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Vision Pro 2024.08.02

Apple Vision Proはなぜ高価なのか。その理由と今後を予測する

日本でApple Vision Proが発売されて、そろそろ1ヶ月になろうとしている。利用者からの声は好評であるようだが、一方、やっぱり「高価」であるのは大きな課題と言える。日本での販売価格は約60万円。インナーレンズやケースなどを買えばもっと高くなる。

Vision Proはなぜ高いのか? そして、今後廉価版が出るとすればどのようになるのか? その点を考察してみよう。

世知辛いが大きい「円安」の影響

まず基本的な話として、価格については「アメリカと日本では受け止められ方が異なる」点も指摘しておこう。

昨年以降、円安傾向が急速に高まっている。Vision Proはその影響をモロに被っている。アメリカでの売価は3500ドルからで、それが日本では60万円だ。

(Vision Proのアメリカでの売価は3500ドルから。日本とは受け止め方が違ってくる)

たらればではあるが、2021年当初のレート(約105円)なら、36万円台で購入できた。今年2月、筆者がハワイでVision Proを購入した時のレートが約150円であり、当時は52万円台という感じだろうか。

実際には地域による消費税額の違いを勘案する必要があり、実際に払う額はもうちょっと異なるのだが、ざっくりと「受け止められ方が異なる」のは理解していただけるだろうか。

少なくともこの20年くらいは、1ドル=100円での価格相場感はあり、それが毎年上下していた。だが、この2年の急激な円安で風景は変わり、「アメリカ製品が日本から見て高い」ものになっている。高額な商品であればあるほどその影響は大きい。

質の高い体験のためにアップルは「高くする」と決めた

とはいうものの、アメリカ人にとっても「3500ドル以上の製品」が身近なもの、ということではないのも事実だ。Vision Proの高さに関する批判は、海外でも同様に存在する。

Vision Proが高い理由は、身も蓋もない言い方をすれば「アップルが高くすると決めたから」でもある。

といっても、製造原価が安価なものに高い値付けをしているわけではない。それどころか、製造原価や物流コスト、販売促進費などを勘案すると、と現状でも1台あたりの利益はさほど高くないだろう、と推測できる。すなわちアップルは、最初から「高くなること」「高いから大量には売れない」を前提にVision Proを作っているのである。

なぜアップルが最初から高級路線を選んだのか?

理由は「画質を中心とした体験で、一定水準を超えていることが重要」と判断したためだろう。

Vision Proは、コンシューマにも手が届く機器の中では画質がずば抜けて良い。また、位置認識や手の認識精度も高い。視線認識を使ったユーザーインターフェースも快適だ。

これらの要素を実現するには、具体的には以下の要素が必須になる。

・解像度と画素密度が高く、発色の良いディススプレイ
・解像感をスポイルしない光学系
・視線を認識する機構
・周囲を正確に把握する多数のイメージセンサー
・大量のセンサーからの情報をまとめて処理する高性能なプロセッサー

どれも安価なものではない。

一般的に「Vision Proの価格が高い理由」として挙げられるのは「ディスプレイ」だろう。確かに、使われているソニー製のマイクロOLEDディスプレイは採用例も少なく、高度な技術が必要で、生産量も多くはない。


(独自のマイクロOLEDディスプレイと特別設計のレンズを採用)

一方で、ディスプレイだけ高性能でも良いXR機器にはならない。センサーやプロセッサーなどの処理系をセットにして価値を高めないと、単に「画質が良いだけ」で体験は良くならないのだ。

アップルは他社のXR機器とは異なる「空間コンピューティングデバイス」を作ろうとした。それを早期に実現するには多数の「高性能なデバイス」を搭載する必要がある。結果として、上記のものを組み合わせていくと、現時点ではどうやっても安価なデバイスにはならない。

アップルの収益はハードウエアの販売から成り立っている。無理に赤字販売をしてプラットフォームを広げることはしない。現時点では、「現時点で自社が考える理想的な機器」を作り、先の姿を示すことにしたのだろう。

Vision Proには「M2」に加え、「R1」という専用プロセッサーが搭載されている。


(Vision Proには2つのプロセッサーが搭載されている)

漏れ伝わってくる話によれば、どうやらVision Pro開発のごく初期には、1つのプロセッサーで動かす選択肢もあったようだ。しかし、処理に余裕を持たせ、発熱を抑え、位置把握の精度を高めて快適なデバイスにするには、位置把握を含めた要素をR1に切り出す方が有利である。

専用プロセッサーの開発と搭載はコストアップにつながるが、そうしなければ「この時期に快適なものを出す」のは不可能になる。

技術は進歩するのでいつか低価格なものは作れるが、その前に「開発者などに良い環境を体験してもらう」ためには、2024年の発売がギリギリ……と判断したのだろう。

EyeSightは「高価になるから搭載された」のかも

どうやっても高くなるという見通しがついた段階で、Vision Proには意欲的な要素が追加されていくことになった。

顔を3Dスキャンし、その結果を表側のディスプレイに表示する「EyeSight」がそれ。広告用の画像などで「つけている人の目」が表示されているが、これはEyeSightによって実現されている。


(Vision Proの広告などで「つけている人の目」が見えているが、これはEyeSightを搭載しているから)

EyeSightも非常にコストがかかった機能だ。単純なディスプレイが入っていて映像を表示しているのではない。透明なカバーの上にレンチキュラーレンズが重なっていて、目の位置が「立体で見える」ように工夫されている。要は裸眼立体視ディスプレイが採用されているわけだ。だからここも非常にコストがかかっている。

EyeSightを導入した理由は、目の前にいる相手に「どこを見て話しているか」を知らせるためだ。そして、その時の目の位置を「できる限り顔の立体感とズレの少ないところ」に表示し、さまざまな場所から見ても違和感がないようにする……という意図があると推察している。

つけている本人には見えないし、写真などでは表示の感覚も伝わりづらいので「不要」と言われることが多いのだが、実物を使ってコミュニケーションをすると、意外とアップルの意図通りの動作をしていて、相手と対話しやすいのがわかる。

だが、もしVision Proが「もっと価格を下げること」を前提に開発されていたら、ここまで複雑でリッチな機能を搭載することはなかっただろう。だが、3500ドルの製品であると決まった段階で、この種の機能を搭載して「可能性を探る」余地が生まれてきたのではないだろうか。

「廉価版Apple Vision」の姿を予想する

いつのことかはわからないが、アップルはVision Proの延長線上で普及価格帯の機種を作り、本格的に「マスを狙うビジネス」を目指すだろう。それがいつかはわからないが、少なくとも今年ではない。

だとすれば、どうやって普及価格帯を目指すのだろうか? 以下はあくまで筆者の予測だ。

ディスプレイに関しては、そこまで大幅なスペックダウンはないだろう。ここで妥協した瞬間に他社製品と似たものになってしまう。同じ解像度とはいかないが、十分に高いものを搭載してくることは予想できる。

デバイスパートナーをソニーセミコンダクタソリューションズから変更する、との噂もあるが、ここはデバイスメーカー同士がガチガチにやり合っている最前線であるはずで、採用情報などはいわゆる「高度な情報戦」の真っ只中である可能性も高い。だから「どこのどう」という話はしない。

同様に、外界に向けたセンサーや視線認識機能が減る・なくなるというのも考えづらい。体験を維持するためには重要なデバイスである一方、コストインパクトはディスプレイほど大きくはない。

プロセッサーを減らす、もしくは外部機器との連動というのは考えられる。M2は2022年のデバイスであり、最新のものではない。新しいプロセッサーを使えば性能に余力は出る。最新のものを使って1チップにするか、それとも発表済みの前年のプロセッサーでコストを抑えてその上で1チップ化するのか……。

一方で、R1に類する「専用プロセッサー」のみを残し、他の処理はiPhoneなどで代替する構成も不可能ではないだろう。別途機器が必要だとユーザーを限定することになり、それはそれでマイナスだと筆者は考えるが、コスト・発熱・消費電力などでは有利になる。今でもバッテリーは外付けなのだから、その流れで「外部に処理系をつなげる」という選択肢はあり得る。価格を抑えるにはかなり有用なアプローチと言えるだろう。

EyeSightはなくなるかもしれない。とはいえ、外部に対し「自分がどこを見ているか」を知らせる機構は必要なので、裸眼立体視構造を捨て、もっとシンプルなディスプレイにするのかもしれない。これもコスト削減・機構のシンプル化にはプラスだ。

狙いは「コンピュータ」なので「数百ドル」にはならない

ただどちらにしろ、アップルはMeta Quest 3のように「数百ドル」まで価格を下げることはない。彼らが目指しているのは「iPad ProやMacを代替する空間コンピュータ」であり、ソフトウェア・プレイヤーではないからだ。Macの代わりだとするなら、1000ドルを超えても納得はいく。

筆者はVision Pro発売以降、多くの人に体験してもらい、感想をヒヤリングしている。その中で出てきた声で多かったのは、「これが1500ドルだったらすぐ買う」というものだった。

だとすると、「1000ドルから2000ドルで、Macのつもりで買う」くらいのところを、アップルもターゲットにしてくるのではないだろうか。現状のVision Proからの低価格化はそれでも大変だと思うが、さほど外れてもいない方向性ではないかと考えている。


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