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魅惑の参加型ライブペイント アナログとデジタルの融合が“魔法”を生む

9月30日と10月1日の2日間、六本木アートナイトが開催されました。テレビ朝日本社前広場など六本木の街がアートに染まるこのイベント。メイン広場の裏手となるけやき坂沿いの小さな会場で、先の尖った三角帽を被り、真っ黒のマントを羽織った女性たちが受付をしているる怪しさ満点の展示がありました。

この展示は、『During The Night~よるのあいまに~』というライブパフォーマンスです。小さな2つの部屋を使って、参加者もパフォーマンスに参加する形で進行。公演は1日5回ほど、2日合計で10回行われました。

『During The Night~よるのあいまに~』はライブペインティングを銘打っていました。ライブペインティングとは、アーティストが目の前で絵を描いていくパフォーマンスのこと。『During The Night~よるのあいまに~』では、芸術家のチハラアキコ氏がその場で絵を描いていくのですが……その進行はおよそ演劇とも、脱出ゲームのような脱出ゲームとも言うべき、まさに魔法にかけられたかのような不思議なものでした。

ようこそ魔法使いの工房へ(世界観構築)

『During The Night~よるのあいまに~』に参加できたは、各回20名程度。後ほどわかったのですが、参加者1人1人に役割が与えられるため非常に少人数になっています。

受付では魔女に扮した女性から、受け取った名札に自分の名前を書き、“写真を撮影”されます。そして受付から室内に入ると非常に狭い部屋はすでに参加者でぎっしり埋まっています。入り口のそばにも魔女が机を並べており、ここで名札に書かれている魔法の道具を手渡しされます。

どの道具も手作り感はあるがそれっぽい雰囲気が漂う。様々なあやしげな道具が並ぶ

なお、この魔法の道具は参加者全員が何かしら手渡しされています。何に使うか検討もつかないまま、煙に巻かれた気分でいると……。緑の服を着た2人の魔女がドタドタと駆け込んできて、いよいよ物語が始まりました。


2人の魔女、カラー(奥)とインク(手前)。インク役が芸術家のチハラアキコ氏。

魔女たちによると、ここは大魔法使いマーリン(※)のお屋敷。2人が部屋を案内してくれることになります。マーリンは奇妙な見た目のモンスターを集めるのが趣味とのこと。確かに部屋には奇妙な動物たちの絵が壁の額縁に飾ってありました。

※マーリンはイギリスのアーサー王伝説に登場する大魔法使い。

そして本棚が横にずれて(!)隣の部屋に移動します。

そこはマーリンの工房ということで至る所に様々なものが置かれています。そして部屋の中心にあったのがマーリンがお気に入りの「御精霊の絵」。御精霊と呼ばれる見た目の生き物の絵が描かれています。

眺めて見て回りたいところですが、説明もそこそこに2人が「魔法を使ってみよう」と言い初め、みんなで声を揃えて物を浮かす呪文を唱えてみました。しかし、調子に乗りすぎて属性を司る精霊たちが行方不明になってしまい…部屋にあった仕掛けも色々止まったり、なくなってしまいました。

留守にしていたマーリンに見つかった魔女たちと参加者はマーリンによってモンスターの姿に変えられてしまいます。そして御精霊の絵を復元することになります。

ライブペインティングということを忘れてしまう謎解き

ここからは、逃げた精霊たちを探してマーリンの部屋を捜索します。そこで重要になるのが入り口で渡された魔法の道具。2人の魔女に導かれるまま部屋に隠されたさまざまな仕掛けや道具を駆使して精霊たちを探し出します。たとえば、部屋に隠されているメモを見つけ、ゴーグルのような眼鏡で観ると、その眼鏡を通してのみ紙に文字が浮かび上がって精霊をおびき寄せる手がかりが得られます。

また獣の手袋を持っている参加者は壁に空いた穴から別の空間にあるものを掴むことができるアイテムでした。壁の中にいる猫の機嫌をとるために猫の大好きな林檎を猫のいる絵に送り込むために、手袋を使って壁の穴から絵の中に手を突っ込み、りんごを取り、最後に猫のいる絵と繋がってる穴からりんごを渡すと猫が話し始めて、これまた手がかりを教えてくれました。

手がかりを辿っていくと精霊が出現し、カラーが精霊を捕まえると最後は筆で魔法陣を描き絵の具を取り戻します。

色を1つ取り戻すたびにインクが御精霊の絵を描いていくのですが……ここで「精霊の目はいくつあったほうがいい?」、「足は何本?」、「まつげは何色?」など参加者に訊いてその通りの絵を描いていきます。

最後は無事に精霊を集め終わり、マーリンも満足して人間の姿に戻してもらって終了となりました。公演時間40分ほど、最初は呆気にとられていた参加者たちも徐々に世界に引き込まれていき、精霊を集めきった達成感を感じるとともに、目の前にはインクであるチハラアキコ氏のライブペインティング「御精霊の絵」が完成していることに気付かされます。

本来目的すら忘れさせる没入装置とスパイスのような伏線の妙

冒頭に記したように『During The Night~よるのあいまに~』は、ライブペインティングと銘打ちながらも、様々なエンターテイメントの要素が混じり合ったパフォーマンスでした。
こうした要素をまとめていくと、その面白さの源泉は「デジタルとアナログの組み合わせによる世界観の実現」と「徹底的な参加」にあると感じられました。

アナログ×デジタルで魔法の世界を演出

まずは舞台の演出です。スタッフの魔女の衣装に始まり、魔法の道具や部屋の内装など魔法使いの部屋としての舞台が作られていましたが、それをさらに「非現実的な魔法の世界」足らしめていたのは、デジタルな演出でした。

たとえば以下のような仕掛けはテクノロジーを使い「魔法」を実現していました。

・腕輪をした手を置いたときだけ言葉を話すカボチャ
・絵の中で動き、会話するネコ
・絵の前で筆を構えて指定された形に振ると光の線が描かれる魔法陣
など

一方で、非常にアナログな仕掛けもありました。

・霧吹きで魔法の水をかけると文字が浮き上がる紙
・心臓などのアイテムを入れてかき混ぜると精霊の好きなドーナツが溢れ出してくる魔法の壷
など

1つ1つの仕掛けは単体だと「魔法」ではなく「技術」だと思ってしまうかもしれません。しかし、装飾品やアナログな仕掛けもあいまって、「この空間は魔法使いの工房で魔法の力が働いている」という舞台では個別の仕掛けが文脈に沿って「魔法」として溶け込んでいきます。デジタルとアナログの組み合わせ、そして舞台が物語に参加者を没入させていました。

参加者を巻き込んでいき「絵」を作る

もう1つの面白さは参加者を巻き込んでいく展開です。道具は1人1つ。どの参加者も精霊を取り戻す取組に貢献します。まるで脱出ゲーム的な面白さがありますが、「参加」の意味合いは謎解きにだけに留まりません。

精霊を取り戻すとどうなるのかというと、インクの絵を描くための絵の具が復活し、彼女の絵が完成に近づいていきます。つまり、みんなで謎を解くという連帯感、そして物語に自分が参加しているという当事者意識、さらにアーティストの創作に自身も関わるという3重の意味で「参加」することになります。

さらに気の利いた演出が最後に参加者を待っています。参加者は物語の中でも、マーリンの家に忍び込んだ人間として扱われますが、魔女2人のいたずらに関わったためモンスターにされてしまいます。さすがに技術の力をもってしても実際には見た目は変わりません。いや、変わらないように見えます。「わしのコレクションに加えてやろう」という言葉とともに、その様子を使い魔のフクロウが撮影し、マーリンに報告をします。

この一見何だか分からない一連のやりとりは、終演後にどういうことか分かることになります。マーリンの工房を出ると、壁にかかっている額縁には参加者の名前と姿が印刷されて置いてあります。これがまさにフクロウが写真を撮ったときのものという設定。細かいことにモンスターたちの着ている服は受付で写真を撮ったときに衣服のデータを取得していたのか、自分たちとおなじ服を着て、おなじ魔法の道具を持っています。受付には同じデザインの持ち帰り用のポストカードも用意されているというおみやげ付き。公演中の40分の間に印刷をしてしまった手際の良さにも思わず唸ってしまいました。

ディズニーランドのようなエンターテイメントに

『During The Night~よるのあいまに~』は、ライブペインティングを軸に謎解き、魔法のファンタジーな世界観、参加型アトラクション要素などを組み合わせたエンターテイメント体験でした。

きらびやかさなどはありませんが、一定の世界観に参加者が浸り、その中で体験型のエンターテイメントを体験できる、というのはディズニーランドなどで味わえる楽しさにも通じるものがあるかもしれません。

『During The Night~よるのあいまに~』を制作・公演したのは6人組のクリエイティブユニットのCALAR.ink(カラードットインク)です。まさに彼の謳う「リアルとバーチャルをシームレスに横断し、アートとテクノロジーを融合した世界で観客を巻込みながら一つの物語を完成させていくライブペインティングショー」を体現した本作。もともとは、茨城県北芸術祭2016に出展した「Achromatic World – いろのないせかい-」のシステムをバージョンアップし、仕組みを一新させたとのこと。彼らが今後どのような物語を紡ぐのか期待したいところです。

この記事を書いた人

すんくぼ(久保田 瞬)

慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、環境省に入省。環境白書の作成等に携わる。ECベンチャー勤務を経て、現Mogura VR編集長、株式会社Mogura代表取締役社長。VRジャーナリスト。
VRが人の知覚する現実を認識を進化させ、社会を変えていく無限の可能性を感じ、身も心も捧げている。VR/AR業界の情報集約、コンサルティングが専門。また、国外の主要イベントには必ず足を運んで取材を行っているほか、国内外の業界の中心に身を置きネットワーク構築を行っている。

Twitter:@tyranusii

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