数多くの映画祭で評価を得ているコメディVR映画
今回は2020年のトライベッカ映画祭でのノミネートを皮切りに、カンヌ映画祭のVR/AR部門のCannes XR2020にノミネートされるなど、数多くの映画祭で評価を得ているコメディVR映画作品「Attack On Daddy」をご紹介します。
ある日曜日の午後、疲れた父親がソファでうとうとしていると、幼い娘ユハに遊んで欲しいとせがまれます。父親はイライラしてしまいますが、気付くと娘の姿がありません。不思議なドールハウスの中に飲み込まれてしまった娘を取り戻すために、父親はドールハウスの中に入って行くことに……。
この作品は360度映像、いわゆる3DoF作品です。実写とCG合成を組み合わせることで面白い映像表現になっています。
制作を担当したプロダクションは韓国のKAFA+NextD。韓国映画アカデミーが2016年から始めた最先端の映画技術と映画文法のトレーニングを提供する学校です。これまでも「A Memory of the Wind」や「Ghost」など韓国を代表するVR映画作品を何本も制作しています。アカデミー賞受賞作品「パラサイト」を制作したBarunson E&A;が独占配給しています。
オススメのポイント
1. VR、360動画として何をしたら楽しいか
VR、360動画として何をしたら楽しいかを試行錯誤して制作された作品です。幼い娘が遊んでいるドールハウスに入り込む体験ができたらどんな感じだろうというアイデアを、大人が真剣に作っている姿を思い浮かべると微笑ましく思えます。
冒頭ドールハウスの中から日常のやり取りを見ることになるのですが、本物のドールハウスの中に360度カメラを仕込んで撮影しているので、父親が巨人に見えて楽しい映像になっています。
また父親が悪いうさぎに囚われるシーンもよく考えられています。父親の姿は体験者の横にあるのですが、悪いうさぎは体験者の頭に袋を被せます。次のシーンでは体験者は父親の視点になって椅子に縛り付けられてしまいます。それまでは客観的に父親を見ていたのですが、このシーンから自分が主観的に父親の視点になるのはとても巧みな演出だと思います。
作中では他にも楽しい仕掛けがある作品で、楽しそうに制作しているSi-Hup Sung監督の姿が目に浮かびます。
2. 作品の雰囲気に合わせたCG合成
この連載でもCG合成技術を意欲的に使った作品をいくつか紹介してきました。その中でも今回のCG合成は、技術力を見せるようなものではなく、作品の雰囲気にあった丁度いい感じになっています。
本物のドールハウスの中からの映像から父親がドールハウスに飲み込まれる時の映像は、ドールハウスと同じセットを組んで撮影していて、昔の特撮を思わせるような演出になっています。また椅子に縛られた父親視点の時に横にある鏡を見ると、鏡に父親が映っていてこちらを見ています。
本来ならばカメラが映るはずの所に映像を合成しているだけのシーンですが、なるほどと思ってしまうくらいの遊び心がある楽しいCG合成でした。
3. 可愛らしい世界観
全体的な世界観が幼い娘、ユハの視点から見える世界を描いているようで、とても可愛らしく、幼い娘の世界に父親が入っていくような内容になっています。Si-Hup Sung監督はこの作品は疲れたお父さんのために作った作品だと言っています。
「親愛なる疲れたお父さん。あなたは忘れているかもしれませんが、あなたもかつて疲れ知らずの子供でした。ドールハウスとおもちゃの世界……中に入ると、ワクワクするようなスリル満点の思い出や気持ちを思い出すでしょう。でも注意してください。そこには怖い魔物が住んでいます。」
子供の頃を思い出して、視点を少しだけ変えると、きっとこの作品の魅力が伝わると思います。
作品データ
タイトル |
Attack On Daddy |
ジャンル |
コメディ |
監督 |
Si-Hup Sung |
制作年 |
2020年 |
本編尺 |
約10分 |
制作国 |
韓国 |
視聴が可能な場所 |
VR Square(近日配信) |
Trailer
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