ゾンビが蔓延る世界に入り込み、サバイバル生活を送る――多くのホラージャンル好きが夢見るシチュエーションを堪能できる大作VRゲームが、今年2020年、リリースされました。
その名は「The Walking Dead: Saints & Sinners」。AMCの人気ゾンビドラマ「ウォーキング・デッド」を原作に制作された作品です。本記事では、この作品が果たして“名ドラマ”の名前にふさわしいタイトルなのか、レビューしていきたいと思います。
「The Walking Dead: Saints & Sinners」は、ゾンビこと「ウォーカー」の発生から3年後のアメリカ・ニューオリンズが舞台の作品。プレイヤーは通称“ツーリスト”という人物として、豊富な物資が貯蓄されていると噂される軍用バンカー「リザーブ」を探して、崩壊したニューオリンズの街を探索していきます。
ニューオリンズの街には、「タワー」と「リクレイムド」と呼ばれる、敵対する(人間の)2大勢力が存在しています。プレイヤーは時には両勢力と戦い、時には利用しながら、この秩序が崩壊した世界でサバイバルしなければなりません、
(プレイヤーの拠点となるバス(と墓場)。ここで装備のアップグレードや制作を行います。)
本作の対応VRヘッドセットは、VALVE INDEX(バルブ・インデックス)、Oculus Rift(Rift S)、HTC VIVE、Windows Mixed Reality系ヘッドセットなどです。販売はSteamとOculus Storeで行われており、Steamでは4,100円、Oculus Storeでは3,990円で販売。いずれも税込・通常版の価格となっています。「Oculus Link」を使用すれば、Oculus Quest(オキュラス クエスト)でのプレイも可能です。
骨太のアドベンチャーゲーム
「The Walking Dead: Saints & Sinners」は、ジャンルとしてはアドベンチャーゲームに分類される作品です。バスを拠点に、ボートで各ステージに移動しクエストをこなしていくという流れでゲームを進めていきます。
サバイバル要素も強く、スタミナとライフゲージと連動する形で空腹や体調ゲージが存在するほか、武器にも耐久値が存在。ライフの自動回復は存在せず、ダメージを受けた場合は包帯を巻いて回復する必要があります。
各ステージにチェックポイント(オートセーブ)はなく、一度死亡した場合はステージを完全リスタートするか、進捗状態を保存した状態でスタート地点から再出発(装備は死亡地点に残置)するか選ばなければなりません。再出発の場合、装備を回収しないまま再度死亡すると、“全ロスト”してしまいます。
(上がスタミナ、下がライフゲージ。空腹や体調悪化が起こると、赤ゲージが伸びて最大値が減少する仕組み。)
ウォーカーは原作「ウォーキング・デッド」と同様に緩慢な動きですが、単体でも慎重に対処する必要があります。油断していると、フラッと背後から迫られて身体を掴まれ、ライフを失ってしまうこともしばしば。
特に厄介なのが“病気持ち”ウォーカーで、焦って近距離武器で倒すと、体調ゲージが大幅低下してしまいます。体調が悪化すると主人公は咳き込みはじめ、さらにスニークや敵のやり過ごしが難しくなるという悪循環。ゲームがある程度進行し、武器が揃ってきても、少し気を抜くと一気にピンチに陥ってしまうので、プレイ中はまったく油断できません。
(ゾンビこと「ウォーカー」。1体だけなら対処もまだ簡単ですが…。)
筆者は「ウォーキング・デッド」の視聴をシーズン5あたりで止めてしまった組ですが、本作のサバイバルシステムは、原作の雰囲気を上手く表現していると思いました。特に光源がない場所(屋内など)の探索はかなりの緊張感。ウォーカーの呻き声を聞きながら物資を探すドキドキ感は――特にゾンビ作品好きの方には――是非味わって頂きたいところです。
本作のグラフィックは、いわゆる“リアル系”ではなく、ある程度のデフォルメが入ったスタイル(Telltale Gamesのゲーム「ウォーキング・デッド」風の雰囲気)ですが、四肢がもげたり、武器によっては首が飛んだりと、かなりのグロ描写が盛り込まれています。戦闘は全編を通して近接戦闘が重要なうえ、弾薬が少ない序盤は特に近距離戦を強いられます。そのため、グロ描写に対する耐性がない人にはやや厳しいかもしれません。
シンプルながら満足度の高い戦闘
本作の基本的な戦闘システムは、多くのVRFPSと似た仕様です。ハンドコントローラーの内トリガーで武器をホールドし、近接武器の場合はそのまま刺したり殴打、銃の場合は狙って引き金を引きます。武器はプレイヤーの脇ポケットに小型武器2つ、背中に大型武器をひとつ携行可能です。
近接武器には、鋭さや重さがそれぞれ設定されており、バールや斧といった現実世界では両手で持って使用する道具は、両ハンドコントローラーを使用して握らないと使い物になりません。また、スイングする(刺す)速度も重要で、中途半端な動きでは攻撃が通らず逆にピンチになってしまいます。なお、ゾンビ物のお約束通り、ウォーカーを無力化するには頭を狙う必要があります。
銃火器は遠距離から敵を攻撃できる反面、使用すると弾薬を消費します。またアクション重視のVRゲームとは異なり、照準を補助するレーザーサイトなどは表示されないため、しっかりと狙わないとなかなか弾は当たりません。
銃にはそれぞれ長所と短所が存在し、オートマチック系の銃は素早いリロードが可能で、かつ装弾数も多い反面、ジャムる(銃が詰まる)場合があり、状況によっては致命的な結果を招きます。一方リボルバーなどは、一発ずつ装填する必要がありますが、信頼性は非常に高くジャムと無縁なのが特長です。
(現在のタスクや地図、獲得したファイルなどが表示されるメモ帳。左手の物体は、暗闇を照らしてくれる懐中電灯。)
「The Walking Dead: Saints & Sinners」は、どちらかというとマップ探索に重きが置かれた作品ですが、戦闘面に手抜きはありません。かなり練り上げられていると評価しても良いレベルです。
プレイヤーの発想力がそのまま戦闘に反映されるので、装備や状況が許す範囲で、文字通り好きなように戦えます。慣れてくれば、ゾンビを片手で掴んで頭を撃ち抜いたり、ナイフを投げて倒すといった“曲芸戦法”にトライしてみるのも良いでしょう。日本刀を片手にゾンビの首を連続で飛ばした時は、完全にミショーンの気分です。
なお、ウォーカーに掴まれた場合、一定時間内に振り解かなければ噛まれてしまい、残り体力に関わらず即死します。プレイする際はご注意を。
(物資はバックパックに入れて携行。収容スペースは有限で、持ち運ぶアイテムの取捨選択が重要に。)
物資のやりくりが生死を分ける
探索中に見つけた物資は、拠点のバスの物資箱に投入することで素材に分解され、装備の制作やアップグレードに使用できます。装備の強化および制作は、“近接武器”、銃、その他の3種類に大別されており、それぞれ必要な素材も別。製作可能なアイテムや上位のアップグレードは、素材の消費によって、各ワークベンチをレベルアップさせることで増加します。
ジュースやジャーキーなど食料品系の物資は拾った時点でも使用可能ですが、大半のものは発見時点では腐って(痛んで)います。そのまま摂取すると、空腹が回復する代償として体調が低下してしまいます。安全に空腹を満たすためには、拠点で調理を行わなくてはなりません。
(近接系のアップグレード(制作)リスト。黄色が制作武器、グレーがアップグレード、緑がユニーク制作アイテムという分類)
あくまで筆者がプレイした感覚ですが、武器弾薬や医薬品等の物資の配置は、かなりバランスよく行われていると感じました。「The Walking Dead: Saints & Sinners」では、一部を除きアイテムがランダムに配置されるのですが、これがいい意味で不確実性を生んでおり、リプレイ性が増しています。
物語中盤からは、各マップに不定期に物資クレートが配置されます。手持ちの物資が不足してきた場合にはこれらを回収する必要がありますが、本作は日数が経過するほど敵の数が増えるシステムになっており、一度突破したマップでも気は抜けません。
(リザーブの情報を報酬に、仕事を依頼してくるラジオの主”ハリー”。彼のクエストは“メイン筋”のひとつ。)
敵はウォーカーだけにあらず
ウォーカーと並んで主人公の脅威となるのが(原作と同じく)人間のグループです。ニューオリンズには先述の通り、「タワー」と「リクレイムド」という2大勢力が存在しており、多くのマップでウォーカーを含めた三つ巴戦を展開しています。
「タワー」は、“ママ”という人物が率いる高層ビル(タワー)に拠点を構える組織。いわゆる“体制側”にあたるグループですが、歯向かったり、組織にとって価値無しとみなした構成員を追放・処刑するなど、非常に冷酷な側面を有しています。「リクレイムド」はそのような「タワー」に反対していますが、カルト的な要素を持ち、また残虐な行動を行うなど、こちらも“良い集まり”ではありません。
そのような善と悪(そもそも存在するか怪しいですが)が曖昧な状況で、プレイヤーは立場を選んでいく必要があります。両者を見つけ次第、片っ端から殺害していくというプレイも可能ですが、多くの人員がウォーカーとは異なり銃火器で武装しているので、あまりオススメはできません。
なお、本作では「ウォーキング・デッド」の“死亡した人間がウォーカーとなって蘇る”という要素が忠実に再現されています。「タワー」や「リクレイムド」のメンバーが倒れると、一定時間後、ウォーカーとなって襲い掛かってきます。激戦区では、一度敵を全滅させたと思って気を抜くと、背後からイヤな声が――ということも。
(リクレイムドにタワーの一員を殺せと迫られる一幕。選択はプレイヤー次第。)
総評として
「The Walking Dead: Saints & Sinners」は、原作の雰囲気を余すことなく再現し、VRゲームとしても高い完成度を誇る傑作です。多くのVRゲームとは異なり、日本語対応字幕が実装されているのも嬉しいところ。筆者が見たところ、翻訳に漏れや少し怪しい部分はありましたが、ゲームプレイや物語の解釈に支障が出るレベルの誤訳は、まずありませんでした。
本作の移動システムは、基本的にスティック移動のみ。ワープ移動などは実装されていませんが、通常(歩き)の移動速度は遅めに設定されているので、VR酔いをする心配はあまりありません。ただゲームシステム上、首や身体を大きく動かしながら探索や戦闘を行うため、注意が必要です。
総ボリュームは10時間以上。「ウォーキング・デッド」ファンならば最高に、そうでなくてもかなりの満足度を味わえる本作。是非プレイしてほしい、オススメタイトルです。
ソフトウェア概要
タイトル名 |
The Walking Dead: Saints & Sinners |
開発元・パブリッシャー |
Skydance Interactive |
対応VRヘッドセット |
VALVE INDEX、Oculus Rift(Rift S)、HTC VIVE、Windows MRなど |
価格(通常版/税込) |
3,990円(Oculus Store)、4,100円(Steam) |
プレイ人数 |
1人(シングルプレイヤー) |
公式サイト |