Home » ソニーのMR技術が変えるVTuber交流の未来 「実在感」をビジネスにする次世代のミート&グリートとは?


VTuber 2026.07.08

ソニーのMR技術が変えるVTuber交流の未来 「実在感」をビジネスにする次世代のミート&グリートとは?

最近ではVTuberイベントの定番のひとつとなった「ミート&グリート(Meet & Greet)」。普段は画面越しにチャットでしかコミュニケーションのとれないVTuberと、リアル会場で対面して話ができる形式となっており、ファンにとって、たまらないイベントとなっている。

しかし現状では、イベントの会場でもディスプレイごしでの会話形式がほとんどで、VTuberがこちらを見て身体を動かしてリアクションをとってくれることは少ない。画面に向かって話しかけるだけで「実際に対面した」という特別な感動を得られにくいのが、大きな課題点だ。

一方で最近では現実のリアルイベントでVTuberの姿ではなく、生身の人間の姿で登場する形式を採用する事務所も目立つようになってきた。ただし、この形式ではVTuberとしての魅力を薄めてしまう他、またプライバシー保護の観点でも大きなリスクを負うことになってしまう。

そういった中、ソニーが、興味深い施策を打ち出してきた。現実とバーチャルを融合したかのような演出を体験できるMR技術を活用したサービス「3Dミート&グリート」だ。今年の「SusHi Tech Tokyo 2026」でも披露され、多くの来場者の注目を集めていたものである。

一体どういったサービスなのか。今回、実際に株式会社PANDORA所属VTuber、玉波うるまさんに協力いただき「3D MEET&GREET」を体験したので、その模様をレポートしよう。(撮影:バルト、執筆:ゆりいか)

自分のいる空間に、VTuberが“来てくれる”

「3Dミート&グリート」は、簡単に言えば、現実空間にVTuberが登場し、リアルタイムにコミュニケーションをとれるというサービスだ。著者が、VRヘッドセットMeta Quest 3を着用した状態で待っていると、スタジオのドア越しからVTuber玉波うるまさんがドアから顔を覗かせてきた。

彼女は、こちらに軽く手を振った後、こちらに向かって歩いてくる。そして、自分の前に立つと、身振り手振りを交えながら挨拶をしてくれた。ここまでの流れは、もちろんリアルタイムなもので、事前収録されたものではない。また、部屋に入ってくる所作があまりにスムーズだったため、彼女がこの部屋の広さ(扉から体験者がいる場所までの距離感)を把握していることも分かった。さらに、玉波うるまさんがこちらの顔に目線を合わせようとしてくれたことから、彼女は、体験者側を“見ている”ことも伝わってきた。

VTuberとの距離感はかなり近い。そもそもMeta Quest 3でのMR演出のクオリティの高さも影響しているが、玉波うるまさんの息遣いまで分かるようだった。

試しに、両手を重ねてもらったり、頭をなでたりといったアクションを試させてもらった。
それによって、ちょっとしたアニメ風の3D演出が見られるといったものだったが、それ以上に印象的だったのは、コントローラーを無装着の状態であるにも関わらず、本当に身体に触れたような感覚が得られたことだった。VTuber側もこちらが触れていることを認識してリアクションをとってくれていたことも、この実在感の高さに影響しているように思えた。

ほんの数分の体験だったが「VTuberと対面してコミュニケーションを取った」という実感は強く得られるものだった。著者は、これまでにもMR技術を活用したVTuberの対面イベントというもの自体は何度か体験してきたが、その中でも、実在感といった点で、とてもクオリティが高かったと思う。

その理由のひとつは、上記の写真にある。VTuber側が扉からひょこっと登場するシーン。ここで、彼女の身体が扉に”隠れている”ところに注目だ。通常、このような体験を実現する際には、現実の障害物(壁や人物など)にVTuberが重なりあってしまわないように、オクルージョン(※現実世界の物体の前後関係を再現するための技術)を設定しておかなければならない。そのためには、現実空間を事前にスキャンし、どこに何が配置されているかの情報を取得しておく必要がある。

スタジオの方に話を聞いたところ、今回の施策では事前にスタジオ内の情報(デジタルツイン)を取得しておき、それをVTuberのいる別の空間と重ね合わせて同期させることで「VTuberが扉から登場する」といったアクションを可能にしているのだそうだ。そのため、ユーザーのいる立ち位置を把握しながら、こちらに向かって歩いてくるといったアクションも可能になっているのだ。また、VTuber側もユーザーが今どの位置に立って、どのような振る舞いをしているのかを把握できるため、スムーズなコミュニケーションが可能だったとのこと(なお、VTuber側のトラッキングには、ソニーのデバイスmocopi®が採用されている)。とても細かいこだわりだが、これらの有無によって、実在感に大きな差が出ているようだ。

VTuberと対面で交流できるサービスをビジネス化する

こういったMR技術を活用したVTuberの交流といった施策自体は、ここ数年で何度か試みられてきている。有名なものでは、にじさんじグループを運営するANYCOLOR社が実証実験として行った事例だろう。こちらもMeta Quest 3を活用し、リアルタイムのトークと音楽ライブを実施した。残念ながら現状では後続する企画は行われていないが、この施策を機にMR技術への関心が技術関係者のみならず、VTuberファンの間にも広がったことは間違いない。

また、Mawari社もMR技術を活用した施策を関西万博の特別展示の機会に公開し、その後もARグラスを活用したVTuberの表示実験を実施。現時点では本格導入に向けて準備を進めている状況だ。

そんな中、ソニーは一足先に、このVTuber交流サービスを一般ユーザーにも参加できるかたちでの提供を目指しているという。そこには、どのような狙いがあるのか? 今回取材に協力してくれたソニーの細谷潤氏、長谷川雄一氏に話をうかがった。


(左:細谷潤氏、右:長谷川雄一氏)

――今回のMR技術を活用したサービスを、どのようなかたちで提供していく予定でしょうか?

細谷氏:
7月以降、VTuberの方と出会って交流できるカフェというかたちで提供していく予定です。
カラオケボックスの「まねきねこ」の渋谷本店とコラボして、期間限定で交流できる空間をカフェのようなかたちで構築する予定です。


https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000031.000178734.html

細谷氏:
そもそもの経緯からお伝えしますと、昨今では音楽ライブを実施するタレントの方が、舞台の終わりにお見送り会やミート&グリートというかたちでサービスを行うという形式が当たり前のものになりつつあります。特にKpopグループやアイドルグループに関しては、その動きがとても激しくなっており、握手会のためのチケットや、交流機会を得るためのオンラインくじなど、ビジネスとして定着しています。

こうした施策をバーチャルアーティストでもできないのかと常々考えていました。そこで、2024年12月にソニーミュージックのVTuber事務所所属だった安心院みささん(※現在は独立)のファーストライブの際に、今回のようなMR技術を活用した交流会も行う「3Dミーグリ付きチケット」を実験的に販売しました。すると、まだ誰も体験していないサービスだったにも関わらず、チケットは3Dミーグリの方から優先的に売れていきまして、当日もファンの方が想像以上に喜んでくださいました。ここで、私たちも「やはりユーザーもVTuberに会いたいのだ」という実感を掴めました。

しかし、課題も見えてきました。リアルなアーティストの方であれば、1人対複数名という構図でもスムーズな交流が可能ですが、VTuberの場合50台以上のVRヘッドセットを用意するといった方法は、運営の負荷を含めて、かなり限界があります。そのため、ロイヤリティの高いお客様に向けての施策としては成立しますが、現状では複数名対応は難しいと考えました。

そこで、次に施策として考えたのが「駆け出しのVTuberと出会えるカフェ」の提供です。実際、秋葉原の劇場のような場所では、新人のアイドルの方と会えるというシステムが採用されていますが、そのようなかたちで、ユーザーの方が新人のVTuberの方を応援するためにカフェなどの空間で交流できる機会を提供できないかと。大型の劇場を維持するのはコスト面でも大変ですが、コンセプトカフェなどの小規模な空間とMR技術を組み合わせれば、気軽にVTuberと話せる場所を作れるだろうと考えていたのです。将来的に「カフェで出会って、日常の配信を視聴して、また会いに行く」といったサイクルができれば良いと思っていました。実は、昨年末に秋葉原のコンセプトカフェでテスト的に実施してみたのですが、来てくださったお客様に非常に好評で、店舗の売上としても大きな成果が出ていました。

――そこから、VTuberとの出会いの場を提供するというアイデアの実現を目指すようになったということですね。

細谷氏:
もちろん課題は山積みですが、お客様の反応をみても、これは取り組む価値があるだろうなと思っていました。そのため、今後は断続的な試験運用ではなく、継続的な施策としての実施を目指しています。

――そもそも、この「Meta Quest 3」を使ってMRを活用しようというアイデアは、どこから出てきたものなのでしょうか。また、現状ではVTuberと出会える様々な仕組みがある中で、なぜMRという技術を選ばれたのですか。

長谷川氏:
現状のVTuberの「ミート&グリート」でも、いわゆる一般的なモニター越しの交流を行っている企業様もいらっしゃいますが、そういったものと、今回のMR技術を使った施策の一番の違いは「クロスレンジのコミュニケーション」だと思っています。本当に触ろうと思えば触れてしまいそうな距離感、「ここに存在しているんだ」という実在感、それらを再現することで、ユーザーはVTuberやキャラクターをより愛せるようになります。そういった状態を提供できるのが、この(Meta Quest 3のような)ヘッドセットではないかと捉えています。

――先ほど体験させていただいて「現実でもこの距離で接することはほとんどないだろう」という距離感での体験になっており、非常に面白いと感じました。そもそも、リアルタイムでのやり取りがかなりスムーズだったので、技術的にも非常によくできているという印象を持ちました。やはり、その点には非常にこだわりがありましたか?

長谷川氏:
そうですね。普段、リモートでZoomやGoogle Meetなど、色々なビデオ通話はされていると思いますが、あれらにも実はレイテンシー(遅延)があります。ただ、日常づかいでは、
それほど遅延を気にすることは無いと思います。そのためVRヘッドセットであっても、ビデオ通話と同等くらいの遅延の感じられない体験を目指して設計を行っていました。また、私たちがこだわりを持っている部分は、ご体験いただいた最初と最後の演出のところですね。

――VTuberが壁から顔を出すシーンですね。

長谷川氏:
そうですね。例えばですが、いきなりVTuberがふわっと光ってゲームのキャラクターのように登場したり、ヘッドセットを被った瞬間に出てきてしまうと、実在間はあまり得られないのではと思っています。自分のいる空間と地続きのところからちゃんと登場して、帰っていくという演出があった方が良いことは、実証実験を通じても得られていましたので、その点には注力しました。また詳しい技術は申し上げられませんが、今回収録した空間をデジタルツインとして保存し、適切なレンダリングを行うことで、特別なトレーニング無しでもタレント側も自然にふるまうといったことが可能となっています。

――従来のコミュニケーション系だと、バーチャル空間の中にそのまま入っていくタイプ、要するに私たちが向こう側の世界に行って体験する形が多かったと思うのですが、どちらかというとこの感動は、こちらの世界に「来てくれる」という感動だと思うので、そのコンセプトは非常に面白いと感じました。

細谷氏:
これが一体どういうビジネスなのかというと、やはり「実在感のビジネス」です。私たちが24時間を過ごしているこの実空間に、VTuberの方から来てもらう、そこで一緒に過ごせることが実在間を高めることで重要だと思いました。

長谷川氏:
そもそも、ソニーグループ全体の掲げているスローガンとして「クリエイティブ・エンタテインメント・ビジョン」という形で出させていただいていると思いますが、その中の要素として「現実と仮想をより融合させていく」というキーワードがあります。この活動も、まさしくその一つなのではないかと我々は捉えています。

細谷氏:
現状では、現実のアーティストと違って、フィジカルなフィードバックがないため、中にはそれを寂しい、物足りないと感じる方もいるかもしれません。しかし、バーチャルならではの演出を加えて、キャラクターごとに個性を出すといったことが可能ですし、例えば、VTuberの香りをイメージした香水を連動して空間にさりげないかたちで漂わせるといった演出も実現できます。「ふわっとあの香りがした」と感じられれば、記憶の深いところに留めていただけるのではないかと思います。

また、何よりVTuberであれば、現実よりも近い距離感でのコミュニケーションが可能です。実は、別の実証実験では、ヒトデくんという男性VTuberの方に「壁ドン(※壁によりかかった姿勢で向き合う)」を行ってもらったのですが、こちら多くの方が「これはヤバい」と照れながら絶賛してくださいまして(笑)。こういったことは直接触れ合わないバーチャルキャラクターだからこそできる距離感だと思います。もちろん、バーチャルであっても、心理的安全性が保てるような距離感や接し方は重要だと思いますので、そういった面には気を付けていきながら運用していきたいと考えています。そのうえでも、タレントの方の安全性を担保しながら、コミュニケーションのちょうど良いラインを探れるという意味では、非常に良いサービスになるのではないかと思います。今後は、通信ラグの短縮など、技術的な部分を含めてブラッシュアップしていきながら、継続的な実施を目指していきます。

――ありがとうございました。

「モノ消費」ではなく「体験を」 推し活文化でIPを摩耗させないために

インタビューの中にあった通り、今回の施策は「VTuberに来てもらう」という実在感に重きを置いたビジネスだ。著者が興味深かった点は、ユーザー側が相手からの反応を前提としない“推し活”をして応援するといった一方的なスタイルではなく、お互いにコミュニケーションをとれるという「体験」自体に価値を見出して提供しようとしている点である。今回の現場の取材に同席していた株式PANDORAの和泉義博氏によれば、今回のMR施策はタレント側のマネジメント面でもメリットを感じられるという。

和泉氏:
昨今のVTuberの市場は7割ほどが「グッズ」それから「案件(タイアップ)」など、「推し活文脈」の売上で成立しています。しかし、これはマネジメント側の立場で見ると、売上を立てるために、どうしてもタレントの価値をファンに対して切り売りして収益モデルを立てていくことになり、結果的にIP(※今回の文脈の場合はVTuberの活動やイメージそのものの価値)を消耗してしまうのではないかと考えています。しかし、今回の施策は、モノの消費を「お客様への体験価値」に変換できる可能性を持っています。例えば、グッズを購入してくれたら○○さんに挨拶できるといった、モノをきっかけに体験に繋がる。それによってファンが喜び、結果的にIPの価値を損なわず様々なキャンペーンが可能になります。これは、マネジメント側からみても革新的だと思います。
――

今後、VTuberがユーザーとチャットや音声のみの会話だけではなく「実在感の伴う空間での交流」機会が増えることで、もしかすると業界全体の収益システムや、そもそもVTuberの活動形態にも大きな変動が起こるかもしれない。ディスプレイの世界からVTuberがこちら側の世界にやってくることが当たり前となったとき、どのような変化が起こるのか、ソニーの今回の施策を含めて、今後も注視していきたい。

【カラオケルームでVTuberと会える!】まねきねこ限定のリアル連動型XRイベントを7月11日(土)よりカラオケまねきねこ渋谷本店で開催

カラオケまねきねこ渋谷本店にて、VTuber交流イベントが実施されます。本イベントでは、MR技術によってまるでVTuberが目の前に存在しているかのような体験が可能です。普段は画面越しでしか会うことのできないVTuberと、カラオケルームというプライベートな空間で“会える・話せる”体験に参加してみませんか? イベントの最後には、ツーショットチェキの撮影も可能。忘れられないひとときを、カタチとして持ち帰れます。

■開催概要

日程: 2026年7月11日(土)・12日(日)12:00〜順次 *各キャラクター

会場: 「カラオケまねきねこ渋谷本店」

〒150-0043 東京都渋谷区道玄坂2-29-5 渋谷プライム4F

チケット: 料金:1枠20分 3,000円(※事前チケット予約制)

チケット購入はこちら:https://t-dv.com/marina-lyrica-manekineko


VR/AR/VTuber専門メディア「Mogura」が今注目するキーワード

CONSULTING / DEVELOPMENT

コンサルティング・開発サービス

Moguraの知見を、あなたのプロジェクトに

mogura_next

Moguraの知見を、あなたのビジネスに
編集長の久保田を筆頭に、XR/メタバースなどバーチャル領域を知り尽くす専門チームが、リサーチからコンサルティング、企画、開発までを一貫支援。
Mogura VRで培った豊富な情報力と業界ネットワークを強みに、企業・行政機関の成果につながる最適な解決策をご提案します。