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にじさんじ 2020.04.14

にじさんじの野良猫・文野環はなぜ今盛り上がっているのか?

3月29日、にじさんじの野良猫文野環が「バーチャル卒業式 ~卒業おめでとう~」という
タイトルで配信を行い、不登校小学生の少年革命家として話題のYouTuberゆたぼんとコラボしました。

この突拍子のなさにはファンのみならず、にじさんじライバーたちも絶句。月ノ美兎が「野良猫って何?」と困惑するほどでした。

確かに今までも、文野環はゆたぼんの話題を配信で口にしてはいましたが、本当にアポを取ってリアルタイムコラボするなんて誰も思っていなかった。最初はコラ画像かと思った人もいたようです。

しかもコラボ終了後に小5だったことに気づくという展開。何の思想性もなさそうなところもミソで、どこからがエンタメ精神で、どこまでが単にやりたいだけだったのか、全く見当がつかない。ファンからは「天才」「伝説」と褒め称える声もあれば「冒険しすぎ」「狂気」とわけのわからなさにおののくく声もありました。

文野環は2年前ににじさんじ元2期生としてデビューしており、最近になって急激な勢いで登録者数を伸ばしているバーチャルライバーです。もともと人気はありましたが、今の注目の集め方は質が違う。「かわいい」というよりも「やばい」に近い。この記事では、普段どんな配信をしているのかを追いながら、彼女の魅力に迫ります。

自由気まますぎる文野環の配信スタイル

文野環のYouTubeチャンネルを見ると、すぐに気づくのが同じサムネイルの多さ。これは意図的なものではなく、配信が切れた後そのまま別枠で配信しているために残された残骸です。アーカイブを消そうとも編集しようともしないので、数分ほどの切れ端が残っています。

徹底して適当を貫いている彼女。最初はその意味不明さに圧倒されてしまいますが、サムネイル羅列も「彼女らしさ」のひとつになっているのが、徐々にわかってくるはず。

例えば彼女は、配信中にも関わらず、急にトイレに行くことがあります。1時間の配信の中で無音の時間が10分以上。その間視聴者は完全に放置されます。待っている間どうすればいいのかファンも困惑するしかありませんでした。

また、ごはんバーガーを食レポする企画の回では、人にごはんバーガーを買ってきてもらい、外で食べようとしたタイミングで警察に声をかけられてしまいます。その後、袋に入っていたのが、ごはんバーガーではなくハンバーガーだったことに気づき、ノートPCを自転車に積み込んで、そのまま移動。ようやく本物を購入したものの、何かの攻撃を受けてごはんバーガーを落としてしまい「いたっ、ちょっと待ってよ、あっ」と言う発言の後に終了。…この文を読むとわけがわからないと思いますが、配信を見ても多分わけがわからないはずです。

どうも彼女の行動は、人間が考える一般的な配信の常識を越えた、全く別の次元のルールで動いているようです。

初心者かベテランかわからなくなる文野環

文野環の配信では身体が全く動かないことが多々あります。立ち絵のみが画面に映されているだけのこともしばしば。「にじさんじアプリはどこに!?」という感じですが、これも文野環だからしかたない。画質も悪く、配信電波も不安定。音質も何かいつもガサゴソしており、音量等の操作もできていません。パソコンの音が大きくてゴーっと鳴り続けるので「のらジェット」と呼ばれることも。

このように書くと配信初心者のようですが、あまりにも毎回なので「わざとなんじゃないか」と思わされます。音質の悪さすらも彼女の個性であり、ツッコミどころ・笑いどころなのが次第にわかってきます。

立ち絵配信が多い彼女ですが、さすがに動くつもりはあったようで、「2Dお披露目配信」を行ったことがあります。やっとにじさんじアプリに戻ってきた。みんなの3Dお披露目配信のマネをして、グリーンバック素材を見せたり、動く顔によるジェスチャーゲームをしたり。しかも動きがカクカク。これはつっこんでいいのかどうなのか困る。

ちなみに、この前の回で顎の関節を外してしまった文野環。2Dお披露目配信のラストでも、またしても顎を外してしまいます。あまりのきれいなオチに、おなじ元二期生の剣持刀也も多少はエンタメ的なものがあるのだろうと感じていたようですが、裏話では本当に顎が外れていて、みんなで顎の治療の病院を探す羽目になった、という壮絶なオチがついています。お大事に…。

自由奔放すぎる野良猫的トーク術

一方、彼女のトークは視聴者に人気です。おしゃべりは配信慣れしていて面白い。話術が巧みかというとちょっと違う。話自体は脈絡がなくて、あっちへいったりこっちへいったりと、非常に落ち着きがないです。にも関わらずなのにトータルで見るとそれが「自由奔放な野良猫」らしさに繋がり、“視聴者が野良猫を観測するエンタメ”になっているのがわかります。

彼女のトーク力とパフォーマンス力が垣間見られるのが「【夜勤事変】真夜中のコンビニバイト【ふみのとふみ】」。コンビニホラー「夜勤事件」が流行っていた頃、自分たちがコンビニ店員になる凸配信も行っています。個々の参加者がお客さんになるという茶番が行われ、凸者全員分が非常に凝った展開で見応えがあります。

フミと一緒のコンビ「ふみのとふみ」による配信は、常識神フミとフリーダム文野環のやり取りのバランスが抜群によいです。ちなみに文野環のチャンネルで行ったのですが、配信を操作しているのはフミの方だったりします。(どおりで画面がきれいなわけだ)

予測不可能な配信中の事件の数々

彼女の配信の魅力は、誰もが思いつかない(思いついてもやらない)ような企画を実行するところにもあります。

例えば上記の配信。10万人突破すると3Dになる可能性が出るにじさんじですが、文野環も最近の人気でまたたく間に10万人突破。あわせて彼女は配信で3Dモデルお披露目をします…「いやはやすぎだろ?」と思いきや…最後まで見てください。これはこれである意味技術がすごい。

その一方で人の視点では気づかない、猫の日常だからこそ見えるものも、フラットな感覚で配信されます。例えば周りの猫がマイクに嘔吐したため、掃除機で吸ったらマイクごと吸い込んでしまい、そこに話しかけるという無茶な配信がありました。

そこまでは視聴者も彼女の振る舞いを笑っていたのですが、次の配信で様子が急変します。そのままになっていたマイクを探し続けるのですが、なぜか彼女の声がしおらしい。実は猫の嘔吐は問題があったようで、「動物愛護団体に連れて行かれた」と文野環が語ります。強がる彼女の寂しさがにじむ声は、破天荒ないつもの彼女と異なっていました。この「猫目線の感情の吐露」もまた、文野環ならではの配信で起こるドラマのひとつと言えます。

最初から”ぶっ飛んでいた”文野環

昨年半年ほど休止していた文野環ですが、休む前から不可思議な配信が多いライバーでした。これについては月ノ美兎、剣持刀也、森中花咲など元一期生・二期生がしばしば話題にしています。

有名なのは、ポテトチップス2434袋を当ててしまった件。本当にカルビーの当選に当たり、置く場所のない数のポテチは、にじさんじの事務所に置かれ、ライバーやスタッフが食べることに。

編集動画が面白いのも特徴的です。「もののけ姫」の歌動画では、視聴者に強制的にデュエットさせる珍しいスタイル。MVとして動画中に自己紹介をするという自由っぷりです。

新衣装公開という配信では実は公式に作ってもらったのではなく「猪年先生(文野環のデザインをしたのはねづみどし氏なので、別物)」なる人物に作ってもらった勝手な衣装で登場。手がこんでいます。

デビュー時から今に至るまで、マイペース極まりない文野環。元から彼女は特異でしたが、最近配信量が格段に増えたことで、その特異性にVTuberファンの注目が集まりはじめました。

現在の配信文化の常識にとらわれない”アウトロー”な魅力

先程も紹介した2D配信の中で、剣持刀也と森中花咲が文野環の魅力ついて論じています。

剣持刀也「アウトローの王様みたいな。だからこそ時代が追いついた感があって嬉しいですよね、やっぱり」
森中花咲「逆に色々な人が出てからこそのたまちゃんの良さの引き立ち方もあって、世の中がそこが良いって求めだす」
剣持刀也「ストレートボールが流通したから、カーブが活きてくるみたいな」

月ノ美兎も文野環のことがかつてから好きで、しばしば話題に出しています。たいてい「たまちゃん」と呼ばれる文野環ですが、月ノ美兎は「野良猫」という呼び名で通しています。月ノ美兎は彼女の振る舞いを「あれは真似できない」絶賛。「みんなにもっと見てほしいなって…ぶっちゃけそんなに思わないですけど、私が見ていればいいかなって感じがあるので、気が向いたら野良猫を見てくれればな」と勧めています。

正直、誰もが楽しめる一般的普遍的なエンタメでは決して無い。けれども、この人間の知の外にある混沌が好きな人には激推ししたくなる、得体のしれないすごさがある、という文野環の本質を突いた発言です。

にじさんじのみならず、2020年になってバーチャルYouTuber、バーチャルライバーの配信には、文化が成熟していくにつれ、視聴者の中に共有される”常識”のようなものが生み出されました。「配信時間は1時間くらいが適切」や、「ゲーム実況時のテンポは重視すべき」、「初配信時の自己紹介でやるべき流れはこれ」「凸配信のペースは守るべし」など…。ライバーのやりたいことと視聴者のみやすさとの兼ね合いで、最適化されつつある流れなのでしょう。

それが本流となったからこそ、全く違う向きに1人突き進み続ける文野環の姿がより目立つようになりました。剣持刀也がいう「アウトロー」という表現が的確です。意思を持って本流に反するカウンターカルチャーではなく、そもそもの思考過程が別物だっただけです。

このあたりは、文野環がそもそも「野良猫」という名前でデビューした(文野環の名前は視聴者投票でつけられた)ことを考慮に入れる必要があります。彼女はあくまでも名もない一匹の猫で、誰かに飼われてもいない、非常に気まぐれな存在です。

「「人間って求めてないものを外に追いやるけど 私のこと考えてないのかな😃」
ひさびさnote|文野環|note
https://note.com/beautiful_cat/n/n92e6b26addd2

「私もたくさんの山や谷を乗り越えて 紙飛行機みたいにどこまでも飛んで行きたいな😀 誰かが飛ばしてくれないとどこにも行けないんだけどね」
夢|文野環|note https://note.com/beautiful_cat/n/nc7fd54de4953

文野環はnoteでも、のびのびと独自な言葉の使い方で人間の世界と野良な自分について語っています。彼女から見た人間界は面白いことだらけ。同時に自分の意にそぐわないこともいっぱい。だから、ゆたぼんが面白いと思ったらコラボもするし、トイレに行きたいと思ったら時間を気にせず行ってしまう。センシティブでNGなワードもひょろっと言ってしまう。人間の尺度で考えること自体がそもそもナンセンス。

例えばにじさんじの新人デビュー配信ではたいてい先輩たちは気を使って配信がかぶらないように時間をずらすのですが、彼女は普通にかぶせていました。邪魔をしたいのではなくて、自分のペースを崩していないだけです。

文野環が見せる野良猫尺度の体験

夏目漱石の「吾輩は猫である」は、猫の価値観で、猫の目から見た人間の世界を描いた作品でした。今読むとなかなかバーチャルです。

野良猫・文野環はその現代版のような面白さがあります。人間世界の興味をいっぱい見つけて、独自解釈で真似事をする。その真似の結果は一般的なVTuberのやり方と全然違うかもしれないませんが、彼女は気にしない。一方で人間の「変だな?」と思うことは、ズバズバと言ってしまう。

彼女の挨拶は「チャンネル登録、高評価、低評価、よろしくお願いしまーす」。高評価や低評価の意味もそもそも猫だからわかっていないあたり、他のVTuberの真似をして言っているだけのようです。

猫だからこその危なっかしさも、そのまま配信に乗ります。「蘇」を作る配信では火災報知器が鳴り、多くのファンを不安がらせてしまいました。顎が外れた時も最初はジョークなのかと笑っていた人が多かったのですが、あまりにも外れるものだから、頼むから病院に行ってほしいとファンから多数声があがりました。本当か嘘かわからないラインで、心臓に悪い展開も多く起こります。

何もかもが猫らしく雑かと思いきや、慣れたライバーらしく手の混んだ配信準備をしているなど、何をしてくるか緩急がわからなさすぎる。文野環の配信を見る視聴者は、毎回起きる伝説を最高の楽しみにしつつ、いつも身構え続けています。

執筆:たまごまご


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