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話題 2023.03.27

【本当に大丈夫?】車のドライブ中にVRで遊ぶ「holoride」 実際に街中を走りながら独占取材!

VRと車の組み合わせはVRヘッドセットが登場した2013年頃から多く試みられてきた。それは主にVRでのレースゲームや運転のシミュレーションなど。2023年2月には世界的なレースゲーム「グランツーリスモ7」が、PlayStration VR2向けに対応し、素晴らしいレース体験を実現している。

しかし、ドイツのスタートアップ「holoride」が挑んでいるのは、VRと車の全く新しい組み合わせだ。彼らが提供するVRシステム「holoride」は、移動している車内でVRを体験するためのシステム。後部座席に座り、VRヘッドセット装着して、車の動きに連動したコンテンツを体験できるというものだ。

今回、Mogura VRではこのholorideを体験することができたので、その一部始終をお送りしよう。なお、取材はインタビューも含め、すべてサンフランシスコ市内を走る車内で実施した。

シンプルな構成、あっという間に車内からバーチャル空間へ

待ち合わせ場所に来たholorideチームと合流。車で移動しながらの体験になるのでさっそく彼らのフォードに乗り込む。

後部座席に座ったらドライブがスタート。運転をしてくれているのは、インタビューにも応えてくれたholoride米国チームのクリストファー・ベラッシ氏だ。助手席のスタッフから渡されたHTC社の「VIVE Flow」を装着し、手元にはスマートフォンではなくゲームコントローラーを持つ。

VIVE Flowには種も仕掛けもなく、2021年末に発売された市販のものだ。小型・軽量さが特長で、本体重量は189g。スマートフォンに接続して駆動し、メガネのように耳にかけて使用する。小型・軽量かつモバイルに割り切ったため、Quest 2などのようにVRで自由に動ける6DoFではなく、頭の回転のみトラッキングされる3DoFのデバイスとなる。つまり、頭をぐるりと見て回すくらいの限定的な動きしかできないということになる。

装着すると、目の前にメニュー画面が表示され、コンテンツを選べる。このメニュー画面がholorideのコンテンツライブラリーであり、サブスクになっているので、holorideを利用しているユーザーはストアに並んでいるコンテンツをインストールして遊べるというわけだ。

そしてこのメニュー画面の時点で、メニュー画面の浮かんでいるバーチャルな世界全体が車の動きに合わせて動いている、ということに気づく。

メニュー画面に限らず、holorideを体験している間は、常に車の動きと連動して世界やコンテンツの構成要素が動く。具体的にはスピードと方向転換だ。

車が動いている速度に応じてバーチャルな世界も動く。Holirideによれば「現実の速度と同じ設定」とのこと。体感はバーチャル世界のほうが圧倒的に遅く感じるのだが、加減速によって感じるGとバーチャル世界の加減速が揃っているのでしっかりと加速度を感じられるため没入感が増している。

そして交差点や曲がり角、分岐などで車の進行方向が変わるとコンテンツも変わる。常に”正面”に何かを表示しているコンテンツの場合は、角を曲がっても正面が常に目の前に表示される。

元々holorideは、ドイツの自動車メーカーAudiの新規プロジェクトとして始まったチームが、スピン・アウトして設立されたスタートアップだ。創業直後の2019年はAudiの特定の車種にシステムを組み込んで展開しようとしていた。いまでもAudiの特定の車種には対応している。

そして、holorideが2023年1月に発表した「retrofit」という名前のトラッキングデバイスが画期的で、このデバイスをフロントガラスのところに置けば、クラシックカーからテスラのEVまであらゆる車が一瞬でVR体験に対応する。

車内でのVRを可能にしてしまうデバイス「retrofit」。手のひらに乗る程度の小型デバイスなので、フロントガラスの前にあってもそこまで気にはならない。

構成としては、VIVE Flowをバッテリーに有線接続、holoride retrofitとBluetooth接続し、さらにスマートフォン等からWi-Fiでインターネットに接続するというもの。コンテンツはVIVE Flowのメモリーに保存されている。


holoride(retrofitを使った場合)構成図

車の移動を考慮してデザインされた没入型コンテンツ

続いてコンテンツを紹介していこう。holorideは、コンテンツストアでコンテンツを提供している。ストアには、まだ総数こそ多くないが、サードパーティの開発したコンテンツがすでにいくつか並んでいる。

holorideで展開されているコンテンツは大別すると2種類ある。

1つ目は「コンテンツ全体が車の動きと連動しており、没入して遊ぶVRゲーム」(イマーシブコンテンツ)、2つ目は「背景が車の動きと連動しているだけでメインは画面のように比較的固定されている平面的なコンテンツ」(カジュアルコンテンツ)。

筆者が体験したコンテンツは以下の通り。

●イマーシブコンテンツ
・holorideのデモコンテンツ
 カラフルなバブルを打っていくシューティングゲーム
・Pixel Ripped 1995: On the Road
 VRゲーム「Pixel Ripped 1995」のholoride向けオリジナルコンテンツ
・Cloudbreakers: Leaving Haven
 実績のある実力派VRゲームスタジオSchell Gamesが作ったVRロボットシューター
・Bookful
 絵本や図鑑の世界がバーチャル空間に広がり、移動しながら学べる教育コンテンツ

●カジュアルコンテンツ
・Cookie Ride
 いわゆるキャンディクラッシュライクなゲームを目の前で遊べるカジュアルゲーム
・holoride blowser
 大画面のブラウザアプリ。
・VIVE Flow内蔵アプリ
 Netflixなどを開くとシアターモードでの大画面での映像鑑賞ができる

体験した中で特に印象的だったものをいくつか紹介しよう。

Pixel Ripped 1995: On the Road

Pixel RIppedシリーズは「VRで、レトロゲームをしていた体験そのものを体験する」という2つの次元を組み合わせたVRゲームシリーズだ。過去にも「授業中に先生の目を盗んでゲームをする」などのギミックが登場したが、holoride向けの本作では「家族でドライブ中に、運転席にいる父親と助手席の母親が話しかけてくるので、彼らを怒らせない程度に携帯用ゲームを遊ぶ」という設定だ。

手に持ったどこかで見たことがあるような携帯用ゲーム機を遊んだり、隠したり、そしてだんだんとゲームの世界が目の前に広がっていき……といった奇妙な体験ができる。やはり秀逸なのは設定の部分。車の中で暇だからゲームをしていた子供時代を彷彿とさせるノスタルジックさと、ゲームがちゃんとできているのでついついのめりこんでしまう独特な没入感が面白い。

コンテンツストア(動画あり):Pixel Ripped 1995: On the Road

_Leaving Haven

ガンダムのようなマクロスのような、目の前でプレイヤーの乗っている宇宙船を守ってくれるロボットを操作して敵を倒していく、アクションシューティングゲーム。近接攻撃もあれば、射撃もあり、必殺技があるといった比較的王道のつくり。手掛けたのは、VRゲームの名作「I Expect you to Die」を作り、ゲームデザインの専門家としても知られるジェシー・シェルが率いる実力派のVRゲームスタジオだ。

グラフィックのクオリティはまだ低く全体的な課題は多いが、何より敵の動きが車の動きによって変化するため、「車の動きに連動することでの疾走感や臨場感」が最も感じられたのはこのコンテンツ。はさながらUSJで展開されている「XRライド」が手元にやってきてインタラクティブなゲームになったかのような感覚が最も感じられた。

コンテンツストア(動画あり):Cloudbreakers: Leaving Haven

シアターモード

アプリ名は不明だが、Netflixなどの動画ストリーミングサービスのコンテンツを大画面で体験できるコンテンツ。車で見られる映像と言えば、カーナビや後部座席用のミニディスプレイなどがあるが、holorideを使えば家のテレビや映画館で見ているような大画面での映像視聴ができる。

かつての一体型VRヘッドセットOculus Goも、直近のスマートグラスNreal Airも、バーチャルな大画面での映像視聴できるデバイスは根強いニーズがある。

最も気になる酔いは……?

ここまでholorideの体験について書いてきて言及していなかったことがある。

それは「酔い」だ。

VRヘッドセットでのVR体験はしばしば「VR酔い」と呼ばれる問題を引き起こしてきた。VRの体験者が不快感を覚え、気持ち悪くなってしまうことだ。その原因はハードウェアとソフトウェアの双方にわたって様々な説がある。特にVR酔いを引き起こしやすいと言われているのは「VRの中で移動するコンテンツ」だ。

そのため、移動させないことができないVRレースゲームやFPSなどのゲームでは「酔わない移動」を実現するために試行錯誤をしてきた。

一方、車も酔いが関係する一部の人に「車酔い」を引き起こしてきた乗り物である。

そのVRと車を組み合わせたholorideでは酔いはどうなってしまうのか。せっかくの面白いVR体験も酔いやすいのであれば、魅力はなくなってしまう。

酔いは個人差のあるものなので、筆者の酔いやすさについて説明しておこう。VR酔いのしやすさは普通レベルだ。人気タイトルなどでは酔ったことがなく、移動の激しいコンテンツでは酔うことがある。また、車酔いに関しては乗車中にスマートフォンやPCを開くと数分で酔ってしまう。

そんな筆者が30〜40分ほどholorideを体験してみたが、その結果は……「コンテンツによっては酔いやすいものがあるが、全体的に酔わない」という感想だった。

酔いを感じたのは、教育コンテンツの「Bookful」。自分自身が選んだのは恐竜の絵本の世界を移動していくという絵本だったのだが、正面にある飛び出す絵本を開いたようなインタフェースで小さな箱庭の世界が広がっており、さらに周りの世界全体に恐竜がいて……遠景では進行方向が分かりづらかったこと、遠近どちらでもコンテンツが動いていて視点の定め方が難しくなったこと、などから酔いに繋がった印象があった。


(Bookfulの紹介動画より。近景で広がる絵本の箱庭世界と恐竜の世界が広がる遠景)

逆に、他のコンテンツでは酔いを感じることがなく、実際の車の動きと連動して動くコンテンツの強さが感じられた。「holorideは車酔いしやすい人への解決策にもなりうる」(ベラッシ氏)と自信を見せており、納得感があった。

結論:車で移動中のVRはアリか?

車の中でのVR体験は一見、無謀なアイデアにも思えるが、実際に体験してみると酔いは少なく楽しめるものだった。

筆者の経験上、車移動が多い人にとって、後部座席で暇になる時間はしばしば発生するように思える。もちろん旅なら風景を楽しみたいときもあるかもしれないが、日常的に車移動をする場合、後部座席の時間は暇で寝てしまうなんてこともあるだろう。そんな車の中の退屈な時間がより酔いにくい形でエンターテイメントに変わるのであれば、それは可能性を秘めているのかもしれない。

酔いについては個人差があるので、万人向けではないところに注意したいところだ。また、VRコンテンツの良し悪しなどもあるが、最悪シアターモードで動画を見ていればいいという選択肢がある。VRコンテンツの制作に関係なく、「Netflix」「Amazon Prime」「Disney+」などで膨大な映像を見ることができる。これはかなりアリなように思えた。

しかも車に特殊な加工をする必要はなく、トラッキングデバイス「retrofit」とVIVE Flowがあれば、holorideのサブスクに契約したらすぐにでもどんな車でも使うことができた。retrofitは199ユーロ(約28,000円)と決して高すぎる金額ではなく、サブスクも月額10〜13ユーロ(1,400〜1,820円)だ。VIVE Flowは日本ではヨドバシカメラ等で定価59,900円(税込)で販売されているので、10万円弱でスタートできることになる。

記事執筆時点では、holorideはドイツと米国でのみ販売をしている状況。日本などエリアを広げることに関しては「考えている」とのこと。今後は、コンテンツを増やしていきたいとのこと。「コンテンツ開発者向けのファンドも用意し、資金面でもサポートをしながら、車内VRというコンテンツパートナーを増やしていく」(ベラッシ氏)予定のようだ。

holorideのサービスが日本に上陸する日が待ち遠しいが、もしかしたら日本発のVRゲームやVTuberのコンテンツなどがholorideで展開されて世界中の車内で楽しまれる……そんな未来もありそうだ。

holoride公式サイト:https://www.holoride.com/en
パートナー向けサイト:https://www.holoride.com/en/partner


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