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VTuber 2020.08.17

2020年上半期 にじさんじはどう動いたか? 事業責任者インタビュー

Rain dropspetit fleursのメジャーデビューなど、ライバーによる音楽活動が大きな飛躍を遂げた一方、コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言の影響でリアルイベントの予定がキャンセルになるなど、大きく揺れ動いた2020年上半期のにじさんじ。その舞台裏ではどのような動きがあったのか?

いちから株式会社の国内VTuber事業におけるビジネス部門の責任者・鈴木氏にインタビューを行い、現状の現場の体制や今後の指針について、話をお聞きした。

――コロナ感染拡大による緊急事態宣言が出て以降、にじさんじの体制で何か変更はありましたか?

鈴木:

大きく変わったのはスタジオの使用を一時停止していたことですね。現在は入室時の検温・アルコール消毒・マスク着用必須といったガイドラインを制定し、それを遵守させた上で利用を再開しています。今後は他社のレコーディングスタジオなどの状況をみつつ、各種判断などをしていくこととなります。一方でライバーの基本的な活動自体は自宅でも実施可能なので、基本的なサポート体制に大きな変更はありませんでした。

ひとつ興味深かったのは、弊社所属のライバーがラジオやテレビ番組などマスメディアに出演させていただいた際、先方に非常に喜ばれたことでした。というのも、非常事態宣言が出た直後、多くの芸能関係者の方はリモートでの出演の準備が整っておらず、調整が非常に大変だったそうです。一方でライバーは自宅での配信・収録環境がすでに整っており、マイクの音質や通信環境も非常に良かったので、メディア側からするとありがたいことだったようです。

――リモート配信を前提にした活動だったことが、この状況で功を奏したと。

鈴木:

もちろん、声の出演だけでVTuberの魅力が発揮できたかは評価が難しいところですが、そのおかげで各所から出演の打診をいただけたのは幸いでした。

――にじさんじ公式チャンネル「ヤシロ&ササキのレバガチャダイパン」の収録がしばらく中断されていました。その後の動きはいかがでしょうか?

鈴木:

7月下旬から番組配信を再開し、多くの方々から反響を頂いています。前述のとおりコロナの影響がまだ大きい中ではありますが、対策を十分行いつつ今後も収録を実施していきます。毎週ライバー含めて番組の定例会議を実施しているのですが、そこでは先々までの企画が出ています。どのように実現するかの手段検討含め、皆さんによりよいコンテンツを届けるための準備している最中です。

――すでに企画自体のストックは溜まっていると。

鈴木:

そうですね。「レバガチャダイパン」に関しては、実現したいことが本当にたくさんあるので。

今回、制作を共同テレビさんに依頼しているのですが、通常のテレビ番組並に制作コストがかかっています。これまでのYouTubeで配信していた企画とは比較にならないコストがかかっているので、成功するかどうか賭けでもありました。結果、クオリティの高いコンテンツを多くの視聴者の方に楽しんでいただけたのは良かったと思います。

――実際ファンの間でも「こんな面白いコンテンツをYouTubeで観られるなんて!」といった声があります。

鈴木:

これは弊社の課題でもあったのですが、3Dモデルを活かす場がなかなか無く、どうしてもお披露目配信やライブに集約されている状況でした。今回の企画はそういった現状を打破するための策でもありました。単純にゲームをする番組を制作するにしても3Dで本人たちの動きを見せた方が面白いですし、にじさんじのファンでない方にも魅力が伝わりやすいと考えています。

また、ファンの方々がVTuberの配信を全く見たことがない知人に勧めようと思ったとき、その選択肢のひとつとして挙げられるコンテンツにする、というもう一つの目標もありました。普段見ているテレビ番組のフォーマットそのままであれば、未知のコンテンツに対する心理的なハードルを限界まで下げることができるのではという考えです。

他企業と協力してライバーの夢を実現する

――にじさんじライバーの音楽レーベルでの活躍についてお聞きします。まず「Rain Drops」がオリコン初登場1位という快挙が話題となりました。また「petit fleurs」のラジオやイベント進出も注目されています。こうした動きについて、どのような手応えがありますか?

鈴木:

これまで歌をメインに活動してきたライバーたちにとっては、メジャーレーベルでの活動は自信につながったと思いますし、今後の活動にプラスの影響を与えてくれているかなと。

Rain Dropsの「musicるTV」出演やpetit fleursの「A&G ARTIST ZONE THE CATCH」登場など、これまでの雰囲気とは違った媒体に登場してPRできたことで、音楽方面からにじさんじを知っていただく機会ができたと思っています。

また既にいくつかのレーベルから新曲の情報を公開しており、それぞれレコーディングもスタートしています。どれも素晴らしい楽曲ですので、ファンの皆さんに聴いていただけるその日を楽しみにしています。

――複数のメジャーレーベルと契約したこともあいまって、他企業との協力関係が広がっている印象です。それにあわせて、にじさんじの中でも体制や方針に大きな変化はありましたか?

鈴木:

正直、変化はありません。それを機にした組織図的な変更もありませんでした。私たちは、あくまでライバーたちの可能性を広げるという方針で動いていて、企業と協力関係を結んだことで、何か制約が生まれるのを望んでいるわけではありません。

当然、弊社はまだ4期目のベンチャーなのでできることにも限度があり、そういったところを他企業の方に力添えいただいている状態です。

基本的に、ライバーがやりたいことをより広げられるようにという観点でリレーションを築いていますね。ありがたいことに各社担当者の方々も弊社ライバーの配信を普段から見てくださっており、打ち合わせの際に直近であった配信について雑談することもよくあります。

――他企業と一緒にプロジェクトをすることで気づいたメリットは何かありますか?

鈴木:

長くお付き合いしてる会社の方は弊社の事業特性などを非常によく理解してくださっているので、物事が早く進むのは大きなメリットです。例えば「レバガチャダイパン」では、元々「にじさんじのくじじゅうじ」や「年またぎにじさんじ!」を担当してくださっていたチームと同じですので、スムーズに番組収録が進みました。

音楽ライブなどの大規模イベント制作も基本的に同じチームで続けていますが、やはり普段から一緒にやっているチームは押さえるべき勘所をしっかりと把握しているので何事もスムーズに進行できますし、クオリティ向上に注力する体制は整っていると思います。

これも普段からライバーが努力してくれているおかげですね。彼ら彼女らの活躍を見て、進んで協力してくださった方々も多くいらっしゃいます。ライバーがしっかり自分たちのやりたいことに邁進しているからこそ、活動への理解を深めてくれているのだと思います。

ライバーに残してほしいもの

――お話を伺っていると、2019年12月に実施したインタビューの頃から事業運営の方針が一貫していると感じています。

鈴木:

人間、すぐに性格が変わるわけではありませんので(笑)。私はマネジメントではなくビジネス側の統括という立場ではありますが、現在も“各個人の「やりたいこと」「やれること」を最大限広げていく”という基本的なポリシーは変えずに動いています。

ポリシーをコロコロを変えてしまうと、1年前から仕込みをはじめるといった作業が成立しなくなってしまうので、長期的に見ると成長できなくなってしまいます。先々の未来を創っていくためには、根幹の思想は変えず、一方で細かいところは臨機応変に展開していくということが重要ではないかと。

なので、いくつかあるポリシーのもとで引き続きグッズ展開やイベント企画、公式番組の制作などを進めています。同様にマネジメント部門でも、所属しているライバーをしっかり支えていけるような体制を強化しています。そのおかげで、少しずつ成果が見えてくるようになりましたね。

――ライバー側からすれば自分の「やりたいこと」が実現できる環境が整ってきたことは喜ばしいことではないかと。

鈴木:

そう感じてくれているのであれば嬉しいですね。また、長い目で見たときライバーの中には新たな挑戦をするという決断をする人もいると思います。その時に「彼ら自身に残してあげられるものはなんだろうか?」と考えると、普通の人では絶対にできない「経験」を提供することがタレントマネジメント会社としての私たちの使命かと思っています。

「だいたいにじさんじのらじお」を例に取ると、構成作家と話し合って、ネタを決め、放送局のスタジオでマイクに向かって話すということを毎週やるわけですが、この経験は普通にサラリーマンをやっていたら得ることは無いであろう、非常に貴重なものです。ファンで客席いっぱいになっている両国国技館やZeppのステージに立ち人前でパフォーマンスをすることや、メジャーレーベルからデビューし自身の楽曲をリリースすることも、普通ならば中々得られない体験でしょう。

にじさんじのライバーとして活動したすべての経験は、今後なにをするにしても必ず活きてくると信じていますし、そういった「普通ではできない経験」を数多く積むことができるのが企業に所属して活動するメリットの一つだと思っています。

――この先、にじさんじ全体で起きる大きなプロジェクトなどは予定されていますか?

鈴木:

YouTubeのにじさんじ公式チャンネルのコンテンツは今後も増やしていく予定です。メンバーシップも解禁されたので、入会してくださった方々に向けた限定番組を現在制作しています。

現在配信している「もっとミラクル!にじさんじ」は「何をやるかを作っていく番組」という感じです。放送作家との対談から徐々に具体的なものへと固まっていく過程をお見せするような番組になるかと思います。「分かりにくいけど、なんか面白い」といったものが出来上がると思うので、ぜひ楽しんでいただけたらと思います。

――「分かりにくいけど、なんか面白い」といったコンテンツが具体的にどのようなものなのか、非常に楽しみです。

鈴木:

言い切ってしまうと、ハードルが上がっていまいますが(笑)。そもそもにじさんじも、「Twitterのトレンドににじさんじという単語がよく並んでいるけれど、どういうものなんだかよく分かんないな」という方が多いと思います。「レバガチャダイパン」のようにそういった方々に興味を持ってもらえる、面白いコンテンツをしっかりと広げていき、VTuberという文化をより多くの人に知っていただくことが我々の目標です。

正直、企業としての体力や資金力が必要となる上にリスクも非常に大きいですが、そういった未知の領域をどんどん開拓していくことがVTuber業界全体の未来を広げることに繋がると考えていますし、私たちがその最前線を切り拓いていくという覚悟を持って事業計画を立てています。

――他に番組以外で予定している展開などはありますか?

鈴木:

7月28日にクラウドファンディング企画「にじさんじアパレルグッズプロジェクト」が始動しました。これまで原価や最小ロットなどの観点から実現されなかったグッズを生産する企画です。All-InではなくAll-or-Nothing形式で実施したのもその観点でのクラウドファンディングであることを明確にするためでした。結果として、ありがたいことにストレッチゴールまで達成するほどにファンの方々からご支援をいただくことができました。

今後も定番化したものだけではなく、より様々なグッズをみなさんに提供できるよう尽力していきます。

――お話を聞いていると、今後のにじさんじの動きにも大きく期待が持てますね。

鈴木:

まだ一部しか実現できていませんが、やりたいことは本当にたくさんあります。前回インタビューしていただいた時点で準備をしはじめていたけれどまだ世の中に出ていないものも複数あります。私たち運営も、所属しているライバーも、一人でも多くの方により良いエンタメを届けられるよう日々準備していますので、今後も見守ってくださると嬉しいです。

――ありがとうございました。


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