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『L.A.ノワール:VR事件簿』レビュー VRで体感することで改めて浮かび上がる弱点

『L.Aノワール:VR事件簿』はタイトルの通り、オリジナル版の持つ戦後のロサンゼルスで起きる事件現場の空気をVRで身を持って体験できます。ですがVRによる没入感に注力したことで、オリジナル版の欠点もまた、あらためて感じさせてしまう出来になっています。

そもそものオリジナル版はサードパーソン(三人称視点)のオープンワールドであり、街の全景を感じさせるマクロな視点に注力しています。ですが、VR=一人称視点のビデオゲームは全景よりも、自分の状況がどんなものか、この場所に何があったかを感じさせることを重視したミクロな視点に注力したものになっています。つまり、オリジナル版と真逆の方向性になっているわけです。

同作のパブリッシャーであるRockstar Gamesは近年、マクロの体験としてのオープンワールドだけではなく、ミクロとしての体験にも注力している印象があります。2015年にPS4で発売された『Grand Theft Auto V』(グランド・セフト・オートV、以下『GTAV』)ではFPSモードを搭載しています。単に一人称視点にするだけではなく、移動やエイム操作を本格的にデザインするだけではなく、より作品世界の中に没入できるように細かなテクスチャーを新たに書き加え、現実の視界に近づくよう被写界深度の調整などが行われました。

事件現場の、非現実的で乾いた空気感

通常のゲームプレイとVRを比較するのは違うかもしれませんが、『GTAV』のFPSモードが没入感を高める配慮と比べると、『L.Aノワール』は一人称視点で見た場合ディテールの甘さが少々目立ちます。VRではプレイヤー自身が動き、よりダイレクトに細かい人々の顔から部屋の中の小物などを注視することができたり、空間の質感を感じることができるだけに、本作は没入するだけの空間のクオリティが足りていないのです。

またプレイアビリティを良くする仕様が、没入感を削いでしまっているのも気にかかります。例えばVRで広大な空間を移動させる手間を省くために、ワープ移動のシステムが採用されている作品は少なくないのですが、本作の場合ワープ移動をすると、なんとプレイヤー自身をすり抜けて主人公フェルプスが指定した位置まで飛び出していくのです。

より原作の推していたゲームデザインとその欠点が際立つ形に

より相手の表情や身振りから、相手の心情を探り出す臨場感は増しています。

とはいえオリジナル版の特徴である、証人を尋問する際の「相手の表情を見ながら嘘を見つける」ゲームプレイは、VRになったことでより当初から想定されていたであろう「プレイヤーが本当に尋問する」という空気感を再現することには成功しています。ここはVRならではの、プレイヤーが主人公として、その状況を強く演じるシチュエーションです。

ところが、それゆえにオリジナル版の問題もより強く浮かび上がってしまっています。そう、相手が嘘をついているかどうか「証人を信じる」「それは嘘だと言う」「証拠を出して反証する」の3択で返答する問題がより際立ってしまっている。

3択の表示。首振りや手ぶりを交えて会話したかったところなのですが…

それらの選択肢こそVRならではの身振り手振りから表現したかったのですが、上の画面のように文字で表示されてしまいます。そして軽く疑う気持ちで「嘘だという」と選択すると、いきなりフェルプスが嵐のように激高して追い詰めるという、感覚のズレは原作以上なのです。また、証拠を突き付けるというのも相手の感情は関係なく、事件を論理的にをまとめ直すことですから、やはり表情を読み解くゲームプレイの活きなさをより感じてしまいます。

捜査に失敗し上司から怒られる嫌な感じは本物です。『VR蓮舫』に匹敵します。

VRとして試せる要素が凝縮された作品でもある『L.Aノワール』

今作は一方でRockstar GamesがVRで何ができるか、オープンワールドでVRは可能かのテスト的な側面もあるのではないでしょうか。なにしろ『L.Aノワール』は事件の捜査や尋問を行うだけではありません。銃撃戦や車の運転、さらにはボクシングだってゲームに含まれているのです。それらはいずれも「VRの特徴を生かせるゲーム的なアクション」です。ロックスターがVRで何ができるかを試すのに、本作はうってつけのタイトルでもあるのです。


実はドライブしたりボクシングしたりのVRに生かしやすい題材が一通り揃った『L.Aノワール』。ボクシングはスウェーバックやダッキングでかわしたり、ガードの間を縫ってボディーフックを入れられるなど細かい。

しかし、『L.Aノワール』に限っては体験を絞るべきだったのではないでしょうか。VRの大きな特徴はプレイヤーが主人公を演じる感覚を得られることです。オリジナル版を振り返ると、本当のところはミッションクリアのために努力したり、ゲーム的な体験というよりも、舞台や空気感、不気味な殺人事件を体験することに注力していたと思います。

あらためて『L.Aノワール』というタイトルを総括すると、サードパーソンでのオープンワールドアクションの世界最大の制作会社であるRockstar Gamesで、RPGやADVのようなダイアログシステムに近い尋問モードのような、ブランドと逆の方向性にチャレンジしてきたタイトルだと言えます。いまVRの時代からさらにもう一度、可能性を掘り下げているといえます。本作こそ作品世界への没入は完璧とはいえませんが、将来的にRockstar Gamesが優れたVRのアプローチをするためのベースになるのかもしれません。

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この記事を書いた人

葛西 祝(かさい はじめ)

葛西 祝(かさい はじめ)(@EAbase887
blog「game scope size」を中心に格闘技・アニメーションと3つのブログを運営。現在、各種ゲームメディアでライターとしても活動。

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