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話題 2022.06.20

3Dモデル規約テンプレート「VN3ライセンス」のこれまでの成果と、新バージョンの狙いとは?

6月1日(水)、3Dモデルの権利者向けに最適化された利用規約テンプレート「VN3ライセンス」のバージョン1.10が公開されました。従来の日本語と英語の規約のほか、韓国語、中国語の簡易的な利用規約を同時生成可能となりました。

VN3ライセンスとは?

「VN3ライセンス(Virtual Native 3D-Model License)」は、バーチャル文化やバーチャル生活をサポートすることを目的に、有志の有識者によってボランティアで制作されている、汎用的なデータ配布用の利用規約のテンプレートです。

権利者(3Dモデルクリエイターなど)は、このテンプレートを制作物販売サイト(BOOTHなど)に掲載することで、3Dモデルを頒布する際の利用規約を購入者に伝えることが可能となります。

モデルの権利者(モデラー等)の意向が反映されるように設計されているのが特徴で、ユーザー側の免責規定やオープンソースソフトウェアへの対応、反社会的勢力の排除、準拠法や裁判管轄の設定、改正民法対応など、権利者を保護するための条項が記載されています。


(公式サイトより、出力規約の一例)

また、ジェネレーターによる規約の自動生成が可能であり、自分自身で内容の記述やコピー&ペーストをすることなく、ピクトグラム付きの高品質なPDF形式の利用規約を作成することができます。

利用規約の本文は、3DCG関連企業で法務経験もあるあしやまひろこ氏が作成。内閣府知的財産戦略推進事務局に出向し参事官補佐を務める弁護士の出井甫氏がリーガルチェックを担当しています。

英訳は清水ユキ氏とLewis氏が、ピクトグラムはVRメディアクリエイターのろーてく氏が、ジェネレータシステムはエンジニアのen129氏が担当。また、バージョン1.10から追加された韓国語訳はROGNAF氏が、中国語訳は英訳も担当した清水ユキ氏が担当しています。

VN3ライセンスで何が変わったか? 新バージョンで何が期待されるのか? 代表者メールインタビュー


(VN3ライセンスチーム代表のあしやまひろこ氏)

2021年2月5日にバージョン1.00がリリースされてから、「VN3ライセンス」は3Dモデルのクリエイターやユーザーからどのように受容されているのでしょうか。そして、バージョン1.10のアップデート内容――とりわけ韓国語や中国語の対応はどのような背景から実現したのでしょうか。

MoguLive編集部は今回、VN3ライセンスを作成しているグループ「VN3ライセンスチーム」の代表であり、VRChatなどで活動するアイドルユニット「クリプトアイドルメタバース」のメンバーとしても活躍している、あしやまひろこ氏にメールインタビューを実施。「VN3ライセンス」がこれまでもたらした効果と、新バージョンの狙いについて伺いました。

――VN3ライセンス バージョン1.00がリリースされて1年経ちましたが、ユーザーやクリエイターからどのような反応が得られていますか? 変化を感じられた出来事があればお聞かせください。

あしやま:
Twitterなどでの言及を見るに、概ね好評なのではないかと考えています。また、クリエイターさんやユーザーさんに実際にお伺いしてみると、許可項目の観点整理がちょうどよいといったことや、許諾範囲がアイコンで一覧になっていて見やすいといったコメントを頂くこともありました。


(プレスリリースより、VN3ライセンスの利用状況グラフ)

最近の実感としては、VN3ライセンスの利用が増えていると感じています。実際に観測した範囲でも、BOOTHの人気上位50位までのアバターのうち46%がVN3ライセンスを採用しています(※2022年5月末時点)。

VN3ライセンスは日本在住の権利者を想定した設計なので、例えば韓国のクリエイターさんのように日本国外の方が使わないことを考えると、日本在住のクリエイターさんに限れば使用比率はもっと高いと思われます。また、ツクルノモリ株式会社さんや、株式会社Shiftallさんのように法人での利用も増えてきました。

VN3ライセンスを提供し始めた2020年5月ごろは、ちょうど「アバター向け衣装」の売買がメジャーになりつつある時期だったと記憶しています。アバター向けの衣装の作成に関する項目を設定していたことにより、衣装の制作や流通時の不都合が減っていたのだとしたら嬉しい限りです。

また、当初はアバターを中心にしつつあらゆる形式のデータに対応できるようにと設計していましたが、ツール類の配布にも実際に活用されていたりと、様々な利用用途の広がりを感じています。

――VN3ライセンス  バージョン1.10の大きな内容のひとつに「韓国語・中国語への対応」がありますが、どのような背景から本機能を追加されたのでしょうか?


(プレスリリースより、韓国語、中国語簡体字・繁体字の規約の一例)

あしやま:
ときどき、知り合いのモデラーさんに何か困っていることはないかなど、要望をお伺いする事があるのですが、アバター購入者の結構な割合が韓国の方であり、韓国語に対応したいというご意見を複数頂いていました。

私自身がVRChatをプレイして体感していますが、日本語のコミュニティには韓国の方が非常に多くいらっしゃいます。また、BOOTHの人気アバター上位には韓国人作家さんの作品も多く、日韓のクリエイターやVRChatユーザーは非常に近い関係にあると思います。

ですが、韓国の作家さんやユーザーさんは日本語を使える方も多いのですが、逆に韓国語が得意な日本人は少なく、日本人が韓国語で意思表示するにはハードルがあったと思います。また台湾や香港の方も日本語コミュニティにはそれなりにいらっしゃるため、中国語に対応する必要性も感じておりました。

そのような背景もあり、簡易的にではありますが、韓国語と中国語に対応することといたしました。

――そのほかのバージョン1.10の内容(簡易一覧の拡充、性的表現や暴力的表現などのセンシティブな表現に関する選択肢の追加)の対応・変更とした理由は何でしょうか? その背景もあればお聞かせください。

あしやま:
複数のモデラーさんにお伺いするなかで、SNSなどに公開しないような個人的な利用までは禁止しないという決まりがあったほうが良さそうであることが分かりました。

従来は「許可」「棲み分け必須」「禁止」の3択でしたが、これに加えて「私的使用の範囲に限っては禁止しない」が加わったことにより、プライベート用途までは禁止しないという意思表示が可能になりました。

――今後、VN3ライセンスのアップデートの計画や方向性があればお聞かせください。

あしやま:
現状、顕在化している要望や問題には概ね対応できているのではないかと思います。

ですが、例えば「個人の商用利用の許可」とされたアバターを個人が購入して利用している場合、「個人事業主として法人から仕事を請け負って、アバターを利用した制作物(例えばそのアバターを利用して作った商品の宣伝ポスター)を法人に対して納品し、法人がその制作物を宣伝に利用した場合」や、「個人がそのアバターを利用して、法人の従業員として働くこと」は、個人の利用の範囲とみなすべきか法人の範囲とみなすべきかなのかといった問題が存在していると思います。

これらについては、すでにリサーチを始めていますが、権利者や対象物によって見解は分かれているようです。

その他にも、大きな問題にはなっていないものの、将来を見据えると解決したり明確化した方がよい観点はまだまだあるように思います。

VRSNSやメタバースは従来の商慣習では想定していなかったようなこともあるため、そういった問題に対して率先して課題を把握し、先回りして問題が起きないように交通整理をし、クリエーションの活性化に貢献したいと思います。

――ありがとうございました。

(参考)プレスリリース


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