプティクスデバイスを備えた「TactSuit Air」を展示していたのがbHaptics。複数のプラットフォームのゲームに対応していますが、自分のアバターをカスタマイズすればVRChatでも使えるとのことで、VRChat内での体験コーナーを用意していました。
TactSuitシリーズを着込み、TactSuitシリーズに合わせてカスタムしたアバター同士であれば、お互いに触れたり、つんつんしたり、ツッコミを入れるなどして振動フィードバックを楽しめるという仕組み。エントリーユーザー向けにサンプルアバターを配布しており、購入後、すぐにVRChatでその効果を確かめられるそうです。
コンパクトなフルトラシステムが体験できたPICOブース
「PICO 4 Ultra」と、「PICOモーショントラッカー」を展示していたPICOブース。AIによる姿勢補正が行われることで、両足首に装着する2つのトラッカーと、PICO4シリーズを合わせるだけでフルトラ環境が実現します。
ブースに訪れた方にお話をきくと「普段はMeta Quest 2を使っているが、手軽にフルトラができるのであれば乗り換えたい」とのこと。トラッキング精度を重視するのではなく、極力装着の手間がかからないVRデバイスでVRChatを利用したいと考える方は多いと感じました。
超高解像のVRヘッドセットなどを体験できたShiftallブース
高解像VRヘッドセット「MeganeX superlight 8K」、新型のフルトラッキングセンサー「HARITORAX2、VR用コントローラー「FlipVR」を展示していたShiftallブース。21日の午前に見た限りでは、1位2位を争うほど、多くのVRChatユーザーが詰めかけて各プロダクトを試していました。
秋葉原のUDXという一等地で、VRChatユーザーを対象としたイベントが開催されたことについて、Shiftall CEOの岩佐氏は次のようにコメントしています。「年末という特別な時期に、VRChatやその周辺文化であるアニメやゲームを愛する人々が、『聖地』ともいえる秋葉原に集まり、このような大規模なイベントが開催されるのは、非常に感慨深いことだと感じています」。
mocopi x VRChatのコラボステッカーを配布していたソニーブース
フルトラセンサー兼モバイルモーションキャプチャの「mocopi」を展示していたソニーブース。mocopi公式キャラクターであるRAYNOSちゃんと、VRChatユーザーなら親の顔以上に見たことがある(はずの)のキッシュちゃんが並ぶ、mocopi x VRChatのコラボステッカーを配布していました。
最新アップデートによって、VRChatで扱いやすくなったmocopi。コミュニケーションサービスであるVRChatは長時間、座りながらフレンドを話す使い方をするユーザーが多いこと念頭におき、VR/XRヘッドマウントディスプレイの向き・位置情報なども合わせた上で、全体としての精度が高くなるようにアルゴリズムをチューニングしたとのことです。
運営のAev氏と話せたVRChatブース
VRChat社のブースもありました。重ねて記しますが、VRChatユーザーなら親の顔以上に(略)改変キッシュちゃんを着るVRChat運営陣のAev氏が来場。VRChatのことをあれこれ話せるグリーティングエリアともなっていました。
筆者は、運営陣が日本市場をどのように捉えているのかについて質問してみました。これに対し、Ave氏は次のように答えています。「日本の多くのユーザーが素晴らしいコンテンツを作り出してくださっています。それをサポートしていくことが、私たちの目標の一つです。詳しくお話しできる段階ではありませんが、近い将来、さまざまな新機能を実装予定ですので、ぜひご期待ください」。
「ホビージャパンってどんな会社なの?」をアピールしていたホビージャパンブース
2023年4月、ホビージャパンはVRChat内に公式VRワールド「ホビージャパン駅前商店街」をオープンしました。その後も、ボードゲーム「エスペライゼーション」が遊べる「Esperaization Cave」や、VR博物館「ホビースフィア」などを公開し、VRChatを活用した商用展開に積極的に取り組んでいます。
今回のVRC大交流会では、VRChat内のワールドに設置された3Dモデルと同じアイテムの実物を展示するというユニークなアプローチを披露しました。現実空間では、質感や重みのある実物を来場者に見てもらうことで、製品の魅力をより深く伝える工夫がなされていました。
VRChat企画から生まれたアイテムを販売していた横須賀市/メタスカブース
超時空要塞マクロスや宇宙戦艦ヤマトなどの作品を手掛けたメカニックデザイナー、宮武一貴氏のデザインによる みかさロボ は、横須賀市が取り組むメタバースヨコスカ(メタスカ)のVRChatワールド企画から生まれた変形ロボット。メタスカの猿島ワールドを訪れた人は、その巨大さと動きの重々しさに感動したでしょう。
VRC大交流会のブースでは、みかさロボのアクリルスタンドを販売。3Dデータとして無料配布している横須賀産のスカジャンも展示し、横須賀市のアピールに取り組んでいました。
VRChat内でリアルなeスポーツを提供しているVRCボクシングブース
VRChatでリアルなボクシング体験ができるワールドを提供、また大会の運営をしているVRCボクシングのブースにも訪ねてみました。BOOTHでもTシャツなどのリアルグッズを販売していますが、VRC大交流会では新たに作ったスポーツタオルやロゴ入りホテルキーなどのグッズを販売。YouTubeなどでの配信をスマートフォンやPCで見るときにも盛り上がれるデザインでした。
VRC大交流会、そしてVketReal 2024 Winterを振り返る
取材した立場の者として、先日開催されたVRC大交流会について、その成功要因を分析してみましょう。
本イベントの開催告知は11月21日に行われました。開催のわずか1ヶ月前という異例の発表タイミングです。一般的に、秋葉原UDXのような一等地で開催されるイベントの場合、数ヶ月前からの情報公開が通例とされています。この急な告知は、イベントの開催決定が比較的直前だったことが伺えます。
宣伝期間や広報活動が限られていたにもかかわらず、4,000人以上もの来場者を集めることに成功したことに驚きます。この集客の背景には、2つの要因があると考えられます。
まずは昼の部の入場料が無料だったことです。実際には14時過ぎまで入場待機列がありましたが、秋葉原にさえ来れば、気軽にのぞいていくことが可能でした。もともと秋葉原という場所自体が、VRChatユーザーにとって親和性の高い場所であったことも関係しているでしょう。
そして年末かつ準備期間が取りにくい時期でしたが、多くの企業、自治体、クリエイターの参加を促すことができたのは、ブース出店料も無料であったことが大きな要因となっているでしょう。しかも参加企業はVRChatで活用できるハードウェアメーカーが多く、来場者にとっては、複数のヘッドセットやトラッカーを一度に体験できる貴重な機会となりました。また、人気の高いクリエイターたちのブース出展も大きな話題となり、彼らのファンも多く訪れていたようです。
主催者のSNS投稿によれば、イベントの総費用は約550万円とのことです。この投資額が高いものかどうか、関係者以外が判断するものではありませんが、結果として、VRC大交流会はVRChatユーザーの、VRChatユーザーによる、VRChatユーザーのためのイベントとして見事に機能しました。VRChatユーザーにとってのベネフィットが明確に提示され、それが高い集客力につながったと言えます。
先人たるVketRealは異なるアプローチで展開
ところで12月21日とその翌日22日には、池袋のサンシャインシティ文化会館にて、HIKKYが主催する「VketReal 2024 Winter」も開催されました。2024年9月の段階で開催が予告されたイベントです。VRChatも利用するバーチャルマーケット絡みのイベントのため、VRC大交流会とVketReal 2024 Winterは同じ内容のイベントであり、競合するものと考えられますが、実は思想が異なります。
VketRealは、純粋なVRChatユーザー向けのイベントという枠を超えた、より広い視野を持つイベントです。Resoniteなど他のプラットフォームを活用した展示を含め、バーチャルと現実の接点を強く意識したイベント設計がされています。この背景には、主催するHIKKYが掲げるパラリアルワールドプロジェクト構想(※「パラレルワールド(並行世界)」+「リアル(現実世界)」を合わせた造語。メタバースとリアルの連動した施策を打ち出すという構想を指す)が反映されているように見受けられます。
また現実側のお祭り感を演出するべく、イベント会場内の装飾やアトラクションも凝っているという印象があります。
VRChatユーザーを巻き込むイベントも多様性の時代
それぞれ異なるアプローチですが、どうやら両者ともに成功を収めたようです。VketReal 2024 Winterの集客人数は現状未公開ですが、開場前となる9時45分ごろに会場近辺をうかがうと、見える範囲でも500人以上の行列がありましたし、日中も会場内を行き交うのが難しいほどの混雑でした。2日で多くの集客があったことは確実です。
現在、BtoC(※企業が一般ユーザー向けにビジネスする形態)向けの大型VR/XR系イベントは決して多くありません。その中でVRC大交流会と、Vket Realは、業界の多様性と可能性を示す重要な存在といえます。今後もそれぞれの特色を活かしながら、末永く継続開催されることを期待します。