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業界動向 2019.12.11

【XR Kaigi】KDDI、ドコモ、ソフトバンク……三大キャリアが取り組む、XRの未来像

VR/AR/MR(XR)分野に関心のある開発者・クリエイターを対象とした日本最大級のカンファレンス「XR Kaigi 2019」が、2019年12月3日・4日の2日間にわたって開催されました。

今回は同イベントの中から、NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクの国内3大通信キャリアがそれぞれどのようにXRに取り組んでいるかを語る、4つのセッションの模様をダイジェストで紹介します。

5GxXRの未来

同セッションではKDDIの上月勝博氏と、Nreal社CEOのChi Xu氏が登壇。Nreal社のMRデバイス「NrealLight」を含めた、KDDIの5GおよびXRに関する取り組みが語られました。

KDDIが考える5Gへの取り組み


(KDDI パーソナル事業本部 サービス本部 プロダクト開発1部 副部長の上月勝博氏)

セッションの前半は上月氏による講演。2020年春から5Gの商用サービスを開始予定のKDDI(au)では、「UNLIMITED WORLD」「Augment(拡張)」という2つのキーワードの下、4Gでは実現できなかったようなことを推進する方針とのこと。

一方で、どういったサービスを提供していくかについてはKDDIのみならず、世界中どこの企業もまだ悩んでいるところだそう。「これは半分冗談なんですが、関係者の間では『5Gでのキラーアプリは通信スピードの測定アプリなんじゃないか』と言われています(笑)」と語り、5Gをけん引するキラーアプリを見つけることが重要だとしました。

また、「5Gは特にヨーロッパでは企業での利用ケースを中心に考えられているようですが、toC向けサービスが多くを占めるKDDIとしては、“日本ならでは”の着想も含め、こだわって取り組みたい」とのことです。

KDDIの取り組み事例

セッションではKDDIが現在進めている各種取り組みの事例紹介も。Sturfee社との戦略的パートナーシップによるARクラウド技術、自由視点VRのリアルタイム配信、バーチャルヒューマン、ZEPPELIN(ツェッペリン)・電通デジタルとの業務提携によるAR広告のデモなどが取り上げられました。

Nrealとのパートナーシップ締結について

上月氏いわく「Nrealさんとパートナーシップ締結した理由はシンプルで、(NrealLightが)スマートフォンに繋がることと、モデム機能・アプリケーション実行機能をスマートフォンに委ねるので、グラス自体は88グラムと軽量なこと。そして比較的安価な、お求めやすい価格で提供できそうというところです。世界中を探し回って、このタイプのARグラスではNrealLightが一番と確信しました」とのこと。


(Nreal社CEO、Chi Xu氏)

続いて登壇したNreal社CEOのChi Xu氏は、同社のMRグラス「NrealLight」がデザインや性能面、価格において競合他社の製品よりもスマートに仕上がっている自負があるとコメント。「今後5Gの到来により、高解像度で撮影されたスポーツイベントやライブ映像を楽しむこともできるようになると考えている」と語りました。また、2020年の第一四半期にはジェスチャーコントロールなどを含む大型のアップデートも予定していることにも触れました。

同セッションの最後には、NrealLightを利用した開発者向けプログラム「EVE2020」の実施も発表されています。

5G時代のXR・スマートグラスに関する取組

KDDIのもうひとつのセッションには、サービス本部 プロダクト開発1部より三功氏が登壇。XRに関する同社の取り組みの中から、「VPS(Visual Positioning Service)」「Free-viewpoint Video(自由視点)」「Digital Human」「XR Door」「スマートグラス(NrealLight)」の5つが事例とともに紹介されました。


(KDDI サービス本部 プロダクト開発1部の三功浩嗣氏)

VPS(Visual Positioning Service)

Visual Positioning Service(VPS)とは、GPSと画像情報を組み合わせた、三次元位置・向き推定技術のこと。XRやスペーシャルコンピューティングが本格普及するための基幹技術として、KDDIが注力しているひとつです。

VPSについてKDDIでは屋外向けと屋内向けを分け、屋外向けについては米企業Sturfee社と戦略的パートナーシップを締結しています。Sturfee社と組んだ理由について三功氏は、同社の技術であれば衛星画像のみからVPSを実現するための3D地図を作ることができること、また、画像データもそこまで高額ではないことを挙げました。

なお、衛星画像で捕捉できない屋内についてはまた別のアプローチが必要ということで、現時点ではまだ検証中だそうです。

(Sturfeeの公式YouTubeチャンネルより)

また三功氏は「VPSはスマートグラスとの相性がいいはずだ」と語り、現時点ではまだスマートフォンにしか対応していないが、いずれスマートグラスにも対応できるようにしたいと考えているそうです。

Free-viewpoint Video(自由視点映像)

カメラが置けない場所・アングルからの見え方も含めて、自由に視点を再現するFree-viewpoint Video(自由視点映像)。KDDIでは2018年にプロ野球のリアルタイム中継で実証実験を行っています。

同技術では複数台のカメラ映像を処理したり、カメラがない場所の映像を合成するなど、かなりの処理能力が必要だそう。そのため5Gの通信能力に加え、クラウドレンダリングやMEC(Mobile Edge Computing。端末の近くにサーバを設置し、通信のレスポンスを上げる技術)も活用することで、ほぼリアルタイム映像の映像を配信できるようになっているとのことです。

Digital Human(デジタルヒューマン)

超リアルなCGで描かれた人間、デジタルヒューマン。三功氏によると、顔の表情やまばたき、ちょっとした仕草など、細部の工夫がよりリアリティを感じさせるために重要な要素だそうです。また、テキスト・トゥ・スピーチ(Text-to-Speech)の機能により、あらゆる言語で用意された文章の読み上げができるほか、発話に合わせて口を動かすリップシンクにも対応しているとのこと。

複雑な会話はまだ難しいものの、「よくある質問」や、対話の生じない一方的な商品説明などでは使えるのではないかと解説。セッションでは一例として、ホテルの受付としての活用パターンが動画で紹介されました。

また、先にプレスリリースで発表された、フェイスブック ジャパンとの連携による「フューチャーポップストア」についても紹介がありました。発声のアクセントや抑揚にまだ違和感があるものの、日本語を含む多言語に対応しており、実際の運用を通じて改善していきたいとのことです。

XR Door

スマートフォン越しの現実映像の上に出現するARドアを開け、実際に移動して“中に入る”と、遠く離れた空間の映像を体験することができる「XR Door」。同製品についてもプロモーション映像をまじえて解説されました。

スマートグラス(NrealLight)

先に行われたもう1つのセッションと同様、こちらでもNreal社のMRデバイス「NrealLight」に関する話がありました。

軽量な本体重量や広い視野角に加え、三功氏は同製品が6DoF(頭の動きに加え、上下左右・前後の体の動きに連動する)対応であることにも言及。製品のポテンシャルの高さを活かし、KDDIでは今後も力を入れてやっていきたいと語りました。

他社とも協力しながらXRを推進

最後に三功氏は「(XR関連の)新規ビジネス開発は、我々だけではできることも限られてくる。自治体・企業・大学などとも協力しあいながらやっていきたい」と語り、セッションは終了となりました。

NTTドコモのXRへの取り組み

NTTドコモのセッションでは、XR関連技術やビジネスの現状と、それに対するNTTドコモの取り組み、5Gの到来を見据えた今後の展開などについて、NTTドコモの中島和人氏が私見もまじえつつ語りました。

NTTドコモのXRはまず映像サービスから


(NTTドコモ コンシューマビジネス推進課の中島和人氏)

NTTドコモでは「beyond」のテーマの下、5Gを利用したライフスタイル革新・体感革新・ワークスタイル革新を目指しており、そのためにXRやIoT、AIなどを活用していく必要があると考えているとのこと。

XR関連では主にエンターテイメント産業、とりわけ映像サービスを中心に進めていきたいと語る中島氏。3G時代のVOD、4G時代のリアルタイムストリーミングと段階的に進化してきた映像サービスを、来たる5G時代には3Dも含めてさらにリッチ化した映像コンテンツをユーザーに届けていきたいと言います。

現状ではまだデバイスがサイズ的に大きいことを考慮して、屋外よりもまずは屋内での利用ケースから考えているとのこと。コンテンツとしては音楽ライブやスポーツ観戦、ゲームなど、「従来は外でしか楽しめなかったコンテンツを家の中で楽しむ」ものが挙げられました。

XR普及に向けての課題は

XR普及にはさまざまな課題があり、まだデバイスやコンテンツが売れると言い切れる段階ではないとする中島氏。ユーザー、技術、コンテンツ、利用ケース、開発環境、エコシステムなど、総合的に課題を解決し、ユーザー体験を向上させることが重要だと語りました。

また、ハード面ではレンズ・ディスプレイ、バッテリー、プロセッサーなどの性能向上、高画質化、VR酔いの防止など、AR/MR、VRでそれぞれに課題があると分析。VRデバイスについてはかなり完成に近づきつつあるとする一方で、AR/MRデバイスの普及に関してはまだ時間がかかるとし、「2023年ごろにコンシューマー向けに売れるデバイスが登場し、2025年ごろに一般ユーザーまで普及していく、くらいのスケジュール感になるのでは」と語りました。

さらに、XRのサービス実現にはさまざまな技術開発が必要な一方、関連する技術プレイヤーは多岐にわたっており、かつ主要プレイヤーがいないため、今後は提携や買収など「プレイヤー同士をつなぐことができる人・企業」が覇権を握るのではないかと中島氏は見ているそうです。

Magic Leap社への出資と協業について

MRデバイス「Magicl Leap One」を開発するMagic Leap社に出資し、協業もスタートさせているNTTドコモ。同社への出資の意義について中島氏は「NTTドコモの会社戦略としての5Gの文脈に則ったものである一方、5G回線に頼り切ったものではない」と語り、5Gの時代に合わせてXRのコンテンツも作っていくことに意義がある、と述べました。収入面では、NTTドコモが展開するdポイントやd払いとセットで提供することで、XRが新たな収入源になるだろうとのことです。

また中島氏はMagicl Leap Oneが「ポストスマホ」になりうると思っているとのこと。「完全にスマホと置き換わるかどうかはまだわかりませんが、可能性はあると思っています。Magic Leap社CEOのロニー(・アボビッツ)さんが持つ世界観を聞いて、私はこの会社と一緒に仕事をしたいと思いました」と語りました。

その一方で中島氏はMagicl Leap Oneだけにこだわっているわけではないとも言います。今後さまざまなデバイスが登場してXRが盛り上がっていけばよいとし、より重要なのは「デバイス」「プラットフォーム」「コンテンツ」という3つの要素が一緒に回っていくことだと語り、セッションは終了となりました。

Think & Sense:ソフトバンクXR 5Gでプロモーションからサービスへの変革

ソフトバンクのセッションには同社の坂口卓也氏のほか、ソフトバンクとともにXRビジネスを進めるティーアンドエスから稲葉繁樹氏と松山周平氏の二人が登壇。これまでの両社での取り組み事例の紹介のほか、彼らが考えるXRの未来が語られました。

「ポケモンGO」「イングレス」のプロモーション事例


(ソフトバンク サービス企画本部 サービス企画統括部 サービス企画部 先端技術サービス推進課 課長の坂口卓也氏)

ソフトバンクは位置情報ゲーム「ポケモンGO」「イングレス」などで知られるナイアンティック社のプロモーションパートナーを務めており、ティーアンドエス社とともにさまざまなプロモーション企画を担当・実施した実績を持っています。

セッションでは六本木ヒルズの展望台で実施した「ポケモンGO AR展望台」や、同じく六本木を舞台にしたイングレスのプロモーション「AR Roppongi × INGRESS」の事例が紹介されました。

坂口氏はソフトバンクのパートナーシップが他と異なる点として「ゲームをプレイするスマートフォンそのもの、そしてモバイルネットワークをユーザーに提供している会社であること」を挙げ、テクノロジー面からサービスにつなげていくところまで含めたプロモーションができるのではないかと語りました。実際、手がけたプロモーションは評判もよく、「ソフトバンクってこういうこともやるんだね」「どういうきっかけで始めたんですか」と言われることも増えたのだとか。


(株式会社ティーアンドエス 代表取締役の稲葉繁樹氏)

稲葉氏は「高速・低遅延の5G時代が到来したとき、はたして自宅と(六本木ヒルズのような)特別な場所との違いを出せるのか。ポケモンGOではマイクロソフトのHoloLensを使いましたが、今後はもしかしたらスマホだけで完結させられるかもしれない。VRだったらそれこそ自宅から出なくてもいいかもしれない。という状況がありつつ、その場に足を運んだり、その場に新しい価値を生み出したりといった、『その場所に出かけないと体験できない特別なこと』というものをいつも考えています」と語りました。

通信キャリアはビッグデータをほぼ活用できない

続けて稲葉氏は“ビッグデータ”について言及。かつて坂口氏とともにビッグデータの活用を検討したものの、現行の日本の法律では通信キャリア会社はビッグデータを自由に活用することはほぼできないと説明。そうした制限の中、「ビッグデータをどう“表現”するか」に目を向けるようになったと言います。

そこで具体例として挙げられたのが「イングレス」のプロモーション「AR Roppongi × INGRESS」。坂口氏によれば、同プロモーションではナイアンティック社が持っているイングレスユーザーのプレイデータを元に、ゲーム内の情報をHoloLensを通して現実世界に重ねることで、ゲーム内で起こっていることを「目で見える」形に落とし込んだそうです。


(株式会社ティーアンドエス THINK AND SENSE部 部長の松山周平氏)

その後はアニメ版「イングレス」舞台挨拶でのプロモーションや、バスケットボール日本代表の親善試合でのNrealLightを使った観戦アプリの事例が紹介されました。


(バスケットボール日本代表の親善試合での事例。点数が入るとリアルタイムでAR演出が出現するなど、NrealLightを使って試合観戦のあり方を変える試み)

5Gは単なるインフラ。どういう“体験”を提供するか

セッションの終盤で坂口氏は「高速化されようが多接続になろうが低遅延になろうが、5Gというのはやはりインフラでしかない、という風に思っています。そのうえでどういう“体験”を提供できるかを模索しています」とコメント。

稲葉氏は「5Gの特徴は大容量・低遅延・多接続ですが、XRで重要なのは低遅延と多接続だと思っています。例えばピカチュウがARで私のスマホからも他の人のスマホからも見える。この場合、空間共有、スペーシャルコンピューティング(Spatial Computing)とも言いますけど、同じ空間で同じものを見ているのだから、そこに遅延があってはいけないし、より多くの人で共有するためには多接続が必要。これが各キャリアが5GをやっていくうえでXRと大きく関係するところかなと思います」と語り、セッションは終了となりました。

(参考)XR Kaigi 2019


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