Home » アバター時代のファッションを「3つの要点」から考える【VRoid WEAR x chloma対談】


VTuber 2019.10.26

アバター時代のファッションを「3つの要点」から考える【VRoid WEAR x chloma対談】

イラストを描く感覚で3Dキャラクターを生み出せるツール「VRoid Studio」を提供するVRoidプロジェクトによる、”3Dキャラクター・アバター”のためのファッションプロジェクト「VRoid WEAR」。

第二弾「VRoid WEAR×EIJI KOTOUGE(バイきんぐ・小峠英二)」がリリースされ話題となる中、春にリリースされたVRoid WEAR第一弾、アパレルブランド「chloma(クロマ)」とのコラボレーションで受注されたアイテムが、ユーザーの手に届き始めています。

東京・原宿で実施された、chlomaの新作となる「リアルの服」を、アバターウェアである「バーチャルの服」として再構築し、リアルとバーチャルのファッションとして同時に提案・販売するこの取り組みは、3D領域においてのファッションデザインのあり方のひとつを示しうる企画となりました。

(左:chlomaデザイナー鈴木淳哉 右:VRoidプロジェクト伊藤彰宏)

今回はそのキーマンである「VRoid WEAR」担当者・ピクシブ株式会社 VRoidプロジェクトの伊藤彰宏氏とファッションブランド「chloma」の鈴木淳哉氏による対談インタビューを実施。両者に通底するコンセプトから、来たるべきアバターファッションの未来まで、「“衣装”と“ファッション”の違い」「現実のファッションとアバターファッション」「アバターファッション制作の可能性」という3つの要点から語っていただきました。

(VRoid WEAR×chloma キービジュアル)

「“衣装”と“ファッション”の違い」

――先日行われた「VRoid WEAR」と「chloma」のコラボは、現実の服とアバターの服をセットで売る特徴的な企画でした。そもそも「chloma」とは、どんなコンセプトのファッションブランドなのでしょうか?

chloma 鈴木淳哉氏(以下、鈴木):

「chloma」を立ち上げたのは2011年です。今回のVRoid WEARのコピーにもなっている「リアルとバーチャルを境なく歩く」と近い部分ではあると思うのですが、当時から「画面の中の世界とリアルの世界を境なく歩く」というコンセプトでアパレルをやっていました。

僕は元々、画面の中の世界・アニメやキャラクターが大好きだったのですが、ファッションの勉強をするようになってから数年の間は、そういったキャラクターコンテンツを見ないで、ファッションばかり見ていたんです。

しかしある日、クリエイターに求められるのは「自分にしか出来ない表現」もしくは「自分の出自をベースにした他の誰にも出来ない表現」で、僕の身体に対するこだわりとか美術的感覚は、実はアニメやキャラクター的な文化からかなり影響を受けていたことに気づきました。その後、ドラゴンボールやガンダムなど、子供のころ好きだったアニメ美術を参考にして洋服を作りはじめたんです。

それから2010年頃、Twitter・pixiv上でのイラスト投稿文化の盛り上がりにより、イラストレーターさんたちによるキャラクターの表現を目にする機会が増えました。そのとき、日本ってイラストやアニメというアプローチでこんなにも様々な「ヒトの身体の表現」をして盛り上がってるのに、僕が見てきたファッションの文脈にはそのエッセンスがあまり流れていなくて、その分断がとても勿体ないと思ったんですよね。

(コレクションで発表され、アバターウェア化された「Y2Kアノラック」)

――なるほど。例えばバーチャルタレントの文脈だと、海外ではミケーラ(Lil Miquela)やバミューダ(Bermuda)など、リアル調のタレントが受け入れられている一方、日本の3Dキャラクター・アバターシーンにはたしかにキャラクター・アニメ調の造形が多い印象ですね。

(アメリカのバーチャルインフルエンサー・ミケーラ)

鈴木氏:

日本にいるたくさんのクリエイターさんは、「キャラクターとしてのヒト」の表現に非常に熱心なのだと思います。だけど、キャラクターの表現とファッションの表現、どちらも人をデザインする行いなのに、作法も、流行も、マーケットも違って分断されている。それがすごく不思議だったんです。

僕は日本のクリエイターが見て、創り出してきたアニメ的・キャラクター的身体表現に興味がありつつも、モードを見て勉強してきたというバックボーンもあります。その両方を組み合わせて「日本人だからこそ出来るファッション」をやり続けてきたのがchlomaなんです。だからこそchlomaでは、キャラクター的表現も取り入れつつ、現代の街で着られるファッションに落とし込むことを大切にしています。あくまでもリアルクローズというか。

(コレクションではさまざまなアイテムがリリースされた)

――次はVRoidプロジェクトの伊藤さんに、今回のコラボも含めた「VRoid WEAR」プロジェクトについてお聞かせください。

VRoid 伊藤 彰宏氏(以下、伊藤):

「VRoid WEAR」は”クリエイターとアバターウェアの可能性を共創するプロジェクト”としています。このプロジェクトを立ち上げるにあたって、3つのことを考えていました。

1つ目は、アバターメイキングツール「VRoid Studio(以下、VRoid)」には「3Dアバターが着る服をテクスチャで作れて、そしてそれを他のアバターユーザーにも共有できる」というコア機能があることです。VRoidユーザーであれば3Dアバター用の服を「つくって売る」ことと「買って着替える」ことが可能ということですこれをもっと活用した、わくわくするような取り組みができないかと考えていました。

2つ目は、1人1アバターを持つ時代が来たら、人間はまず何をしたいのだろうか…と考えると、それは「コミュニケーション」なんじゃないか、と考えたという点です。ここでいうコミュニケーションとは、「おしゃべり」はもちろん「コンテンツを作ってみんなに見てもらう」ことや「何かの空間に入って他人の視線を浴びる」とかも含みます。アバターが普及すれば、自分のアバターを他のアバターユーザーに見られる機会が多くなりますよね。

となると、その場の雰囲気に合わせて、コミュニケーションの”ノリ”や共通言語を変えたくなる。これがインターネットの掲示板だったら口調を変えるだけである程度別のノリにできますが、アバター時代となると、どうしても見た目を変えたいというシーンが出てくる。

しかし顔や形から何までガラっと変えるのではなく、あくまでも同じ人物としての同一性はみんなにわかってもらいたい…となると、必然的に「着替えたい」という気持ちが自然と出てくるだろうと。この可能性についてもっと深堀りできないか、ということを考えています。

――アバターを使ってVRで日常生活をするようになると、現実で衣服を着て誰かと会う感覚と同じような意識が芽生えていく……ということですね。

伊藤氏:

そうですね。気のおけない友だちと会うときの格好と、結婚式に行くときの格好と、コンビニに行くときの格好はすべて違いますよね。そういう「シーンによる着替え」が、アバター時代にはより自由に、やりたい放題になるんじゃないかなと思っています。「空間」も「身体」も自由な世界なので、現実世界よりも「このシーンではこうしたい」という欲望の数は多くなるはずです。ただし人形アバターとしての同一性は保ちたい。となるとキーワードは「ファッション」ですよね。

3つ目のポイントは、「アバターファッションのデザインが、イラストレーターやクリエイターの新しい仕事になるのではないか」という可能性です。いまのイラストシーンの流れとして、非常にファッショナブルな装いをしたキャラクターのイラストを描かれている方が少なくないというものがあります。イラストレーターさんの中でも、いまファッションへの注目度が高いんです。VRoidのアバターウェアは、技術的に言ってしまえばペンタブで描く“画像”です。そのためイラストレーターさんでしたら、ご自身がイラストで描かれたそのキャラクターのファッションを、同じペンタブで、すぐに3Dアバターのファッションとして実現し、他のユーザー向けに提供することができるんです。VRoidだからこそできるこの機能を、ファッションを表現したいと思っているクリエイターさんに届けられたらなと。

VRoidユーザーさんの中には既に自分のブランド持っていたり、着回しができるファッションを意識的にデザインしてBOOTHなどのショップに並べている方もいます。そういった新しいアバターウェアの盛り上がりをさらに世の中に広く伝えるきっかけになればと、「VRoid WEAR」の本企画をリリースしました。

(バターウェアを着用した「アバターファッションモデル」は会場にも展示された)

――「VRoid WEAR」の最初のコラボレーションの相手として、chlomaさんを選んだ理由はありますか?

伊藤氏:

chlomaさんのデザインは、キャラクター表現になりつつも「普通に街で着れる」「いろんな人がそれぞれ十人十色な着こなしができる」デザインがされていて素晴らしいなと。

これは私個人の考えですが、アバターの”服”について、まずは「誰かのための衣装ではなく、みんなが着れるファッションである」と認知されることが大事だと考えています。

3Dモデルの技術的な話になりますが、たとえば、3Dキャラクターの一部として総合的にデザインされた衣装は、それだけ取り出して他の誰かに着せても歪になってしまうことがあります。そうなると「特定のキャラしか着れない衣装」として、それはもはやファッションではなく「キャラデータの一部」として捉えられてしまう。

キャラクターデザインの一部としての「衣装」ではなく、誰かと共有できる「ファッション」だからこそ生まれる、よりたくさんの人が楽しめるファッション消費の可能性を創れないか、と考えたときに、頭に浮かんだのがchlomaさんでした。

鈴木氏:

ファッションの歴史でも、オートクチュール(=オーダーメイドの服)、プレタポルテ(=既製服)という概念があります。現代のファッション文化は、基本的にはプレタポルテの概念で形成されている。つまり「様々な人が、同じ服を着て違う姿になれる」ということです。

――「衣装」と「ファッション」の違いは、着用者と用途が限定された一点モノか、共有可能なファッションとして様々な人が自分のものとして着れるか、ということなのですね。

「現実のファッションとアバターファッション」

(VRoid Studioで描かれた3Dキャラクターがデザインに組み込まれたアイテム)

鈴木氏:

衣装というのは限定的な場面や人でのみ機能させられる衣服というのに対して、ファッションは「生活の中で使われるもの」 というのがポイントです。

場所、気候、重力などといった環境の条件、TPOや世界情勢などといった社会的条件、そして変えられない己の体、性別、心。そういった様々な条件と制約の中で、デザインとスタイルを進化させていったのが、現代のファッションです。これからアバターを用いたコミュニケーションが広がっていき、オープンな世界になればなるほど、装いにも“社会性”が帯びてくるはずです。

デジタルな世界でのアバターファッションについて考えてみると、そのシーンは成長途中で、ソーシャルVRの世界でも社会性は生まれつつありますが、まだ限定的ではあると思います。その世界の中で仕事をするようになったり、例えば冠婚葬祭などがあったら、TPOが生まれるわけですね。オープンな世界になればなるほど“装いの持っている意味”が重要になってくる。囲い込まれた世界での装いじゃなくて、開かれた社会での姿。無限に選択肢がある中で、今日、自分はどんな姿をするのか。それではじめてファッションになりうるんだと思います。

(会場にはAIBOの姿も)

――なるほど。鈴木さんが仰られたお話を受けて、VRoidで制作するアバターファッションの特徴についてもお話頂ければと思います。

伊藤氏:

VRoidで作るアバターファッションはデジタルな服なので、制作から着用までの時間が非常に短いことが特徴です。現実世界ではサイズ問題・在庫・販売・輸送時間……などたくさん制約があるんですが、デジタルな服であればすぐに受け取れて、なおかつVRoidなら着替えに3Dモデリングの技術が必要がない。着て、写真を撮って、画像をSNSに上げるまでがすぐできます。実際にユーザーのみなさんはそのように遊んでいますね。

鈴木氏:

そういった時間性という話だと、例えば、Appleの発表会では新製品を発表した直後に即予約が始まりますよね。これって、物理的な商品は発表してからお客様の手に届くまでにリードタイムがあって、人間はその時間を縮める方に進んでいるということです。その点、VRoidで作るアバターファッションは、発送のリードタイム無しで服をまとうことができる。

――「リードタイムが無い」というのはアバターファッションの実用面だと思うのですが、表現面はどうでしょう。たとえば現実だと、一日に着る服は基本的には一着で変わらないですが、アバターファッションだと、周囲の風景や時間帯に応じて何度も服の様子が変わる、ということも出来るのかなと。

伊藤氏:

SONYが柄の変わる服を、VETEMENTSがARでグラフィックが変化する服をリリースしていたり、世の中的にも実験段階だとは思うのですが、そういった変化するファッションも現実世界でチャレンジされています。今後、アバターファッションが発展することで、こういったリアルでは実現が難しいファッションや、バーチャルだからこその需要に応えたアバターウェアが次々出てくる可能性もありますね。

リアルではできない要素といえば、VRoidのアバターウェアには「サイズ」の概念がないことが大きな特徴です。どんな等身でも、同じデータ1つで着回すことができます。VRoidであれば、一つの服に合わせてパラメータで身体を簡単に変えたり、服を自分なりに調整したりもできます。「私はかわいい系でいきたいからちょっと袖口を開き目で着よう」ということが、3Dモデリングの知識なしにある程度できます。身体や衣服の調整に技術的な専門知識がいらないというのは、アバターファッションを楽しむ新しいヒントになるんじゃないかなと。

「アバターファッション制作の可能性」

――今回のコラボですと、実際の服をデジタルに落とし込み、現実の服を買うとアバターの服もついてくるパッケージで販売されました。販売を終えての感想などありますか?

(アバターウェアのダウンロードコードが印字されたカード)

鈴木氏:

お客さんの層を広げられる、ファッション業界がこれまで届かなかった方々にリーチできるかもしれないという可能性を感じました。今まで高価格帯のファッションブランドに関心が薄かったであろう人たちも現地に来場して、実際に購入してくれたためです。

実際の数値としても、VRoidのアバターウェアとセットで販売した「Y2Kアノラック」というアイテムは、通常時の展示に比べて2倍ほど売上が増加しました。それだけでなく、そのほかのコレクション全体の売上も1.5倍ほど増加しています。

また、男性がレディースブランドの顧客になり得るし、性を超越したブランド消費が可能になると感じました。

――これまで現実のファッションを手掛けてきた鈴木さんが、今回デジタルなアバターファッション制作に関わって刺激を受けた部分があれば、是非聞きたいと思います。

鈴木氏:

クリエイターとしての視点で言うと、3Dモデルを作るのは本来、すごく技術と時間のいるものでした。VRoidは、基本の型に合わせてテクスチャを張り替えることで制作できる。本来はアバターを作るためのツールだけど、リアルを想像するための補助として、ファッションデザインのツールとしても使えるかなと感じました。

例えばイラストレーターさんでファッションブランドを始めたい人が、VRoidを使って3Dモデル上でデザインを作って企画書にまとめて、お金を募る……みたいなこともできる気がします。他人に信頼してもらってお金を出してもらうためには納得感が必要だと思うんですけど、一枚絵のデザイン画だけでなく、3Dのイメージも出せるとすごく説得力が出る。

また、アパレルの業界の人に、こういう服作ってくださいと依頼するときも、平面のまま見せるより、立体を見せてあげたほうが分かりやすい。このように、ファッションの文脈から見ても、簡単に3Dモデルが作れるVRoidのポテンシャルは色々あるなと思います。

――ありがとうございます。最後に伝えたいことなどありましたら。

伊藤氏:

VRoid WEARはファッションと創作の可能性をつくるための新たな試みです。個人的には、日本からアバターファッションシーンが活発化していくと、おもしろい未来になるんじゃないかなと考えています。新しい時代のクリエイターと創作文化をつくるパートナーとなっていただけるクリエイターやブランド、企業の方がいらっしゃいましたらぜひご連絡ください!クリエイターさんにとってワクワクするような毎日をつくるために、VRoidプロジェクトメンバー一同尽力していきたいと思います。

鈴木氏:

VRの世界は変身的な要素も楽しいと思うのですが、それ以外の方法や価値観も今後作品で提示していければ面白そうかなと思っています。僕は「自分がイメージする自分」と「リアルの自分」の齟齬をなるべくなくしたいというタイプで、1アカウント・1個の魂で行きたい人間なんです。だからVRで生活する自分もリアルな自分もなるべく自分のままでいたい。一つの魂、一つの価値観で、世の中のいろんな世界に行きたいタイプの人もいるかなと思います。いろいろな可能性を探っていきたいですね。


VR/AR/VTuber専門メディア「Mogura」が今注目するキーワード