2013年にiOS、Android用音楽ゲームとして誕生し、ピアノを弾く感覚を忠実に再現したタッチ操作、同楽器を主旋律とする楽曲構成、この手のジャンルには珍しいストーリー性の高さから人気を博し、家庭用ゲーム機への移植にノベライズ、遂にはアニメ映画化も果たす多方面展開を見せている『DEEMO(ディーモ)』。
そんな同作をフルリメイクしたのが、PlayStation 4用ゲームソフトとして2019年11月21日に発売された『DEEMO Reborn』です。
発売から遡ること2年前の2017年10月17日、ソニー・ミュージックエンタテインメントのゲームパブリッシングレーベル「UNTIES(アンティーズ)」の発足と共に発表され、2Dから3Dへの刷新、さらにVR化も実施することが大きな注目を集めました。それから1年近くになろうとしていた2018年9月10日に発売は2019年春との発表が行われ、多少の発売延期を挟みつつ、製品版発売を迎えました。
グラフィックのフル3D化にVR対応を果たした、新生『DEEMO』
ゲーム内容はオリジナル『DEEMO』同様、ストーリー性を持ち合わせた音楽ゲームとなります。
ある日、見知らぬ世界に一人の少女が舞い降りました。彼女が出会ったのは、不思議な力でピアノを奏でる「DEEMO」。突然のことに戸惑いを隠せない少女をDEEMOは受け入れると、二人は彼が住まう謎の城で生活を始めるのでした。
そんなある日のこと、少女はDEEMOがピアノを奏でることで成長する小さな芽を発見します。この芽を成長させて木にすれば、少女が落ちてきた天井の窓まで届いて、元の世界に戻れるかもしれない。
こうして少女とDEEMOは楽譜を探し、曲をピアノで奏でて木を育てていくことになりました。
このようなオープニングを挟んだ後、本編は始まります。
オリジナルでもあるiOS、Android版は、楽曲をひとつずつプレイしながら木を成長させていき、それに合わせて入れるようになる城の部屋で新しい曲の楽譜を見つけて選択可能な曲を増やし、さらなる成長を目指してプレイしていくことを繰り返して進行しました。
『DEEMO Reborn』はこの構成を基に、探索アドベンチャーの要素(アドベンチャーパート)を追加。少女を操作して城の中を歩き回れるようになりました。楽曲の入手手順も落ちていたり、隠されている楽譜を拾うに加えて、謎解きを追加。絵合わせパズルや記憶問題、スイッチを始めとする仕掛けを動かしたりしながら、楽譜を探し出す遊びが楽しめるようになりました。
また、音楽パートもスマートフォン版から一転、コントローラのボタンで操作するスタイルへ刷新されました。グラフィックのフル3D化に伴い、譜面のデザインも立体感溢れるものになりましたが、基本は奥から手前の鍵盤へと流れてくるノーツをタイミングよく押していくもの。操作こそ別物ながら、基本の遊びはオリジナル版準拠となっています。
さらに今回、探索アドベンチャーの部分と並んで大きなトピックがPlayStation VRへの対応です。舞台である城内部を始めとする、「DEEMO」の世界へと飛び込めるようになりました。VRプレイ時は探索、音楽パート全ての操作系もPlayStation Move2本を用いた直感的なスタイルへと変更されます。中でも探索は通常のTV(テレビ)モード時と大きく異なり、Moveでポイントしながら少女を動かしたり、対象を調べながらプレイする、いわゆる「ポイント&クリック」スタイルになっています。視点もTVモード時は3人称に対し、VRモード時は俯瞰。それも、ミニチュアの空間を覗き込むような独特の形式になっています。視点もPSVR本体を直接頭で動かして動かします。もちろん、天井などの部分も見れますし、ピアノが置かれた部屋なら、少女が落ちてきた窓もバッチリ見れます。
音楽パートもノーツをMoveでタイミングよく振り降ろして叩いていくスタイルへと一新されます。操作感は木琴(鉄琴)、もしくはドラムや太鼓を叩く感じで、ピアノ感がまるでない本末転倒すぎるものなのですが、ボタンよりも正確、且つ直感的にリズムを取れますので、この手のゲームが苦手な人にも取っ付きやすい設計になっています。
さらに譜面のパターンも専用のものになっていますので、ボタンでプレイした楽曲もVRでプレイすると全く違った展開を楽しめます。何より、座りながらプレイするスタイルなのもあって、本当にピアノを弾いている”なりきり感”も申し分なしです。操作スタイルは先に紹介した通り、木琴(&鉄琴)、もしくは太鼓やドラムを叩く感じなので、ピアノらしさは皆無ですが。
恐らくですが、オリジナル版をプレイされた人なら、VRでの音楽ゲームには大きな違和感を抱くかもしれません。筆者は製品版プレイ前に東京ゲームショウで先行プレイ済みですが、その時も「ピアノ……?」という心境でした。
音楽ゲームに苦手意識があるなら、VRモード一択
ただ、VRモードでのプレイは非常に快適で楽しいものに仕上がっています。
実の所、TVモードは音楽パートに難あり。というのも、操作の関係で難易度が高い。一番簡単な「EASY」でも、6ボタン+スティックを使ってノーツに対応していかなければならないからです。
具体的には左側の譜面3ヶ所を方向キー+L1ボタン(※上に相当)、右側譜面3ヶ所を□△〇ボタン+R1ボタン(※△に相当)、そして黄色のノーツ(※オリジナル版における”なぞる”ノーツ)への対応で左右のスティックを使います。そのため、各種ボタンの配置を覚えて対応しないと混乱確実。しかもあろうことか、キー設定が変更不可能。この操作でやらねばならないのです。
そのため、配置を覚えきれていない時は失敗の連続。下手に難易度「NORMAL」でプレイすれば、流れるように降り注ぐノーツの数にパニック状態になってしまうこと確実です。難易度「HARD」だなんてとんでもない。
「EASY」でも序盤の楽曲は落ち着いてプレイできますが、中盤辺りから解禁される楽曲、そして要所ごとに挟まれるイベント曲(ボス的な楽曲)はノーツの流れも激しくなるため、パニックになりやすいです。
率直に申して、音楽ゲームが苦手であればTVモードの音楽パートは触れないのが賢明です。確実に火傷します。オリジナル版のように直感的、かつ気軽に楽しみたいのなら、VRモードでプレイしていくことを強くおすすめさせていただきます。
実際、VRモードは操作こそピアノ感ゼロですが、Move2本を振る操作だけでプレイしますので、ボタンよりもハードルは低いです。さすがに中盤辺りからは、この操作でも素早い判断が試される楽曲(兼譜面)が出てきますが、何のボタンを押せばいいのかパニック状態になる頻度は低めです。さすがに難易度「HARD」の場合は別……というより、パニックのあまり、ピアニストからドラマーへとクラスチェンジする事態が起きますが。
いつからド〇ムマニアを遊んでいたんだ。
ただ、本当に高難易度の楽曲を除けば、「HARD」でも普通にプレイできる楽曲もあります。この辺、個人差があるので、全ての人がそうとは言い切れませんが、そんな高難易度に挑戦しやすいメリットがあることからも、VRモードでのプレイをおすすめできる感じです。また、木の成長もTV、VR共に別とされていますので、こちらを重点的にプレイしてもストーリーはちゃんと進みます。
とは言え、VRモードにも若干の難点が。特にアドベンチャーパートは、ポイントしながらプレイする関係で小さな対象物をやや見落としやすいです。逆にTVモードだと少女を対象に近づけて調べる形になりますので、見落としにくくなります。この辺は視点と操作スタイルの違いが生じた格好と言えます。
なので、快適に進めるならば音楽パート時はVR、アドベンチャーパート時はTVと切り替えながらプレイするのがいいかもしれません。
幸いにして、オプションからVRモード、TVモードは自由に切り替えできるようになっています。ただ、一旦タイトル画面に戻る再起動形式になるため、セーブしていないとそれまでの進捗が水泡に帰します(※オートセーブ機能は備わってます)。それに煩わしさを感じるのなら、どちらか1本に絞り込んで遊ぶのがいいかもしれません。
探索アドベンチャーとしても遊び応え抜群の良作
ほかにVRは、PlayStation VR版の『Beat Saver』などに対しても言えることですが、Move2本が必須とプレイ環境を整えるハードルが高いのも難点。この辺は操作とシステムの関係上止むなしで、ゲーム側の責任とは言い切れません。せめて、Move2本をセットにしたパッケージが別途あれば……と思うばかりです。
TV、VRそんな双方のモードごとに長所・短所が明確に現れていますが、フルリメイク版としての力の入れようはかなりのもの。特にアドベンチャーパートの謎解きは驚くほど本格的なものが揃っていて、コアなプレイヤーをも唸らせる非常にやり応えのあるラインナップになっています。正直、この部分だけゲームとして独立させられるのでは、と思ってしまうほどの完成度です。筆者としては、ここ昨今のPlayStation 4タイトルにしては珍しく、モーションセンサーをフル活用した謎解きがあったことに大きな驚きを覚えました。どことなく、その手の操作を入れるなりしていた初期のPlayStation 4タイトルを思い起こす懐かしさがあります。
また、本作は音楽ゲームですので、しっかりそれに適した謎解きも用意しているのもさすがと言ったところです。ただ、一言で言いまして結構、音感が試される難易度です。苦手な人には応えるかもしれませんので、念のためご注意ください。
アドベンチャーパート以外では、自由に歩き回れる城内部のマップとグラフィックの作り込みも素晴らしく、後者は解像度がやや下がるVRモード時でもその美しさが失われません。ストーリーも大筋はオリジナル準拠ですが、DEEMO以外のキャラクター達がフルボイスで喋るようになったのもあって、より賑やかになっています。少女の声優もPlayStation Vita版の『DEEMO~ラスト・リサイタル』に続く形で竹達彩奈さんが担当されていますので、台詞の量が大幅に増えた本作はファンにとっては殊更魅力的に映るはずです。
フルリメイクのコンセプトに違わぬ大幅な進化を遂げた『DEEMO Reborn』。コントローラ操作のハードルの高さなど、オリジナルのスマートフォン版から取っ付きにくくなった箇所もありますが、VRであの世界とストーリー上の様々な演出をより近くで味わえる感動、音楽ゲームを飲み込む勢いの作り込みと遊び応えが光るアドベンチャーパートという、新たな魅力が光る仕上がりになっています。VRゲームとしては、表現面や遊びに大きな革新性はないですが、ファンにとっては間違いなく刺さる内容。
今後もダウンロードコンテンツによる楽曲追加と言ったアップデートが計画されていますので、今から遊ぶのも遅くありません。また、このためにVRとMove2本を揃える価値もあります。より不思議で幻想的になったDEEMOの世界に降り立ってみましょう。