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Meta Quest 2024.09.26

【レビュー】「Meta Quest 3S」をさっそく体験 5万円切りの新たなVR/MRヘッドセットは買いか?

日本時間9月26日、Metaは新たな一体型VR/MRヘッドセット「Meta Quest 3S」を発表した。2019年の初代Oculus Questから数えるとQuestシリーズとしては、5台目となる。Meta Quest 3Sは、2023年に発売されたMeta Quest 3の廉価版として、かなり早い時期から登場が噂されており、まさにその位置づけで発表された。発売は10月15日。予約が公式サイト、家電量販店等で開始されている。

Meta Quest 3Sの米国での価格は299ドル。2020年に発売され、2,000万台以上を売り上げたと言われているMeta Quest 2が発売されたときの価格と同じだ。日本での価格は、当時から為替レートが大きく変動しているため、税込48,400円からとQuest 2と同じ価格というわけにはいかないが、直近で発売されるどの類似デバイスよりも安く、唯一税込で5万円を下回っている。

Meta Quest 3Sが発表されたMetaの年次開発者会議Meta Connect 2024の会場で、記者は発表に先駆けてさっそくこの新デバイスを体験することができた。本記事では、30分ほどの体験を経てのファーストインプレッションをお送りしよう。

Meta Quest 3Sの見た目は…少しチープで大きい

まずは外見について。もともと数ヶ月前からリークしていたように、ヘッドセットの前面に現実空間や手を認識するためのカメラ等が3基ずつ、それが左右に2セット、まるで三つ葉のように設置されている。なお、この3基の内訳は、以下のとおりだ。

・RGBカメラ:カラーのパススルーによりMR体験を実現するため
・VGAカメラ:空間構造や手、コントローラーなど現実を認識するため
・フラッドLEDライト:様々な環境下で照射し、手の動きなどを正確に認識するため

3本線が入っていたQuest 3の前面と比べてみると、正面から見たときの印象は明らかに異なっている。Apple Vision Proでもガラス張りかつ体験者の顔が表示される「リバースパススルー」という技術が採用されたが、いずれにせよ「ヘッドセットを装着している人がどう見えるか、そして声をかけて自然なコミュニケーションがとれるのか」というのはVR/MRヘッドセットの大きな課題だ。


(左がMeta Quest 3、右がMeta Quest 3S なお本記事ではMeta Quest 3Sのフェイスストラップは同梱品ではなく、灰色のメッシュストラップに換装されていた。また、メガネをかけているため眼鏡用のスペーサーも使われていたため異なることに留意いただきたい)

Quest 3Sは3よりもより「人の目に近い」印象を受ける。「攻殻機動隊」に登場するタチコマのセンサー群のような、3つのカメラが集合体となって1つの目になっているような印象だ。

そして中心には電源のON/OFFを示すライトが搭載されている。Meta Quest 2/3ではいずれも側面に搭載れていたものだ。

現実を認識するためのカメラは他にも搭載されている。側面下部には下方向のトラッキングを実現するために左右1つずつVGAカメラが搭載されている。

左側には、カメラに加えて電源ボタンと充電等に使うUSB-Type Cコネクターが存在している。

右側にはカメラのみだ。Meta Quest 3には左側のUSBコネクタの位置にあったイヤホンジャックがMeta Quest 3Sでは付属していない。


(左がMeta Quest 3、右がMeta Quest 3S)

Meta Questシリーズは、もともと側面のバンドを固定する付近にスピーカーが内蔵されており、基本的にはそれを使う。イヤホンは特に周囲の音を遮蔽したいときに使うというものだった。使用頻度は低く、廉価版という立ち位置のMeta Quest 3Sには不要との割り切りだろう。

底面にはコントローラーなどが繋がらなかったときのアクションボタンと音量ボタン、マイク穴がある。

個人差の大きいIPD(瞳孔間距離)調整に関しては、レンズを手で動かすという大雑把な調整になっている。Meta Quest 3では底部にあるダイヤル式の調整機構があり、IPDをジャストフィットさせることができたがMeta Quest 2の方式に戻ったと言える。

そして並べてみて気になるのは本体部の厚みだ。


(左がMeta Quest 3、右がMeta Quest 3S)

Meta Quest 3と比べると底面をパッと見た感じでは本体部分(フェイスストラップを除いた部分)にだいぶ厚みがある。接眼部を除き、対Quest 2比ではMeta Quest 3Sは20%薄く、Meta Quest 3は30%薄くなったというスペック値に比べると、Quest 3がだいぶ薄く、Quest 3Sがだいぶ分厚く見える。最も分厚い箇所の設計にも依るのだろうが、そもそも採用しているレンズが異なるため、フレネルレンズを採用しているMeta Quest 3Sではどうしても厚くなってしまう。Meta Quest 3にはパンケーキレンズと呼ばれるレンズが採用されているため、薄くすることに成功している。

外見については最後に質感について触れておこう。同じ白ではあるが、Meta Quest 3とMeta Quest 3Sでは白の色味が異なっている。また、ヘッドセット前面の丸みもMeta Quest 3のほうが丸みがあり高級感がある。Meta Quest 3Sにはややチープさを感じたのが正直な感想だ。

Meta Quest 3Sの装着感はMeta Quest 2

では、Meta Quest 3Sを装着してみよう。重さは514gとMeta Quest 3の515gとほぼ同じだ。装着方式も、製品に同梱されているのはゴム製のヘッドバンドを使って装着する方式で全く同じ。

ヘッドセット本体の厚みがあることもあり、デバイスの存在感はMeta Quest 2と同じ印象を受けたが、重さがほぼ変わらないことから、いわゆる「デバイスをつけている感覚」はMeta Quest 3ともあまり変わらないといったところ。

コントローラーはMeta Quest 3のものと全く同じだ。Meta Quest 2のコントローラーと比べると軽量で、トラッキング用のリングがなくなり、周囲の物に当たるリスクも少なくなっている。

Meta Quest 3Sの体験の質は?

実際にホーム画面や各種VRゲーム、映像視聴(YouTubeVRなど)、ソーシャルVRを一通り体験してみて、VR体験時の見え方に関してはMeta Quest 2と同質であるように感じた。解像度(1832×1920×2)と視野角(水平96度、垂直90度)、そしてレンズにはフレネルレンズを採用と、見た目に関するスペックがMeta Quest 2と全く同じというスペックを裏付ける体感だ。

一方のMeta Quest 3は、解像度が2064×2208とQuest 2/3Sよりもトータルで20%解像度が高い。そして視野角も水平110度、垂直96度と一段広い。そしてフレネルレンズではなく、パンケーキレンズが採用されている。これらをまとめると、結果的にMeta Quest 3のほうがクリアにシャープに見え、Meta Quest 3の体験の方が見え方という点では上質だ。文字がはっきりと見えるなど、用途によっては大きな違いとなる可能性がある。

なお、Quest 2との比較でいうといわゆるパフォーマンス(処理能力)に影響するプロセッサとメモリはMeta Quest 3と同じもの(Snapdragon XR2 Gen2、メモリ8GB)が搭載されている。MRのためのビデオパススルーにその処理能力の多くを割くことになっているとはいえ、Meta Quest 2ではデバイスの解像度を活かしたグラフィック表現ができなかったコンテンツでも、Meta Quest 3Sではもしかしたら2よりグラフィッククオリティの高い表現ができるかもしれない。今後、事実関係を確認したいところだ。


(左がMeta Quest 3では非球面のパンケーキレンズでクリア。一方、右のMeta Quest 3Sのフレネルレンズは特徴的な縞も見える。)

コントローラーは上述の通り、Meta Quest 3と同じものなので、重さもあまり感じず、またトラッキングの違和感や範囲の狭さを感じることもなかった。

そういう意味では、体験時に気になったのはヘッドセットを被ったまま現実世界を見れるフルカラーのビデオパススルーのクオリティだ。白黒で解像度も低く明らかに発展途上だったMeta Quest 2のパススルーとは段違いに性能が上がっており、Meta Quest 3のMRモードとほとんど同じ感覚で体験ができる。一方で、30分ほどの体験中に挙動がやや不安定な印象を受けた。MRモードでYouTubeVRの再生を行っていたときに、パススルー部分にごく小さく黄色く明滅するムラが複数出ていた。ブラウザとアプリの同時起動が可能となっていたこともあり、いわゆる“処理落ち”だった可能性もあるが、カメラの配置などが変わったことで同じスペックでもまだチューニングが必要なのかも知れない。

Metaは発売後に高頻度のOSアップデートを繰り返して不具合や性能向上を行ってきた。Meta Quest 2も3も発売時と今では別物のデバイスになっていると言っても過言ではない。Meta Quest 3Sのビデオパススルーも今後改善に期待したい。

結局、Meta Quest 3Sは買いなのか?

さて、ここまでMeta Quest 3Sのファーストインプレッションをお届けした。長時間使用時の装着感や発熱、PC接続時の体験など、さらに詳細なレビューは別途お届けするが、ここまでの筆者の結論をお伝えしよう。

色々と他のデバイスとの違いも書いたが、2024年9月末時点においてMeta Quest 3SはVRもMRも総じて体験の質は悪くない。スペック比較の通り、Meta Quest 2とMeta Quest 3のちょうど中間に位置するデバイスだ。そもそもMeta Quest 3を知らなければ「これでも十分、体験できる」と思ってしまうくらいであり、価格面を考えてもまさにエントリー向けのVR/MRヘッドセットの新定番となることは間違いない。

その総評を踏まえて、本記事を読んでいただいている方々の状況別に、現時点の筆者の見解を書いて本記事を締めたいと思う。

まずは、まだVR/MRヘッドセットを持っていない方々に向けて。Meta Quest 2が終売する中、Meta Quest 3Sは唯一5万円を切ったVR/MRヘッドセットとなる。エントリーモデルとしての性能は十分であり、コンテンツストアも豊富だ。VRゲームに加えて、VRChatやRoblox、clusterなどのソーシャルVRも体験できる。安心しておすすめできる1台目のVR/MRヘッドセットとなる。家族の分と合わせて2台買っても10万円を超えない。

しかし、もし予算にある程度余裕があるのであれば、Meta Quest 3はここまで書いてきたように様々な点でMeta Quest 3Sを上回り、上質なVR/MR体験ができる。ぜひ店頭等で体験して比較してみることをおすすめする。iPhoneのモデルでは近年、無印シリーズとProシリーズのラインナップで、Proはカメラ等によりこだわりたいユーザー向けになっている。このiPhoneのシリーズの関係とQuest 3S/3の関係は異なる。3Sはあくまでも通常モデルに対する廉価版であり、3がPro相当ではない。日進月歩のVR/MRヘッドセットにおいては、より上位モデルのほうが体験の質が異なることはiPhoneと異なるので注意が必要だ。

続いて既存のVRヘッドセットユーザーに向けて。Meta Quest 3ユーザーは買い換える理由は存在しないように感じた。購入する動機があるとしたら、一緒にVRを体験したい人にオススメしたりプレゼントしやすいモデルが登場したくらいだろうか。

一方で、Meta Quest 2ユーザーにとっては、買い替えの選択肢になりうる。とはいえ、見え方の部分が変わらないことで、VR体験がメインであれば体験の質が向上するかは怪しい。一方で、MRに関する機能は飛躍的に改善するので、「周囲が見える状態で体験したい」「MR対応コンテンツを体験してみたい」というニーズにはしっかりと応えることになる。

その他のVRヘッドセットユーザーも同様だ。Meta Quest 3Sは新型とはいえ、Quest 3を超えるものではない。その上で、購入を検討してみてほしい。

Mogura VRでは、Meta Quest 3Sの情報のほか、Meta Connect現地からの情報をお送りする。


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