昨今、ゲーム系のクラウドファンディングに流行り廃りはあれど、VRゲームのクラウドクラウドファンディングのプロジェクトはなかなかに珍しいものとなっている。特に、それがアニメ風のVRゲームとなれば、なおさらだ。しかし、ニュージーランドの若者が主催するゲームスタジオ「Plectrum Soft」が開発するアニメ風VRアドベンチャーゲーム『Project Mix』は、VRゲームのクラウドファンディングとして異例の速さで目標額を達成した(Kickstarterのページ)。本作はSteamでデモが配信されており、ゲーミングPCとVRデバイスを持っていればいますぐ体験できる。いちVRゲーム開発者としての筆者の観点からその魅力をお伝えしていこう。
前置きの通り、本作は1990年代の日本のサイバーパンクから多大な影響を受けているが、香港ノワールの色が強いものとなっている。本作の主人公である男性「ローン」はチャイニーズマフィアから抜け出したのち、バーのオーナー「バレンシア」と出会ったことをきっかけに、バーテンダーとしてカクテルを作ったり、客と交流を深めたりすることを通して自身の人生を見つめなおす。プレイヤーはローンの視点になってバーテンダーとしての日常を経験していく。
以上の説明を聞いて2017年の名作アドベンチャーゲーム『VA-11 Hall-A』を思い出した方も多いことだろう。『VA-11 Hall-A』は昨今のインディーゲームで定番となった「何かしらのサービス業(飲食店など)で顧客にサービスを提供することでキャラクターとの会話を楽しむゲーム」というジャンル、つまりサービス業型アドベンチャーゲームの開祖というべき存在だ。このジャンルは、サービス業の提供というミニゲームを通してキャラクターたちの会話を聞き、単なるサービス提供者と顧客という関係からより深い信頼関係を築いていったり、キャラクターのバックグラウンドを知っていくのが魅力となっている。
『VA-11 Hall-A』は90年代の日本のPC向けビジュアルノベル(いわゆるエロゲー)に多大な影響を受けたサイバーパンクの世界観とアニメっぽいビジュアルで知られている。そして『Project Mix』はそのサイバーパンクな世界観でアニメっぽいビジュアルでバーテンダーをやるという点において、ド直球なほどに『VA-11 Hall-A』のフォロワーだ。しかし、本作ならではの魅力を有しているからこそ、クラウドクラウドファンディングで熱烈な支持を得ている。
作りはベーシックなアドベンチャーだが、VRとしてのレベルが異常に高い。
ゲームプレイについて説明しよう。さきほど述べたように、本作は接客を通してキャラクターと交流を深めていく。いくらかのキャラクター(大抵は悩みを抱えている)がバーに現れて、会話をしながら相手のことを知る。相手のリクエストに応じて、様々な調理器具や材料を駆使してカクテルを作る。カクテルの種類や出来に応じて、相手のキャラクターが喜んだり打ち解けたりする。このサイクルを繰り返すことで収入を稼ぎ、営業が終わったらバーのマスターと打ち上げでビールを飲みかわし、屋上でタバコをふかしてたそがれる。退勤後はアパートの自室でネコを愛でたりカップ麵をかき込んだりして、就寝をする。以上がデモで体験できる一通りの内容だ。
本作の魅力は、その徹底的な舞台の作りこみだ。香港の九龍城のような混沌とした建物や街並みはもちろん、バーのカウンター、アパートの部屋から屋上の夜景まで、VRで見たときにあっと言わされるディテールの細かな舞台がそこにある。当然、背景が作りこまれているだけなら、それはただの見た目の飾りにすぎないが、本作が圧倒的な説得力を持つのは、高品質な背景にふさわしい豊かなインタラクションが用意されているからだ。
VRゲームは(元から「鑑賞」や「読書体験」だと割り切るものであれば別だが)基本的には「プレイヤーが現実世界のようにふるまい、世界を見て触って動かせる」ことが期待される。逆にいえば、これが満たされないとVRらしい体験として満足できるものではなくなる。なにか触ったら何かが起きそうな見た目なのに何も起きないとか、そもそもインタラクションするものがないといったものは、たいへんプレイヤーの期待を損なってしまう。特にVRでプレイヤーが自由に動けるアドベンチャーゲームを作ろうとすると、(ストーリーや背景の製作上、どうしても必要な)インタラクションに直結しないハリボテのオブジェクトが大量に生まれる。これがVRでアドベンチャーゲームを作る上での最大の難点だ。
しかし、本作は接客業というシチュエーションを中心としたインタラクションに注力することで、店内で展開されるストーリーが組み合わさり、シナジーで体験の質が異常に高くなっているのだ。バーのカウンターでカクテルを作るために、冷蔵庫からジュースを取り出し、レシピ通りにアルコールを混ぜ、シェイクしたのちに適量をグラスに注ぐ……、それらがお客さんとの交流にシームレスにつながっているのだ。ここまでの体験を実現したことに、いちVRゲーム開発者として筆者はかなり驚いた。モーションコントロールを通したインタラクションの豊かさがゲームの魅力に直結するVRというメディアにおいて、「飲食物の調理、提供を通した顧客との交流」を主軸にするのは、なかなかにスマートな設計だといえよう。
ただ、「VA-11 Hall-Aのような飲食物の調理、提供と会話」にとどまらないのが本作のこだわりである。本作は、主人公がバーで働くだけでない様々なロケーションの会話やインタラクションも作りこまれているのだ。バーのオーナーであるバレンシアとビールを飲みかわすシーンは(「酔っ払いのお姉さんと語らう」という)わかりやすく魅力的なシーンだが、営業後にビルの屋上でバレンシアとタバコを互いにふかしながらたそがれるシーンは、VRゲームにおける演出の白眉だ。
バレンシアがくわえるタバコにジッポーで火をつけてもよし、バレンシアの火のついたタバコから自分のタバコに火を点火してよし、なんなら口で咥えたタバコを顔ごと近づけてもよし。とにかく自分が思ったとおりに火をつけようとすれば、そのように動く。「プレイヤーとNPCのタバコに火をつける」というシチュエーションで、ここまでプレイヤーの行動を広く想定した作りこみが行われているのは、開発者のサイバーパンクやアニメへの理解の深さや熱心さ、情熱が成せる技だろう。
本作を開発するPlectrum Softは、2016年に設立されたニュージーランドのVRゲームを専門とするスタジオだ。スタジオの設立者であるYuewei Zhang氏は2016年に高校生のときからVRゲームを開発しはじめ、これまでに2作をリリース。大学の頃に本作生のプロトタイプを開発し、2024年に大学を卒業してからはメンバー3人と合流しつつ本作の開発に専念している。
本作のクラウドファンディングは2025年6月15日に終了予定となっており、今すぐ駆け込めば支援に間に合うことができる。ただ、まずはSteamで配信されているデモを体験してほしい。もちろんすべては完璧ではないが、「アニメらしいVRの体験」を待ち望んでいた人をあっと言わせる体験がそこで待っている。もしクラウドファンディングが終わっていたとしても、ウィッシュリストに登録することもできる。本作は2026年の第四四半期にSteamVRとMeta Quest 3を対象にリリース予定だ。ニュージーランドの学生が送るVRゲームについて、さらなる続報を待ちたい。
・販売/開発:PlectrumXR
・プラットフォーム:SteamVR / Meta Quest 3
・価格:未定
・リリース時期:2026年第4四半期


