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話題 2022.11.10

ナンジャモの配信や、コレクレーの発見――「ポケモンSV」は現実とゆるやかに“接続”する

11月18日(金)に発売される、ポケットモンスターシリーズ最新作「ポケットモンスター スカーレット・バイオレット」では、新ポケモン発表の際、これまでのシリーズでは見られなかった興味深いプロモーションを展開しています。

キャラクターによる配信や、リアリティのある記録映像、実写の人物も登場するウェビナーに、「ポケモンGO」を舞台にしたサプライズなど、種類は様々。しかし、「現実と地続きになっているように見せる」という共通項を見出すことができます。

以下では、これまで「スカーレット・バイオレット」が展開してきた、新ポケモンをめぐるプロモーションについて取り上げていきます。

ファンも急増 YouTubeを舞台にしたナンジャモの配信

10月12日(水)、「スカーレット・バイオレット」初登場のキャラ・ナンジャモが登場する動画が、ポケモン公式YouTubeチャンネルにて公開されました。

ナンジャモは、「スカーレット・バイオレット」の舞台となるパルデア地方のジムリーダー。でんきタイプのジムリーダーにして、人気動画配信者・インフルエンサーとしても活動しているという設定です。そんなナンジャモが動画配信を行うという設定で公開されたのが、上掲の動画です。

動画内では、ナンジャモの相棒ポケモンを当てるクイズが出題。既存ポケモンにあまり合致しない特徴から、「スカーレット・バイオレット」新規登場ポケモンと推測されていました。そして10月14日(金)に公開された2本目の動画にて、ナンジャモの相棒ポケモンである、新ポケモンのハラバリーが発表されました。

「キャラクターによる配信」という異例の展開に加え、ナンジャモ本人のキャラクター性の強さ、映像クオリティの高さから、2本の動画は再生数を大きく伸ばしています。また、ナンジャモ本人にも人気が出たのか、イラスト投稿サイト「pixiv」でもナンジャモのイラストが多く投稿され、本記事執筆時点では1500以上の投稿作品に「ナンジャモ」のタグが設定されているとのことです(「ピクシブ百科事典」参照)。

なお、「キャラクターによる配信」という体裁をとる動画コンテンツは、近年数を増やしつつあります。直近では、人気マンガ・アニメ「ONE PIECE」劇場版作品「ONE PIECE FILM RED」のヒロイン・ウタが配信を行う動画コンテンツが、映画公開まで連続で投稿されるプロモーションが展開されていました。

ポケモン世界の住人の「記録」を、動画としてみる

ハラバリー以外にも、「スカーレット・バイオレット」初登場のポケモンを紹介する動画がいくつか公開されています。

一つは、どくざるポケモン・タギングル。指から出る毒液を用いて模様を描くことで、縄張りを主張するという生態を持つポケモンです。

タギングルの紹介映像は、「とある写真家が森の中に設置したカメラで撮影された映像」という体裁をとっています。現実の自然動物番組のように、きのみを食べ、模様を描くタギングルの姿が描かれています。

もう一つは、おばけいぬポケモン・ボチ。地中にろうそくのような頭部の一部を出して潜み、いっしょに遊ぶ人間の生気を無意識に奪うという生態を持つポケモンです。

ボチの紹介映像は、「スカーレット・バイオレット」に登場する学園・オレンジアカデミーの生徒が撮影した映像という体裁をとっています。さながら現実のYouTubeのように、実況しながらゴーストタイプのポケモンがよく現れる場所を撮影する、一人称視点の動画になっているのが大きな特徴です。

タギングルとボチの紹介映像は、「ポケモンの世界に住む人が撮影・記録した動画」というフォーマットで共通しています。いわば「フィクションの記録映像」であり、世界中のユーザーの記録映像が投稿されるYouTubeというプラットフォームによく合致したコンテンツと言えるでしょう。

現実の人間も共演? 参加型コンテンツ「世界ポケモン生態学会」

ディグダのようで、ディグダではない。第1作目から登場するディグダによく似た完全な別種・ウミディグダは、情報解禁時に大きな話題となりました。

ウミディグダの存在が明かされたのは「世界ポケモン生態学会」の特別講演。これはオンラインで開催されたウェビナー……のように見せているWebコンテンツです。「スカーレット・バイオレット」の登場人物・ジニアの助手が、ジニアの代理でパルデア地方のポケモンの生態を伝えていきます。

特筆すべきは、画面上部に表示される「各国の博士」たち。言語・人種は様々ですが、なにより実写なのが大きな特徴です。コロナ禍で一般的となったウェビナーというフォーマットを利用し、ポケモン世界にいるフィクションの存在と、参加するユーザーを含めた現実の存在が混在する構図となっています。

こうしてポケモンの世界と現実の世界が地続きになった場所に「参加」し、最新情報を得ることができる仕掛けは、一種の没入体験とも言えるでしょう。

コレクレーといっしょにコインを探す旅へ

11月5日(土)から11月6日(日)にかけて、新ポケモン・コレクレーをめぐるプロモーションが展開されました。舞台となったのは「ポケモンGO」。11月5日(土)の夜に、予告なくプレイヤーの周囲にコレクレーが出現。さらに謎の特設サイト「箱」も公開され、多くの人々の注目を集めました。

軸となったのは、「ポケモンGO」にて金色のポケストップから出現する謎のコイン。一定確率で出現する「??????コイン」は、現時点では使い道がありません。一方、「箱」では一定時間経った後、宝箱の中にコインが入る画像が表示されていました。さらに、意味深なカウンターも左上に表示されていました。

憶測ですが、「ポケモンGO」にて世界中のプレイヤーが取得したコインの枚数と、「箱」に表示されていた数値は、連動していたのかもしれません。コレクレーは、人間などを操り、コインを自分の潜む宝箱へ集めさせる生態の持ち主。そこから、今回のプロモーションが、「箱の中身を知るために、自らの足でコインを集める『ポケモンGO』プレイヤー」という構図を作り出すものだった……と見立てることもできます。

同時に、コレクレーに関する情報は、ウィロー博士とジニアの調査により正体や生態が明らかになった一方、その”発見”は「世界中のポケモントレーナー」の協力あってこそ、というメッセージも発信されています。「新ポケモンがあなたの努力によって見つかった」という演出は、好印象とともに、プレイヤーをポケモンの世界へ巻き取る引力になるはずです。

現実とフィクションが交錯する仕掛け

「スカーレット・バイオレット」をめぐる一連の(主に新ポケモンを発表する)プロモーションは、「ゲームのプロモーション」を、YouTube投稿動画やウェビナーといった、インターネットメディアの形式に落とし込んでいる点で共通しています。コレクレーをめぐる展開も、公式からの通知はほとんど行われず、その存在は半ば「インターネット上に流れる目撃証言」として最初は広まりました。

これまでも、ポケモンは新作発売に際して新規ポケモンの情報を、発売前に公開することでプレイヤーの注目を引き付けていました。しかし、多くは「公式発表」という形を採用した、スタンダードなプロモーションであることがほとんどでした。

これに対し、ナンジャモの配信や、タギングルやボチの記録映像は「YouTubeの投稿動画・配信」という形を、「世界ポケモン生態学会」の特別講演は「Web会議ツールで行うセミナー」という形をとり、「現実で起きたできごと」のように演出しているのが大きな特徴です。そしてコレクレーであれば、「ポケモンGO」に突如現れたコレクレーそのものが、一つの大きな「現実の事件」でした。

フィクションの出来事が、私たちのいる現実の中に混ざり込み、私たちの目に触れる。「現実と地続きの出来事」かのように見せることで、「スカーレット・バイオレット」のプロモーションは強く目を引くものとなっています。

こうした、現実と仮想が交差するような仕掛け方は、代替現実ゲームにて見られます。直近で有名な事例としては、不可逆性SNSミステリー「Project:;COLD」が挙げられます。TwitterやYouTubeなどに散りばめられた謎を集めて、事件の解明に挑むという本コンテンツは、リアルタイムで進行していく点も合わせ、各所で大きな注目を集めました。

また、2018年には「フォートナイト」にて、ゲーム内のハンバーガーの看板が突如消失し、それと全く同じ物体がカリフォルニア州の砂漠で発見されるという出来事が起きました。ゲームから現実へ”飛ばされてきた”ハンバーガーの看板は大きな話題となったことから、ゲームのプロモーションとしては非常に効果的であることがうかがえます。

「スカーレット・バイオレット」のプロモーションは、上記の例ほど極端な「現実への侵食」ではないものの、現実とのゆるやかな”接続”によって、確実に注目を集めています。ポケモンや登場人物を、「どこかにいるかもしれない存在」として登場させる手法は、「その姿でどこかにいる」という余地を宿す存在でもあるVTuberが広まった現在、特に効果的なプロモーションと言えそうです。

余談ですが、ナンジャモはその容姿や配信内の演出から、「VTuberではないのか?」という推測が一部存在していました。その後のゲーム内映像から、あの容姿のまま作中世界に存在していることが判明したので、アバターである可能性は低いと見られます。しかし、「VTuberではないのか?」という推測が立ったほど、ナンジャモが「どこかにいるかもしれないバーチャルな存在」として認識された、とも考えられそうです。

そんな興味深いプロモーションを展開した「スカーレット・バイオレット」が、シリーズ初のオープンワールドを採用し、かつマルチプレイに対応したことで、現実世界のように誰かと旅をし、世界に没入でき得るつくりになっているのは、偶然ではないかもしれません。「ポケットモンスター スカーレット・バイオレット」は、11月18日(金)発売です。

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