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ゲーム・アプリ 2018.09.02

ネズミと世界を旅するVRパズル「Moss」の舞台裏

(※本記事は、2018年6月29日にHTC社公式ブログに掲載されたMatthew Gepp氏の記事を翻訳したものです。)

VRゲームとして高い評価を受けている「Moss」が6月からHTC VIVEでも遊べるようになりました。開発元Polyarc Gamesの共同設立者でデザインディレクターのDanny Bulla氏に、同ゲームについて、そしてこの大ヒットタイトルをPCベースのVRに移植した経緯について伺いました。

――まず、「Moss」について簡単にご紹介いただけますか。どんなことができるゲームなのでしょう?

「Moss」はファンタジー世界を舞台にしたアクションアドベンチャーゲームです。プレイヤーは主人公のクイルと出会い、彼女が大好きな叔父さんを助けに向かう旅につきあうことになります。ゲームはプレイヤーが図書館に来たところから始まります。Mossという本を開くとその中に吸いこまれ、クイルを導く精霊になるのです。これはVRゲームなので、プレイヤーはクイルの手助けをするだけでなく、自分自身も一人の登場人物として同じ世界を生きることになります。あらゆる行動が世界に影響を及ぼします。プレイヤーはクイルと協力して障害物を乗り越え、敵を倒し、パズルを解いていかなければなりません。

「Moss」を初めてプレイすると、「なんだか落ち着ける」と感じられると思います。そこは開発の際に重視したところです。VRに入って不快な気分になったらどうしよう、という不安から体験をためらう人もいるので。そもそも数年前に私たちがPolyarcを立ち上げたときに掲げた目標の一つは「プレイヤーができるだけ心地よく遊び続けられるゲームを作る」ことでした。ですから「Moss」については、心地よさを念頭においてデザインされたゲームであるということを皆さんにぜひ知っていただきたいと思います。

世界構築にも多大な時間をかけて、できるだけ実在感を持たせるようにしています。プレイヤーの皆さんが、本当にファンタジー世界に入りこみクイルという新しい友達と一緒に冒険しているように感じてくれれば幸いです。パズルを解いたり、敵と戦ったり、不思議な空間を通り抜けたりと、一般的なアドベンチャーゲームでやれることは一通りやれますよ。それもVR以外では体験できないような形で。私たちとしては、なかなかのものが作れたのではないかと思っています。

――主人公のクイルとは長い付き合いになりそうですね。クイルがどんなキャラクターなのか少し教えてください。ゲーム内ではどういう形で交流することになるのですか?

クイルは物語の中でヒーローの役割を果たす、とても魅力的なキャラクターです。彼女は「開拓地」という村で育ち、ずっとその中で暮らしてきました。だから村の掟やアーガス叔父さんの言いつけが窮屈に思えてなりません。ちょっとだけ村の周りの森を探検に出たところで、プレイヤーと初めて出会います。彼女が見つけた不思議なガラスの力で、プレイヤーは彼女に結びつけられてしまうのです。この場面では非常に面白い体験をしてもらえると思います。人によって本当に色々な感想を抱くようです。特に、クイルが初めてプレイヤーに遭遇したときの反応は見ものですよ。彼女は怖がっていないという説明があるのですが、実際、自分の後をプレイヤーが付いてくるのに興味津々の様子を見せるのです。この場面はクイルの性格について多くを物語っていると思います。彼女はプレイヤーを「誰だか判らないけどきっと友達になれる相手」として扱います。ここに彼女の世界観が表れているといえます。プレイを進めていくうちにクイルとプレイヤーの絆はしだいに深まっていきます。クイルはあなたを単なる味方ではなく友達と見なすようになります。そこもプレイヤーの皆さんには楽しんでいただけるのではないでしょうか。

あなたが他のゲームの協力プレイでいつも友達とやるようなことを、このゲームではクイルとやることになります。一緒にパズルを解き、敵と戦い、奇妙な空間を通り抜け、ゲームを終える頃には、あなたは別世界に住むキャラクターと興味深い関係を作りあげているはずです。それはVRという媒体を通じてこそ真に輝くものであり、このゲームで私たちがどうしても実現したかったものでもあります。

――Polyarcの皆さんにとって、VRプラットフォーム向けコンテンツ開発のどこが魅力でしたか? 「Moss」のようなタイトルをVR向けに開発することで得られた教訓はありますか?

そうですね…メンバーのほとんどはゲーム業界で10年以上の経験があって、コンソールゲームの進化については色々と見てきています。VRが登場して、トラッキングコントローラーを持つと何ができるか、VR内に自分の両手があるというのがどういうことかを体験したとき、そこから2つ学んだことがあります。1つは、バーチャルリアリティを使えばゲームをロードするだけでプレイヤーを別世界に連れていけること。これは非常に強烈な体験であり、普通のゲームをプレイするときには味わえないものです。どんなにプレイにのめり込んでも、ゲーム世界の中に入りこんで周りを見渡すことはできませんからね。まずその点がとても魅力的でした。

もう1つは、6自由度のコントローラーを使えば、これまで不可能だった形でゲーム世界に干渉できるようになること。デザインの観点からいうとこれは大変な快挙です。利用できるメカニクスやプレイヤーに与えられる体験の種類が一気に広がったわけですから。クリエイターにとってはアイデアの触媒となってくれるすばらしいものです。思考の選択肢が突然増えはじめます。VRとは何か、私たちにとって何を意味するのかが分かってくると、新しい発見があるたびにますます魅力を感じるようになりました。

特に、VRゲームの開発は従来のコンソールやPC向けの開発とそれほど大きく違うわけではない、と知ったことは大きかった。結局やることは同じで、やり方が違うだけなんですね。解決しなければならない課題とそれをVRで解決するためのアプローチを見つける過程で、多くの学びがありました。私たちPolyarcにとっては非常に充実した経験でした。ゲームを開発する上で、これまではただメディアにそれを可能にする余地がないという理由でやれなかったことが次々と見つかるのです。それが一番エキサイティングでしたね。

――PCベースVRに移植することを決めたきっかけは?

一番大きな理由は、できるだけ多くの人にプレイしてもらい、あの世界を体験し、クイルと友達になってもらいたいから、でしょうか。それ以上に何か深遠な理由というのはないですね。Polyarcの目標は自分たちが作ったゲームを多くの人に遊んでもらうことです。それを達成するのに役立つことなら何でもやりたいと思います。PCベースのVRはVR市場の大きな割合を占めていますから、もちろん私たちにとってはとても大切です。

――PCベースVRの利点や機能の中で、「Moss」に活かしたいと思ったものは?

2つあります。特に、トラッキングコントローラーを2つ使える点が大きかった(※訳注: PlayStation VRでもモーションコントローラーPlayStation Moveを2本同時に使うことは可能ですが、「Moss」は非対応)。これはメカニクスの観点からいうと、ゲーム内の事物を操作する手段として非常に直感的です。プレイヤーは自分の両手をゲーム世界の中で自由に動かせると分かれば、自然と周りの物に手を伸ばすでしょう。これだけでも没入感が高まります。「あそこのあれを動かすにはどう操作すればいいのか」と考える必要がないのです。プレイヤーがゲーム世界へ速やかに没入できること、それが私たちにとってPCベースVRの主な利点の一つでした。実際に両方のバージョンを体験しないと、なかなかぴんと来ないとは思いますが、これは確実に快適さの向上に貢献するのです。

もう一つの利点は、PCベースだと、各種設定やグラフィックなどプレイ環境を自由にカスタマイズしやすいところです。PCゲームではそういうユーザー体験が当たり前のように期待されます。画質にこだわるか、マシンの処理性能に合わせてプレイの快適さをとるか、ユーザーの好みで調整してもらえるというのは、開発者としてもうれしいことです。

――PCベースVRへの移植で難しかった点は?

少人数のチームなので、ゲームの対応プラットフォームが増えること自体が一つの試練でした。複数プラットフォームへの同時展開となればなおさらです。やり遂げられて本当にうれしく思っています。今までそういう開発現場の経験がないメンバーもいましたし、携わった全員にとって学ぶことの多いプロジェクトでした。今後の方向性を見定めることにもつながりました。晴れてこのゲームをPCプラットフォームに送り出せたことで、今までの苦労が報われた思いです。

もう一つ難しかったのは、多種多様な入力に対応しなければならない点です。プラットフォームごとに使うコントローラーは異なります。基本的な違いは知っていましたが、特にタッチパッドとアナログスティックの違いは大きかった。プラットフォーマーゲームは、タッチパッドだとアナログスティックほど直感的に操作できないのです。しかし、私たちはアナログスティック並みの良好な操作感を実現することに挑戦し、社内で納得のいく水準まで練り上げてからリリースしました。その後ユーザーから寄せられたフィードバックをもとに改良に取り組んでみると、ユーザーの声を聞いてみるまでは思いつきもしなかった改善点が色々と出てきました。本当に勉強になりましたね。その後リリースしたアップデートでは、タッチパッドでの操作感が格段に良くなったという感想をいただいています。操作については今後さらに改良を加える予定です。

――「Moss」はプレイヤーからも批評家からも高い評価を得ています。本作のどのような点が成功につながったと思われますか。

個人的な意見ですが、じっくりと時間をかけて作りあげられた作品世界の親しみやすさ、居心地のよさが大きかったのではないでしょうか。VRを初めて体験する人にも安心してVR空間の滞在を楽しんでもらえるようにできていますから、そういう親しみやすさが多くの人の心をとらえたのではと思います。

もちろんクイルも、このタイトルの成功に大きな役割を果たしてくれています。E3でプレスとプレイヤーに初めて彼女をお披露目したときの反応は強烈でした。登場したほぼその瞬間に、ゲームプレイが始まる前から衝撃が広がっていた様子でした。クイルがそれほど感情移入しやすいキャラクターだと分かったので、その後はクイルとの友情を培う過程で生まれる連帯感、親近感を強めることに力を入れました。多くの時間を費やして、クイルが血の通った生き物として感じられるよう、プレイヤーの操作にさまざまな反応を示し、アニメーションを通じて感情表現をするようにしました。その甲斐あって、彼女はこれまでのビデオゲームでも体験した人はあまり多くないような思い出を残してくれるキャラクターになったと思います。それはプレイヤーがヘッドセットを外しても続くものです。誰にでも直感的にできることかどうかは分かりませんが、関心を傾ければそれに応えてくれます。そして「Moss」のプレイを終えた後もずっと幸せな思い出として残るのです。

まとめると、居心地の良さ、親しみやすさでプレイヤーを引きこみ、クイルやゲーム世界そのものとの絆を築く仕組みになっていることが、現在の好意的な評価を生んでいるのだと思います。

――今後はどのような展開をお考えですか。

今はプレイヤーコミュニティの反応を見ているところです。TwitterとSteamフォーラムで、どういう部分についてフィードバックが多いか分析しています。ゲームの中で何に注目するかは人それぞれです。それに基づいて、いくつかの部分をもっと発展させていきたいと考えています。今のところはフィードバックの収集に努めながら、「Moss」の各プラットフォームでのサポートを続けていくつもりです。できるだけスムーズに楽しめるものにしたいからです。皆さんから寄せられるご意見ご感想のおかげで、これからこのゲームを始める人にとっても私たちの力が及ぶかぎり最高の体験を提供できます。

これまでにフィードバックを送ってくださった皆さんに心から感謝します。このゲームを究極のものにするために活用させていただきます。


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