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VR動画 2018.09.21

VR映画監督たちの挑戦、「ホラー×VR映画」作品4本を一挙紹介 – 待場勝利の「VR映画の夜明け前」第8回

世界三大映画祭のひとつ、ヴェネチア国際映画祭にてVR映画のコンペティションが8月29日から9月8日まで開催されました。今回のコンペティションはワールドプレミア(初上映)であることが条件として定められていたため、様々なクリエイターによって作られた、まだ誰も見たことのないVR映画が複数発表される機会となりました。

今、世界中のクリエイターたちが、スクリーン映画とは違うVRならではの映画演出を模索しています。映像が360度に広がる特徴をうまく使うのみならず、新たな1人称視点の作品や、登場するキャラクターの存在を感じながらストーリーの中に入ってゆくような作品など、様々な演出方法を試行錯誤しながら革新的なVR映画を作ろうとしている最中です。

もちろん、日本もVRでの映画制作に挑戦する人々がいます。今回は日本でVR映画制作に挑戦し続ける「VR “DEAD” THEATER」プロジェクトについて取り上げたいと思います。

VR “DEAD” THEATER

「VR “DEAD” THEATER」は、日本を代表するホラー映画監督たちが、VRという新たな機器を使って全く新しいVR映画作品の制作に挑戦するプロジェクトです。このプロジェクトの中心になったのは、株式会社ポニーキャニオンのビジュアルクリエイティブ本部、制作部の中島純氏です。

中島氏は2016年6月、まだ「VR映画」という言葉が広がっていなかった頃にこのプロジェクトを立ち上げました。「VR “DEAD” THEATER」を立ち上げた目的は「まだ実写VR自体が黎明期だったので、“色々な撮影方法に挑戦する”、“シリーズとして確立させる”というコンセプトを持って、“映画監督による、映画としてのVR作品を目指すため”」とのこと。VR映画が産声を上げて間もない時期に、非常に意欲的な挑戦をしています。

では、「VR “DEAD” THEATER」の全4作品をご紹介いたします。

「天獄処理工場」(監督・脚本:西村喜廣)

「天獄処理工場」は日本の多くのスプラッター映画を監督しており、その表現や特殊造形が世界でも注目されている西村喜廣監督の作品です。西村監督は「実写版 進撃の巨人」や「シン・ゴジラ」などの特殊造形を手がけた事でも知られており、このVR “DEAD” THEATERの第1作目も得意とする強烈なVRスプラッター映画。一度体験したら忘れられないような作品になっています。

体験者は何者かに囚われて、椅子に括りつけられている状況から作品は始まります。挙句、体験者はその何者かによってを刃物で切り刻まれてしまいます。訳も分からず捕らえれらる恐怖、その上で切り刻まれたような“痛覚”を体験できます。この作品はスプラッターホラーが苦手な方は体験するのを控えた方がよい表現も随所に含まれており、決して気持ちのよいものではなく、「体験したくない人は別に体験しなくてもよい」というくらいの思い切りと勢いを感じさせられる作品です。

この作品の制作された意味を考えると、「VRとはただ見るものではなく、体験するもの」なのだ、と痛感します。VR映画は単純に視覚や聴覚だけでストーリーテリングを行うのではなく、五感全てで体験できるような作品にできるんだ、と気づかされましたこの作品は単純なグロテスク・スプラッターホラーを体験するだけでなく、きちんと映画らしい表現もされています。終盤のヒロインが海へ行くシーンはやはり映画監督らしい、映画的な美しい表現となっています。VR映画の歴史に残る素晴らしいシーンだと思います。

「領域」(監督・脚本・編集・キャラクターデザイン:梅沢壮一)

梅沢壮一監督は日本を代表する特殊メイクのスペシャリストでもありながら、映画監督としても(「血を吸う粘土」など)世界から注目されています。前述の通り特殊メイク、そしてキャラクターデザインまで一人でできてしまう、本当に多才な監督です。

「領域」の内容について少し説明しましょう。調査のために作業員がカメラを穴の中に入れると、不気味な地下トンネルを見つけます。カメラが更に進んでいくとやがて謎の空間に辿り着き、そこには世にもおぞましい光景が……という作品です。体験者は調査用のカメラ視点でこの不思議な地底の光景を覗き見ることができます。第1弾の「天獄処理工場」とは異なり、地底の穴の先には何があるのか、という好奇心をそそるシチュエーションと、いけないものを覗くドキドキ感のある作品です。

ただ、そこはやはりVR “DEAD” THEATER。単純な映画ではありません。気持ちの悪さや、恐怖が体感できるような作品になっています。さらに洞窟の先には結末が――それも期待通りの結末が――待っていて、気持ちのよいラストではないですが、非常に興味深い作品になっています。私は、昔見たTV番組「川口浩探検隊」をVRで体験したような気分になりました。

「廃病院_素材_0527.mp4」(監督・脚本:三宅隆太)

日本のホラー映画を代表する三宅隆太監督の「廃病院_素材_0527.mp4」。「劇場霊」や「クロユリ団地」などのヒット作品を筆頭に、数え切れない数のホラー作品に脚本や監督で関わっています。その他「ほんとうにあった怖い話」シリーズや「怪談新耳袋」シリーズ、「学校の怪談」シリーズなどが代表作として知られています。

作品は売り出し中のアイドルグループが廃病院でバラエティ番組の撮影をしているシーンから始まります。撮影中に次々と起こる不可解な現象。体験者はアイドルが持つ、360度暗視カメラ視点で廃病院を歩き回る体験ができます(ひょっとすると、この作品がVRで初めて暗視カメラを使用したのではないでしょうか)。画面の独特の粗さが恐怖を誘います。お化け屋敷が苦手な私としては、薄暗い廃病院の中にいるだけでもかなりの恐怖感がありますが、アイドルの女の子たちの恐怖に引きつった顔や叫び声はさらに怖さを煽ってきます。そしてラストには最大の恐怖が……。

スクリーンのホラー映画を見る時とは異なり、本当に廃病院に自分が行ったかのような感覚で映画を体験する作品です。第1弾や第2弾とは違って血は出てこないのですが、恐怖で精神的に追い込まれるので心臓の弱い人は要注意です。

「GR ~Ghost Reality~」(監督・脚本:大畑創)

大畑監督は2009年「大拳銃」がゆうばり国際ファンタスティック映画祭と第31回ぴあフィルムフェスティバルにて審査員特別賞をW受賞。その後「怪談新耳袋 百物語」でデビューし、2012年「へんげ」が第16回ファンタジア映画祭にて特別賞を受賞するなど、今注目の映画監督です。
   
「GR」の舞台はある家族が引っ越した一軒家。何かに見られている気配を感じた母と娘は、霊媒師を呼んで家の中を見て貰うことにします。そこで一家と霊媒師が見たものとは……という、シチュエーション自体は多くの映画作品で描かれてきたものです。

しかし本作は今までのスクリーン映画と少し違います。本作は幽霊視点で描かれた作品なのです。幽霊の視点のホラー映画は筆者もあまり見たことがなかったので、非常に新鮮でした。またこの世にいない幽霊よりも人間の行いの怖さを感じられる、ちょっと今までのホラーとは一味違うVR映画になっています。ラストシーンもスクリーン映画とは違うVRならではのシーンになっています。

「VRでしか撮れないし、VRじゃないと意味がない映画」を

「VR “DEAD” THEATER」は2016年から2年近くかけて、全4作品が発表されました。VR映画を制作するための教科書も教えてくれる人もいない時期に、4つの作品を世に送り出したことについて、中島氏は「映画監督たちもVR撮影が初めてで、VRに関する知識もあまりないままお願いしたことに加えて予算の制約もあり、それらを逆手に取って“VRをよく知る人たちであればやらないであろう撮影方法やアイデア”がどんどん出てきて刺激的でした。あの時期にあの監督達とだからこそできた、貴重な体験です」と語りました。

今後のVR映画の可能性については、「VRはこのプロジェクトを始めた頃よりも、広がったとは思いますが、映画という立ち位置ではまだまだだと思います。ただ、先日VTuber(バーチャルユーチューバー)によるライブがVR空間上で行われ、それをライブビューイングで劇場でも配信するという催しがありましたが、そうやって劇場とVRの距離が近づいていくことで映画とVRの距離も縮まっていき、VRの居場所も増えていくのではないでしょうか。あとは“VRでしか撮れないし、VRじゃないと意味がない映画”が登場すると何かが変わる気がします」とのこと。中島氏も、きっとまた野心的なVR映画を作ってくれることでしょう。

今回ご紹介させていただいたVR “DEAD” THEATERシリーズは、VR THEATERやVR CRUISEで体験可能です。この恐怖に耐えられるか、勇気のある方は是非ご体験ください。

視聴可能サイト

VR CRUISE
高品質な映像VRをキュレーションするVRポータルアプリ。アーティストのライブや エンタメコンテンツ、スポーツ、ニュースなど幅広いジャンルのVRコンテンツを多数掲載。DMM.com内でVR CRUISEチャンネルを展開中。

VR THEATER
全国の複合カフェ、ホテル、カラオケ、ゲームセンター等で、気軽にバーチャルリアリティを体験できる店舗常設型サービス。
 
作品の詳細はVR “DEAD” THEATER公式ページまで。
 
※本記事の内容はあくまで私見に基づくものです。ご了承ください。


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