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活用事例 2018.02.05

見回す必然を生み出す 実写VR映像企画で押さえるべき「3つのS」

2018年1月16日、デジタルハリウッドSTUDIO渋谷にて特別講義『VR映像作家による最新制作事情 – おいでよVRの森 -』が開催されました。講師を務めたのは、株式会社コンセントに所属する全天球映像作家チーム『渡邊課』課長の渡邊徹氏。渡邉課はこれまで、水曜日のカンパネラやみみめめMIMIの360度ライブ映像や映画『3月のライオン』のVRコンテンツなどの作品を手がけてきました。

国内VR映像制作の最前線で活動する同氏が見る現在の実写VR映像制作の状況や体験談が様々な事例を基に語られました。VR表現の強みは何なのか。そもそも何故、VRで表現しなければいけないのか。そういったVR映像制作に必要なエッセンスがよく分かる講義内容でした。

渡邊課課長、渡邊徹氏。

見回す必然性

VRの強みは、見る側が自由に視点を決められること。「たとえば船に乗っていてレインボーブリッジの下を通ると、人は上を見上げる、という動作をします。普段私達は、水平方向に目線を動かしていますが、VR映像では上下にあるものを映り込ませていくのがコツです。」と渡邊氏は言います。

例として紹介されたのが、東京都観光汽船の宇宙船のようなデザインが特徴の船、ヒミコ。中のパーティを360度撮影していますが、レインボーブリッジの下を通ると乗客が上を見上げます。こういった体験を映像に盛り込む事で、VR体験者も同じような体験が可能です。

また、「実写VRには見るためのルールを作ってあげたほうが良いです。見るルールが一言でもあると、視聴者も最後までストレスなく見ることができます。見るための導線を設計していく事が大事です。」と解説。例えば、「このボールを追いましょう」などのように動画を公開する際にキャプションを一言付け加えてあげるだけで視聴者に役割が与えられ、見やすくなります。

VR企画で押さえるべき3つのS

実写VR企画には、押さえるべき3つのSがあります。その3つとは、

・Scale
・Speed
・Surround

この3つについて、渡邊氏は事例ベースで解説を行いました。

Scale

まず、Scale。VRはカメラの高さが見る人の身長になります。例えば、特撮もの等ではそこを逆手に取って、フィギュアなどのスケール感を騙して撮影をします。VR撮影はスケール感の表現に強みがあると言います。例えば、おそ松さんの360度動画では、おそ松さんのフィギュア自体は親指ほどのとても小さなものですが、ヘッドマウントディスプレイで見ると等身大に見え、一緒にお風呂に入っている感覚を味わう事ができます。

https://www.youtube.com/watch?v=eCJKVWyddiM

続いて紹介されたのは、『スイムスーツガール』。例えば、自分が蚊になったとして女の子の周りを飛んでいるような視点を意識して企画されています。このように、何かの視点になる事も大事とのこと。渡邊課では、シャワー視点やテニスボール視点など、様々な視点から斬新な映像を制作しています。

スイムスーツガール(シャワー視点)

Speed

渡邊氏によると、通常のカメラでは被写体をカメラが追いますが、VRでは主観です。F1や陸上を見ている時、首を振って追いかけます。例えばウサインボルトであればその走りの速さを自身の首で振って追うことで実感できることがVRの特徴だと渡邊氏は言います。『YEBISU JUMP』では、実際よりも速く再生する事で、視聴者が恵比寿の上空までジャンプをしているような体験が出来ます。スピードを活かして、現実の人の動作や体験にVRを紐づける事が大切です。

Surround

Surroundに関しては、ナビゲーターの存在が重要です。映像の中で視聴者が何をしなければいけないのか分かるような導線設計を行います。たとえば、『飛ぶ!3月のライオン・聖地巡礼VR』では、猫のキャラクターがナビゲーターとなり、映画「3月のライオン」ゆかりの地を旅します。キャラクター以外にもテロップ等で視線を誘導しています。

実写VR映像制作には前準備が必須

渡邊氏は実写VR映像について、「パッと行って、パッと撮影できる訳ではない。」と言います。それは一体なぜなのか。渡邊氏は、「VR企画をたてる時、必ず最初にデモを想定する。」と言います。それは、VR体験自体を立ってするのか、座ってするのかで視点の高さが異なるから。自分は座ってVR体験をしているのに、映像内で立った時の視点では違和感を覚えます。最終的にどんなデバイスでアウトプットするのかについても確認しておくと良いとのこと。

また、音楽のライブ撮影等では、2Dカメラと演出周りでのバッティングが起こってしまうと言います。例えば、VRカメラで良い画を撮影するためにステージの真ん中に置いた場合、2Dカメラの抜けが悪くなり現場で揉め事が起きやすいです。これを阻止するために、「仕事を依頼されたら依頼主を連れて、交渉すると良い。」とコメントしました。今回のライブで何が重要なのかでポジション取りをスムーズにします。

以下のライブ映像では、ステージの真ん中にVRカメラを設置しています。

タイムラプスを使った映像制作

https://www.youtube.com/watch?v=U77E9LviKWY

ここからは実践編として事例紹介が続きます。まずはオフィスなどの空間プロデュースを手がけるユニオンテック株式会社の事例。もとのオフィスが解体されてから新しいオフィスが出来上がるまでの1ヶ月半の間をタイムラプスで収録。全3箇所で撮影した8万4千枚という膨大な量の画像を使用しています。現在、本社入り口のサイネージに来訪者がタッチパネルディスプレイを使用して自由に見回せるように設置されています。制作で渡邊氏自身が毎日回収に行かずとも、現場の人が撮影から吸い出しまでを行えるようオペレーションマニュアルを作成したことで実現した映像です。

映像をドーム投影する

ドーム投影をすることで、大人数体験が可能です。こういったドーム投影型のコンテンツ制作は仏像の大きさ等、スケール表現に向いていると言います。明るい映像は白っぽさが増してしまうため、苦手とのこと。360度ではなく半分だけで投影が可能です。

最後に受講者からの質問に答えるQ&A;セッションがありました。

 

Theta Vと

Insta360 ONEの比較

Q:(360度カメラの選定について)リコーのTheta VとInsta360 ONEはどちらを選ぶべきですか?
A:Theta Vは全体的に撮れる画が綺麗ですが、動画撮影は現在はフルオートなので細かい設定ができないという弱点があります。ライブなどの明滅の激しい現場には向いていません。ただ、オートでの撮影のチューニングが良く、青い空や海などを撮る時には良い画が撮れます。Insta360 ONEは近距離スティッチが苦手ですが、スタビライザーがかなり優秀なため、動的な場面に強いです。ISOやシャッタースピード等のマニュアル撮影にも対応しています。

Insta360 ONEのスタビライズ性能を実演する渡邊氏。スマホをどんな方向に向けても天頂を維持します。

水中の実写撮影の方法とは?

Q:水中撮影では光の屈折率が変わりますが、スティッチ(複数カメラで撮影された映像・写真の繋ぎ合わせ)はどのように行うのでしょうか。
A:ハウンジングの上にさらにレンズをかませる事で対応しています。それでも、これを撮影した当時はハウジングを含めて機材費が60万円。スティッチもかなり難しかったです。最近ではInsta360 ONEやTheta V用にも専用ハウジングが販売されています。

どんなソフト

を使うの?

Q:どういったソフトを使用しているのでしょうか。
A:撮影した画像をカメラに付随する純正アプリでスティッチします。編集は、Adobe Premire ProとAfter Effectsさえあれば実写VR映像制作は完結します。ステッチは最近はカメラ付属のソフトがそれぞれ出ているのでそちらを使用しています。

実際にPremiere Proを起動して解説が行わました。エフェクトタブからイマーシブビデオを選択すると、VR映像制作に必要な機能が表示されます。

スタビライザーソフトを使用すると、映像体験をさらにリッチにする事が可能です。普通に撮影した動画は一見そこまで揺れていないように見えますが、スタビライザーソフトを使用すると一目瞭然。CANVAS 360やMocha VRといったソフトが有名どころです。以下は実際にCANVAS 360を使用した比較動画です。

https://www.youtube.com/watch?v=LVrkVk9-W1Q 

YouTubeによる分析によると、実写VRのそのほとんどが360度のうち180度も見渡されていないという調査結果があります。筆者も様々な実写VR作品を見ていますが、「これ360度でやる意味あるかなぁ」と思うものも多々ありました。『見回す必然』をテーマに活動する渡邊課の実写VRの見識を今回の講義で知ることで、「なぜVRじゃないといけないのか。」が分かり、実写VRの魅力を再発見することができました。

◾️渡邊課公式サイト
https://watanabeka.persona.co/
◾️問い合わせ先
[email protected]


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