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VR体験施設 2025.05.31

五感を通じた豊かな視聴体験に向けて。NHKが予測する未来が垣間見えた「技研公開2025」レポート

日本で唯一の放送技術分野を専門とする研究機関、NHK放送技術研究所(技研)が例年最新の研究成果を一般に公開する「技研公開」が、今年も「技研公開2025」として5月29日(木)~ 6月1日(日)に世田谷区砧のNHK技術研究所で開催中です(入場無料)。

展示内容は、放送を形作る技術、つまり撮影・編集など映像制作の分野から、その放送、視聴についてまでと包括的で、かつ実用段階のものから中長期的な未来を見据えて開発中の技術についてまでと幅広いです。

専門性の高い展示もありますが、体験型コンテンツに関してはどれも直感的に理解できるもので、放送関係者やその専門家でなくとも、一般視聴者の立場から十分に興味を持って体感できる内容でした。

全体を周って印象的だった点としては、今年の技研公開にあたっては「実物感・没入感あふれる新時代のメディア体験」というキーワードが掲げられていた中であっても、体験者にVRヘッドセットを被せるタイプのオーソドックスなVRコンテンツの展示は非常に少なかったことです。

広い視野(約180度)を見渡せるスクリーン、ARグラス、VRヘッドセットなしで立体視ができる3Dディスプレーなどの体験機が積極的に採用されていました。そんな中でVRヘッドセットを使用されているコンテンツに関しても、音の指向性などに関する新しい技術に着目している内容の物がほとんど。VRは未来の技術というよりも今や未来の技術を作るに当たっての前提の技術になっているということが感じられました。

全体を通してNHKが予測する未来が存分に体感できた技研公開2025でしたが、その中でも特に筆者が印象に残った展示をご紹介します。

触覚・香りディスプレー


(来場者向けデモンストレーションの様子)

「香りや温度を感じられるディスプレー」と聞いて、正直体験する前は「それを体験するとどういう気持ちになるのか」があまり想像がつかなかったのですが、実際に体験してみると字面で「香りや温度を感じられるディスプレー」という説明を読んだ時の印象以上に、とても面白いものでした。


(体験コーナーで撮影したリモコン)

上記のリモコンは、3Dモニター上のカーソルを動かすことができたりなど、リモコンの動きと映像コンテンツが連動しています(その使用感・操作感としてはWiiリモコンに近いです)。そのうえで画面の中のストーリーとも連動しており、画面内のキャラクターからかき氷を渡されたらリモコンが冷たくなり、そこにイチゴのシロップをかけたらイチゴの香りがし、熱いお茶を渡されたら熱くなる……というような形で機能するリモコンでした。

ここだけを聞くと、もしかしたら「リモコンがその機能を持つことに一体何の意味が……?」と思われる人もいるかもしれないですが、その体験は例えるなら、4DX映画の視聴体験が手のひらサイズで家庭用にコンパクトに収まったもの……と表現するのが近く、もしくは「振動以外の体感装置が搭載されたゲームコントローラー」と表現するのも近いように感じます。

ゲーマー、あるいはVRユーザーのみなさんには、「VR内・ゲーム内世界とコントローラ連動が””振動””以外の形で広がったら?」というところから考えると、このリモコンの持つ効果についてよりイメージしやすいかもしれません。
ゲーム内で、びっくりするようなシーンでコントローラが振動するとより驚いたり、戦闘シーンでプレイアブルキャラクターの被ダメージに合わせてコントローラが震えると、キャラクターの受けた衝撃がまるで自分の身に起きたことのように感じられたりなど、コントローラの震えだけでこれだけ「ゲーム内の出来事と自分自身が繋がっているという感覚」を増幅させられることはプレイヤーの誰もが知るところだと思います。「そこにさらに冷感・温感・香りの機能が足されたら、もっとゲーム内の体験がリアルなものとして感じられるのではないか」という風に考えていくと、このリモコンがもたらす恩恵について想像しやすくなるのではないでしょうか。

また上記の理由、そしてユーザーがこのリモコンを持った状態を保つための動機付けという観点から、単純な映像視聴よりもゲーム性やインタラクティブ性があるコンテンツやVRコンテンツとの相性がとても良さそうだとも感じました。

言葉だけではなかなか理解しづらいこの「触覚・香りディスプレー」の魅力や可能性を短時間かつ明快に伝えられる、この体験展示用のデモンストレーションコンテンツも良くできていました。



(デモンストレーション用コンテンツ体験時のモニターおよび周辺機材の様子。写真で撮ると映像がブレてしまいますが、肉眼では立体的で綺麗なアニメーション映像が見えています)

NHK放送技術研究所の研究員であるポップなバーチャルキャラクター「砧ラボ」と一緒にレトロな商店街をおでかけするという内容で、わくわく感がありつつも、しっかり「触覚・香りディスプレー」の機能一つ一つをコンテンツを通じてわかりやすく楽しくこちらに伝えてくれていました。そしてインタラクティブ性は備えつつも、こちらからの入力内容に物語の進行を依存せず、体験者が終始受け身の状態でもしっかり最後まで楽しむことができます。

リモコンの操作に不慣れでも既定の時間できちんと全ての機能を体感しつつコンテンツを誰でも最後まで楽しめるようになっているので、一般人向けイベント内のデモンストレーション展示としてかなり洗練されているコンテンツだと感じました。そこは例年技研公開を行って展示慣れをしているNHK技研ならではの強みが現れていた部分ではないでしょうか。

ニュース速報の手話CG生成技術

ニュース速報のテキストを、手話翻訳AIを通じて手話に翻訳し、その内容を基に手話CGアニメーションを自動生成する技術の展示は、公共放送を行う機関たるNHKならではの取組みです。人型のアバターが手話と同期して口の動きによってもニュース速報の内容を伝えます。

一つの情報を様々な伝達手法や五感を通じて行うことを目指す研究は、健常者だけに限らず全ての人にとっての恩恵のあるものであるということを改めて端的に感じられる展示でした。

画素数30Kのカメラで撮影した超高精細な360度映像を、画素数15K相当のプロジェクターで半球スクリーンに投影する設備・技術


(画素数30K水平360度映像撮影用カメラの実機展示)

(NHK技研PDF資料より)

こちらは高精細な撮影が可能なカメラ6台を組み合わせることで「画素数30K水平360度映像撮影が可能な一台のカメラとして機能させる」というとんでもないカメラでした。

そのカメラで撮影した映像を視聴できる「画素数15K対応のプロジェクターを用いた半球表示装置」がこちらです。

(NHK技研PDF資料より)



(筆者が実際にプロジェクターの前で撮影した写真2枚。体験中の実際の視界と近いです。)

ただ、このプロジェクターは事前の筆者の期待が大きかった分もあってか、実際に体験してみると「意外とこんな感じなのか……」という印象に落ち着いてしまいました。
もちろん家のテレビで見るよりは臨場感がありますが、プラネタリウムほどの迫力には及ばず、さらに顔の向きやコントローラ操作等による視点に関したインタラクティブ性がない分、VRヘッドセットを被っての視聴体験と比べてもやや物足りなさを感じてしまう印象です。

しかもこの装置はディスプレイではなく、あくまでも「プロジェクターによる映像をスクリーンへの投影する」というものなので、ディスプレイでの鑑賞と比べるとどうしても色合いが薄くなってしまい、画素数30Kのカメラで撮影したことの恩恵が十分に受けられていないと感じてしまいました。

ただ、画素数15Kや30Kで180度~360度の体験が可能なモニターやVRヘッドセットについては現時点で筆者には心当たりがないため、画素数30Kのカメラで撮影された360度映像を、そのクオリティを保持したまま気軽な形で視聴するには、視聴用デバイスの方が進化するまでもう少し時間が必要かもしれません。

また、このプロジェクターとスクリーン自体も単純な映像視聴用デバイスとしてだけでなく、何かしらのインタラクティブ要素、もしくはアトラクション要素などが足されていくとガラッと印象が変わっていきそうな予感もあります。

なお地下の別展示コーナーではスクリーンではなく「湾曲型4K有機ELディスプレー16枚で構成された16面湾曲ディスプレー」による同一の映像展示があり、こちらはディスプレー同士の繋ぎ目がかなり目立ってはいるものの、撮影映像の画質の良さや彩度についてはより体感しやすいものになっていました。


せっかくの高画質な360度映像をなんとかなるべく元のクオリティを保ったまま一番良い形で視聴できないか……ということについての模索が続いていることが両展示から感じられます。

自由な曲面を可能にするディフォーマブルディスプレー

「自由な曲面を可能にするディフォーマブルディスプレー」と聞くとなんだか難しそうですが、こちらはまず下記の画像で実際の展示内容を見てみるのが一番理解しやすいと思います。


(ディフォーマブルディスプレーによって平面&曲面に表示されている映像)


(液体金属による伸縮配線によってその形状を検知することができ、ディスプレー形状に応じた映像表示が可能です)

(液体金属による配線には伸縮性があるため、ディスプレーを引っ張たりゆるめたりしても映像表示が可能です)

(技研公開2025特設サイトに掲載されている用途イメージ)

曲面にも映像表示が可能ということで、ディスプレーの高精細化・高画質化が進めば様々な場所での多様な形の映像鑑賞が可能になりそうな他、ウェアラブルデバイスやファッショングッズ等との相性も良さそうな技術で、今後の展開に期待が持てます。2030年までの実用化を目指しているとのことです。

ボリュメトリック音声制作技術


この「ボリュメトリック音声制作技術」を説明するために、まずこれまでにNHK技研が開発してきた「ボリュメトリックキャプチャー技術」について説明します。こちらは生身の人間を上記のようなスタジオを用いてさまざまな角度から撮影し、被写体の画像データから3Dモデルを生成し、360度のバーチャル空間に3Dモデルとして配置し、映像コンテンツやVRコンテンツを制作できるという技術です。

(技研公開2025特設サイトより)


(撮影したボリュメトリック映像を用いて制作されたコンテンツ「できるかな2030」)

VTuberやVRSNSに明るい方であれば、「生身の人間そのままの姿の3Dバーチャルアバターを用いて、3D空間上でバーチャルライブ映像を制作できるような技術」と表現するとピンと来やすいかもしれません。生身の人間の姿や表情、動きを3Dバーチャルアバター的に取り扱える技術で、このボリュメトリック映像自体も初期からかなり高品質化が進み、映像として自然に視聴できるものになってきつつあります。

(技研公開2024特設サイトより)

今回のこちらの展示で紹介されていた「ボリュメトリック音声制作技術」は、この「ボリュメトリック映像」を用いてコンテンツを制作した際、そこにさらに音の指向性や距離による減衰などを付与できるように、映像・音声の収録時点で収音できるようにする技術です。


(ボリュメトリック映像・音声制作技術を用いて制作されたコンテンツ)

このボリュメトリック映像・音声コンテンツは2D映像コンテンツとして視聴しても、カメラの位置で聞こえ方が変わる面白さはもちろん体感できるのですが、最もその真価を発揮するのはやはりVRヘッドセット+ヘッドフォンを用いてのVRコンテンツとして味わった時だと感じました。

「フォトリアルな空間の中で自分が任意の方向に顔を向けると聴こえ方が変わる!」「声がする方を向くとそこに生身の人間がいる!」という体験は新鮮でした。

発話者との距離に応じた音の減衰やその指向性というもの自体はVRSNS等では馴染みのあるものですが、空間や発話者がフォトリアルなものになるとまたかなり新しいものとして感じられました。

会場の見学・体験を終えて

今でさえ映像制作の分野では、実写映像作品でCGを用いるのは当たり前になり、アニメーションや3DCG映像作品で、生身の人間の動きや表情をキャプチャーして利用することもよくある事例になってきています。「それが実写コンテンツか、3DCGコンテンツなのか?」の垣根は日に日に低くなってきていますが、今後より一層その流れが加速していくだろうという予感に満ち溢れていました。

そして現実世界で撮影したものも3DCG空間で撮影したものも、コンテンツ制作用の素材としてはほぼ同列に扱われるようになるであろうことは、もはや未来予想ではなく現在進行形でそうなりつつある。今回の技研公開2025でその流れを見て取ることができました。

さらにネットとテレビ放送を横断しつつ、メディアとして信頼性のある情報を「あらゆる人それぞれに最もそぐう形で提供できるように」模索し、従来的な2Dの映像視聴にとらわれない、五感を通じた豊かな体験へという方向性が展示全体から感じられました。

これまでも衛星放送やハイビジョン、8Kなどで新しい放送メディアの創造をリードしてきたNHK技研ですが、今回展示されていた研究が今後どのように実用化し、一般に波及していくのかが楽しみになる「技研公開2025」でした。

技研公開公式サイトはこちら:https://www.nhk.or.jp/strl/open2025/index.html


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