2026年4月17日、東京にて株式会社jig.jpが主催する新製品発表会が開催された 。本イベントでは、福井県鯖江市に本拠を置く同社が新たに立ち上げたARグラスブランド「SABERA(サベラ)」の全貌が明らかになった。
ソフトウェア開発で知られるjig.jpが、なぜハードウェア、それもARグラス市場に参入したのか 。鯖江の老舗眼鏡メーカーである株式会社ボストンクラブ、そして世界屈指の光学技術を持つCellid株式会社との共同開発によって誕生した「SABERA スマート眼鏡」の戦略と、彼らが描く次世代の「見る体験」をレポートする。

(左から、株式会社jig.jp代表取締役社長CEO川股将氏、株式会社ボストンクラブ代表取締役小松原一身氏、Cellid株式会社CEO代表取締役白神賢氏)
「SABERA」誕生の背景と市場への挑戦
発表会の冒頭、jig.jp代表取締役社長CEOの川股将氏は、2003年の創業以来20年以上にわたるモバイル・インターネット領域での知見を活かし、次世代の情報デバイスとしてARグラスに注力する決意を語った。
川股氏は参入の背景として、国内で唯一の光学技術を持つCellidと昨年出会ったことがすべての始まりだったと明かした。そこからわずか1ヶ月後にはプロジェクトが立ち上がるという異例のスピード感で開発が進められたという。川股氏は、「このARグラスというデバイスの機能性や革新性に加え、Cellidが持つプラスチックレンズへの高度な技術による安全性を考慮した際、このデバイスが普及する可能性は極めて高いと判断した」という。
一方で、国内には一般消費者向けのARグラスを提供しているメーカーが未だに不在であるという現状がある。ソフトウェア開発企業であるjig.jpにとって、企画から開発、販売までを一気通貫で行う形での参入は極めて異例なことであるが、川股氏はあえてこの挑戦を決断した。
もちろんこれは同社単独では難しく、卓越した光学技術を持つCellid、鯖江を代表する眼鏡メーカーであり卓越したデザインノウハウを持つボストンクラブ、そしてjig.jpが培ってきたソフトウェア開発力という三者の強みを掛け合わせることで初めて実現に至ったものである。
このような駆け足での展開には、昨今の世界的なスマートグラス成長が背景にある。川股氏は「アメリカや中国を中心に徐々に広がりを見せているものの、未だ広く一般消費者にまで普及しているフェーズではない。主要なプレイヤーとしては中国のRokidやアメリカのMetaが勢いを拡大しており、今後はGoogleやAppleの参入も予測されている」と見取図をまとめたうえで、このタイミングでの挑戦が必要だと判断。
競合がひしめく中で、SABERAは日本企業3社の連合体制のもと、海外メーカーとは異なる確かな日本のクオリティ、技術力、デザイン、そして国内ならではのアフターサービスを武器に挑戦していく構えだ。
「ガジェット」を「日常の道具」に変える設計思想
SABERAの最大の特徴は、徹底して「普通の眼鏡」として日常に溶け込むことを追求した点にある。川股氏は本製品を「スマートグラス」ではなく「スマート眼鏡」と呼称する理由について、「単に最先端のガジェットというデバイスではなく、人によっては眼鏡の代わりになり得る、そんな可能性を示したいと考えたからだ」と述べた。コンセプトは「鯖江生まれのスマート眼鏡がビジネスや日常を静かに研ぎ澄ます」というものであり、日常生活の中でストレスを感じない掛け心地が目指されている。
ボストンクラブ代表取締役の小松原一身氏は、眼鏡専門家の視点から、ファッション化、かけ心地、度付き矯正という3つのこだわりを挙げた。
ファッション化に関しては「眼鏡はファッションアイテムであるため、男女どちらにも似合うウェリントン型を採用し、サイズ感やバランスを追求して違和感のないデザインに仕上げている」とコメント。
かけ心地については、約40gという重量かつフロントとテンプルの比重バランスを緻密に計算し、前にずれないよう自然に抱き込むような設計がなされているという。
最後に、「背面に度付き矯正レンズを挿入できる点」を最大のメリットとして挙げた。「眼鏡ユーザーが人口の半分以上を占める現状において、日常使いには度付きレンズへの対応が不可欠であり、レンズメーカーと共同開発した特殊なフラットレンズによって実用化に結びつけた」と小松原氏は語る。
また、鼻パッドの微調整など、専門的な知識と技術に基づくフィッティングが可能である点も、眼鏡産地のメーカーが関わるSABERAならではの強みである。
(「SABERA スマート眼鏡」を片手に解説する小松原氏)
株式会社ボストンクラブは2012年からオリジナルブランドを展開しており、以前からスマートグラス向けに部品の供給やチタンに関するノウハウの提供をおこなっていたという。特に鯖江はチタン材料の微細加工が非常に優れているほか、他にも溶接、表面処理に関して技術提供した経緯がある。これらの技術は、「SABERA スマート眼鏡」のフレームにもふんだんに使われている。
光学技術の面では、Cellid代表取締役の白神賢氏が、厚さわずか1ミリ台の透明なディスプレイである「ウェイブガイド」技術の重要性を説いた。
(ウェイブガイドについて語る白神氏)
このウェイブガイドの製造には、光学製品でありながら半導体レベルのナノ加工技術が必要とされる。自社エンジニアと外部パートナーで協力し、加工のための設備や装置、材料の選定をいちからおこなうことで加工技術を実現したという。光学材料や半導体技術が高いレベルで集積している日本だからこそ実現できた技術であり、これこそがSABERAの機能性と掛け心地を両立させる心臓部となっている。
国内市場の立ち上げと3年後の「10万台」へのロードマップ
今後の事業展開について、川股氏は「3年後に10万台の販売」という明確な目標を掲げた 。この目標を達成するためには、アーリーアダプターだけでなく、より多くの層に魅力を感じてもらう必要があると考えている。
販売戦略としては、2026年4月20日からのMakuakeでの先行予約販売を皮切りに、7月以降の順次発送を予定している 。定価は税込み9万2400円だが、Makuakeでは数量限定の早期割引プランも用意されている 。初期ロットとしては8500台の販売を予定しており、その後も半年フェーズで開発と販売を加速させていく計画だ。
販路については、初期はECが中心となるが、実店舗での体験や調整の重要性を考慮し、今年中には眼鏡店舗や家電量販店など、リアルなタッチポイントを構築していく意向である 。特に度付きレンズへの対応については、Makuake購入者向けにレンズ選定と納品の流れを構築するほか、将来的にはリアル店舗で直接対応できる体制を目指す。
コンシューマー市場のみならず、BtoB分野での展開も重視している 。すでに介護施設やメーカー、外国人向けサービス企業などから多数の問い合わせが寄せられており、現場作業の支援や遠隔コミュニケーションといった用途での活用が期待されている。さらに、将来的なグローバル展開も見据えており、まずは日本市場をテストベッドとして確かな品質とユーザーフィードバックを積み上げ、世界市場へ打って出る準備を進めている。
jig.jp川股氏は、ARグラスが普及することで「両手が空く時間」が増え、スマートフォンを開く回数が減っていく未来を予測している。すでに、Makuakeでの先行販売開始から8時間で4,500万円を突破しているとのと発表もあり、その滑り出しは好調のようだ。
いよいよ実機体験:見た目・機能は十分、ただし片目表示が気になるところ
記者会見後、実機を試用する機会を得た。「SABERA スマート眼鏡」のフレームはチタンにゴム塗装が施されたもので、形状も日常使いしやすいデザインとなっている。
公称重量は約40gと、競合機である「Even G2」の公称重量36g(編集部所有機は37.7g)より数値上重い。しかし、実際に装着してみるとその差はほとんど感じられなかった。筆者の感覚ではあるが、手に持った際、「SABERA スマート眼鏡」の方が重量バランスが優れているように感じた(両機を同時に比較はしていないので、今後あらためて検証したい)。
デモンストレーションでは、原稿表示、文字起こし、リアルタイム翻訳、ナビゲーション機能が試されたが、いずれも「Even G2」に引けを取らない印象を受けた。
また、ナビゲーション機能では上を向くことで広域地図を表示できるという。今回は通信環境の影響で体験できなかったが、実用化されれば非常に便利な機能となりそうだ。
一方で、ディスプレイが片目表示である点には慣れが必要だと感じた。使い続けることで慣れていくかどうか、今後試していきたいポイントである。
クラウドファンディング情報
| 製品名 | SABERA スマート眼鏡 |
| 販売価格 | 通常価格 SABERA スマート眼鏡+クリップオン式サングラス:99,990円 SABERA スマート眼鏡:92,400円超早割価格 SABERA スマート眼鏡+クリップオン式サングラス:70,990円 SABERA スマート眼鏡:64,990円早割価格 SABERA スマート眼鏡:66,990円Makuake限定割価格 SABERA スマート眼鏡:69,990円 |
| Makuake HP | https://www.makuake.com/project/sabera_smartglass/ |
| 販売期間 | 2026年4月20日(月)11時 ~ 6月29日(火)22時 |
最後に
「SABERA スマート眼鏡」は、Makuakeにて先行販売開始から8時間で応援購入総額が4,500万円突破しており、順調な滑り出しをみせている。
現時点での最大の競合は「Even G2」になると見られるが、「SABERA スマート眼鏡」は機能面、デザイン面ともに非常に肉薄している印象だ。今回の記者会見では、その「SABERA スマート眼鏡」に込められた日本の技術や開発者のこだわりを知る機会となったが、実際の使用感がどうなのかは重要なポイントである。編集部にて実機を入手した際には、バッテリー持続時間を含め、徹底的なレビューを行う予定だ。
参考
先方提供資料










