VTuberカルチャーに全く明るくない人でもVTuberの始祖としての「キズナアイ」の名前だけは知っている。彼女が言わずと知れたそんな存在になってからもうずいぶん久しい。
2016年に活動を開始し、バーチャルYouTuberとしての活動を重ね、2022年に無期限活動休止。3年間のスリープ期間を経て2025年2月26日より活動を再開した。
今回2025年9月20日から21日にかけてZepp Shinjuku (TOKYO)にて開催されたKizunaAI Comeback Concert『Homecoming』2daysは、今年の活動再開と共に、音楽に主軸を置いた活動を行くことを表明した後、初めて行われる有観客リアル会場でのワンマンライブという位置づけになる。
スリープから目覚めて見た目や活動方針が変わったKizunaAIの初リアルワンマンライブがどのような内容になるのかは、ファン内外を問わず誰にとっても未知数だった。
Day1: “hello, again”
Day1は配信で鑑賞した。1曲目「かもね」が始まると共に彼女が登場してまず驚いたのは、彼女の表情の豊かさと細やかさだ。そして衣装の素材感のリアルさと身体の動きの繊細さ。衣装と身体の動きだけを見ていたら、リアルの人間の配信ライブを視聴している錯覚に陥りそうなほどだった。
さらに印象に残ったのは、良い意味で投影モニターに全く存在感がなく、そして客席とKizunaAIの距離が極限に近かったことだ。生演奏を伴わない公演のため、生身の人間が登壇したり楽器を設置したりするための余白をステージ上に設ける必要なくステージ空間を使うことができる。その結果、ステージサイズに対してかなり大きいモニターを客席に近く配置でき、モニターの存在感を消しつつKizunaAIと客席を限りなく近づけることができたという構図のようだ。
配信映像では、3DCG空間上での撮影映像と現地での撮影映像がリアルタイムにシームレスに切り替わりながら構成されており、かつ現実のステージ照明と3DCG空間の照明が調和していて全く違和感なく視聴できた。少なくとも配信画面上では、現実のステージ照明と3DCG空間内の照明の見分けがほとんどつかなかった。
2曲目「ホワイトバランス」からの最初のMCで「はいどうもー!KizunaAIです!みんな、ただいま~~!」と明るく喋り出す彼女は、姿や着てるものが新しくなっても気さくな「アイちゃん」そのままだった。
MCの後もアルバム「Homecoming」から「おまじない」「STYLE」を披露。特にSTYLEは、活動休止前まで固定のアイコン的な衣装を身にまとっていたKizunaAIが今のようなファッションスタイルを獲得するに至るまでどんな心の動きがあったのか? といった過程を、女の子が自分が着る服を選ぶ時の不安と高揚が同居するドキドキ感のようなものになぞらえた楽曲だ。ライブ映えする曲でもある。
「アイちゃんかわいいよ~!」というファン達からの声援には「は~い!可愛いアイちゃんで~す!!」とちょっとおどけて答えるKizunaAI。ステージ演出だけでなく、彼女のキャラクターやお喋りによって客席とKizunaAIの距離がぐっと近づくところが魅力的だった。
現地客席からの撮影タイムでは、衣装が360度見えるようにその場でゆっくり回ったり、ポーズを取ったりするKizunaAI。ヒューマンメイドであるがゆえに未完成で不完全なことそのものを美しいと歌う賛歌「ヒューマンメイド」、そして続く「AIAIAI」が始まった途端、半ばどよめきに近い歓声が起こる。ここまでは全て活動復帰後にリリースされた最新アルバム「Homecoming」からの楽曲だったが、活動休止前の楽曲を披露したのはこの「AIAIAI」が初めてだったからだ。
そして「着替えて来るね~!」と会場に声をかけて退場した後、本ライブのキービジュアルに描かれていた真っ赤なドレスをまとって戻ってきた。いつも髪を下ろしているKizunaAIがアップスタイルで後ろ髪や前髪を上げているところに、さらに大人っぽい可愛さと美しさが宿る。そんな彼女が大きな愛や未来に対する想いを込めた「まざる」と「mirai(Homecoming ver.)」を歌う姿は本当にただ神々しいとしか言い表しようがなかった。
誕生から今日に至るまで様々な紆余曲折を経てきたKizunaAIにしか歌えない壮大な愛と未来だ。また、赤いドレスのフリルは光に透けると生地の質感が見えたり、本人の手が触れると自然に跳ねたり風にたなびいたり、本物の布や洋服のような質感であったりと、衣装に対する強いこだわりを改めてここで感じた。

(会場ロビーで展示されていたリアルの赤いドレスは100万円で現物が販売、特になぜ赤いドレスをリアルでも制作したのかについての説明はなかったが、モデリングや実装時の参考資料として制作されたのではないかと推察している)
そしてDAY1のゲストとのトークタイム。にじさんじからは剣持刀也 、月ノ美兎 、 葉加瀬冬雪が、今回グッズのイラストを一部担当したイラストレーターでもあるVTuberのなつめえりがゲストとして招かれていた。登場スタイルとしては、KizunaAIが3Dでそのままステージに登壇しているのに対して、ゲスト達は皆モニター越しにビデオ通話するような形での2Dでの出演だった。ゲストは一人ずつ登壇し、活動休止前のKizunaAIとの接点や思い出について語りつつ、そのゲストならではのKizunaAI4択クイズをそれぞれ一題ずつ出題して会場を盛り上げた。
まるでKizunaAIの活動休止前まで時間が巻き戻ったような空間だった。普段は先輩側に立つことが多いであろう面々に対しても圧倒的先輩感でフランクに接することができるところもKizunaAIならではだ。
ちょっとした映像・通信トラブルも全く慌てることなく楽しく繋いで、アウェイな環境であるゲストたちをもホームに巻き込んで、ぐっと客席とゲストの距離を近づけられるKizunaAIの気さくさと親しみやすさ。全く3年のブランクを感じさせなかった。
ゲストがいるからこそ感じられるKizunaAIの人柄と、KizunaAIの過去に思いを馳せつつゲスト達と旧交を温める様を見られる、まさに同窓会的な楽しさのある時間だった。
「ハンドサイン」「Go Round(feat. Daoko)」の歌唱後は、本編最後のMC。「次が最後の曲になります!」に対して「え~!」「今来たばっかり~!」と声を上げる客席に対して「え、ほんっとに私も(気持ち的には)今来たばっかりすぎて引いてる。笑 あっという間だね。」と答えながら本編最後の楽曲「Hello, Morning(Homecoming ver.)」へ。
KizunaAIが初めてリリースした、ファンにとっても思い出深い楽曲が、Homecoming ver.としてアレンジされていた。長いスリープ期間を経てもう一度「おはようおはよう Good morning」と歌い、「Hello」と観客と掛け合うところに、スリープ前とはまた違う新しい意味が生まれていて、それに合わせたような新しいアレンジになっているところがぴったりだった。ただいまと、おかえりと、再会を心から喜ぶ気持ちと。
アンコール一曲目は「future base(Homecoming ver.)」。彼女の大きな愛と優しさで会場を包み込むようなアレンジと歌唱だった。2018年にリリースされた原曲との差の分だけ彼女の成長や時間の経過を感じる。
「アンコールありがと~!」から始まるMCでは「これからねもっと、ライブ、して行きたいな」と、今後の展望についても語られた。
そしてアンコール最後の曲「FANTASY」の歌唱でDay1が終了した。
自然体で等身大な女の子の姿から後半に向けて、どんどん大きな愛と優しさで会場を包み込んで行くような楽曲へと移り変わっていくところが、彼女の生きてきた時間軸をそのまま表しているかのように感じられて良い構成だった。
復帰後のKizunaAIの新しいビジュアルのポイントは、例えば現実の女の子が着ていてもおしゃれで可愛い洋服的な衣装と、立体感があり大人びた可愛さと美しさのある表情や立ち姿だ。そこに既存のVTuberファンではないところにも訴求していきたいという意識が少なからずあると見受けられる。翻って、もしかしたら「キズナアイとして歩んできた過去や、既存のVTuberファンやカルチャーとは少し距離を置きたい」という意志表示でもあり得るのだろうか? そんな疑問を当初は少し持っていたが、実際はそうではないということがこのライブを通して改めてよくわかった。
今回の「Homecoming」というアルバム&ライブタイトルをはじめとして、活動休止前の楽曲も新アレンジを加えながらも多く起用しつつ、ゲストVTuberとのトークパートを設けていたところがまさにその証左だったように感じる。
ファン、そして他VTuberやクリエイターなどと、今までにできたあらゆる繋がりを大切にしながら新境地へ進んでいきたいという意志を感じたDay1だった。
Day2: “new world”
Day2は現地で鑑賞した。1曲目「まざる」でKizunaAIが登場してまず最初に感じたのが、「本当に近い!!」
客席の最後方にいたとしても、KizunaAIが本当に近かった。何度も「目が合った」「こちらに向かって手を振ってくれた」と感じる瞬間があった。
そして音響の良さ。当たり前だが自宅環境で聴くのとは全く音の鳴り方が違う。低音まで全ての音がバランス良く明瞭に聴こえる。改めてライブハウスでの鳴り方も強く意識して制作されている楽曲だと感じた。
それから照明のリッチさ。配信で見るよりも3DCG空間内の照明と現地照明の違いははっきりと認識できたが、全くそれが気にならないぐらい充実したライティングで見ごたえがあった。
2曲目「mirai(Homecoming ver.)」の後、この日最初のMC。昨日同様の「ただいま~~!」という明るいKizunaAIの声に対して、昨日の公演を経てさらに大きく「おかえり~~!」の声を返す観客たち。
続く「おまじない」「ハンドサイン」では現地で定点から見ると、改めて振付やKizunaAIのダンスをフルに堪能できるところが良いと感じた。MCを挟み「STYLE」「ヒューマンメイド」。
「ヒューマンメイド」は歌詞に合わせてみんなで一緒にMBTIポーズを取るのが楽しい楽曲だ。
そして「お着換えしてくるね~」と、ステージを後にし、Interludeを挟んでDay1同様赤いドレスに身を包んだ彼女が再登場する。「ホワイトバランス」とライブ初披露の「hologram」を歌唱し、MCへ。
『冒頭の撮影OKパートで衣装撮影タイムを作るのを忘れちゃっていたのと、昨日はこの赤いドレス姿での撮影可能パートがなかったから……』と特別に撮影OKタイムを設けてポージングを決めたりその場でゆっくり360度回ってくれるKizunaAI。その流れで、Day1のMCでも話していた100万円で販売中の実物ドレスについて、「ご成約いただきました! ありがとうございます!!」との話もあり驚きだ。
KizunaAIが「お願いしま~す!」とゲストを呼び込み、本人は一度退場。そして登場SEの後に「もうどうなってもいいや」のイントロと合わせて開いた扉の向こう側から星街すいせいが現れる。星街すいせいカラーのペンライトの光に染まった客席。圧巻のパフォーマンスで大いに会場を湧かせた。
続くMCではKizunaAIに「すいちゃ~~ん!!」と呼ばれた瞬間「あ、アイちゃ~~ん!!あ、あ、あ、あ……」と先ほどまで堂々たるパフォーマンスを披露していたのとはまるで別人のように小さくなって恐縮しているギャップがキュートだった。
その次はなんと星街すいせいの楽曲「ビビデバ」を二人で披露。レジェンドバーチャルの2人がコラボして共にビビデバを披露するという事態やそのクオリティに対してだけでも十二分にくらっと来るが、「あたしは大変身メイクアップ! 我儘のまにまに燦きに注意」というフレーズを始めとして、ビビデバの歌詞が今のKizunaAIにもかなり通じていることに気がつく。再びMCへ。
この時のMCで印象的だったのは、KizunaAIに「聞きたいこととかありますか?」と振られた星街が「い、いつから私のこと知ってた……?」とか細い声で聴くと、「すいちゃんが『melty world』(KizunaAIの楽曲)歌ってくれていて、その歌ってみたからは確実に知っています!」と答えた場面だ。
これは2018年末のキズナアイ新曲リリースフェス企画に星街が参加した時に投稿した歌ってみた動画のことを指している。
https://www.youtube.com/watch?v=9pgap38Os_k
当時KizunaAIはすでにチャンネル登録者数100万人を突破して「日本で最もYouTubeチャンネル登録者数が多いバーチャルYouTuber」になっている状態だったのに対して、星街は当時はまだホロライブ所属前、個人勢として活動を開始してから1年未満、チャンネル登録者も1万人未満だった頃のことだ。
おはよーおまえら!٩(๑❛ᴗ❛๑)و✨
嬉しい報告です!!目標であるチャンネル登録者数5000人に到達しました!!!🎉🎉🎉🎉
なんと昨日から+1300人!!😭👏👏👏すでに何人かのこめともはお祝いしてくれてたけど、本当にありがとう!!
今年中に達成できるなんて思ってなかった…!!💫💫💫 pic.twitter.com/mtZoblYn2M— 星街すいせい☄️ホロライブ0期生 (@suisei_hosimati) December 30, 2018
KizunaAIに「私あの時からすごい素敵な歌声の方だなあって思ってました。」と言われて無言で飛び上がり、「その当時のね、自分が見たらもう、大粒の涙を流すことでしょう! 私ここまで来れるんだ! って」と話す星街。
星街がどれだけ長い階段を駆け上がってこの日のステージにまでやってきたのかがあまりにもよくわかるエピソードだ。そしてそんな星街も今やVSingerの象徴として多くのVTuberにとっての憧れの存在になっている。
最後に2人が一緒に歌った曲が「future base(Homecoming ver.)」
『一緒に行こう 歩き始める』の歌詞のところで2人は向き合って視線を合わせた。先のエピソードを聴いた後だとなおのこと全てがあまりにも今の2人に噛み合いすぎている楽曲だ。KizunaAIと星街すいせいが今日このライブで共演した意味や理由の全てがこの楽曲に詰まっているように感じられた。
星街が退場し、再びソロに戻ったKizunaAIが歌うのは「Go Round(feat. Daoko)」このタイミングで歌うことで、ステージを後にした星街を想って歌うようなニュアンスが感じられて良いセットリストだ。そして本編最後の楽曲「FANTASY」からアンコール一曲目「Hello, Morning(Homecoming ver.)」へ。
最後のMC。「みんなの声を聴いて、改めて、戻ってきてよかったなあって、思いました!」「もっともっとアップデートして、世界中のみんなと繋がるために、そして繋がってくれたみんなともっともっと楽しいことをするために、活動、がんばっていきます!2日間本当にありがとうございました!」という言葉で締めくくった。
アンコール最後の曲は「かもね」。KizunaAI活動復帰時に、チャンネルに一番最初に投稿された動画がこの曲のMVだった。再び目覚めた彼女が何を思うのか、これからどうしたいのかを、「所信表明」というほど肩ひじ張ったものじゃない、率直に本音を喋ってくれるように歌った曲だ。
最初は曖昧にしか理解できていなかったその意味が、この2日間のライブを経て最後にここでもう一度歌われたことで、より深くわかることができた気がした。
全てを内包しながら進化していく
技術、演出、パフォーマンス全ての面において、3年のブランクを全く感じない内容だった。最初からバーチャルアーティストのリアルライブの最前線に食い込んでいくという気合いを感じた。KizunaAIのこのクオリティのライブがこの規模感のライブハウスで見られるということ自体があまりにもすごすぎる。「KizunaAIのライブを日本で、しかもZepp Shinjukuで見られたのって今思えばかなり奇跡的なことだったね」となっている未来すらすでに鮮明に想像ができる。そういう内容のライブだった。
ライブ演出もKizunaAIの声と身体によるパフォーマンスを全面的に信じて生かす内容で、そこに華を添えることを主眼においた照明とVJも、相互に調和しながら前に出すぎずかと言って地味すぎず丁度いいバランスだった。
ただ、曲毎にかなり長めの完全暗転を挟むことで演出がぶつ切りになってしまっているように感じられたところだけは少し気になった。そこは今後のアップデートに期待だ(また、今回の有料配信では全面的にスクリーンショットが禁じられているため、配信参加の人は撮影可パートであってもスクリーンショットの撮影ができないのは残念に感じるところではあった)。
大きなモニターをステージ最前方に配置し、そのモニター内でZepp Shinjukuのステージに合わせたライト、VJ用モニターなどのプロップを配置してステージ空間を作りあげることで、シンプルながらもステージに奥行を作りつつ、実在感を重ねて行く演出もスマートで良かった。
KizunaAIが明るく楽しくなんでもないことを喋ってくれているだけで、なんだか全てが大丈夫になるような気がしてくる。一歩踏み出す勇気が湧いてくる。
それは本当にすごいことだと思うのだ。「大丈夫だよ」や「応援してるよ」「そばにいるよ」を直接言葉にして言わなかったとしても、そういう感情や力を人に受け渡すことができるということは。
彼女のそんな底知れぬパワーが音楽の力によってファンや国内の人達はもちろんのこと、例えば日本語を母国語としない全く違う環境で暮らす人達にまでそのまま届き得るのなら、それもまた間違いなく価値のあることだろう。
日本の歴史上の実在人物達が各地でいつしか神様として祭られてきたことがあるように、始祖として「バーチャルYouTuber」という概念を作ったキズナアイという名前そのものが、本人の実体を離れてまるで神様のようになって行ってしまっているように感じることもある。しかし、そんな風にどんどん肥大化していく概念としての「キズナアイ」を、私達の目の前で生きている最新で等身大のKizunaAIが今、笑顔で軽やかに飛び越えていく。彼女の名前の大きさではなく彼女の持つ大きな愛が、私達の未来を優しく照らしている。
今の彼女は間違いなく過去のKizunaAI全てを内包した上で進化したKizunaAIだ。2026年にまた新たなアップデートが行われる予定があることが最後に告知されたが、それもまた、ここまでのKizunaAIの歩みを否定したり距離を置いたりするようなものにはきっとならないのではないだろうか。
「ハローアゲイン 奇跡を待つよりずっと 嬉しいかもね」と歌う彼女の歩みはまだはじまったばかりだ。
KizunaAI Comeback Concert「Homecoming」
DAY1 / hello, again & DAY2 / new world✳︎SetList Release✳︎
▼▽YouTube冒頭無料▼▽https://t.co/1R47AMiezFhttps://t.co/Zkq9RiCieQ
▼▽ABEMA PPV▼▽https://t.co/G7aYoP9fv0https://t.co/ys8X2TUHz5#キズナアイ復活祭 pic.twitter.com/utWPQWhbcr
— KizunaAI (@aichan_nel) September 21, 2025














