Home » VTuberにTRPG&マダミスはどう広がるのか? まだら牛×佐藤ホームズ対談


VTuber 2021.02.13

VTuberにTRPG&マダミスはどう広がるのか? まだら牛×佐藤ホームズ対談

ここ最近、VTuberが参加するTRPG・マーダーミステリーの動画・配信が増加しています。企業・個人を問わず様々なVTuberがゲームに参加。にじさんじによるゲームパッケージ「にじさんじ×マーダーミステリー『消えた緑仙の謎』」の販売も行われました。

TRPGは「テーブルトークロールプレイングゲーム」の略称で、自らが作成したキャラクターになりきり、サイコロやコマなどを用いながら物語を紡いでいく非電源ゲームです。

一方、マーダーミステリーは参加者が架空の事件の登場人物を演じて、参加者の中に潜んだ犯人を推理し見つけ出すパーティーゲームです。

両方の大きな特徴は、通常のデジタルゲームと違い、人同士の対話がゲームシステムの主体であること。また、シナリオやシステムによって様々な世界観・ルールで遊べる幅広さも魅力です。「CCFOLIA(ココフォリア)」といったTRPG・マーダーミステリーを遊ぶツールを使用し、オンラインで遊ばれる機会も増加しています。

今回は、根強い人気を誇るTRPGシナリオ「狂気山脈~邪神の山嶺~」やマーダーミステリー「狂気山脈 陰謀の分水嶺」を制作し、自身も数多くのTRPG・マーダーミステリー配信の主催を行っているゲームクリエイター・まだら牛さんをお呼びしました。

数年来のTRPGファンで多数の配信に参加している佐藤ホームズが聞き手となり、VTuber×TRPG・マーダーミステリーの可能性や展望について対談形式で話し合います。

コラボツールとしてのマーダーミステリー

佐藤ホームズ:

まずは、まだら牛さん自身のことについてお聞きしたいと思います。まだら牛さんはTRPG・マーダーミステリーの両方でシナリオ制作をされていますが、そもそもの遊び始めたきっかけをお聞かせ下さい。

まだら牛:

大学の頃にTRPGを知ったんですが、僕自身がお話を作るのが好きなので、プレイヤーよりはむしろシナリオを作りたいというところから始めました。わりと最初からシナリオを書いたりゲームマスターが好きでTRPGをずっと遊んでいた経緯がありますね。最初に知ったきっかけは「クトゥルフ神話TRPG」ではなく「Aの魔法陣(※1)」というちょっと変わったTRPGで、そこから色々勧められながら遊んできました。一番長く遊んでいたのは「トーキョーN◎VA(※2)」でしたね。

※1「Aの魔法陣」…特定の世界観をもたない汎用TRPG作品。
※2「トーキョーN◎VA」…近未来都市の東京都新星市を舞台としたTRPG作品。サイコロではなく、トランプを使用する。

佐藤ホームズ:

さまざまなゲームに触れられていった経験が、やがて今動画サイトに投稿されている「登山家たちのクトゥルフ神話TRPG」に繋がっていくわけですね。

まだら牛:

そうですね。一方、マーダーミステリーに関しては2019年の後半ごろから日本で流行りつつあるという波を感じていました。そんな中、ゲーム実況者のテラゾーさんがかなり早い段階で自作シナリオを作ってオンライン配信をされている時に面白いと感じまして……「LYCAN(※3)」というシナリオです。


※3「LYCAN」…テラゾー氏制作のマーダーミステリー作品。中世のヨーロッパで起きた殺人事件を推理する。

佐藤ホームズ:

パーティーゲームの「汝は人狼なりや?」を思わせるシナリオですね。

まだら牛:

そもそもマーダーミステリー自体「ストーリー性が強い人狼ゲーム」のような一面がありますが、僕がそのこと以上に興味を引かれたのは、配信でやる上での仕組みの部分です。「LYCAN」は多くのマーダーミステリーのように各プレイヤーに渡される情報に違いがあります。これにより、ゲームの参加者たちは、それぞれの視点から物事を推理していくことになります。それぞれの思惑を持った各配信者たちの配信画面を見比べながら、ゲームの経緯を見守ることができるのがすごく面白かった。

もともと、TRPGの「登場人物になりきって物語を紡ぎあげていく遊び」という部分が好きだった上に、「プレイヤーごとに見えている世界が違う」という要素が加わってきて、これは配信で映えそうだなと考えたのが、僕がマーダーミステリー制作をはじめたきっかけですね。

今はYouTuberさんやVTuberさんも、多人数コラボに参加してファンを増やすというのが主流の1つになっているじゃないですか。そんな時代に、コラボツールとしてマーダーミステリーで遊ぶのは、すごく良いなと思ったんですよ。

どうしても、一般的なコラボ配信って、誰か1人のチャンネルに集まって行われますよね。最近では麻雀や「Among Us」などの配信で、視聴者が自分の見たいチャンネルに流れていくのがが当たり前になりつつありますが、それ以前はあまりメジャーではありませんでした。

その点、マーダーミステリーは、各参加者のチャンネルで配信が行われ、それぞれ違うドラマが展開されます。そこに新しさを感じたんですよね。だから、自分もこの流れに1枚噛みたいなと思って、プレイするより先にシナリオを書き始めました。

佐藤ホームズ:

視聴者側の立場になると「好きなプレイヤーの視点配信で見てたけれど、他の視点が気になったから見に行く」という知見の広がり方もありますよね。

まだら牛:

実際、ファンの方から「全視点を見てすごい時間はかかったけど推しが増えた!」みたいなことはよく聞きますね。

真ん中にいるのは人

佐藤ホームズ:

まだら牛さんから見て、TRPGやマーダーミステリーにはどんな魅力があると思いますか?

まだら牛:

他のデジタルゲーム等と明確に違う魅力があると思いますね。TRPGやマーダーミステリーってプレイヤーが当事者なんですよ。多くのゲームは与えられた筋道があって、それをなぞる形で既に用意されてる登場人物になりきるのが多いじゃないですか。

大まかなストーリーに沿いつつも、「登場人物をどう動かすか」が主体となる遊びは他にあまりないですよね。言ってしまえばごっこ遊びなんですけど、ごっこ遊びって楽しいじゃないですか(笑) 。

佐藤ホームズ:

めちゃめちゃ楽しいですよ(笑)。

まだら牛:

本格的なストーリーからバカ話まで、幅広いストーリーを主観で体験できる、大人も遊べるごっこ遊び。これはなかなか他にない。

佐藤ホームズ:

デジタルゲームは、開発者側があらかじめストーリーを決めて発売するしか手立てがないので、プレイヤーが思ったものと違う選択がどうしても出てしまう。すると「この主人公は自分と違うな」と感じてしまうこともあります。

でも、たくさんの選択肢を作ろうとすると、工数が膨大になって作るのが難しくなる。TRPGはその都度ゲームマスターがシナリオを柔軟に組み替えたり、プレイヤーが自分でやりたいキャラクターを作れるからゲームとして成り立つし、自由度が高いですね。

まだら牛:

ゲームのOSというか基幹システムが人というめちゃめちゃフレキシブルなものなんですよね。特にTRPGは、真ん中にいるのが「人」っていう要素が強い。マーダーミステリーもその要素をすごく含んでいるゲームだと思いますね。

VTuberはTRPGプレイヤーとしての素質が高い

佐藤ホームズ:

まだら牛さんはかなり多くのVTuberさんと一緒にTRPGやマーダーミステリーを遊ばれていますが、そのきっかけはどこにあったんでしょうか。

まだら牛:

僕がVTuberさんと一緒にTRPGをした1回目は、ホームズさんが参加した「狂気山脈~邪神の山嶺~(※4)」(2019年4月)なんですよね。配信後の舞台裏配信でも語ったことなんですが、VTuberとTRPGは素直に相性がいいなと思ったんですよ。


※4「狂気山脈~邪神の山嶺~」…H.P.ラヴクラフト著「狂気の山脈にて」の設定を下敷きにして制作されたTRPGシナリオ。現在BOOTHで配布中。

VTuberさん達は視聴者を常に意識している。ゲーム配信でもコラボ配信でも、基本的に「視聴者に見せる」コンテンツだという前提を崩さない。

佐藤ホームズ:

僕も配信でプレイするときは、オフでやるよりも引き締まる感覚はありますね。

まだら牛:

TRPGやマーダーミステリーはお話を紡いでいく側面の強いゲームです。そして、お話を紡ぐのは視聴者を意識した方が面白いんですよね。だから、視聴者に“刺さる”配信になっているかを常に意識しているVTuberさんは、TRPGプレイヤーとしての素質が高いだろうなと思ったんですよ。

その上で、VTuberさんの中でTRPGが流行ってくれたら、めちゃくちゃ面白くなりそうだなと思ったのが、企画へのお誘いを始めたきっかけです。

佐藤ホームズ:

「狂気山脈V」の1回目が1年半前で、そこから考えると本当に増えたなと思いますね。

まだら牛:

めちゃくちゃ増えましたね! 実は僕が「狂気山脈V」をやった時はそんなに遊ばれていなかったんですよね。例えば白上フブキさんをお誘いしたのは、その当時TRPG配信を見る中で注目していたからなんですね。

あの頃ってTRPGをしているVTuberさんを探すのがとても大変で、「全然いなくてどうしよう」と思いながらお誘いさせて頂いたんですよ。今はもうTRPGに興味がある人・配信に出たことあるVTuberさんの数は増えていますし、これからもまだ増えそうな気配はありますね。

佐藤ホームズ:

「にじさんじRRR山脈」配信や「にじさんじ×マーダーミステリー(※5)」の発売もありましたもんね。


※5「にじさんじ×マーダーミステリー」…緑仙の行方不明事件を、にじさんじライバーのファンとして解決していくマーダーミステリー作品。TRPGクリエイターのぱぱびっぷさん、川上草魚さんがシナリオを担当。

まだら牛:

身近な人で言うと、TRPG企画に積極的な配信者のぱぱびっぷさんのチャンネルで行われていたホロライブ・ホロスターズの方々が出演されている回があったり、それとは別に「ナツまつりっかい」(黯希ナツメさん・夏色まつりさん・黛灰さん・律可さん)の四人を呼んだセッションがあったり。あとはディズムさんのチャンネルでVTuberさんを交えたセッションがたくさん行われていますし、VTuberさん主催のセッションも多いし、あとは「ホロの奇妙な共闘」とか……でびでび・でびるさんが最近狂ったようにやっていたりとか……。

佐藤ホームズ:

MonsterZ MATEのコーサカさんがものすごいハマっていたり……

まだら牛:

TRPGをプレイされているVTuberさんを数えたときに両手でおさまらなくなってきたのは嬉しいですよね。「TRPGうまいなあ」と思うプレイも多くて、やっぱりVTuberさんは全体的にTRPGと相性がいいなと思わせてくれます。

受け取った感動をどう出力するのか

佐藤ホームズ:

まだら牛さん的には、特に印象的だった配信企画や好きなセッションはありますか?

まだら牛:

これがね……VTuberさんの中で誰かっていうのが難しいんですよね……みんな良かったんですよね……全部とは言わずともかなり見てるほうなんですけど、良いものばっかなんだよな……(笑)。

佐藤ホームズ:

(笑)。

まだら牛:

そもそも僕は気軽にお呼びしないというか、配信の数を打たないんですよ。一発一発を本気で打ちたいという感覚があるんです。毎回全力投球したいからこそ、プレイヤー選びにすごく慎重なんですよね。うちのチャンネルに上がっている自分主催の配信はどれもメンバーや組み合わせをかなり事前に吟味した上でお誘いしています。

遊ぶ人の組み合わせとかですごく影響を受ける遊びですから。組み合わせの段階でかなり頭を悩ませて、この人達だったら絶対面白いだろうという確信を持った人しか呼ばないですし、実際に全部面白かったんですよね。

佐藤ホームズ:

つまり「まだら牛チャンネル」を見て、ということですね。

まだら牛:

いやそんなことは……いえ、全部最高に面白かったという気持ちは本音ですけども!

では、自分のチャンネルの配信以外で、個人的に特に面白かったり印象深かったりしたものを5つほどあげさせていただきます。

まずは、プレイヤー1人の対話型シナリオとして界隈で話題の「カタシロ」。白上フブキさんの圧倒的な演技力によるロールプレイと、プレイヤー発言との使い分けが凄まじいです。そんな彼女ならではの、驚きと感嘆の結末も必見です。

2つ目は、でびでび・でびるさんと椎名唯華さんが「驚天動地倶楽部」所属のディズムさんを5分前に呼びつけてゲームマスターを任せ、いきなりゲームを開始するというめちゃくちゃな企画です。とにかく抱腹絶倒したまま40分間が過ぎ去ります。個人的には“モノマネ”のシーンが特にお気に入りですね。

3つ目は、アイドル部がTRPGを!? と一部界隈が騒然となった配信です。なんとシナリオはゲームマスターを務めるもこ田めめめさんが自作したもの。初心者たちとは思えない巧みな進行もさることながら、楽しそうに仲良くワイワイ遊んでいる様が良いですね。

4つ目はVTuberグループ「VOMS」のメンバーが勢揃いした配信。手前味噌で申し訳ないですが、僕が出張でゲームマスターを担当したセッションです。VOMSの3名が、それぞれ全く違う魅力的なロールプレイを繰り広げる様が印象的でした。

https://www.youtube.com/watch?v=b4EffyxOjxw

5つ目はモイラさん、周央サンゴさん、栗山やんみさんがプレイヤーの「忘れじの理想郷」。小学校の頃の同級生たちが大人になってから再会する、というシチュエーションの長編TRPGです。各プレイヤーがキャラクターを作り込んでいて、最初はぎこちない三人がどんどん物語に入り込んでいく様子はとても見応えがあります。存分にTRPGの魅力を伝えてくれる配信だと思いますね。

TRPGと相性がいいなと思うVTuberさんをあげると、日ノ森あんずさんはめっちゃうまいし、緋笠トモシカさんもめちゃくちゃだけどすごいし、磁富モノエさんはリアクションがいいですね。とにかく、シナリオや他の方のプレイングに対するリアクションがすごく良い。

でびでび・でびるさんはとにかくうまい。頭がいいしリアクションが完璧すぎる。天才ですね。

それから、最近一緒に遊ばせて頂いてるコーサカさんも貪欲さといいノリの良さといい、物語の中に入ってくる力がありますね。あとYouTuberですけど、虹乃まほろさんも面白かったなあ……そして、やっぱり天開司さんも良いですね。

うまいなと思った人達を思い浮かべて共通してるのは、持っている個性もそうなんですけど、受け取った感動の出力の上手さです。そのVTuberらしいリアクションを出してくれているんですよね。

佐藤ホームズ:

VTuberのリアクションの良さは、普段からファンに向けて感動を発露しているが故でしょうか?

まだら牛:

かもしれません。もちろんTRPGやマーダーミステリーはロールプレイ要素もとても大事なので、「魅力的なキャラクターを演じられるか」という部分も大事な要素だと思うんですけど、僕が上手いなって思うのはリアクションかな。

もちろん、みんなができないような曲芸みたいなロールプレイをしてるわけではないし、やっているロールプレイは正統派だったりします。それでも面白いと感じるのは「(視聴者に)共有しやすいかたちで表現してくれている」からだと思います。シナリオの仕掛けに大笑いしてくれたりとか。

佐藤ホームズ:

VTuberさんがプレイヤーをする様子を思い浮かべると、笑っているときとか驚いたときのリアクションが大体浮かびますよね。

まだら牛:

浮かびますね! シナリオを書くときやゲームマスターをやるときに、「ここで驚いてほしい」みたいなモチベーションがあったりします。多分ですけど、上手いプレイヤーさんは、シナリオや他プレイヤーのロールプレイを引き立ててくれるんですよ。

デジタルゲームでもそうですが、VTuberさんの配信をきっかけにゲームを買うことはたくさんあるじゃないですか。TRPGやマーダーミステリーでも同じことが起きてると思うんですよ。「このゲーム面白そう」、「このストーリーを自分も体験してみたい」、「自分の知り合いに体験させてみたい」と、そう思わせてくれる。それは、VTuberさんの楽しむ姿が魅力的に映っているからだと思います。

コンテンツ力を高め、VTuberさんに「お返し」をしたい

佐藤ホームズ:

今後「VTuber×TRPG・マーダーミステリー」はどうなっていくと思いますか?

まだら牛:

まず僕だけでなく、TRPG配信者たちの多くはVTuberの方々に感謝をしているんです。というのも「TRPGを知らないけど好きなVTuberさんが出るなら」という感じで見に来てくれる方が体感として多くて……。

生々しい話ですけど、TRPGは「誰が出るか」で視聴者数が大きく変わるんですよ。同じシナリオ、同じゲームマスター、同じチャンネルでやっても、人気の差は影響してくる。

その点、VTuberさん達の視聴者は「TRPGに興味を持った」と言ってくれる人がすごく多いんです。VTuberさんはTRPGの面白さが広める大きな力を果たしてくれているんですよね。

しかし、VTuberさんは常に視聴者を意識しているがゆえに、多くの場合視聴者に需要があるコンテンツを選択せざるを得ない。

だから、企画側としては「TRPGだから見たい」、もっと言えば「VTuberの出るTRPGが面白いから見たい」という視聴者の方をもっと増やさないといけません。そうでなければ、数あるゲームの中でTRPGを選択するメリットが「楽しいから」以外無くなってしまいます。

VTuber人気の恩恵を一方通行で受け取り続ける状況は良くないし、やっぱりお返ししなきゃいけないと思うんですよね。

もちろん楽しいゲームをお返しするという方法も一案ですが、やはり「TRPGをプレイすれば、視聴者数が多くなる」という環境になった方が望ましい。

佐藤ホームズ:

「自分のやりたいゲームが、視聴者の需要と噛み合わないかもしれない」という悩みは、多くのVTuberさんが抱えているものだと思います。

まだら牛:

なので、今後の展望としては、TRPGやマーダーミステリーそのものに興味を持ってくれたり、配信を見たいと思うファンを増やして、コンテンツ力を高めることです。

今後「出演するVTuberさんは知らないけど、TRPGだから視聴してみた。このVTuberさんの活動もチェックしてみよう」となった時、ようやくお互いにとってwin-winな関係になるような気はしています。

佐藤ホームズ:

理想的ですね……。

魅力的な世界を形にするために

まだら牛:

それから、もう1つ。TRPGやマーダーミステリーは、デジタルゲームと比べてシナリオ執筆やゲームの準備のコストがとても高いんですよね。最近シナリオを作っているとうわさのホームズさんなら重々承知だと思うんですけど……。

佐藤ホームズ:

毎日うなっております(笑)。

まだら牛:

(笑)。ただ敷居の部分はあるんですけど、TRPGは特別な体験であることは間違いないです。うまくハマった場合の話ですが、大変な準備に見合う楽しいセッション(※6)は他のゲームに代えがたい体験だと思うんですよ。

「自分もシナリオを作りたい」「物語をプロデュースしたい」と、実際にシナリオを書き始めたVTuberさんも(ホームズさん含め)すでに何人か知っていて、これからさらに増えてくると考えています。その時のためにTRPGとかマーダーミステリーの抱えている壁をなんとかしたいですね。

※6「セッション」……TRPGにおけるゲームを遊ぶ際の集まり。

今後の課題となるのは、シナリオ制作のハードルを下げることです。ただでさえ、配信者さんは忙しいのに物語の執筆は大変です。腰を落ち着けてクリエイティブを発揮する時間がなかなか取れません。

本当は魅力的な構想を持っていたり、創作の熱量を持っていたりするVTuberの方もいるはずなんですよね。時間と労力の不足を理由に諦めなくても良いような仕組みが欲しいなと思っています。

例えば、最近試しているのは、ライターさんとVTuberさんのマッチングですね。シナリオを書きたいけれど時間のないVTuberさんと、代わりに筆を取ってくれる制作者さんを繋げて、魅力的なシナリオをかたちにできないかと考えています。

僕自身もシナリオを書きたいVTuberさんの相談に乗ったり、シナリオを仕上げるためのお手伝いをしてます。それにVTuberさんのもつ魅力的な世界を書きたいと思うシナリオライターさんがいないかなと探したりもしていますね。上手くいくかは分からないですが、やりたい人はいるだろうし、開拓できると面白いですよね。

佐藤ホームズ:

すごく有意義だし、面白い試みだと思います。

まだら牛:

それから、TRPGやマーダーミステリーがいろんな意味でもうちょっと気軽に遊べるコンテンツになってほしいとも思っています。シナリオやシステムの権利関係の明確化はもちろん、VTuberさんが使いやすいようなツールの提供などが増えてくれば、もっと配信がしやすくなりますよね。気軽に遊べるツールがあると、逆に気合が入ったストーリーも引き立つ気がします。

そして、ロールプレイをしながらストーリーを作るような手軽な方法も、本格のTPRGとは別軸で広がっていくと良いですね。事前準備がそれほど必要ではなく、思い立った時にすぐできる遊ぶことができるので。

例えば、最近良いなと思っているのはディズムさんが作っている「なんちゃってマーダーミステリー」です。準備ほぼゼロであんなに面白くなるのかと……! これもぜひVTuberさんにやってほしいなって思いますね。

今は、(遊べるゲームが)本格とライトの中間ぐらいのものが多くて、全体的に見ると1プレイあたりに高い労力がかかる状況じゃないですか。

佐藤ホームズ:

初心者向けのものはまだまだ多くないですね。

まだら牛:

だからこそゲームの導入の部分を軽くすれば良いんじゃないかと。「なんちゃってマーダーミステリー」みたいな遊び方のスタイルが出てくるといいなと思っていますね。

僕自身も、短時間で気負わず遊べて、謎解きや脱出の体験ができるロールプレイングゲームを形にできないかと挑戦しています。簡単に言うと、設定が簡単かつ短時間でできるマーダーミステリーですね。

こういった試みで、TRPG、マーダーミステリー配信が育っていく土壌作りが大切だと思っています。

佐藤ホームズ:

そうなってくると、特に今年はVTuberとTRPG・マーダーミステリー配信の組み合わせに注目してほしいですね。個人的にはVTuberさんが制作したシナリオをガンガン遊ぶ年にしたいです。

まだら牛:

TRPGやマーダーミステリーは、未完成のストーリーが完成していく様子を見られるゲームなので、他の多くのゲームよりも映像コンテンツに向いてるんですよね。遊んでいる様子を見ているだけでも面白いんですけど、それぞれのプレイヤーに注目してみると、ドラマや映画を見るようなエンタメ性も含まれている。今後、配信や動画を念頭に置いた展開が増えてくると、もっと面白くなってくると思いますね。

取材執筆:佐藤ホームズ


VR/AR/VTuber専門メディア「Mogura」が今注目するキーワード