2024年には数多くの才能を持った、バーチャルな世界で活動するアーティスト・クリエイターが登場しました。今回は2025年のさらなる活動に期待を寄せたい人々に焦点を当て、昨年の作品をピックアップしながら紹介していきます。
【短編映画】『22:00』【全編VRChat撮影】
今年も凝った作品が多数出ており、どれが素晴らしいという甲乙がつけられない「VRChatムービーアワード」。現在のVRChatを利用した映画表現として、余裕があるなら全部見てほしいほどです。
その中から、サクッと見られて、表現がうまくて、VRChatでこんなこともできるんだと楽しめるのがMB HOLDINGS(松箱工業(有))の作品。9分の短い作品です。
セリフはゼロ。ホラーテイストの前半と、急展開の後半がうまく配合されており、脚本の妙を感じます。撮影アングルも丁寧で、前半後半ともにそれぞれのテンポをうまくエンタメ化するこだわりを感じます。
実際の映画撮影は場所の確保や集合時間の調整など難しい部分が多いです。しかしVRChatでここまで面白い映画が撮れるのであれば挑戦する価値があるのではないか、と感じさせてくれるショートムービーです。
ノミネート作品一覧はこちらの再生リストでチェックすることができます。現在は第三回エントリー作品を募集中。締切は2025年1月31日までです。
[1440p LIVE] CANDYTRIP -other side- Day1
イベントが開催されるたびに、多くの人をトリップさせている「CANDYTRIP」。こちらの記録映像(撮影:れもん果汁)で、音楽とVR演出の一部始終を観ることができます。
自在にねじれていくかのような極彩色の空間演出、会場をこじあける猫の登場、追いかけてくる猫とおもちゃの飛行機の追いかけっこ、法則を無視した宇宙への旅……おおよそリアルのクラブイベントでは見られない展開の連続です。こればかりは絶対にVRでしか体験できませんし、VR機器で見ないとすごさが伝わりません。こんなにも面白いクラブイベントがあるのだ、ということをしっかり伝えてくれる、記録映像です。
音楽はすべてDJのオリジナル曲、というのもクラブイベントとしてはハイクオリティ。音楽、映像、演出のスタッフすべてが技術の粋を尽くした作品としての「CANDYTRIP」、今後も続いていくようなので、ここからどのような形で進化をしていくのか、とても楽しみです。完全オリジナル曲ということは撮影もしやすいので、最近VRChatを始めたばかりのプレイヤー・ストリーマーも生で体験し、撮影し、発信してほしいイベントです。
【 #vket2024winter クリエイターインタビュー】みんなで作るVR【火威青 】#hololiveDEV_IS #ReGLOSS
ホロライブ火威青は、3D化をしてから積極的に、VRChatのよさ、クリエイターのすごさを伝えようと熱意をもっている人物のひとりです。特にこの配信では、Vket2024winterの中で、出展クリエイターに直接インタビューを敢行。自身がインフルエンサーであることをうまく利用し、少しでも多くのクリエイターのことを知ってほしい、という情熱あふれるインタビューを行っています。今までもクリエイターにインタビューをしていたVTuberはいましたが、彼女も同様にとても強い信念を持って、ものづくりに向き合う人々にスポットを当てようとしているのがわかります。
企業所属のVTuberが一般の人へ接触すること自体、安全面などでハードルは高くなりそうに思えますが、同時にVRChatでの活動はスタッフの助力を得られている利点もあります。火威青の熱意は力強く活動の幅を広げている最中です。
火威青はVRChatとVTuberをつなぐための配信を意欲的に行っています。VRChatは特殊な場所というよりも、生活の場である、バーチャルが生きている空間である、という考え方が強く、その「当たり前」ができる魅力をアピールしています。クマリン(宝鐘マリンのくまの姿。無言)とのコラボ動画ではふたりのおちゃめな自然体のやりとりが撮影されており、話題になりました。
彼女は「VTuber」「VRChatプレイヤーで外部発信する表現者」「VRのクリエイター」の才能が絡み合う際のハブとして、重要な存在になっていきそうです。
VRC世界旅行 フランス編
「VRC世界旅行」はVRChat上にある世界の史跡や建造物などのワールドを巡りながらガイドをし、バーチャルに旅行ができる定期イベント。自分たちのグループ内でワールドを制作してしまうほどの熱量で活動をしています。
その楽しさをおさめた動画を撮影し、個人でアップしているのがらbyる。ただのワールド巡りではない、きっちり計画された「旅」「ツアー」の味わいをあらゆる角度から捉えて動画にしています。
参加者目線で見ている楽しい感覚、俯瞰してみるイベントの全体像、実際の場所を再現したワールドの美しさ、3つの視点を丁寧にわけながら撮影・編集しているので、このイベントの魅力がトータルでわかりやすくまとまっています。
特に参加者目線での撮影がうまく、みんなが楽しんでいる瞬間をしっかりおさえているため、バーチャルで声も聴こえないはずなのに、感情が伝わってくるかのようです。
イベント運営と関係ないところで、このように個人でイベントのよさを記録しているのは、イベントを新しく知ってもらう上でも貴重ですし、メタバースでこんなことができるという今の記録としても価値があります。そしてスタッフにとっても最高の応援として、大きな励みにもなるはずです。
らbyるは数多くのワールド紹介動画もアップしています。こちらも視点の位置を計算しながら撮影しているため、あたかも実際にワールドに入っているかのような感覚を得られます。
実際にワールドに入って感じるものは人それぞれ。だからこそこのように映像クリエイターが自身の感性で魅力を切り取り、ワールドを楽しむための視点を広めることも、これからのプロモーション術かつVRChat批評として重要になりそうです。
𝟯𝘿 𝙪𝙥𝙙𝙖𝙩𝙚 𝙡𝙞𝙫𝙚
VEE所属の月白累は、見ていると独自の世界観に引き込まれるVTuberです。「息も凍るような厳しい寒さの夜、“デジタルツールを通さなければ他者から認識されない”「失われた子供たち(Lost children)」と呼ばれる奇妙な病を患う少女が保護された」という公式の紹介にあるように、かなりハードな生い立ちを背負った彼女。3Dお披露目配信では、解析のゲージの%数値があがるごとに実体化し3Dになっていく特殊な演出が入っています。100%になったときに、彼女の歌がサビのクライマックスになる表現は圧巻です。
月白累の持つ背景と活動内容は多くのファンを巻き込んだ劇場型VTuberとして注目したいポイントが数多く存在します。
たとえばオリジナル曲、カバー曲ともに彼女の世界をしっかり反映したものになっており、配信も歌とトーク中心、画面の構成も尋常ではないこだわりが見られます。透明で悲哀のある歌声は、一度聞いたら忘れられない引力があります。トークにおける話し方で、ぐっと心を掴まれた人も多いでしょう。
VEEでは月白累らが参加するプラネタリウムを用いたライブ「VEE Presents “Seek the Brilliance”」が実施されました。ドーム型のプラネタリウム空間に3DVR映像を投影する新しいスタイルのライブ手法で、立体音響を用いることでリアルな空間でのバーチャル体験ができるユニークなイベントです。ライブ当日の写真は配信で観ることができ、制作スタッフインタビューも公開されています。
簡単にできるライブではないと思いますが、是非このスタイルを発展させて、さらなる表現に挑んで、それぞれのVTuberたちの世界を見せてほしいものです。
Cinematic Neon Club – It’s Time
【 ライブ生配信 】ネネクラ ワンマンライブ「MONA LISA OVERDRIVE RE:PRINT 」
VRChatでも活躍するミュージシャンとしてイベントで人気のCinematic Neon Club。元々人気のあったVSingerMecoriを中心としたバンドですが、特徴のひとつがPJ(パーティクルジョッキー)のayafujiがメインのひとりとしてステージに出ていること。どんなライブになるかは、ワンマンライブのパフォーマンスを見るとわかります。
本来裏方であるPJが表に出ることで、VRライブのパフォーマンスの面白さを強調している、というのはバーチャルアーティストならではの見せ方のひとつ。Mecoriの大人びた空気を感じさせる歌声と、コンポーザーtom_atomの癖になるキャッチーなメロディは聴き応え抜群。VRを活かした新しい形態のエンターテイナーとして、これからますますVRイベントで引っ張りだこになりそうです。
はいはいすっとこどっこいすたこらさっさのぴょんぴょん / ホム・レス (MV)
3Dで流麗にピアノを弾いて見せてくれる(元ホームレスの)音楽家、ホム・レス。デビュー時からその音楽と映像の実力は多くの人を驚かせていましたが、2024年はYouTubeでも、リアルイベントでも、その才覚を大爆発させていました。
中でもオリジナル曲「はいはいすっとこどっこいすたこらさっさのぴょんぴょん」は、和テイストでリズミカルな音楽の爽快感と、異様な存在たちがリズムにあわせて揃う妙に気持ちの良い映像で唯一無二の世界観が生まれている特異な作品です。
他にも音楽動画で、これまたツッコミどころが多いのに音楽的にしっかりしているためかっこいい作品をバシバシ作っているのがホム・レスの味。このテイストはなかなか他では出せないため、今後独創的なVRアーティストとしてさらなる音楽、MVを魅せてくれることを期待したくなります。
鯨の子‐Tele 歌ってみた(cover)【くじさき/Kuzisaki】
ミュージシャンで、クリエイターで、旅人のくじさき。彼女の夢は「一番でかいクジラに会う」こと。配信では弾き語りを聴かせてくれて、動画ではシロナガスクジラに会うためスリランカまで出かけています。
VTuberとしてはかなり異色な夢の持ち主が表現しているからこそ観ることができる、たくさんの魅力が彼女のチャンネルにはあります。
そのひとつが、この歌ってみた動画の「鯨の子」。実写の夜の街に飛び出し、駆けていくくじさき。朝になるまで走り続け、朝焼けの中で博物館のクジラに会いに行く様子が、かなりリアルな形式で撮影した映像で観ることができます。
くじさきの存在感をおさめた映像はエモーショナルで見応え抜群。彼女のボーカルは「かわいいアイドル的楽曲」も「生命を感じる弾き語り」も可能性にあふれており、積極的に挑戦するスタイルも含めて今後さらに期待をしたくなる実力が感じられます。
ハートビート CT Cover Arrange(原曲:C&K)
2024年に放映された「VRおじさんの初恋」はあらゆる層の間で話題になりましたが、モチーフになっているであろうVRChatのプレイヤーの心を色々な意味で串刺しにしてくれました。
そのエンディング曲をカバーしたのがつつみちぎり。VRChatプレイヤーとしての感情も深く込められた、つつみちぎり自身の作品に対する解釈もこめられた胸に来るカバーになっていました。
MVのこだわりは、ドラマと原作コミックを見た人なら驚くものばかりだと思います。作中で出てきたシーンを思い出させるワールドをチョイスし、つつみちぎり本人が登場するキャラクターとシンクロしながら演じて撮影、きれいで切ない思い出のようにまとめられています。撮影ワールド一覧が概要欄に掲載されていますが、その多さに圧倒され、原作への愛情に感動させられます。
つつみちぎりはVRライブも行うようになり、VSinger・Vアーティストとしての活動も期待が寄せられています。以前からDTMでオリジナル曲を制作している「オタクにやさしい不良DTMギャル」として、これからの活動に大いに期待ができる表現者のひとりです。
【MV】Panorama Radio Station/餅田とも
VRChatなどバーチャルな舞台で、HipHopシーンはもりもりと育っている最中です。その中で積極的な活動を行い牽引しているひとりが餅田とも。アフロが似合うファンキーなラッパーです。
元々MVを多く出していた彼ですが、2024年にはVRChatを活用した3DでのMVを数多く撮影しており、HipHopのかっこよさを形にして届けてくれました。
中でも「Panorama Radio Station」は、ジャジーなトラックとアナログなワードの響きが心地よいキラーチューン。リリックを刻む声も聴きやすく、ついつい身体が揺れるナンバーになっています。
他の作品もですが、餅田とものMVはVRダンサーが出演しているのも見どころのひとつです。今のVRChatではダンスシーンがかなり盛り上がっており、進化したトラッキング技術でショーケースやダンスサイファーなどで華麗なダンスを見せてくれる人が増えました。VRにあわせたダンス技術を教えるイベントなどもあり、かなり活気のあるダンス界隈から、VTuberの海夏青などを招いてMVに起用しているのは、彼のMVの特徴です。
「HipHop」が音楽ジャンルというよりも複合文化であるように、ラップ、ダンス、VR、ワールドなどを複合的にとらえてMV作品にする餅田ともの表現は、今後も目が離せません。