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VR動画 2019.04.20

“世紀末”を体験する短編VR映画作品 – VR映像プロデューサー・待場勝利の「VR映画の夜明け前」第13回

近年、VR映画を体験できるプラットフォームが少しづつ増えてきました。筆者の最近のお気に入りは「ARTE360 VR」です。フランス・ドイツの共同出資会社ARTEがローンチしたVRのプラットフォームなのですが、アーティスティックな作品が多数あり、世界の映画祭で評価を得た作品にも出会える、という貴重なVRプラットフォームです。濃密なVR作品を見たい方にはオススメです(アプリのDLはそれぞれこちら:OculusiOSAndroid)。

もう一つ私のお気に入りのプラットフォームは中国発のプラットフォーム「Veer VR」です。魅力的なVR映画作品を探すのが大変な状況の中、「Veer VR」は多くのVR映画作品を扱っており、しかも無料だけではなく有料作品もきちんと取り揃えているほか、海外映画祭で評価を得た作品も複数存在します

また「Veer VR」では魅力的なVR映画作品が掘り出せるので、筆者は頻繁に覗きに行っています。多くの魅力的なVR映画作品が簡単に見つかるように「Veer VR」には今後も頑張ってもらいたいところです。

さて、今回はその「Veer VR」で体験できる素晴らしい作品を紹介したいと思います。

世紀末の3分間を体験する「02:09」

この作品と出会ったのは2018年のトライベッカ映画祭。当時は毎日のように映画祭に足を運び、何十本もVR映画作品を体験していました。しかしVR酔いを起こしてしまうような作品や、VRである意味が薄い作品が多く、VR映画作品として魅力的な作品を探すのは大変な作業でした。その中で見つけ出した、キラリと光る作品のひとつがこの「02:09」です。

この作品は「世界が終わるまでの3分間」を描いた作品です。監督はスウェーデンのVR映画監督 Svante Fjaestad氏。2016年に「Oh! Deer」という、鹿狩りを鹿の視点から見るというVR映画を初めて制作しました。そして2作目がこの「02:09」です。

待場の見所①:印象的なVFXの演出

冒頭、何気ないビルの屋上に男女二人が目の前で会話しているのを聞いている、といった体裁の中、体験者は存在しています。しばらくすると突然、轟音が響きます。その瞬間、目前の街からロケットが空に向かって打ち上がります。突然のことにビックリししてしまうのですが、物語が進む中で、打ち上げられるロケットが1機だけでなく、何機も打ち上がって行くのを見て、「何か危機が近づいていて、地球から逃げ出そうとしているのではないか?」ということに気づきます。何気ない日常と、ロケットが次々と打ち上がって行く演出はギャップがあって非常に印象的なシーンになっていると思います。

待場の見所②:作り込んだビジュアルの美しさ

この作品はワンシーン、ワンカットです。本編の長さは約5分の作品なので、飽きることなく一気に体験することができるでしょう。短い尺とは言え、約5分の作品を飽きさせないようにするために、構図やビジュアルはを考え抜かれています。ビルの屋上で男女のカップルを中央に配置し、2人が見ている方向に街があり、その街の方から多くのロケットが打ち上がっていきます。一方で空は世界の危機を暗示しているかのように赤く、薄気味悪い様子。世紀末を迎える瞬間を切り取った作品ではありますが、ロケットの打ち上げも、花火の打ち上げのように見え、全体的に美しい映像になっていると思います。

待場の見所③:ギャップのあるストーリー

物語の冒頭、何気ない2人の男女の会話が行われています。最初こそ「これは退屈な作品かもな」と思ってしまうぐらい平凡な会話です。ただ、少しづつ周辺が騒がしくなり、ロケットが打ち上がり、大変な状況の中にこの男女のカップルがいることに気がつきます。女の方が「これも何も意味がない」とお金をビルの屋上から捨ててしまいます。お金持ちはロケットで地球から逃げて行く中、お金のない人たちは為す術もなく、世紀末を迎えるしかない状況を上手に描いていると思います。

筆者は「本当に危機が迫ると人間はこんなにも普通に、平凡な会話をしているのかもしれないな」と思わされました。作品の冒頭からやたらと男が時間を気にするのですが、その意味も最後にわかります。

まとめ:VRに向けてよく練られた作品

本作はVRの特性を考えてよくストーリーを練った作品だと思います。何気ない中国のビルの屋上で世紀末を体験するVR映画作品であり、その中で日常会話をするように世の中の最後を語る男女2人、そしてそれとは全く違う状況が周辺で起こっている……というギャップが面白い作品です。しかし、やはり気になるのは「この作品の中で自分は何者なのか」ということ。男女2人はまさにそこに存在しているのですが、体験している自分はその場にいながらも登場人物の2人からは気にもされない、まるで幽霊のような存在です。全てのVR映画作品がPOVを意識しなくてはならない……とは思わないのですが、そこを少しでも意識することができたら、もっとVR映画として一歩先に進めるのではないか、と思った作品でもあります。

「02:09」はOculus Rift、Mi VR、Gear VR、HTC Vive、Google Daydream、Windows Mixed Reality、Oculus Go等に対応しているVR映像プラットフォーム「Veer VR」で有料で体験可能です。

 
※本記事の内容はあくまで私見に基づくものです。ご了承ください。


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