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業界動向 2016.05.24

Googleの新プラットフォームDaydreamが加速するVR普及 ― すんくぼのWeekly VR第3回

先週5月19日に発表されたGoogleの新たなプラットフォームDaydream。年1回の開発者会議であるGoogle I/OにてGoogleアシスタントやAndroid NなどGoogleが提供する新たなサービスの一つとして発表されました。

今年のGoogle I/Oでは、「AndroidのVR版が発表されるのではないか」、「PCもスマートフォンも使わない独立型のVRデバイスを発表するのではないか」などの憶測が飛び交い、GoogleのVRに関する発表に少なからず注目が集まっていました。

今回のWeekly VRでは、Daydreamの発表が何を意味するのか、そしてどのような衝撃をもたらしたのか紐解いてみたいと思います。

GoogleのVRへの展開

最初にGoogleがこれまでVRに対してどのように取り組んできたのかを振り返ってみます。

2014年5月に開催されたGoogle I/OにてGoogleはダンボール製のVRデバイスGoogle Cardboardを発表しました。センサーを搭載していれば様々なモデルのスマートフォンを差し込むだけで簡単にVRが体験ができるというものでした。Googleは、このCardboardを直接販売することはせず、イベント等で配布したほか、その設計図を全世界に公開しました。

Weekly VR Daydream

この設計図を元に、様々なスマホ向けのVRデバイスが世界中で登場しました。スマートフォンの機種制限が厳しくないため、1,000円~数千円で楽しめる気軽なVRデバイスとして普及が進みました。ニューヨーク・タイムズとコラボして100万世帯に無料配布を行う、学校向けにVRを使った遠足を行う、など普及のための試みが盛んに行われました。2016年1月までに少なくとも500万台が出荷されました。

またコンテンツに関しては、YouTubeが360度動画に対応したのは2015年3月のこと。Google Cardboardで見ることのできるVRモードがAndroid版アプリに実装されたのは2016年6月のことでした。Googleストリートビューは2015年10月のアップデートでCardboardに対応しています。

360度動画はこれまでの動画制作とは異なるとしてR&D部門であるGoogle Spotlight Storiesでは、『Help』、『Special Gift』、『Pearl』などの作品が公開され、360度映像のストーリーテリングの模索も行っています。

Cardbord対応アプリの数は2016年1月の時点で1,000点以上、合計で2,500万以上のダウンロードが行われています。

こうしたコンテンツのCardboardでの体験の質はどうかというと、スマホのプロセッサの限界もあり、快適とは言いがたい体験になることが多いというのが実際のところ。Cardboardは誰でも気軽にVRを体験するという点に特化したローエンドのデバイスです。

weekly vr daydreamOculus Rift、HTC Vive、PSVRなどのハイエンド、Gear VRのミドルエンド。そして最もアクセスしやすいCardboardとハコスコ。

なお、2015年のGoogle I/Oでは、Cardboardのバージョン2及び360度撮影を行うプロ向けカメラJUMPの枠組みが発表されています。

ローエンドからミドルエンドへ

2016年6月のGoogle I/Oで発表されたDaydreamは、これまでのCardboardの取り組みに加え、新たに高品質なVR体験を可能にするためのプラットフォームです。

Googleは、秋に新たに発売される対応スマートフォンDaydream Ready、OSとしてのAndroid N、さらにヘッドセットとコントローラー、とこれらの要素が相まってスマホでも高品質なVR体験を目指すとしています。

Weekly VR Daydream

Cardboardではどのように高性能なスマホを使っても決してGear VRのようなミドルエンドのVR体験は不可能でした。Gear VRなどミドルエンド以上のVRデバイスではソフトウェアによる補正など、様々な工夫により低遅延で快適なVR体験を実現しているからです。

そのため、CardboardをはじめとするローエンドのVR体験とGear VRでのVR体験にはかなり圧倒的な差が感じられます。

今回のDaydreamではハードウェア(スマートフォン)、ソフトウェア(Android N)ともVRを意識したものになることが明らかになっており、Android Nでは快適なVR体験を行うためのサポートが行われます。こういった点からも決してDaydreamはCardboardと一線を画すハイクオリティなスマホVR体験を目指しています。

Daydreamでは、いわゆるフレームレートは60fpsを基準とし、遅延は20ms(ミリ秒)となることが明らかになっています。この数字はサムスンとOculusが発売しているスマホVRデバイスGear VRと同程度。Googleはローエンドに加え、ミドルエンドを狙っています。

このミドルエンドの品質は技術面でもその萌芽が見えていました。2016年1月に開催されたCESでスマホ向けのプロセッサを開発するQualcommは、新型のプロセッサSnapdragon 820がVR対応することを発表しています。その体験はPCにつないだOculus Riftの初代開発者版DK1を凌ぐ高解像度で遅延のない滑らかなものでした。(体験レポ

秋以降発売される各社のスマホにはこのSnapdragon 820が搭載される可能性が高いことからも、Daydreamの品質がミドルエンドであることを伺わせます。

プラットフォームの比較

同じミドルエンドのGear VRと異なり、今後発売されるスマートフォンはAndroid端末に対応した各社のものであることが明らかになっています。より広範なスマートフォンがDaydreamに対応することになりそうです。

Daydreamにはハードウェア、ソフトウェアに加えて、専用のホーム画面、アプリの配信プラットフォームが整備されます。

ミドルエンドの比較をすると、Daydreamの性能がGear VRでの体験と同程度なのであれば、Galaxyのスマートフォンしか使えないGear VR比べ、圧倒的に幅広いスマートフォンが対応する上に、Android用のGoogle Play StoreをベースとしたVRプラットフォームが誕生することになります。

Gear VR Daydream
画面 有機EL 2560×1440 スマートフォンによる
フレームレート 60 Hz 60 Hz
レイテンシー 20ms以下 20ms以下
対応スマートフォン Galaxy S7/S7 Edge/S6/S6 Edge Daydream対応スマートフォン。8社ほどが参入予定
プラットフォーム Oculus Home Google Play Store VR版
ソフト面でのサポート Oculusの技術(非同期タイムワープ)による低残像、低遅延 Android Nによる低残像、低遅延(具体的な技術は不明)
コントローラー 側面タッチパッド、ゲームコントローラー(別売) Daydreamコントローラー(リモコン型)
価格 14,680円 未定

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一方、Gear VRの動向はどうなるのでしょうか。既に明らかになっていることですが、Oculus社はGear VR向けのポジション・トラッキングを開発中です。ポジション・トラッキングを加えることでGear VRを装着中に位置がトラッキングされるため、身体を動かすことが可能になります。ポジショントラッキングはVRの没入感を更に高める要素です。Gear VRは今後、Ocuus RiftなどハイエンドのVRデバイスと並ぶさらに高品質なVR体験を目指していることが伺えます。

また、もう1点気になるのはモバイル向けのプラットフォームを持っているAppleの動向です。Daydreamは全てAndroidベース。コンテンツもAdnroid向けのGoogle Playにて配布されています。AppleがiOSに対応したVRデバイスとVRプラットフォームを作らなければ、iOSのデバイスはVRへの参入に出遅れとなりVRを体験するならAndroidで可能性が強まります。

早とちりはできない

さて、ここまで語ってきたDaydreamですが1点忘れてはいけないポイントがあります。それは、「実際に体験するとどの程度快適で、質のいいものなのかはまだ分からない」ということです。

Daydreamを動作させるためのスマートフォンは今秋に発売されるとされています。現在発売されているAndroidスマートフォンでは、性能不足もあり十分に動作しないため、Daydreamの体験が実際にどの程度“高品質”なのかは実機を確認するまで分かりません。コンテンツの開発は既に可能ですが、注意したいところです。

VRデバイスに関しては、スペック上は非常に高性能で快適さを謳っていても実際に体験するとハードウェアが先行してしまいソフトウェア側のサポートが追いつかず、総合的な体験の質は高く感じられない、ということが往々にしてあります。

Galaxyのみを対象としたGear VRが既に全世界で100万台以上を出荷しています。Daydreamの実力はまだ不明ですが、もし仮にGear VR相当の体験が可能だった場合、Daydreamの登場によってミドルエンドのVR体験がさらに多くの人に普及することは間違いないでしょう。


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