4月12日まで開催中の「Art Masters:プラド美術館所蔵品 VR 展(特別協力:株式会社ティーケーピー)」のメディア向け内覧会が、イベント会場である東京タワーフットタウン1階タワーホールA現地にて開催されました。
VR技術を駆使した、名画の中に入り込み歩き回れる体験
本展では来場者がVRヘッドセットを装着し、スペイン国立プラド美術館を代表する名画をテーマに、美術館内からいつしか絵画作品そのものの中に入り込み歩き回るような、VRならではの体験ができます。

(オフィシャルの体験イメージ画像です)
本作品は先行して上海、アルゼンチンで公開されており、今回の日本での開催は3か国目となるそうです。
歩いてさわれる非日常ーー実際の体験レポート
入場し、入口スペースと廊下を通って体験エリアへと移動します。
機材の設置・配置方法の詳細については非公開とのことでしたが、体験エリアにはマーカーが張り巡らされており、このマーカーとVRヘッドセットの位置関係から体験者の具体的な位置や動きを推定していることが伺えます。
荷物置き場やコートを掛けるスペースの用意はありましたが、鍵付きのロッカーの用意は会場内にはありませんでした。本体験では歩くだけでなく手も使用するため、両手を空けながら貴重品を身に着けられる用意(ポケットのある洋服の着用やウエストポーチや肩掛けポシェットなど)が来場者側で必要です。
配布された保護マスクを装着し、スタッフの方にVRヘッドセットを被せてもらいます。機種はPICO 4 Ultra Enterprise。約0.7kgと軽量なため、体験時間の約30分を経ても全く首や肩の疲労は感じませんでした。

プラド美術館の警備員テオの案内で美術館や絵画の中を巡ります。

体験としては、テーマパークのライド型の周遊アトラクション、もしくはホラー・ゴア表現のないお化け屋敷を歩いて周るような感覚に近いです。
ここが実際は約9m×23mのまっさらなホールであることも忘れて、非日常的な空間を、順路に従って自分の足で歩いていきます。
特筆すべきは、本体験ではハンドトラッキング機能を用いて、自分の手で直接VR空間内での一部の物に対して触ったり押したりすることが可能なところでした。フレーバー程度であっても、VR空間内のものに少しでも直接触れられたりインタラクティブ性があったりすると、抜群にわくわく感が増します。


(こちらのスクリーンショットにあるように、自分の手でまわせる地球儀や、めくれる本、手足を動かせるポージング人形などがありました)
他の体験者は石像の頭部+各VRヘッドセット固有の番号が表示されるため、同行者の番号を覚えた上で同時にスタートできれば、4人まで同一グループとして一緒に周れるとのこと。また、この石像を避け合うことで他の体験者との接触・衝突を避けられるようになっています。
アトラクション的な高揚感と、残る課題
内容的には作品の制作背景についての学びを深めるというよりは、美術館や名画を舞台にして、アトラクション的な高揚感を楽しむことに焦点を当てたコンテンツとして仕上げられている印象でした。
「名画が描こうとしていた世界をどのように3D空間に拡張して動かしたら楽しいものにできるか」という試み自体はn次創作的な取組みのようにも感じられますが、本イベント主催のAquaVision 株式会社代表の付斯瑶氏によれば、本作はライセンサーであるプラド美術館の全面的な協力と監修を受けた上で制作しているとの話でした。
本作は見学というよりエンタメ性に振り切っており、VRの技術としての可動域が存分に生かされ、個人的には終始楽しく体験することができました。
本作も含め、フリーローム型のVRの特に素晴らしい点は、「自然とあたりを見回す」という点ではないでしょうか。内容にもよりますが、着席・起立したまま定点で体験するタイプだと、後ろを振り返ったり足元を見ようする機会が比較的発生しにくく、せっかく360度を想定されているコンテンツでも、前面180度内で体験が完結してしまうこともままありますが、歩き回るタイプだと自然とあたりを見まわしたり、歩行時に視線が下がって足元までよく見たり、よりVRの360度の空間としての体験の恩恵を受けやすく感じます。
一方で、フリーローム型であるがゆえの各種安全性の確保については課題を感じる内容でした。
一つは前述の通り場内に鍵付きのロッカーの用意がないことです。貴重品管理を参加者自身で行わなければならないのはライブハウス等も同様ですが、本イベントでは体験者はVRヘッドセットによって視界を奪われており、耳の意識もVR内に向いている状態です。場内を見守るスタッフが常駐しているとはいえ、この状態で自己責任で盗難等に気を付けながら歩き回らなければいけないというのは、かなり難しいことのように感じられました。
もう一点は、他体験者との衝突を避けながら決められた順路を歩くことが難しかったことです。今回のメディア向け内覧会では、そもそも体験エリアの広さに対して参加人数が多く、人と人の間隔が狭くなりがちだったということもありますが、それに加えてコンテンツ内で想定されている通路が狭い場合がありました。そこに一人から数人の別の体験者が滞留していると、上手く通れない状態になってしまうことも。「既定の時間内に次のポイントに辿り着かないと置いていかれてしまうのではないか(コンテンツが途切れてしまうのではないか)」という焦りもあり「人を避けながら決められた順路を規定時間内に歩く」ということが難しく感じられます。
また通信の問題なのか、たまに他体験者の位置を示す石像が無の状態から突然目の前に現れたり、逆にまだ実際他体験者本人は目の前にいるはずなのに、いきなり石像の表示が消失する場面があったりと、ドキッとする場面も数回ありました。VRヘッドセットを装着をしている際、他体験者の位置は原則石像の表示で把握するしかないため、この挙動には不安を感じます。
また、石像自体も上半身の表示のみで、下半身の表示がないため、うつむき加減で慎重に歩行している時ほど他者の石像の表示が自分の視界から外れてしまいそうになることがあり、推定であっても足元まで表示した方が良いのではと感じました。実際に何度か立ち止まっての鑑賞中に他体験者から軽く衝突されるシーンもありましたが、とはいえ互いに大人同士で全員慎重に歩いてはいる中での軽い衝突なので、大事故に繋がるような不安までもを今回感じた訳ではありません。
しかし、フリーローム型のVRでは、視界を奪った上での一定の行動の自由を体験者個人に委ねざるを得ない以上、主催者側で講じられるあらゆる安全対策に関してはVRコンテンツ内でもイベント運用側でも限界まで講じて欲しいと感じました。
そういった課題は感じつつも、全体的にはフリーローム型のVRの可能性については夢が広がる内容でした。今回は美術館と名画をテーマにした空間とストーリーでしたが、例えばゲーム、アニメ、漫画、小説などで登場する、実在しない空間の中に入って実際に歩いたり、自分の手で触れたりすることができたなら……などということまで想像ができる、多くの既存IPと相性の良さそうな、フィクションに特化した作りの体験でした。
また本体験ではハンドトラッキングを利用した「自分の手で触れる・動かす・押す」のインタラクティブ性が発揮できるシーンがある事が印象的でしたが、その部分のチュートリアルがすごく充実しているという訳ではなく、また歩く際に導線を捉えるのが少し難しいシーンもあったので、本イベントがVR初体験という方には一度で全ての楽しみ方を網羅するのはやや難易度が高いかもしれません。
ただ、ある程度VRに慣れている人や、インタラクティブ性を求める人だと比較的しっかりと網羅的に楽しめるのではないでしょうか。インタラクティブ要素の充実と、VR初心者の方にとってのわかりやすさは、基本的に反比例するものであるとは思いますが、そこは今後フリーローム型VRが世間に定着して充実していくことで、各自の経験に応じた難易度選択がしやすくなる環境が整っていくことに期待したいです。
| 項目 | 内容 |
| 展示会名 | Art Masters: プラド美術館所蔵品VR展 |
| 開催期間 | 2025年12月23日~2026年4月12日(予定) |
| 開催場所 | 東京タワー 1階 タワーホールA |
| 体験時間 | 約45分(30分のVR体験を含む) |
| 営業時間 | 10:00~22:00(最終入場時間 21:15) |
| チケット料金 | 平日券:¥4,000(税込)~ ※各種割引き制度あり |
| 公式サイト | https://www.artmasters.jp/ |
※1月20日現在、一部のチケットサイトでは旧価格で販売されています。チケット購入の際は公式HP記載の価格と購入価格が一致しているかをよくご確認の上お求めください。1月25日頃を目途に全てのチケットサイトで新価格で販売予定とのことです。
プロデューサー:ACCIONA Living & Culture
主催:AquaVision株式会社
共催:株式会社ティーケーピー
協力:株式会社TOKYO TOWER
後援:駐日スペイン大使館
ライセンサー:プラド美術館










