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イベント情報 2016.01.21

VR×テーマパークによるアトラクションの新時代。USJ『きゃりーぱみゅぱみゅ XRライド』考察

1月15日から6月26日まで大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンで稼働中のアトラクション『きゃりーぱみゅぱみゅ XRライド』。VRヘッドマウントディスプレイを装着しながら、実際のジェットコースターに乗るという新感覚の体験です。

関連記事:USJできゃりーぱみゅぱみゅのかわいい世界を激しく疾走。世界初のリアルライド×VRが公開

すでに体験レポートは書いた通りですが、もう少し詳しく本アトラクションを見ていきたいと思います。VR向けにこれまであったアトラクション、そして他のライドアトラクションと比べた際の今回のXRライドの新しさについてディレクターの田向潤氏のコメントを交えながら考察してみたいと思います。

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VRジェットコースターの大きな2つの課題

これまでジェットコースターを”体験”するVRコンテンツは様々登場してきました。家庭でも楽しめるもの、そしてイベント等で展示されるものです。家庭で楽しめるものとしては、PC向けのOculus Rift DK2向けのものから、どんなスマホでも体験できてしまうGoogle Cardboard用のものまで、多くのものが配信されています。

その課題となるのは、『体感』と『酔い』です。

家にいながらにして、アトラクションであるジェットコースターが体験できるのは非常に画期的です。しかし、ジェットコースターに乗ってたときに実際に感じる体感は重力です。VRの基本は感覚を騙すこと。

カーブを曲がった際の横にねじれるような感覚や急降下するときのふわっとする感覚など。視覚・聴覚がVRの中でジェットコースターを体験することにより、感覚が騙され、実際にコースターを乗っている際に感じる重力加速度を感じているかのように”身体が反応する”ことはあります。しかし、当然ですが、この感覚はあくまでも擬似的なもの。実際のジェットコースターで感じる感覚に比べれば弱くなります。

image1Oculus Rift開発者版でデモコンテンツとして世界中の人が体験した『Rift Coaster』

そして、レールが傾いたり曲がる際に自分の身体の向きが変わらないため、視覚と実際の身体の感覚の不一致が発生し、酔ってしまい気持ち悪くなる原因にもなります。公開されているコンテンツの中には、開始後5秒としないうちに酔ってしまうようなものもありました。

本物に近づけようとするイベント展示と本物の差

家庭で楽しむための配信用コンテンツでは限界があります。体感に限界があります。その課題を克服すべく、イベント展示では、周辺機器によって体感を補おうとする工夫が見られるものがあります。

1月に開催されたCES2016でサムスンが展示していた『Gear VR Theater with 4D』もその一つ。28人が同時にGear VRを装着し、実写のジェットコースターに乗っている映像を見ながら、振動する椅子で体感を得るというもの。家で普通の椅子に座って体験するよりもずっと本物のジェットコースターに近い感覚でした。一方で、映像の粗さや、実際の重力加速度とは若干異なる震動により、酔いやすく、また体感としても幾分物足りない体験でした。

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また、ニコニコ超会議などで展示されていた『Unity Coaster 2 Unrban Coaster – HARDMODE』も、イベントならでは大掛かりなVRジェットコースターです。ブランコを使い、体験者は宙吊りになって浮遊感と前方からの風を体感しつつ、ぶら下がりタイプのジェットコースターを体験します。風があること、また実際のジェットコースターと同じく足が地面についていない状態にあることから、自然と重力を感じるような不思議な体験をすることになります。

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こうしたイベントで展示されていたジェットコースターはいずれも「本物」に限りなく近づけようとするまさにバーチャルなコースターです。やはり、本物の体感はやはり現時点ではバーチャルの体感を凌駕します。

『きゃりーぱみゅぱみゅ XRライド』はVRと体感の完全同期を実現しています。
リアルライドを使った落ちる感覚、急停止、急降下、そして急旋回の重力、頬を切る風はやはりこれが本物だと感じさせられます。その条件は「ライドの動きと実際のコースターの動きが完全に一致していること」。

なお、酔いの防止に関しては、制作時にも課題としてあったとのこと。ディレクターの田向氏はとにかく酔いやすいそうですが、「制作現場(オフィス)では酔うが、実際にライドで試してみると酔わない」といったことで何十回もライドに試乗しながら、酔いの確認・修正をしていたようです。

ライドアトラクションと比べるとどうなのか

そもそも、ライドアトラクションそのものなのであればVRにする必要はないのではないか、という指摘もすることができます。

確かに、ディズニーランドのスペースマウンテンなどのようなライドアトラクションは、乗っているだけで楽しいものです。しかし、USJの『ハリー・ポッター・アンド・ザ・フォービドゥン・ジャーニー』や『NEW アメージング・アドベンチャー・オブ・スパイダーマン(TM)・ザ・ライド 4K3D』のように、現実とは全く違う世界観に飛び込み、迫力の映像とともに激しいライドを楽しむタイプのアトラクションにも体験した人なら分かる楽しさがあります。

ハリーポッター、スパイダーマンとも、4K画質の映像が投影され、3D眼鏡をかけてキャラクターの生き生きとしている様子を楽しむというものですが、VRの実在感(そこにある感覚)は3D映像のそれを上回ります。

VRで体験することで魅力的な世界観の中に飛び込む感覚はさらに強くなります。もし、ハリーポッターやスパイダーマンのライドのVR版があるとしたら…と期待せずにはいられないほど、VRを使った360度の映像で体験する世界観には魅力があります。

VRとリアルライドの組み合わせの肝は、ライドをバーチャルに楽しむという点ではなく、リアルライドにバーチャルな世界観を組み合わせることで、これまでになく深い没入感を体感できる点にあります。

世界観をつくり上げるVR

アトラクションとして完成させるためには,験者を没入させる魅力的な世界観を作り出した上で、そこにジェットコースターの面白さを組み合わせなければならず、世界観づくりは非常に重要になります。

今回のアトラクションのディレクターを、これまできゃりーぱみゅぱみゅのほとんどのミュージック・ビデオを制作してきた田向氏が務めていることにも納得がいきます。

VRデバイスである「きゃりーゴーグル」のデザインやその使い方を書いたチラシも世界観に沿ったものでした。

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田向氏は「まずコースが決まっていたので、その動きに合わせて演出をしていった。音楽もコースに合わせて中田ヤスタカ氏に制作を依頼した」とのことで、ライドの感覚と視覚・聴覚の情報がしっかりと一致し、気持ち良い自然な体験になるように気が配られています。

VRコンテンツの制作が初めてという田向氏は、「360度見渡せる状況で体験者の目線をどのように誘導するかも工夫した」とのこと。体験中、きゃりーぱみゅぱみゅが出現し、案内をしてくれる演出や、進行方向に数台置かれたテレビ画面ににきゃりーが出現する演出などは視線の誘導を意識した演出のようです。

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今までと全く違う脳みそを使った。VRはカット(枠)が存在せず、自分の周りで色々なことが起こる。その面白さを追求していきたい」として今後のVRコンテンツの制作にも意欲を見せていました。

今後、リアルライドとVRのどのような組み合わせが登場するのか楽しみです


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