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VTuber 2020.06.03

日本テレビの新事業「VTuberネットワーク」その狙いは? 事業責任者インタビュー

5月27日(水)日本テレビ主導のVTuberネットワーク「V-Clan」が公開され、SNS上で大きな話題となりました。現在、朝ノ姉妹まりなす(仮)ヨメミさん、バーチャルゴリラさんなど50名以上のVTuberが参加を表明。ファンの間では今後の動きが注目されています。

そんな「V-Clan」はどのような経緯で立ち上がり、今後どういった動きを展開するのか? 今回のネットワークを立ち上げた日本テレビ放送網株式会社のVTuber事業プロデューサー・大井 基行(おおい もとゆき)さんと西口 昇吾(にしぐち しょうご)さんにお話を詳しく聞きました。


日本テレビ放送網株式会社・大井 基行氏


日本テレビ放送網株式会社・西口 昇吾氏

「V-Clan」がVTuberのためにできることは?

――今回立ち上がったVTuberネットワーク「V-Clan」とは具体的にどういった企画でしょうか? 概要をお聞かせください。

大井

一言で説明すると、VTuberの方々の活躍の場を広げるためのシステムだと考えています。具体的には、参加していただいたVTuberの方々に対して、企業さまとのコラボやタイアップなどを提供したり、テレビや配信番組、リアルイベントへの出演サポートをしたりといったことが挙げられます。また日本テレビ側でも番組や配信企画などのコンテンツを制作し、出演していただく機会を積極的に作ろうと思っています。

――VTuberが出演できるようなコンテンツ制作も行っていくということですね。

大井

現状のタイミングですと、VTuberとファンが一対一で電話ができる「バーチャル推し電WA!!」の第2弾が実施予定です。またライブ配信アプリの「LIVEPARK」でVTuberのオリジナル番組「VTuberおバカぐらんぷり」の配信も決定しています。こういったオリジナルのオンラインイベントや VTuber番組を提供するのも、サポートのひとつですね。

―― VTuber側にとって「V-Clan」に参加するメリットはどのような点だとお考えでしょうか?

西口

大まかに分類すると「セールス」「プロモーション」「クリエイティブ」の3つの軸でVTuberの方々のサポートを展開する予定です。まず「セールス」面では、VTuberの方々が”きちんと稼げる”ようになることをサポートします。VTuberの方々がYouTubeの投げ銭や広告収入だけに依存しないように、企業さまとのコラボのご紹介や出演料が得られるイベント、番組への出演の場を提供していきます。
企業さまにお話をうかがうと「VTuberに興味はあるけれど、どう活用すれば良いか分からない」といった声を多くお聞きするので、そういった企業さまに対してV-Clanにご参加いただいているVTuberの方々を活用した企画の提案を行っていきます。

――VTuberに代わって企業への営業や呼びかけを行っていくと。

西口

 ただし、日本テレビがそれぞれのVTuberの方々の営業権利を全て独占するわけではありません。V-Clanに登録したことで、活動の幅が狭まるということは絶対に避けたいですし、あくまで営業の一部を代行する役割を担うと考えていただければ幸いです。

大井

今回参加していただいたVTuberの方々の中には、すでに事務所に所属していたり、エージェント契約を結ばれている方もいらっしゃいます。そういった方々を全面的にマネジメントするのではなく、我々ができることを提供していくといった形を考えています。

――いわゆる芸能事務所的な運営のイメージとは異なるということですね。

西口

おっしゃる通りです。事務所に所属している方や他のエージェントに登録している方など活動形態を問わず、さまざまな方々が参加しやすい環境になっていると思います。それぞれの事務所やエージェントが積み上げてきた”箱感”というのはすごく大事な文化だと思いますし、これを壊さずにサポートをしていきたいです。

――先ほどおっしゃっていた「プロモーション」でのサポートはいかがでしょうか?

西口

「プロモーション」面では、ネット以外でも露出できるような機会を作ります。具体的にはテレビ番組やリアルイベントへの出演などです。実はこれまで日本テレビでは「マツコ会議」や「news zero」などで、VTuberを取り上げる企画を多数放送してきました。今後ますますそういった露出機会は増やしていきたいと思います。
またVTuber業界だけに止まらず芸能人やアーティストの方々との共演なども実現していきます。

――VTuber側もファン側も、これまで以上に大きな舞台での露出が増えることは、純粋に嬉しいことだと思います。

西口

そのために今私たちは色んな方向性で企画書を何個も何個も書きまくっているような状態です(笑)。また「クリエイティブ」面についてお話すると、日本テレビは65年以上映像に携わっている企業なので、その技術やノウハウを活かしてVTuberの方々の新しい映像表現のお手伝いをさせていただきたいと思っております。
具体的には、VTuberはバーチャルではあるのですが、実写やロケ映像などを撮影したいというリクエストもいただいており、その際に技術・演出面でのサポートができます。

現在のVTuberの潜在的な魅力とは?

――ヨメミさんや銀河アリスさん、アメリカザリガニまりなす(仮)など、実に多くの方々の参加が告知されましたが、選考理由はどういったものだったのでしょうか?

西口

僕たちはかれこれVTuber関連の仕事だけを2年以上携わってきているので、個性豊かなVTuberの方々が活動していることは当たり前のように認識しておりますが、世間一般的にはVTuberはまだまだ美少女キャラクターのイメージが強いと思います。実際は男性や動物、みみたろうさんのように…、みみたろうさんはなんなんですかね?(笑)ふわふわ?…色んな方々がいらっしゃいます。まずは世間にこれだけ多種多様なVTuberの方々が活動していることを知っていただきたいという想いがあり、単純にYouTubeの登録者数だけでなく、個性というところを重要にしています。

大井

様々なニーズに答えられるという点で、参加VTuberの個性がバラバラであることは強みだと思っていいます。

――今後も積極的に参加VTuberを増やしていく予定でしょうか?

西口

現状では公募はしておらず、こちら側からお声がけをさせていただくという形式をとっています。

――そもそも「V-Clan」を立ち上げた経緯はどのようなものでしたか?

大井

「V-Clan」は「VTuber を次のステージへ 」というビジョンを元に立ち上げましたが、この言葉にV-Clanに対する思いが強く込められています。私も西口も2年以上この業界を見てきて感じているのは、もはやVTuberはYouTubeの枠組みを超えた存在になってきているということです。
いわゆるリアルのYouTuberとは違った発展の仕方をしていると思っていて、VTuberはリアルイベントや世界進出も積極的で、その内容も歌手やアイドルといった側面が非常に強く見られます。これを“脱YouTuber化現象”として捉えた時、日本テレビであれば、さらにVTuberの活動を広げる手助けができるのではと考えました。

――お二人がVTuber業界に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか?

大井

最初は西口から「こんなのがあるよ!」と紹介され、実際視聴してみたら「新しいエンタメとしてとんでもない可能性がある…!」と感じたことがきっかけですね。それまではテレビ局の仕事がメインだったので、VTuberについては何も知りませんでしたが、知りながらドンドンのめり込んでいった印象です。

西口

 私はもともと顔出しはしてませんでしたが学生時代にYouTuberをやっていたので、YouTubeを非常にたくさん視聴していました。キズナアイさんが登場したときには興奮しましたね! 今ではVTuber事業者が表に出ていますが、その頃はどこが運営しているのかも全く分からず、完全に未知の世界で。人間が投稿するのが当たり前だったYouTuber界隈に突然キャラクター的な存在が現れて、しかもリアルな人間のように動き回っていて、生配信までし始める…その面白さについて大井と話しはじめたところから、今のVTuber事業がはじまったと記憶しています。

大井

忘れもしないのは、当時はお互い別々の部署に所属していて新事業について話せる機会がなかったので、週末の夕方18時頃から深夜の3時くらいまで「あれじゃない、これじゃない…」と言いながら猛然と話し合ったことです。そこからVTuber事業のアイデアに行き着いた感じでしたね。

――それだけお二人を熱くさせるものがVTuberにあったということですか?

大井

VTuberは今後さらに広がっていく可能性があると信じています。個人的な考えですが、もはや「VTuber」という言葉自体が足かせになっているような印象がありまして、それぞれを純粋にひとりのタレントとして扱っても大丈夫なほど、存在が非常に大きいものになってきていると思っています。

西口

「VTuber」という言葉でくくることの問題は私も感じておりまして、現在活躍されている方の中には「Vシンガー」のような音楽活動や「Vライバー」のような生配信など、実にさまざまなバリエーションがあります。
また、あまり比較するものでもないですが、”バーチャル”という注目度を取っ払ったとしても、一般のアーティストの方にも引けをとらないめちゃくちゃ実力のある方々もたくさんいます。例えば、式部めぐりさんがSHOWROOMのコンテストに出場中に総合ランキング1位を獲得されていましたが、彼女のように純粋な実力で他の生配信者たちと戦っていけるような存在も少なくありません。

――世間的には未だ「VTuber」という括りそのもののイメージが強すぎるあまり、個々の活躍にスポットライトがうまく当たっていないということでしょうか?

西口

そうですね。コアなファンからすれば、VTuberが歌手としてデビューして、リアルライブをしていることは常識となっているんですが、まだまだ世間一般では「え? バーチャルなのにライブって何?」、「VTuberがCDを出したの?」という認識に留まっています。まだまだ「私達とは関係のない世界の出来事だな」と思っている方が非常に多いイメージです。そこで、テレビ局としてのマスな視点で、彼ら彼女らの存在感をさらにアピールしていくことは重要だと考えています。

大井

本当にもどかしいんですよね。VTuberは世間が考えている以上にスゴいものだと思っていて、Twitterを見れば数多くのニュースがある中で、毎日のようにVTuberの関連キーワードがトレンド入りをしています。この現象のスゴさが、世の中の人達にはまだピンときていない。それがとても悔しいと思っています。まだまだ過小評価を受けている状況だと思いますので、このネットワークをきっかけに魅力を知っていただけたら嬉しいですね。

VTuberはテレビ業界を変えるきっかけになるか?

――日本テレビ側の立場では、VTuberが既存のテレビ番組に出演することでどのような効果があると期待されていますか?

西口

地上波テレビが抱えている問題の一つに、若年層へのリーチ力低下というものがあります。一方でVTuberファンの中には若い男性の方が多く、我々が考える様々な企画を通して彼らとテレビを「繋ぎ直す」役割が果たせればと考えています。
実際「THE MUSIC DAY 〜時代〜」という音楽番組の裏側で古坂大魔王さんがMCの裏配信を毎年配信しているのですが、そこで昨年VTuberの企画を実施しました。そのときの裏配信の再生回数が昨年比の約2倍で、地上波のM1層の視聴率も大幅に増加しました。もちろん因果関係をきちんと証明するのは難しいのですが、SNSの反応などを見ているとVTuber企画が少しは貢献したのではないかと思っております。
当初はVTuberファン層と番組の視聴者層はマッチしていなかったかと思いますし、VTuberがどのように受け入れられるのか不安で眠れませんでしたが、銀河アリスさんと尾藤イサオさんとの共演など超異色な組み合わせが非常に盛り上がりました。そういう点でも貢献できたのではないかと思います。

――以前、テレビ朝日「超人女子戦士 ガリベンガーV」を取材した際、ディレクターの方が「この番組をきっかけにテレビを購入した」というメッセージが届いたと語られていました。今後そのような流れが加速するかもしれませんね。

大井

VTuberをきっかけとしてこれまでテレビを持っていなかった方まで引き込めるようになれば、彼らの影響は非常に大きいと言えると思います!

西口

VTuber側もこれまで共演が難しかったアーティストや芸能人の方と一緒に出演することで新たなファン層の獲得に繋がります。またその逆もあると思いますし、テレビ局側もこれまで届けられていなかった世代にリーチできる。そういった相乗効果を生み出せていければうれしいです!

――VTuberが番組に出演して話題になるためには、番組の雰囲気や企画も重要になってくると思います。その点についてはどうお考えでしょうか?

西口

ただVTuberの方々にテレビに出演していただくだけでは何の相乗効果も生まれません。個々のVTuberさんの個性を生かしたような企画が必要と考えています。”VTuber”とひとまとめで捉えるのではなく、個で見ないといけません。それぞれの魅力を把握した上でのサポートをしていきます。実際マツコ会議でみみたろうさんが出演した際は、マツコさんがみみたろうさんにドハマりして、みみたろうさんのYouTubeの登録者数が一晩で爆発的に増加しましたね(笑)

――VTuberが起用されることでテレビ番組の雰囲気も変わる可能性があるということですね。

大井

少し横道に逸れた話になりますが、VTuber事業はテレビ局の新しいビジネスモデルのひとつになるのではないかと思っています。
これまでのテレビ番組はCMによる広告収入を前提にした「みんなが同じものを観て楽しむ」という形式です。しかし現在はコンテンツの選択肢が増えた影響で、「バラバラで楽しむ」ことが前提となっています。そんなときに「みんなが同じものを観て楽しむ」ではないような番組づくりも必要になってくるだろうと。つまり一部の人たちに強く刺さるような番組も生まれてくる可能性があります。
先ほど「ガリベンガ―V」のお話が出ましたが、深夜番組にも関わらずリアルライブを実施して、それが収益につながっているケースがあります。「テレビ」×「ネット」×「リアルイベント」と、それぞれの分野を繋げることで、新しいビジネスモデルがこれから生まれてくるだろうと期待していますし、そういったものを実現していきたいです。

「V-Clan」がVTuberたちの目指す夢を叶える場所に

――VTuber業界は今後どのような動きが起きると予想されていますか?

大井

現在はいわゆるグループ全体を推すという流れが非常に強い状態ですが、今後は逆に個々のVTuberの活躍に光が当たりやすくなる現象が生まれるのではないかと予想しています。バラバラな方向で活躍されていた方同士がお互いの垣根を超えてコラボするような流れが潜在的に求められていると思っているので、そういった層に向けてコンテンツを提供できれば良いですね。
また最近では多様化と専門化も進んでいると思っていて、何か突出した才能や特技を持ったVTuberや、そもそも「これって本当にVTuber?」と思わせるような方々も増々登場してくると思います。

――先日開催された「ぽんぽこ24」の応募CM企画でも、非常に個性的な映像作品を発表するVTuberやクリエイターが多く見られました。

大井

 それはとても良いことだと思っています。今後ますます表現の裾野は広がっていくのではないかと考えていますね。

――最後に「V-Clan」の今後の目標についてお聞かせください。

大井

V-Clanを通してVTuberの方々の夢が叶っていくような状態を作りたいです。VTuberとしてデビューすれば、これまでの過去にとらわれず、自分のやりたかったことを実現できるかもしれません。また番組の中でスターを目指すような企画が実現できれば、それを目指して新たな才能が生まれることもあるでしょう。もちろんファンの方に楽しんでいただくことは前提ですが、プラスアルファで、夢の実現の後押しもやっていきたいと思います。

西口

私は「皆が諦めないような世界」を作っていきたいです。生まれ持ったものやこれまでどう生きてきたかによって、自分はこうだからと無意識に限界を作ってしまいがちですが、もっと自分の可能性を信じて欲しい。VTuberになれば、全く別の人生を経験し、諦めていたことにチャレンジできる可能性があります。今はまだ始まったばかりですが、色んな人がもっとチャレンジできるよう頑張っていきます。

大井 基行氏・プロフィール
慶應義塾大学の在学中にUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)への留学でハリウッドのビジネスを学び、世界に通用するエンタメビジネスを立ち上げることを志す。2017年に日本テレビに入社し、CMに関する業務を行う。2018年よりVTuber事業を立ち上げ、V-Clan共同代表となる。

西口 昇吾氏・プロフィール
学生時代に大阪大学の石黒浩教授の元で、アンドロイドの自律対話システムの研究開発を行う。2017年に日本テレビに入社し、AIの開発やアンドロイドアナウンサー「アオイエリカ」プロジェクトの立ち上げを行う。その後、2018年にVTuber事業を立ち上げ、V-Clan共同代表となる。


(V-Clan・現在の参加VTuber)

執筆:ゆりいか


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