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VTuber 2019.10.06

【にじさんじ・葛葉】「甘噛の狂犬」葛葉の魂の言葉とやんちゃな魅力

9月20日(金)、京まふ前夜祭で行われた「ド葛本社」のイベント「ド葛本社のドタバタ家族旅行」が、現場も配信も大盛況の内に終わった。

ド葛本社は、ドーラ(母役)、葛葉(弟役)、本間ひまわり(姉役)、社築(父役)で構成された、疑似家族ユニット。元々はなんの関連もないメンバーが集った、いわば茶番。しかし、4人は息がぴったりあっていた。コラボを重ねるにつれ、VTuberでは珍しい“自然体な家族”というスタイルが育まれ、今回の大規模イベントにつながった。

葛葉は100歳以上の吸血鬼なのに「末の弟」の役回り。それがあまりにもはまり役だった。ちょっとマイペースでけだるそう。けれど中見は熱血漢で、感受性が強く表現豊か。おちゃらけがちな姉(本間ひまわり)にきちんと意見して、両親(ドーラ・社築)に対してたまにわがままに振る舞う。演技だけではない“素”の部分が配役にも作用し、彼の魅力がどんどん高まった。

家から出るのがいやでずっとゲームに没頭する、お金持ちに養われたい吸血鬼の葛葉。ついた二つ名が「甘噛の狂犬」。マイペースな配信スタイルと、幅広い語彙力からくるトークの面白さ、弟的存在かつお兄ちゃん的役柄など、多様な彼の魅力を紹介しよう。

個人からにじさんじへ

葛葉は2018年3月8日にVtuberデビューし、個人で活動していたところを、いちから株式会社にスカウトされ、にじさんじに所属したという珍しい経歴のバーチャルライバーだ。個人活動をしていた時期は、イキリ強めな語気がウリだった。当時のアーカイブは本人のチャンネルに残されている。

https://www.youtube.com/watch?v=Lpx7W_2QTf8

ブタさんと呼ばれる協力者と共に活動を続け、そのままのスタイルで、2018年7月30日に旧「にじさんじゲーマーズ」に参加。アバターだけ新規作成された。その前後あたりから、ブタさんの助言もあり、いい意味で尖った部分が調節されたようだ。本人が言うには、責任に対する覚悟を持つため加入まで時間を取ったらしい。

といっても何もかも丸くなったわけではない。刺激的な会話力は生かしつつ、イキリスタイルにブレーキをかけた結果、彼本来のやんちゃさと情熱が表に出てきたようだ。

卓越した語彙力と言語センス

にじさんじ所属後、葛葉は才能をもりもり開花させた。そのひとつが語彙力の高さと、言葉の使い方のユニークさだ。

つい使いたくなるようなパワーワードを次々生み出している。有名なのは「天才了解ジーニアス」「意味わかランナウェイ」など。語感がよいので、他のライバーも使用している。

イントネーションも特徴。「やってんねえ!」は「てんねえ」部分に強いアクセントが入ることでインパクトが出て、一時期にじさんじライバーのみならずVTuber界隈で流行語になった。

今でもよく使われるのは「ありがとうございまーす!」の語。文章だとわかりづらいが、「ざい」部分にアクセントが入ることで、単純な単語なのにやたら耳に残るように。本間ひまわりを始め、今も多くのライバーが真似している。

彼のこのナチュラルな言語感覚は、そのままラップ技術にあらわれた。語感の心地よさはライムに、イントネーションはフロウにつながる。2019年5月の剣持刀也とのラップバトル企画で、彼の言葉に多くの人が驚いた。

周囲が触れなかった、かなりきつめな葛葉の過去をつつく剣持刀也のdis。それを受け止めつつ、芯のある態度で返す。自分なりの等身大の解答を切り出し、聴いていてハッとさせられる言葉を刺す。剣持刀也が取ってきたマウントに、彼はこう言い放った。

「いままでやってきた 虎視眈々と 気づいたその言葉 欲しかったんだと」
「夢見せられることがたまらない あんたもそうだろエンターテイナー 戦い 語らい 無駄じゃない そして最後に2人で高笑い」

彼の言葉は一度聞いたら忘れられないくらい、鋭く牙を剥くことがある。しかしそれは人を傷つけるものではない。ライバーとして、エンターテイナーとして、人を楽しませるものだ。

曖昧な感情に真っ向から向き合う

概念の言語化がうまいのも彼の特徴。難しい言葉は使わない。誰もが理解できる言葉の組み合わせで、フィーリングをきちんと言葉にしていくのに長けている。

特にナイーブな話題を見ると、彼の言葉選びの巧みさがわかる。例えば、下記の動画の2時間33分10秒あたり、にじさんじライバーの名伽尾アズマが引退したときのトークを聴いてみよう。

今でも「引退」の問題に対して、VTuberファンはものすごく敏感だ。明日急にやめるかもしれないと考えたら、気が気じゃないだろう。そこに対して彼は、ライバー側からの冷静な意見を述べている。

「悲しいことに、っていうのは薄情だよな。仲間ってだけで悲しくならなきゃいけないって思っている自分がいるけど、正直なところ思い出が足りない」
「関わりがないのに悲しんでいいものかっていうところ。お前そんな絡んでねえだろって見え方と、悲しんでいいものかっていうのと」
「俺は2年は辞めない。意外と短けぇけど長いよ2年は。短けぇけど、漠然と引退しそうっていう恐怖感を拭うための2年」
「短いかお前ら。人間にとっての2年って長くない? 本当に長い? とはいいつつ簡単に風化するのが人間でしょ?」

視聴者に配慮しつつ、自分は吸血鬼であり、視聴者は人間、という一定の距離で仕切り直すことで、これまでの言動に説得力を出している。名伽尾アズマ引退で傷心している人には言いづらい部分を「思い出が足りない」と、フラットに感情を表現し、飲み込みやすくしている。

Twitterであげていた視聴者のマナーについての声明も、かなり印象的だ。

マナーを守ってこうあるべき、ではなくて「俺」を絶対軸に置いている。自分を推すのであれば他人を傷つけるな、という精神がシンプルにマナー基準として伝わる文章だ。それでいて横暴な吸血鬼らしさもちゃんと出た、エンタメ要素もある。

吸血鬼というキャラクター性を活かし、彼は自らと周囲をしっかり俯瞰して考えながら、自らの思想を自然に語る。

激しく強い感情、素を見せる姿

冷静な面を見せる一方で感情豊かで、情熱的な姿を見せてくれるのも魅力だ。ゲーマーなだけあって、勝負にはものすごくこだわる負けず嫌い。フェアプレイをしつつ、常に本気。

彼は驚きや喜びを全力で表現するから見ていて気持ちがいい。自分が負けても、相手のプレイがうまかったら「すげー!」「かっけー!」と咄嗟に喝采の声をあげる。しばしば「ゲームが上手い人をリスペクトしている」と語っており、反射的に出てくるそれらの感嘆の叫びに、それが見て取れる。

「Project Winter」という人狼のようなゲームに葛葉が参戦した動画。1時間36分40秒くらいで、ハッカーの黛灰と対峙し、戦うことに。その際黛灰がミラクルプレイを起こしたことで、葛葉は即死してしまう。

ここで彼は間髪いれず「かっけーーー!」「誰かに教えてぇ!」と絶叫。少年のように彼の声はキラキラしている。策略にはめられた怒りは全くない。

「マインクラフト」でライバーが建てた建築物を見ては、「すげえ!」とはしゃぐ姿も注目だ。率直に喜び感動する姿は、見ていて心地よく、共感もしやすい。

彼は「主人公」という語にこだわっていた。「PUBG VTuber最強王決定戦」に出た際の、上の動画の3時間39分45秒のやりとりの中にある「叶、俺主人公になれたかな」の語は、葛葉を象徴する発言として有名。彼のゲームへの向き合い方が一発でわかる、エモーショナルな表現だ。

人に対しての激励も、彼の姿勢は一貫している。卯月コウが「ライブ王決定戦」に出たとき、応援としてこんな発言を26分あたりからしている。

「この勝負で初めて1番を獲ってこそ最上級極上のエモが完成するわけだから、この戦いに勝ってほしい。主人公になってほしい」

葛葉はコラボの際、率先してみんなの前に出るタイプではない。けれども言葉ひとつひとつが感情を大量に含んでいるため、いつも存在感がある。

弟として、兄として、相棒として

ド葛本社では、元気な姉役の本間ひまわりと一緒に騒ぎながらも、彼女にブレーキをかける弟役として立ち回る葛葉。以降、弟的イメージがすっかり定着した。

次第に彼は、年下の子に対してのお兄ちゃん的存在にも変化していく。ルーザーキングス(ルザキン)という、卯月コウ魔界ノりりむとの3人ユニットがある。卯月コウは永遠の中学生的存在。魔界ノりりむは永遠の少女的なサキュバスの子ども。2人のわちゃわちゃを取りまとめざるをえなく、ゲームを卯月コウに教える先生役も兼ねることで、すっかり面倒見のいいお兄ちゃんになっていった。

また、桜凛月とのくずンボというユニットも見逃せない。対人コミュニケーション技術の成長自体がエンタメになっている。マインクラフトが得意な桜凛月に作業の助けをお願いした(1時間41分30秒ごろから。ライバーとのコラボを自分から誘ったのは初)のだが、ふたりのやりとりが極端にぎこちない。男女だからと炎上を恐れて距離を置いているというのもあるし、そもそも葛葉があまり自主的に人と接するタイプではないのも大きい。それが一対一となれば、言葉もつまる。

「スッー……いい天気ですね」と唐突に振る話題フリ(通称・会話の「天気デッキ」)は配信を見ているファンもハラハラ。全編にわたってギクシャクし続けている。

葛葉のファンは、「火畜」と呼ばれる、いわば下僕の立場(ロールプレイ的に)で配信を楽しむ。だがこのくずンボに対しては、保護者的な感覚になった人が多数見受けられた。

小学生男女のようなやりとりは、葛葉と桜凛月の素朴な魅力にブーストをかけた。それぞれコラボ後に、自分の配信でコミュニケーションの反省会を開いているのがまた、見ていて応援したい欲求をかきたてられる。

(6分から42分)

コミュニケーションや立ち回りの失敗を「プレミ(プレイミス)」と彼は呼んでいる。会話に集中しすぎて一言一句処理しようとして、プレミをしてしまったという自己分析をすること自体が、配信の面白さになっている。

今はくずンボの特異な距離感が人気となり、にじさんじベストパートナーでは「視聴者が思う理想的なペア」で1位を獲得している。葛葉が「何を見たんすかね……」と発言するほど、2人とも全然ピンときていないのも面白い。

とのコンビChroNoiRは、葛葉の活動にとって重要なユニットのひとつ。叶とはにじさんじに入る前(入るのは決まっていたが準備期間だった)からの友人で、デビューしてからも、他のメンバーを交えつつ、かなりの頻度でコラボをしている。以前はOPENRECで「ChroNoiR.TV」という番組も行っていた。

叶はかなりしっかり頭を使って企画などを考えて準備するスタイルで、プロレス的エンタメを仕掛けるのも大好き。一方、葛葉は1度やり始めたらエンジンを蒸して一気にやりこなす能力があり、ネタに対してのリアクションも大きい。2人の組み合わせ相性は抜群だ。

オフでも仲がよいようで、一緒にカラオケに行ったりしているらしい。その際の配信では、叶が葛葉の歌を褒めると、照れる様子も見られる。

かっこよくてセクシーな、甘噛の狂犬

葛葉の鋭いビジュアルとハスキーボイスは、多くのファンを魅了した。引きこもり吸血鬼の外見、外に出たくないインドア生活感、魔界での正装の耽美性などが、彼の存在に物語性を持たせている。

15万人突破の際にアップされた歌唱動画は、「甘噛の狂犬」の狂犬部分がフルに生かされたMVになってる。セクシーながらも自然体に聞こえるのは、彼ならではの歌い方だ。

なのに、タイトルは「【】歌ってみた 疑心暗鬼 葛葉 にじさん【】」となってしまった。
これは「両端に【】【】←こういうのをよく付けますね! 」という加賀美ハヤトのアドバイスをそのまま受け取り、かっこに文字を入れなかったゆえのミス。このウルトラC級の「プレミ」はファンの間で話題になり、自分のTwitterの名前に「【】」をつけるのが流行中。あと「じ」がなぜか抜けたままなのもおちゃめ。

葛葉の歌唱動画で欠かせないのが「ヤンキーボーイ・ヤンキーガール」。にじさんじのメンバーから6人抜擢、ヤンキーの1人を演じている。

葛葉の「触れたらヤバそう」なビジュアルと歌声は見事。こういう役回りを担えるのも、彼ならではの立ち位置だ。

男性VTuberのトップランナーの一人として活躍を続ける葛葉。やんちゃさ、危うさ、かわいらしさ、かっこよさが共存している人間性は、とても貴重。これを成立できているのは、感受性の強い部分と、しっかり考えて信念を持って言葉にする強さ、自分の立ち回りの調整力の、バランスが取れているからだ。

惜しげもなく感情を言葉で叩きつけてくると思いきや、慎重に会話デッキをかかえて悩む姿もある。その両側面を知れば知るほど、葛葉の配信を最後まで見てしまう中毒性へとつながっていく。

参考:Kuzuha official HP
執筆:たまごまご


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