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VTuber 2020.10.03

VTuberの海外進出にともなうリスクとは? 中国エンタメ事業関係者に話を聞く

大手VTuber事務所が海外展開を本格化し、現地でのオンラインイベントや現地VTuberの育成に力を入れる一方、国際情勢状の政治的な問題からトラブルが起きるケースが相次いでいる。今回、そうしたリスクを回避するにはどのようなことに気をつけるべきなのか?


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株式会社MYC Japan代表取締役社長として、日本と中国のカルチャライズとローカライズをサポートしている峰岸宏行氏に、現場視点から話をうかがった。

――現在、中国を中心としたVTuber事業の盛り上がりをどのように捉えていますか?

峰岸:

2017年のキズナアイのデビューに始まり、2019年のホロライブとビリビリの提携と、ここ数年VTuber達は中国で大きな盛り上がりを見せました。

キズナアイは2016年頃から激化した中国の海外コンテンツに対するセンサーシップ(国家による検閲規制)によって様々なアニメが配信停止する中、新しいエンタメとして迎え入れられたと思います。中国では「ギャグ要素」の多いエンタメは受け入れられやすく、例えば古くは「あずまんが大王」、2000年代では「ギャグマンガ日和」その後は「男子高校生の日常」等、シュール系の作品が海賊版、正規版問わずヒットしてきました。

その中でキズナアイのトーク、ネタは相性がよかったのでしょう。中国SNS微博の展開も早く、非常に成功したタレントのひとりだと思っています。

その後、中国進出初期は1、2期生しかいなかったホロライブも、白上フブキの躍進などの力もあり、日本と寸分たがわぬ形で中国で人気を取る事に成功しました。

その裏では、中国人ファンによる支持、そして英語圏への発信もあったと言われており、中国でのホロライブファンの熱の入れようは目を見張るものがありました。

――中国では大手VTuber事務所ホロライブ所属ライバーの一部が、中国と台湾の領土認識をめぐる問題に抵触するトラブルを起こし、中国大手の動画プラットフォーム「bilibili」を中心に炎上が起きました。この問題について、どのようにお考えでしょうか?

峰岸:

ホロライブは今年4月に「bilibili」でのライバー活動が十分でなかったことに対して謝罪文を発表したり、6月に国土をめぐるクイズ問題が中国側で問題として認識されたりと、複数のトラブルに巻き込まれています。

これまでにもエンタメ業界で中国と台湾をめぐる領土認識についての問題を巡って騒動が起きています。そんな状況の中、中国からのゲームコラボ、投げ銭収益が一定数ある事務所として、ホロライブから同じような事象が起こってしまった事には非常に残念に思います。

今回の歴史的問題に関しては、中国サイドと台湾サイドの両者の言い分があり、それは当事者以外が口をはさむべき問題ではありません。肝要なのは「誰がどこで収益を得ているのか」をしっかり認識すべきということです。

ホロライブの場合、YoutubeとBilibiliでのミラーリング配信を行っていました。そしてBilibiliでは配信時に、ファンからの投げ銭も収益として受け取っています。そんな状況の中で、中国のファンが不快感を示す話が飛び出してしまった場合、(事実としての正否を問わず)、その怒りは拭い難いものになると思います。

たとえば中国のゲーム会社が日本でゲームを売る際に、日本の過去を糾弾するような内容のものを出せば、それが歴史的認識として「合っているか、そうでないか」を問わず、憤りを感じる人も少なくないでしょう。今回の基本的な構図はそれと同じものだと思います。

中国サイドでは、現在今回の騒動がわざと起こされたものなのか、そうでないのかという論争に発展しています。しかし、そういった問題提起は実際「主観」でしか判断できないものです。納得できる答えを見つけられるかどうかについては、視聴者側に委ねられている状態と言えるでしょう。個人的にはこちらの動画を視聴するのをおすすめします。

――VTuberに限らず、中国で日本のエンタメ産業が規制や反発を受けている事例は他にどのようなものがあるでしょうか?

峰岸:

規制、反発というと、かなり多くの例がありますが、まず気を付けないといけないのは、政府規制か、プラットフォームの自衛か、視聴者の主観的問題かの3つのパターンがあることです。

政府規制の例としては、2016年の「進撃の巨人」等の50タイトルほどの規制があります。これは政府行政機関による指示です。同様に「DEATH NOTE」も2007年に中国で小中学校での没収という形で規制されています。

プラットフォームの自衛でいう例では、今回のホロライブの配信停止措置がそれに該当しますね。中国ではネット上で配信されるアニメ、漫画などについては、プラットフォームの責任の下配信されており、一般的には他のテレビコンテンツや韓国コンテンツとは違って事前審査を受けていません。

視聴者の主観的なものとしては「ダーリン・イン・ザ・フランキス」が近年では有名かもしれません。本作を女性蔑視だと感じた一人の視聴者が大量の苦情の手紙を政府機関に送りつけたため、政府から指導が入り、配信中止に追い込まれました。意外と中国の民主的な部分が垣間見れる事件でした。

私は18年間中国に滞在して、様々な炎上や規制、反発を見てきましたが、日本人はこういった複数のケースをひとまとめに「反日行動」と取ってしまいがちで、本質を見抜けず、中国に対してただヘイトが溜まってしまっているように思えます。

ちなみに日本のコンテンツは被害を大きく受けているように見えますが、実は中国でもっとも被害を受けているのは韓国コンテンツで、現在「限韓令」の名の下、明文化されていませんが、韓国アーティストの有償イベントへの中国招待、ドラマ、映画等での起用を「遠慮」するようにしています。

その昔、一晩で15億とも30億ともライブで稼いだといわれる韓国スターは中国を完全に締め出されています。これは政府規制ですね。

なぜなのかというと、理由は2つあって、1つは中国は保守的な価値観を持っているということ、そして2つ目は海外諸国に儲けさせすぎてはならない、という意識があるからだと私は総括しています。

――今回の問題のようなことが起きないようにするには、どういったリスク管理が必要とお考えでしょうか?

峰岸:

リスク管理のもっともよい方法は、現地の状況をよく知り、様々な情報を即座に関連部門から引き出せる顧問の存在だと思われます。

中国も本当に多数の、日本に住んでいては分からない様々な地雷が潜んでいます。例えば「7月7日」は日本ではあまり認識されていませんが、盧溝橋事件の日です。この日は、特にSNS上で政治的な発言は控えたほうが良いと言えるでしょう。

また「旅順」といった土地にも注意が必要です。日露戦争時に戦場となった場所なので、あまり日本人然としてふるまうのは危険な場合があります。

さらに諸外国となると、もっと多くの地雷が潜んでいるので、関わる際は事前に調べるべきかと思います。日本企業も地域ごとの歴史認識やマナー、タブーなどをある程度把握し、マニュアルを作った方が良いと思いますが、前述したように直ぐに対応できる顧問を置くのが一番心強いかと思います。

――VTuberが海外進出をする上で、事前に注意すべきポイントは何でしょうか?

峰岸:

正直、ありません。そして正直、全てです。

先ほどもお伝えしたように、海外には本当に様々な価値観、ルール、触ってはならないポイントがあります。「牛を殺してはならない」「髪を見せてはならない」「男性と女性は別々に行動すべし」と、我々が意識していないだけで世界中は様々な制約に縛られています。

今回は偶然にも中国で問題となりましたが、例えばVTuberがトルコ語でトルコ・キプロス問題に抵触するような発言をすれば、炎上するかもしれません。

幸いにも、中国のホロライブファンの一部は何とかホロライブを中国で復活させようと活動しています。彼らも政治的に立場をしっかり表明しないといけない事情やタイミングがあるので、状況の好転を願うばかりです。

――中国に限らず、VTuberの海外進出のメリットはどういったものでしょうか?

峰岸:

海外に進出するメリットだけ話すのであれば、1つはビジネス、2つは体験でしょう。成功すれば、現在欧米圏で注目されている「ホロライブEN」のように多くの方が支援するものになると思います。

ですが、近年、日本の芸能界でも海外進出して成功した例は本当に極稀だと思います。VTuberさんの中には「日本で活動していた方が安心安全」という場合もあるでしょう。

そして体験ですが、国際交流や国際理解をはかれるという点でも魅力です。VTuberもファンも海外の新鮮な文化に触れ、ポジティブな交流が生まれると考えています。

――ありがとうございました。

執筆:ゆりいか


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