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VTuber 2020.08.17

今振り返る にじさんじ全国ツアーの裏側とは? 企画責任者インタビュー

2020年2月から4月まで実施された「にじさんじ JAPAN TOUR 2020 Shout in the Rainbow!」。北海道から九州まで全国を横断する大規模なライブとなり、これまで大舞台に登場していなかったライバーも数多く出演。ファンの間で大きな話題となりました。

一方でコロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言の影響から、東京公演が中止、難波での追加公演は無観客公演に変更されました。MoguLive編集部は、今回のツアーの統括も行った、いちから株式会社の国内VTuber事業におけるビジネス部門の責任者の鈴木氏に、ライブの手応えや現場の対応についてお聞きしました。

全国ツアーはチャレンジングな企画だった

――まずは「にじさんじ JAPAN TOUR 2020 Shout in the Rainbow!」の感想をお聞かせください。

鈴木:

Zeppツアーは非常に準備期間が短く、大変な作業だったというのが素直な感想です。会場の確保は19年前半でしたが、実制作が動き始めたのは、12月8日(日)「Virtual to LIVE in 両国国技館 2019」の終了後でした。そのため最初のZepp Sapporoでのライブ(2月9日開催)まで、約2ヶ月しかない状態で…。

――全国ツアー以前から「KANA-DERO」や「にじさんじMusic Festival」など、にじさんじは大型ライブの経験を順調に積まれている印象でした。

鈴木:

そうした経験があったからこそ、なんとか乗り越えられたと感じています。ライバー含めスタッフ一同、リアルイベントに意欲的だったのも良かったと思います。練習等を含めて肉体的な疲労はあったと思いますが、イベントの事前に意気込みを語る配信をしたり、終わった後に感想を語ったりしていたことからも、それぞれイベントを楽しんでいた様子でした。

――ツアーでは、大規模なライブへの参加が初めてとなるライバーも数多く出演されていましたね。

鈴木:

ひとつのイベントに10〜20名といった単位で出演すると、1名あたりの曲数が減ってしまう課題があり、「もっとソロ曲を聴きたい」「他のライバーとのコラボ曲も披露してほしい」といったファンの方からの要望もありました。今回の全国ツアーでは、2周年を記念するイベントだったこともあり、これらの要望に全力で答えられるよう準備していました。
一般的な全国ツアーといえば、同じメンバーが同じ曲を披露するのが普通です。しかし今回のツアーではそれぞれ別のプログラムで公演を実施しているので、実質会場ごとに独立したイベントを連続で行っていることになります。客観的に見ても非常にチャレンジングなものだったと思います。

――ファン目線で見ると、あまりコラボすることのなかったライバー同士の掛け合いが新たに生まれたのは、非常に良いポイントだったと思います。

鈴木:

そうですね。運営サイドでそういった効果を狙っていたわけではありませんが、通常の配信だけでは中々絡むことのできないメンバーが、同じ舞台に立って仲良くなったということもあったそうです。ライブに向けて一緒に練習していたのも大きかったと思います。

キービジュアルから分かる各会場のコンセプト

――事前に発表されたツアーのキービジュアルが、ファンの間では評判となっていましたね。

鈴木:

いくつかのキービジュアルに関しては明確に方向性を定めています。6公演のキービジュアルを並べた時に一つとして似たようなものがない、バラエティに富んだ「にじさんじ」というグループの特徴をうまく表現することが出来たかなと感じています。

――なかでも話題となったのが、漫画家・久米田康治さんによる難波追加公演のキービジュアルでした。

鈴木:

こちらから講談社にアプローチしたところ、久米田先生に繋いでいただくことができ、オファーを引き受けてくださいました。そのご縁で、久米田先生のアニメ化作品「かくしごと」の同時視聴企画のお話をいただけたという裏話があります。

――それぞれのライブのイメージが、いわゆるグループアイドル的な雰囲気ではなく、各出演者に合わせたものになっていることも印象的でした。

鈴木:

にじさんじのファン層は、男女問わずさまざまな年齢層の方がいます。昨年秋に行われた「VTuberLand」のイベントでは、3つの公演すべてで客層が大きく異なり、非常に驚かされました。全国ツアーでも、特に福岡公演は非常に多くの女性ファンの方々が集まっていましたね。そのため客層を想定しながら各ライブのコンセプトを決めるのも重要な仕事でした。

――お話を聞いていると、各会場のコンセプト設定に相当の力を入れていたと想像できます。にじさんじがここまでライブに力を入れる理由は何でしょうか?

鈴木:

ふだんのYouTube配信が「日常」に根付いたものであるからこそ、イベントを介してそれと対になる「非日常感」を提供したい、という考えからです。

にじさんじがライブのクオリティにこだわる理由

――今回のツアーはニコニコで全プログラムが中継され、ダイジェスト版も配信されています。リアルライブをネットでも配信した狙いは何でしょうか?

鈴木:

幕張メッセのライブで事前レポート番組を実施したときから感じていたことですが、画面越しからでも現地の盛り上がりが伝わることで次のイベントから現地で参加してくださる方が非常に多いからですね。

音楽ライブを知っている方は、過去の経験から当日のイメージを想像して「面白そう」と感じてくれます。しかし、ライブイベントに一度も参加したことのない方は、文章や写真だけでは会場の雰囲気や温度感は掴みづらいものです。そうした方々に分かりやすくイベントの魅力を伝えるために、ライブの一部を無料で配信したり、ダイジェスト版などで映像に触れられる機会を増やす努力をしています。

――ニコニコでの中継をきっかけに、にじさんじを好きになった方も多いのではないかと思います。

鈴木:

にじさんじを全く知らない方にその魅力を分かりやすく伝える方法のひとつが、クオリティの高いライブを提供することだと考えています。何の文脈も知らなかったとしても感動できるような出来のものを提供することで、そこから個々のライバーの活動にも興味を持ってもらえるのではないかと。

――ニコニコのアーカイブを視聴すると、会場はカメラワークの効果もあって、非常にきらびやかな舞台として映っていました。

鈴木:

現場のカメラマンがニコニコのコメントで自分の仕事が褒められているのを確認して「この仕事を長いことやっていたけど、こんなに褒められたことない」と、喜んでいましたね(笑)。

イベント現地では、1人ひとりが配信をよく見てくださっていると分かる反応が多くて嬉しかったです。また、参加したライバーにツアー後の反応を聞いてみると、別のライバーが好きで会場に来てくれた方が、ライブを介して自分を知り、ファンにもなってくれたというエピソードがありました。ライブからYouTubeへと繋がる導線がしっかりとできていて、ライブを実施する別観点でのメリットも感じています。

苦渋の決断 東京公演中止の舞台裏

――名古屋公演終了後、東京公演がコロナウイルス感染拡大の影響から中止となりました。こちら当時の現場での反応はいかがでしたか?

鈴木:

ちょうど名古屋公演の日から、大手アーティストのライブ中止が当日発表されるなど、各所のイベント会場で混乱が起きている状態でした。幸いにも名古屋公演では現地におけるマスク着用やアルコール消毒を徹底していたこともあって、なんとか実施できました。

しかし東京公演については、すでに他社イベントも続々と中止となっていたこともあり、出演ライバーと弊社経営陣とで話し合いを行った結果、中止という決断に至りました。

――大規模なライブでの集団感染の可能性を考えると英断だったと思います。

鈴木:

出演者にとっても非常に辛かったと思いますし、ファンにとっても苦しいというか……残念な結果になってしまったと思います。

――一方で、追加の難波公演は無観客でのオンラインライブを実施されました。こちらについてはどのような経緯で決まったのでしょうか?

鈴木:

追加難波公演に関しては、ライバーたちの「無観客でも絶対にやりたい」という強い意志を受けて決定されました。

追加難波公演のメンバーはベテランが多くいたことから、オンライン越しでもお客さんを盛り上げられるという見立てが彼女たち自身の中に強くありました。もちろん現場では一人のスタッフでも熱が出ていることが分かれば即中止です。関係者は全員マスク着用でアルコール消毒、定期的な検温など十分な対策が行われました。これらさまざまな条件をクリアした上で、なんとか無観客でイベントを実施することができました。

――エンタメが非常に少なくなった時期だったこともあって、あの難波での無観客ライブに救われたファンも多いのではないでしょうか?

鈴木:

YouTubeでの一部無料公開だけでも非常に多くの反響があり、実施できて良かったと本当に思います。実施の数日後に非常事態宣言が出たので、本当にギリギリのタイミングでした。

――ひとつ気になっていたのですが「Shout in the Rainbow!」のシークレット特典だった赤色バックステージパスに、2021年以降の日付が記載されていました。この情報は、そもそも公表しても大丈夫でしょうか?

鈴木:

こちら側で”シークレット”と表現してしまったせいで、ファンの皆様の間でも告知を広めにくい状況になってしまいましたが、公表して問題ありません。発表の時点で情報が漏れ広まって話題になるものと考えていましたが、予想以上にファンの方々が真摯に約束を守ってくださっていたので、私たち側での配慮が足りていませんでした。

記載されている日付に、なにか大きいことをやるつもりで準備しています。にじさんじ所属のライバーが好きな方であればどなたでも楽しんでいただけるだろう、というものを1年以上の時間をかけて準備しています。多くの方に参加していただきたいので、ぜひ、その日の予定を空けておいていただければ嬉しいです。続報をお待ちください。

――ありがとうございました。


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