Home » 【Oculus Quest】アンネ・フランクの生きた証を辿る「Anne Frank House VR」レビュー


ゲーム・アプリ 2019.09.28

【Oculus Quest】アンネ・フランクの生きた証を辿る「Anne Frank House VR」レビュー

1944年8月4日、1人のユダヤ系ドイツ人の少女がナチスドイツの秘密警察、ゲシュタポに逮捕されました。少女の名前はアンネ・フランク。彼女は逮捕後、強制収容所に移送され、その先で死を迎えることになります。

アンネは元々、ドイツに住んでいましたが、同国内でユダヤ人への弾圧が強まると、家族と一緒にオランダへと逃亡しました。今回ご紹介する「Anne Frank House VR」は、ナチスによるオランダ占領後、彼女とその家族たちが約2年間隠れ住んだ家をVRで再現した作品です。

VRで隠れ家の中を散策

「Anne Frank House VR」は、オランダのVR/ARスタジオForce Fieldが制作しました。2018年にOculus Rift版、Oculus Go版、Gear VR版がリリースされ、2019年6月にOculus Quest(オキュラス クエスト)版がリリース。全バージョン無料で配信されています。

本作でプレイヤーが散策する隠れ家は、あの「アンネの日記」が書かれた場所です。内部に設置されている本や写真などに触れることで、対応する「アンネの日記」の内容を、読み上げ形式で聴くことができます。

「Anne Frank House VR」には、「Story Mode」と「Tour Mode」の2つの体験モードが存在します。「Story Mode」では、ナレーションによる歴史説明を受けた後、隠れ家内部を設定されたコースに沿って散策します。散策中に再生される「アンネの日記」によって、アンネとその家族、そして一緒に隠れ家に入ったユダヤ人(※)たちが、どのように生活していたかを知ることができます。

(※:隠れ家ではフランク一家(父オットー、母エーディト、長女マルゴー、次女アンネ)のほかに、4人のユダヤ人、計8人が生活していたとされる)


(アンネ・フランクの部屋。物品に触れたりすると、音声が再生される)

「Tour Mode」では、コースの制約を受けずに隠れ家を探索することができます。自由に動き回れるというシステム上、一部音声の再生方法が「Story Mode」と異なりますが、それ以外に大きな違いはありません。

本作では、移動は基本的にワープ形式で行います。6DoF(※)を活用した直接移動も可能です。ただ、激しい動きを必要とする作品ではないため、筆者の場合、立ち位置の微調整以外には直接移動をプレイ中ほとんど使用しませんでした。

(6DoF:デバイスの向きと位置情報の両方を認識するトラッキング)


(隠れ家のリビング。生活感にあふれています)

細部まで丁寧に描かれたグラフィック

「Anne Frank House VR」の上質な体験を下支えしているのが、丁寧に作り込まれたグラフィックです。歴史・戦争の被害者について学ぶというコンテンツの性質上「実際のその場にいる」という感覚をプレイヤーに与えることが非常に重要となりますが、本作のグラフィックはその役割を見事に果たしています。

資料や実際の隠れ家を徹底的にリサーチして作られたと思われる(VR内の)隠れ家は、無造作に置かれた書物や洗いかけの食器など、プレイヤーが訪れる直前まで、アンネたちが生活していたかのような雰囲気に満ちています。

なお「Anne Frank House VR」では、プレイヤーが干渉可能なオブジェクトは一部の物品に限定されています。通常のVRゲームでは減点要素に近い仕様なのですが、本作に限って言えば、むしろ良い方向に作用していると感じました。仮に多くのオブジェクトが動かせた場合、不慮の接触などで物品が動き、隠れ家の雰囲気が台無しになる可能性があるからです。


(ポーズ画面では隠れ家の建築模型が表示され、それぞれの部屋の位置や居住者を知ることができます)

光の描写には限界あり

Quest版「Anne Frank House VR」は、モバイル向けプロセッサを使用して動作する同VRヘッドセットに最適化された作品です。ですが、PCのGPUを使用して描画を行うOculus RIft版と比較しても、極端なテクスチャーの劣化は見受けられませんでした。

ただ、光源処理についてはOculus RIft版「Anne Frank House VR」に大きく軍配が上がります。同機種版に実装されている窓から差し込む美しい光の描写は、Quest版には基本的に存在しません。プロセッサの限界なのでしょうが、Rift版では神秘的な雰囲気さえあった隠れ家が、薄暗くなっているのはプレイしていて残念でした。

(Rift版配信当時に公開されたトレーラー)

総評として

「Anne Frank House VR」は、第2次世界大戦中に起こった1つの悲劇について深く学べる作品です。ナチスによる直接的な弾圧の描写は描かれていませんが、日記の読み上げを聞きながら誰もいなくなった隠れ家を散策するという作りは、筆者の心に深く響きました。

本作は、VR作品のなかでも小ボリュームな作品で、単純なプレイ時間(Story Mode)は25分から30分程度です。ですが作中に込められたメッセージは、現在リリースされているVR作品のなかでもトップクラスに強いと断言できます。

2019年9月現在、「Anne Frank House VR」は日本語対応はしていません。本作のラストには日本語版「アンネの日記」が登場するシーンが存在するだけに、日本のQuestユーザーにとってプレイするハードルが高いことは残念に感じます。

「Anne Frank House VR」の“文章”の大半は「アンネの日記」からの引用であり、プロジェクトが始動すれば、翻訳自体はスムーズに行えると思われます。1日も早く、日本語版がプレイできる日が来ることを願うばかりです。

ソフトウェア概要

タイトル

Anne Frank House VR

開発元

Force Field

対応VRヘッドセット

Oculus Rift(Rift S)、Oculus Go、Gear VR、Oculus Quest

プレイ人数

1人

価格

無料

ダウンロード

Oculus Store(RiftGoQuestGear VR

公式サイト

https://annefrankhousevr.com/


VR/AR/VTuber専門メディア「Mogura」が今注目するキーワード