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イベント情報 2015.10.05

後塵を拝した日本は追いつけるのか。Oculus Connect 2で示されたVRの未来への道【後編】

9月23~25日に開催されたOculus Connect 2の振り返り企画。前編中編に続き後編です。

開発者会議Oculus Connect 2は、「VRを通じてゲーム、エンタメ、人と人のつながりを変える」ことをミッションとするOculusがその姿勢を明確に打ち出し、大きな一歩を踏み出したイベントとなりました。

VRを信じるOculus、Facebook、そして1500名超の参加者

24日に行われた基調講演の最初に登壇したFacebookのCEOマーク・ザッカーバーグ氏は、VRを「新たなプラットフォームだ」と述べ、今後長期的に取り組んでいくことを改めて表明しました。Facebookは2014年にOculusを20億ドルで買収しています。また、OculusのCTOジョン・カーマック氏は、「VRのコンテンツの半分以上はゲーム以外の分野になるだろう」と述べゲーム以外の分野について言及しました。

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Oculus Connect 2の参加者は、公式発表によると全世界から集まった1,500名以上の開発者たちでした。その中にはもちろん多くのゲーム開発者がいましたが、360度撮影の専門会社やVR内のSNSを提供する会社などVRを様々な分野で活用している開発者が参加していました。

大きな発表が相次いだ基調講演はなみなみならぬ盛り上がりとなりました。また、会場内の廊下や椅子のある場所では至る所で開発者同士が熱を込めて話しており、目を輝かせながら語り合っていました。

彼らの多くは、VRの可能性を信じており、自分たちがその中でどのように関わっていくかを既に決めて、起業などに踏み切っています。語弊を恐れずにいえば、あの会場には「VRが失敗することを疑う」参加者はどこにもおらず、これまで誰も成し得なかったどんな新しい、面白いことができるか、その期待で誰もがワクワクしている、そういう空気に満ちていました

VRゲームで後塵を拝している日本

筆者は、Oculus Connect 2の様子を見ながら、前週に開催された東京ゲームショウ(TGS)で展示されていた日本のゲームメーカー製のVRコンテンツを思い出していました。ソフトウェアに関して、製品版が発売される直前の現時点の段階で、既に日本で作られているVRコンテンツはノウハウが蓄積できておらず、1年程度遅れていると感じられるものが多くあります。

海外では既にRift、Gear VR向けに正式に配信されるコンテンツはゲームを中心に既に多く登場しており、その数は急激に増え続けています。そしてその多くは大手ゲームメーカーではなく、インディ規模の開発チームが制作しています。もちろん、あまり面白くないイマイチなコンテンツも少なからずあることは確かですが、その次回作では見違えるほど面白くなっていたりとユーザーからのフィードバックも得ながら着実にノウハウを蓄積しつつあります。

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インディ規模の開発チームが多いという話を考えると、かつてスマートフォンが登場したときのことが思い出されます。プレステなどのコンシューマーゲームを作っていたゲームメーカーではなく、『アングリーバード』のRovio Entertainmentなどのように新たな発想でスマホ向けのゲームを作った小さな開発会社が世界的なヒット作品を生み出し一躍主役になったことは記憶に新しいのではないでしょうか。海外では、VRゲームでも同じようなことになりそうな様相を呈しています。

そして、海外では既に視覚と聴覚のVRを活かした作品は多く作られており、知見が溜まっています。

例えば、既存のゲーム対応は既にあまり行われていません。Oculus Rift DK1、DK2の初期、2013年から2014年中頃までは、FPSなど人気のPCゲーム既存作品をVRに移植しようとする流れがありました。ゲームの世界観に入ることができるというVRの特性を活かそうとしたものです。しかし、一部のゲームを除き、世界観以前に、「酔いが取れない」、「操作性に難がある」、「作りこみの甘い部分が見えてしまう」といったゲームとして楽しめない根本的な問題にぶつかりました。

VRで世界観を楽しむだけでなく、ゲーム自体もこれまでのように楽しむためには、それなりのコストをかけて一からVR用にゲームを設計し直す必要があります

2014年に発売されたPCゲーム「Alien:Isolation」(日本では2015年発売)では、VRモードが実装される予定でしたが、いざ販売された製品版ではVRモードに切り替えられませんでした。とある方法でロックを解除し開発時のVRモードを体験することができるので筆者も試してみましたが、10秒と経たずに酔ってしまいました。

また、同じく2014年に発売され評価の高いアドベンチャーゲーム「Vanishing of Ethan Carter」も非常に美しい風景描写と謎解きが話題になり、発売後にVRモードを望む声が上がりました。開発元のThe Astronautsは、VRモードの実装をあきらめることを明らかにし、VR版として設計し直すことを最近のインタビューで明らかにしています。Oculus Connect2では、Riftのローンチタイトルとして発表されました。なおThe Astronautsはインディ開発チームです。

対して日本の状況はどうでしょうか。『サマーレッスン』に取り組んでいるバンダイナムコエンターテイメントやRift向けのタイトルを既に開発しているコロプラの2社を除き、ようやくVRコンテンツの制作を始めた日本のゲームメーカーの多くは、今からその後追いをしているように見えます。海外では視覚・聴覚に加えOculus Touchを活用した、プレイヤーの手を使うゲームの開発がやはりインディを中心に始まっており、さらに先を進んでいます。ノウハウの面で後塵を拝している日本のVRゲームがその差を縮めることができるか注目したいところです。

PlayStation VR向け技術デモ『サマーレッスン』(バンダイナムコエンターテイメント)
https://www.youtube.com/watch?v=hj9CMbyJ6q0

Rift向け『Fly to Kuma』(コロプラ)
https://www.youtube.com/watch?v=v5cFBfBoyC4

TGSでは、特にPlayStation VRで、既存タイトルをVRで体験できるコンテンツがいくつか展示されていました。世界に通用するゲームを送り出している日本のゲームメーカーは、魅力的な世界観を持つタイトルを数多く有しています。その強みを活かすためにVR版として最適な再設計をすることが重要となっています。課題を乗り越えた有名タイトルのVR版が完成すれば、そのタイトルを知る誰もがやりたくなるような確実に魅力的なものになることは間違いないでしょう。

蓄積した知見を活かせないミスマッチ

もう一つ、日本の状況として、ノウハウを持っている開発者の多くが、実際にストアで販売されるソフトの開発など本格的な開発に携わっていないという懸念があります。

日本全体で見たときにVRコンテンツの制作ノウハウが蓄積していない訳ではありません。日本では大手がVRに注目する以前から、VRの可能性に魅せられた個人開発者や中小の制作会社によるVRコンテンツの開発が盛んでコミュニティも活発です。Ocufesという開発者が自分の作品を展示するイベントは2013年末から開催されています。また、エキスポなど様々なイベントで展示されているVRコンテンツにも玉石混交ありますが、しっかりとしたノウハウの元、制作されているものも多くあります。

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既に2年以上こうしたVRコンテンツの開発を行っているような開発者の多くは、現在RiftやGear VR向けに正式に販売するコンテンツを作っているわけではありません。彼らのノウハウが今後どのような形で発揮されていくかにも注目したいところです。

前編:快適にVRを体験できるプロダクトを完成させたOculus。Oculus Connect 2で示されたVRの未来への道【前編】
中編:手、人間関係。Oculusは新たな次元のVRへ。Oculus Connect 2で示されたVRの未来への道【中編】


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