VTuberとゲームは切っても切れない関係にあります。大手企業のゲームリリースに合わせてさまざまなVTuberがゲームを一斉に実況配信したり、それまで注目されていなかったゲームを遊んで視聴者に広めることも珍しくありません。その一方で、VTuber自身がゲーム制作に挑戦するケースも増えてきました。
近年はティラノスクリプトやUnity、Unreal Engineなどを使ってオリジナルゲームを開発するVTuberが登場し、企画からプログラム、イラストまで一人で手掛けることもあります。 また、自身を作中に登場させることで、キャラクター性や世界観を拡張していく事例も見られるようになってきています。
本記事では実際にゲームを制作したVTuberを中心に、ゲーム風のビジュアル表現を取り入れるVTuber、ゲームとVTuber文化の境界を越えたユニークなクリエイターも紹介しながら、両者が交差して生まれる新たな表現の広がりを紹介していきます。
VTuber本人がゲームを作った例
月ノ美兎:にじさんじのタイプ診断、アルクマルチバース
VTuberのゲーム制作を語るうえで、外せないのがにじさんじに所属する月ノ美兎さんです。にじさんじを代表するVTuberとして広く知られている一方で、本人はネットカルチャーに詳しい一面があり、PCにて配信されているさまざまなフリーゲームにも触れています。月ノ美兎さんが製作したゲーム「にじさんじのタイプ診断」もフリーゲームとして公開されました。
本作は11名のにじさんじVTuberの中から自分と似たVTuberを診断する内容です。タイプ診断系のゲームながら40分ほどのストーリーが用意されており、VTuber同士の掛け合いも描かれています。2021年のリリース時は大きな話題となり、にじさんじのVTuberたちが実際に配信で遊んでいる様子が見られました。
配信先はこちら(ふりーむ!)。
https://www.freem.ne.jp/win/game/26860
にじさんじのタイプ診断の他に、月ノ美兎さんの1stミニアルバム公式ストア特典としてリリースされたゲーム「アルクマルチバース」 も、月ノ美兎さん本人が企画・ディレクションを担当しています。月ノ美兎さんの趣味の一環である散歩をミュージックビデオと連動し、プレイヤーの選択肢に合わせて全く別の雰囲気の歌詞や曲調に変化する仕様となっているなど、非常に手の込んだ仕様となっています。
一時期は制作が頓挫する可能性もありましたが、選択で変わるMVは月ノ美兎さんがVTuberになる前からやりたかったことであり、最終的に宣伝や特典の枠を超えたクオリティのゲームに仕上がりました。
配信先はこちら(体験版)。
https://www.nijisanji.jp/events/tsukino_paperrabbit/aruku_multiverse/trial/
鏑木ろこ :VTuberの友人が記憶喪失になった
にじさんじのユニット「Idios」のメンバーのひとりである鏑木ろこさんは、2026年の6月5日の「ろこの日」にあわせてUnity製の短編ノベルゲーム「VTuberの友人が記憶喪失になった」をリリースしました。スクリプトの制作だけでなく、イラストも本人が担当しています。
本作は鏑木ろこさんが記憶喪失になり、プレイヤーであるあなたとの3日間の会話の中で記憶を辿っていく内容です。あくまで現実の鏑木ろこさんとは別であるものの、物語は過去の配信活動を思わせるものしています。ストーリーは短めながらエンディングが5つ用意され、何回も繰り返し遊べる内容となっていました。一緒に実況プレイをした栞葉るりさんもゲーム内容を賞賛しており、6月中に作り始めて完成させたことも明かされました。
本作は鏑木ろこさんを初期から追っているファンほどグッドエンドに到達しやすい内容でもあります。例えば、彼女の先輩であり初期からコラボする機会の多かった花畑チャイカさんは、この実況では初プレイ時にトゥルーエンドでクリアしてます。
配信先はこちら(ギガファイル便、2026年9月13日 まで)
https://100.gigafile.nu/0913-bd2a1781eaedcadb5f4f39c6e45576567
うる虎がーる:はらぺこランナーズ!!! ばくだん焼本舗®コラボレーション
うる虎がーるさんはあおぎり高校の新人VTuberとしてデビューした際、企画・制作・イラストまですべて自分で作ったゲームを同時リリースしたことで話題となりました。あおぎり高校はダウンロード配信サービス「DLsite」運営会社の親会社であるviviONに移籍しており、その強みを活かす形で制作したこととなります(該当のゲームは成人向け)。
「はらぺこランナーズ!!! ばくだん焼本舗®コラボレーション」は、あおぎり高校のTRIMADとばくだん焼本舗がコラボしたラン・ガンアクションゲームです。本作がリリースされた経緯は、 ばくだん焼が好きなうる虎がーるさん側からコラボを打診した結果実現したそうで、企画やシナリオ、ゲームプログラムやイラストなど主要な部分の制作を担当しています 。さらにTRIMADのメンバーの協力のもと、フルボイスが実現しました。
ゲームリリース後のYouTube配信では、制作に利用したゲームエンジン「Unreal Engine 5」の裏側も公開。本作のレベルやノードなどを見せており、どのような仕組みでゲームが動いているのかを解説しています。
配信先はこちら(DLsite)。
https://www.dlsite.com/home/work/=/product_id/RJ01413826.html
市松寿ゞ謡:GOHOME、夜詛 Curse of Soirée、ぐちゃぐちゃ 蟠の章
市松寿ゞ謡さんは市松人形のVTuber活動をしながら、ゲームを制作して販売しているクリエイターでもあります。特筆すべきはその独特な世界観にあり、サイケデリックなデザインと色合いによってプレイヤーに強烈な印象を残しつつ、ホラージャンルながらどこか笑えるシュールさが売りとなっています。また、音楽を自身で作曲している点も大きな強みです。 その実力が評価され、講談社のゲームクリエイター支援プログラムのメンバーにも選出されました。
代表作「GOHOME」はもともとフリーゲームとしてリリースされましたが、ゲーム実況で広まったことをきっかけに注目を集め、マップの拡張やオバケの追加を行ったSteam版がリリースされました。その後も大型アップデートを実施しており高い評価を獲得しています。後にNintendo Switch版もリリースされるなど、インディーゲームの成功例として語られています。
「GOHOME」で独自のホラー路線を確立した市松寿ゞ謡さんは、明治時代の洋館を舞台とした「夜詛 YASO curse of soirée」、長編3部作の1作目となる「ぐちゃぐちゃ 蟠の章」をリリースし、作品ごとに表現の幅を広げています。直近では歌声合成ボイスライブラリ「メカスズカ」 をリリースするなど、VTuberやゲームクリエイターの枠を超えた活動も注目されています。
配信先はこちら(Steam)。
GOHOME:https://store.steampowered.com/app/1334840/GOHOME/
夜詛 Curse of Soirée:https://store.steampowered.com/app/1715550/YASO_curse_of_soire/
ぐちゃぐちゃ 蟠の章:https://store.steampowered.com/app/2987540/_/
マリー・アンドロイド(青山ジンベエ):マリーアンドロイド
マリー・アンドロイドさんは、可愛らしい世界観とブラックユーモアが混在する独自路線を貫いてきた人形型のVTuberです。面白いのが背後で青山ジンベエさんという男性がマリー・アンドロイドさんを操っている様子を作中で映しており、幕間で青山ジンベエさんが裏話を語ったりMVの作曲を担当したりするなど、表裏一体の存在として描かれています。
2021年からゲーム制作を始めたことを報告しており、2026年に長年の沈黙を破ってついにゲーム「マリーアンドロイド」の発売をSteamにて予告しました。ファンシーな動物の仲間たち、突然マッチョ化するマリー・アンドロイドさんなど動画の世界観はそのまま再現しつつ、アクションや謎解きなどの要素も追加されています。イラストや3Dモデル、モーションなどの制作は青山ジンベエさんがすべて担当しており、VTuberのころねぽちさんが本作の声や歌で参加しています。
配信先はこちら(Steam)。
https://store.steampowered.com/app/4814280/_/
ゲームのような世界観を作るVTuber:有栖川ドット、空想料理店 蟹
ゲーム制作をするVTuberが増えた一方で、VTuberの活動自体にゲーム的なビジュアル表現を取り込んでいるVTuberもいます。今回紹介する2名はどちらもレトロゲーム風のデザインとなっており、ゲーム好きならそそられるアニメ作品を公開しています。
有栖川ドットさんはLive2Dモデルではなく、名前の通りドットアニメ(ピクセルアニメ)で活動しているVTuberです。ただドットのビジュアルなだけでなく、名作ゲームの世界に有栖川ドットさんが入り込んで冒険していくアニメを公開しており、ゲームのあるあるネタを織り込んだパロディとしても秀逸な作品として仕上げています。近年はアーティストのミュージックビデオのアニメを担当するなど、作品のクオリティーが高く評価されています。
空想料理店 蟹さんは、平成初期のゲーム機のようなローポリゴン風のビジュアルで活動しているVTuberです。あえて荒いテクスチャや解像度を採用しており、初代プレイステーションやセガサターン、NINTENDO64といったゲームを懐かしむ感覚でアニメを楽しめます。作品自体は本来食べられないものや存在しないものを調理するというファンタジー感あふれる内容で、想像力を刺激するユーモア溢れた作品となっています。ショート動画も精力的に投稿しており、短時間ながら1作品ごとのクオリティーは非常に高いです。
ゲームとVTuberの境界を超えるケースも:鮫升コモリ、橙々
ゲームとVTuberの関係を深堀りしていくと、その境界を曖昧にする興味深い事例も見えてきます。例えば大手ゲーム企業がVTuber的な手法でキャラクターを動かして広報するケースは近年少なくありませんが、インディーゲームではさらに踏み込んだ表現が存在します。キャラクターや作者自身が配信活動をすることで、ゲームの世界により広がりを与えているのです。
鮫升コモリさんは、フリーノベルゲーム「水中のカルテ ~みずちま海中診療所へようこそ~」の作品のキャラクターがVTuber化した事例です。「みずちま海中診療所」の院長という設定を引き継いだままVTuberとしてデビューしましたが、作品の広報の一環にとどまらず、雑談やゲーム実況など日常的な配信活動で視聴者と交流しています。ゲームの設定がVTuberの魅力を広げ、VTuberの活動がゲームの世界観を外に広げるという、珍しいパターンとなっています。
個人ゲームクリエイターの橙々さんは、Steam版の発売やコンシューマー版の展開もされた有名なフリーゲーム「アクアリウムは踊らない」の作者ですが、本人もVTuberのようにLive2Dアバターを用いて配信活動も行っています。一般的な配信だけでなく、ゲーム制作配信や制作の裏話を交えることも多く、ゲーム制作者の活動の新たなスタイルとしても捉えられます。さらに3Dモデルのお披露目を行ったのも象徴的で、VTuber文化を取り入れる柔軟な活動形態も印象的です。
まとめ
一般的にはゲーム実況をする人たちというイメージが強いVTuberですが、近年はゲームを製作したりゲーム的な映像表現を行うVTuberが現れており、クリエイターとしての側面が注目され始めています。こういった動きの背景にはUnityやUnreal Engineなどの開発環境が身近になったことに加え、YouTubeやSNSなど複数のプラットフォームを横断する活動が一般化したことで、作品の発信方法がより自由になったことが挙げられます。
さらにゲームのキャラクターや作者自身が配信活動するなどゲームとVTuberの関係性はより多様化しており、創作活動を新たなステージに押し上げるかたちへと発展しています。その根幹にはゲーム文化への深い愛着があり、双方が刺激を与えて新たなクリエイターや作品を生み出していくことに期待したいです。








