Home » クオリティが向上 アイドルライブをVRで楽しめる時代近づく


VTuber 2019.12.14

クオリティが向上 アイドルライブをVRで楽しめる時代近づく

12/7(土)「Ginza Sony Park」で、デジタル声優アイドルプロジェクト「22/7(ナナブンノニジュウニ)」のアニメ放送記念ミニライブが開催されました。

「22/7」は各メンバーが二次元のキャラクターと三次元の声優活動の両面で活動しているグループとして知られ、今回はリアルなステージでのライブを披露。さらにその模様はVRで「生配信」されるという、意欲的な試みとなりました。

今回VR映像の生配信を手がけるのは、ソニーグループ内横断型のVR創造プロジェクト「Project Lindbergh」です。先日発表された「ルミエール・ジャパン・アワード2019」のVR部門にて、同プロジェクトが制作した『Survive Said The Prophet VR EXPERIENCE』がグランプリを、『Hikaru Utada Laughter in the Dark Tour 2018–“光”&“誓い”–VR』が特別賞を受賞し、いま実写VRの領域において注目されているプロジェクトです。

ミニライブ開催に際して、その舞台裏からリハーサルの様子を取材し、さらにライブ本番の「VR観覧」を体験しました。ソニーグループが手がける、VRライブストリーミングの「いま」をレポートします。

リハーサル現場から見えてきた、リアルタイムVR配信のこだわり

まず、ライブが実施されるステージの様子を紹介します。会場の「Ginza Sony Park」は、2018年にソニービルがリニューアルされたスポットで「変わり続ける公園」をコンセプトに、実験的な取り組みを行っている施設として注目を集めています。

ステージ上には4Kカメラ3台が、左右と中央それぞれに配置。今回のライブ最大の特徴は「4Kトライアングルストリーミング方式」によるVR配信です。VR参加者はカメラの視点を自由に切り替えてライブを観覧できます。

こちらが左右配置のカメラ。レンズとレンズの間に黄色いシールが貼られています。これは「VR越しに視線が合いやすい目線ポイント」であるらしく、人間の顔で言うと鼻に相当する箇所です。ステージ上に立つ演者も「このポイントを見てください」と指示されているそうです。

中央のカメラは「RX0」という小型カメラ。こちらが採用されている理由は、レンズ間距離に起因する「巨人の目線」(監視カメラ視点っぽく映る現象)を解消するためとのこと。ただし左右のカメラも、映像を適切な形へリアルタイムで変換するようになっているため、中央と左右で大きく見え方は変わらないのだとか。後述しますが、実際に体験してみた視点では、違和感はゼロです。

中央カメラには左右で高低差が設けられているのも特徴でした。こうしたカメラ周りの調整は「基本的に現地で毎回調整している」そうで、実際にリハーサル直前まで調整は細かく行われていました。現実の映像はウソがつきにくい以上、この手の調整は非常にシビアなのだなと感じられました。

この3台のカメラの映像をストリーミングし、それをユーザー側に自由に切り替えさせる上で、どうしても現状の技術では「瞬時の切り替え」は困難とのこと。そこで今回のライブでは、ステージ中央の「音源データのタイムスタンプ」をベースにして、そこから映像を逆算的に設定・配信するそうです。

上記カメラの映像は、バックヤードからリアルタイムで確認できる体制になっていました。PlayStation VR(PSVR)も完備。スタッフの方によれば、実写のVRライブで、ここまでリアルタイムで確認できる体制を構築している例は少ないとのことで、ユーザー体験の質を非常に重視していることが肌で感じられました。

一通りの調整が完了したところで、今回の主役「22/7」のみなさんがリハ入りし、ステージパフォーマンスと、合間に行うレクリエーション企画の調整を行いました。
この時「もしVR側で大きなトラブルが発生した場合は、まだ1曲目なら一度中断し、トラブルシューティングを実施している旨を伝えてほしい」という指示がメンバーのみなさんに通達されていたのが印象的です。VR参加者の体験を重視する姿勢が、こういった場面からもうかがえました。

ちなみに音声信号同期は常にバックアップを作成し、トラブルの際にはこのバックアップをもとに、およそ10分以内で復帰ができるようにリハーサル済みとのことでした。VRライブにトラブルはつきものですが、あらかじめそうしたケースも想定されているところは、百戦錬磨のソニーならではといえます。

アイドルたちの「目線」にときめき! 安定感あるVRライブに感動

いよいよVRライブ配信を実機で体験!

結論、VRストリーミングはかなり良好でした。

映像そのものがなめらかで、VR酔いも起こさないレベルでの質が確保されています。画質はPS4およびPSVRのスペックゆえに「超高解像度」とはいかないものの、リハーサル現場から生中継されている映像と一瞬思えないレベルで安定しており、視聴体験そのものはとても良質でした。中央と左右で視座に違和感を抱かなかったのも好印象です。

視線も上述の工夫によってか、メンバーの方とかなり目線が合います。何人かは意識的に「こちら」を向いて、しかも指差しなどをしてくれました。思わずときめくこの気持ち!「ドキドキしちゃって目をそらしちゃった」と、実機体験された方が何人か証言されていたのも印象的です。

そして、今回のキモでもある「視点の切り替え」ですが、こちらも想像以上に良好です。平均的な切り替え時間は3~5秒ほどと比較的早く、その間音声は一切途切れないため、「ライブが途切れる」ような感覚を抱かせないようになっていました。ここが非常に大きなポイントです。

先述した「音声信号による映像同期」は、「音声が途切れるとユーザー体験が著しく損なわれる」という知見に基づいて生まれた構想とのことで、その意図どおりともいえるユーザー体験はとても満足のいくものでした。

リハーサル中は若干アプリの挙動が不安定で、特に視点切り替え時にネットワークエラーが散発するといった事象が見られました。しかし、いざ本番が始まると非常に動作が安定しており、トラブルはまったく確認されないままライブは完走。過去にVRライブをいくつか体験した身からしても、ライブ本番の安定ぶりは高かったように感じました。

気がつけば、締めのあいさつをする「22/7」のみなさんに、VR越しに笑顔で手をふってしまう始末。取材であることを忘れて楽しんでしまいました。

VR生配信もここまできた

総じて、コンテンツの質はかなり高いと肌で感じられました。とりわけ「ライブ感を損なわせない」という面では相当に工夫が張り巡らされ、実写中継のVRライブは高い没入感をもたらしています。

各システム構成や規模、現場レベルの細かい工夫などの積み重ねは、技術とエンターテインメントの両面において、積算したノウハウを持つソニーグループだからこそ実現できたものといえるでしょう。

ただ現状は、PSVRやPS4そのもののスペックなどの側に問題もあり、4K映像の完全な並列配信や、より高画質での配信は難しいとのこと。こうした問題は、今後5G回線の普及や、2020年末に発売予定のPS5などの登場によって大きく解消されるだろうと見込み、いまは「コンテンツの質」に注力されているのだそうです。

今回のライブに対し、担当者が「いまVRといえばバーチャル、VTuberをイメージされる方は多いと思いますが、実写のVRもここまできているということを示していきたいです」と強く語っていたのが印象的です。筆者も「22/7」ライブを体験し、実写VR生配信に大きな可能性を感じました。「ライブ中継をVRで観る」時代は、すぐそこまで迫っています。

執筆:浅田カズラ


VR/AR/VTuber専門メディア「Mogura」が今注目するキーワード