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活用事例 2017.06.19

VRヘッドセット小型軽量化への期待 4KでOculusやViveより3倍薄いプロトタイプを体験


有機ELディスプレイなどを製造するKopin社は、新たに4K解像度の有機ELマイクロディスプレイ「Lightning」を発表し、同ディスプレイを搭載したVRヘッドセットのプロトタイプを発表しています。このプロトタイプは現在発売されているVRヘッドセットよりも軽量かつコンパクトで同程度の範囲が見える視野角110度(対角)を実現しています。Road To VRの記者が実際に触る機会があり、レポートが公開されました。

Kopin社の開発する有機ELマイクロディスプレイ「Lightning」

Kopin社はディスプレイの製造メーカーとして1984年に創業しました。近年、VR業界の急激な成長に合わせるため、VRヘッドセット向け専用ディスプレイを製造するロードマップが公開されています。VRヘッドセット向けのマイクロディスプレイはとても小さく、画素密度が高く、高リフレッシュレートを備えようとしています。

Kopin社がVR向けに位置づけているマイクロディスプレイであるLightningは、解像度が2048x2048ピクセル、リフレッシュレートが120Hzで動作する1インチサイズのディスプレイです。Oculus RiftとHTC Viveは片眼1080x1200ピクセルのディスプレイを使用しているため、Lightningディスプレイはピクセル数が3.2倍、リフレッシュレートも各ヘッドセットの90Hzより高速です。

マイクロディスプレイを使用する利点

一般的に、VRヘッドセットに搭載するディスプレイは小さくなることによって、焦点距離を短くできます。市販のコンシューマ用VRヘッドセットは、おおよそ同じくらいの大きさなのは、光の物理的な性質のため、ディスプレイから出た光がレンズを通って装着者の網膜で焦点を合わすためにレンズからディスプレイまで一定の距離を必要としているためです。従って、単純に小さくすることは難しいです。もし、でディスプレイ自身がより小さくなれば、より短い焦点距離で設計できるため、ディスプレイがレンズから遠くにある必要はなくなり、よりコンパクトなヘッドセットになる可能性があります。

プロトタイプVRヘッドセットの印象

Kopin社は中国のODM企業であるGoertek(ゴアテック)と共同でLightningディスプレイを内蔵したVRヘッドセットのプロトタイプを開発しています(下写真)。今回体験したこのプロトタイプは信じられないほどコンパクトかつ軽量にできています。

E3 2017でプロトタイプを試着する機会がありましたが、残念ながら動作はしていませんでした。従って、サイズ感や装着時の感想を中心に述べていきます。


左からHTC Vive、Kopinプロトタイプ、Oculus Rift。

OculusやViveと比較すると、トラッキング機構がプロトタイプにはないことを考慮しても圧倒的にサイズが小さいことが分かります。印象としては、スキーゴーグルのサイズ、重量に一番近いです。軽いため頭の上部用のトップストラップは必要なく、頭の後ろに回す柔らかいストラップが一つあれば十分頭に固定できます。外装は薄くて非常に軽量のプラスチックでできていますが、耐久性は未知数なため、ユーザーの実際の仕様に耐えられるほどの耐久性があるかは不明です。

奥行きも短くなったことで、ヘッドセットにかかる力点がより顔に近づきました。これも装着したときの快適性が向上している要因の一つです。

小さいディスプレイを作ろうとするサムスン、大きなマイクロディスプレイを作ろうとするKopin

VR向けのディスプレイには2種類のアプローチが取り組まれています。サムスンが進めているような、現在のディスプレイの小型化というアプローチを比べ、Kopinは小型のマイクロディスプレイを大型化するアプローチで取り組んでいます。

Kopinは、片眼2インチのディスプレイが最もVRに適していると主張しています。現在のRiftやViveは、比較的大きなディスプレイを使用していますが、そのサイズを2インチまで小さくしながらピクセル数を維持して高密度なディスプレイを作ることが課題の一つになっています。また、現在Kopin社が開発している1インチのマイクロディスプレイは信じられないほど薄く、緻密なピクセルを持つことがメリットですが、2インチにするとそれらが大きく、重くなってしまうことが問題です。

マイクロディスプレイの製造プロセスはコンピューター用プロセッサなどの作成方法と同様に、シリコンウェハー上に微細なパターンをエッチングして製造します。このプロセスは高度な技術、高額な設備を必要とし、大規模に製造して収益をあげる必要があります。

高倍率レンズのため、実際の見え方の検証が必要

マイクロディスプレイで没入できるような視野を得るためには大きな倍率のレンズが必要です。現在のLightningディスプレイは、デュアルエレメントフレネルレンズを使用して最大110度(対角)の視野角を実現できるとしています。また、3M社と協力して視野角100度を実現するさらに小さな「パンケーキ」光学系を開発しています。

レンズによって拡大を行うと歪んだ表示を補正する必要がありますが、高倍率なため歪みもかなりあると思われ一筋縄ではいかないと考えられます。そのため、実際に表示された画面を見ないと、この光学系がVRヘッドセットに適しているかの判断はつかないという状況です。

今後のロードマップ

Kopinはパートナー企業と共同で新しいマイクロディスプレイを製造できる施設を建設するため、1億500万ドルの投資を行ったと述べました。新しい施設が完成する数年後は、1.3インチで3072×3072ディスプレイ、それに続いて1.37インチの4096×4069ディスプレイの製造を予定しています。

Kopin社はマイクロディスプレイを大型化しようとしていますが、現在のヘッドセットのようなサイズまで大きくすると同じような光学系の問題に悩まされてしまいます。一方、サムスンのような伝統的な有機ELディスプレイメーカーはディスプレイを小さくすることに取り組んでおり、スイートスポットを見つけるため各ディスプレイメーカーの取り組みが進んでいます。

(参考)
Kopin’s Prototype VR Headset is Incredibly Thin & Light, More Than 3x the Pixels of Rift and Vive – (英語)
http://www.roadtovr.com/kopin-prototype-vr-headset-lightning-microdisplay/

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