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テック 2016.11.22

VR体験で重要になる“奥行き”とは 開発に役立つ5つのヒント

現地時間2016年11月2日・3日に、アメリカはサンフランシスコにて「VRDC 2016」が行われました。

VRDCとはVirtual Reality Developers Conferenceのこと。会場では世界各地のVR開発者が集い、企業によるデモの展示、パーティによる開発者・企業間の交流、そして開発に関する知見を共有するセッションが行われました。

VRDC2016で行われた全セッションはこちらから視聴可能です。(すべて英語)

本記事ではその中で、『VR Usability in Wonderland』と題されたセッションのレポートをお送りします。登壇したのはコンテンツ制作も行っているスタジオ「XEODesign」からニコル・ラザーロ氏。

セッションでは「VRでやってはいけないこと、そして適切なやり方」と題して、以下のようにセッションを進めました。

はじめに

0.VRとは何か

1.カメラを動かすこと

2.HUD(ヘッドアップディスプレイ)を使うこと

3.ゲームプレイ

4.感動を引き起こす

5.音楽を使う

順に見ていきましょう。

はじめに:VRにはイノベーションが必要

ラザーロ氏はまず、「イノベーションのジレンマ」の話から講演を始めました。

「イノベーションのジレンマ」とは、ある企業がひとつの分野でイノベーションを起こし、大きな成功を収めたあと、確立した地位を守るために(既存の技術を磨き続け)新興の分野を軽視し、新たな企業が引き起こす次のイノベーションに置いていかれてしまうことです。

テレビをはじめ、映像メディアはもはや生活に不可欠なものとなっています。その影響で、VRの分野ではまだ、従来のTVゲームで用いたコントローラーやUIを使って開発されているコンテンツが沢山あるのです。「これは言わば、iPhoneに十字キーを取り入れているようなものだ」とラザーロ氏は語ります。

「VRには、新たな革新的ツールが必要なのです」

VRコンテンツを開発していくために「まずはなにより、どうすればそこが、ワンダーランドのように感じられるかを考えましょう」とラザーロ氏は言います。

ここからは、まずVRとはどのような性質持ったものなのかについて触れたうえで、VR開発のヒントになる5つのポイントについて順に見ていきます。

0.VRとは何か

「VRで引き起こされる感情は、今までのメディアより深く、強く、個人的なものだ」と始めるラザーロ氏。VRは人を大いに感動させることができます。

そして氏はそんなVRについて、以下のように続けます。

「今までクリエイターが赤青緑の3色クレヨンを使っていたとのだすると、VRでは“奥行き(深度)”という4本目のクレヨンを新たに使えることになります。逆に言えば、“奥行き”に関する体験を使っていないものは、VRとは呼べません。ゲームを彩っている赤青緑のクレヨンをすべて取り除き、4番目のクレヨンだけ残した状態で遊ぶことができないコンテンツは、VRではないのです

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カメラを動かすこと

△三人称視点の、主人公についていくカメラ

まず、上手な利用が難しい手法として、三人称視点(神の視点)で主人公についていくカメラが挙げられました。特にジャンプなどを利用して進んでいくアドベンチャーゲームでは、主人公が走ったりジャンプしたりする動きが面白いのに、三人称視点カメラでは、それらの動きはプレイヤーにはまったく伝わりません。

ただし、前後左右の移動、ジャンプによる上下の移動は、一人称視点で見るとVR酔いに繋がってしまいます。ラザーロ氏は例を用いて、カメラ制御のヒントになりそうなことをいくつかの手法を紹介しました。

コクピット効果

スペースシューティング『GUNJACK』では、プレイヤーが宇宙船に乗り込み、その中から見ているかのような体験になります。コクピットや運転席、自分の体の一部(たとえば鼻)などを固定物として画面に常に描画しておくことで、VR酔い軽減の効果があることが知られています。

構造的な枠

コクピット効果とは別に、プレイヤーが立っている場所に構造的な「内」「外」をつける手法もある、とラザーロ氏は言います。これはコクピットが無いジャンルのゲームで使える手法です。

例えばHTC Vive向けVRゲーム『Hover Junkers』では、移動は大きな乗り物に乗ったまま行います。この大きな乗り物の持つ「柱」「床」「柵」などがは当然プレイヤーと一緒に動くため、プレイヤーが「今どこに立っているのか」「何が起きているのか」という状況理解に役立つのだそう。

またVR体験に向けた意図とは異なりますが、この手法の源流としてラザーロ氏は、スピルバーグ監督の映画を紹介しました。映画『Owner』では、船に乗って登場人物たちが移動するシーンがあります。俳優たちはほとんど会話だけという動きの少ない「静」のシーンですが、その背景では港やフェリーが移ろい「動」の演出が凝らされています。これにより、カメラ自体はほとんど動かないにも関わらず、1分40秒という長いカットを飽きずに見ることができるのです。

映画『Owner』の該当シーンが2:12から始まります。

テレポートによる移動

加速度運動を伴うとVR酔いを引き起こすことは、既に共通認識になっていると言ってよいでしょう。酔いを引き起こさない移動の手法として、昨今「テレポート」(瞬間移動)はさまざまなコンテンツで用いられています。

https://www.youtube.com/watch?time_continue=3&v;=DmaxmnPzMWE

Oculus Touch向けタイトル『Bullet Train』

スローモーション

Epic Gamesの技術デモ『Showdown』のように、シーン全体をスローモーションにするのもいいでしょう。スローにすることでめまぐるしい動きを回避すればVR酔い対策になり、さらには必然的に移動範囲を狭くすることができるため、そのぶん細部の作り込みに時間を割くこともできます。

Oculus Rift向け体験『Showdown』

視界の外縁をぼかす

様々なプラットフォームで展開中の『Eagle Flight』では、素早い動きをする際に視界の外側が黒くぼかされて見えなくなるという手法が用いられています。これによってVR空間で早い移動をするときの酔いを軽減できます。

『Eagle Flight』のマルチプレイモードで、高速な移動を使った時の画面

コントローラーデバイスの描画

プレイヤーが手に持っているコントローラーを、ポインターとしてVR内で用いることで、手がどこにあるのか、どのように動いているのか、今どこを指しているのかなどの情報を得ることができ、分かりやすくなるという例。視覚的な目印が、先の「構造的な枠」と似たような効果をもたらすこともあります。[h]

HUDを使うこと

HUDは、人間の視界に情報を提示する手段です。

世界すべてがUI

『Job Simulator』や『Fantastic Contraption』では、とりあえず手に取れそうなものはすべて手に取ることができ、それを使ってできそうなこと(スイッチを押す、引っ張る、開けるなど)は一通りできるようになっています。メニューから「開ける」「押す」などの文字で書かれている項目を選ぶことなく、直感的な動作で扱うことができるものを「ダイエジェティックUI」といいます。

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色や形

UIを複数つくる際、同じものを表現する場合は同じ色を使うなどすると、視覚的に対応できるため、わかりやすくなります。また、HMDを被ったとき、頭を上下するより左右に振る動きの方が身体的に楽です。首が疲れないように、頻繁に見上げたり見下ろしたりするUIは避けると良いでしょう。

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AR的な表示

ARで見られるように視界の一部にUIを表示するのは効果的です。UIを表示する位置をさまざまに変えることで、VRの特徴である「奥行き」を利用することもできます。

浮遊するサイコロ

『Kismet』では、プレイヤーのターンになるとテーブル中央に置かれたダイスが光り、浮遊します。「さあどうぞ」と言わんばかりの演出によって、プレイヤーは次に何をすればいいのか分かるというわけです。

ゲーム中に情報提示デバイスを登場させる

スマートフォンなど、ディスプレイを持った高機能なデバイスをゲーム中にアイテムとして登場させ、それを見ることで情報を提示する手段です。

ゲームデザイン

これはラザーロ氏が代表を務めるXEODesignの作成した図です。詳しい解説は公式サイトにてなされています。

冒険からくる「好奇心」はEASY FUNを、チャレンジの失敗から来る「挫折感」はHARD FUNを、人と「協力する楽しさ」はPEOPLE FUNを、世界や相手に挑むことで得る「興奮」はSERIOUS FUNを生み出します。

それぞれの「感情」はゲームプレイにおいて「役割」を持っています。そして感情ごとに、それらを引き起こすためのトリガーが異なります。ゲームを作る際、どの感情を利用するのか考えることは大切です。

現状のVRコンテンツは、体験時間を長くするのが物理的に難しいこともあり、小さなEASY FUNの体験を繰り返しているだけのものが多くなっていると、ラザーロ氏。

ここから一歩先のゲーム体験にするために、難易度の高いゴールを設定して「挫折感」を引き起こし、繰り返し練習させることで「HARD FUN」の要素を取り入れたり、何かを集めさせることで「収集欲」を刺激して、「SERIOUS FUN」の要素を取り入れたりするなどのアプローチが考えられます。

Oculus Touch対応の魔法バトル『Unspoken』では、魔法を使うために適切なジェスチャーを行う必要があります。ノーアクションで「単純に相手を狙い撃つ」とすれば事足りるところを、あえてジェスチャーを取り入れることで面白さを増しています。

強い感情を引き起こす

VRは人に、様々な感情を引き起こすことができます。それによって、より楽しさが増したり、もう一度やりたくなったり、人の注意を惹きつけたり……さまざまなメリットが存在します。

しかし一方で「気持ちの悪い」体験は避けなければいけません。ラザーロ氏はこれについて「動きに依るVR酔い、不気味の谷に陥ってしまうこと、流血やゾンビなどのグロテスクな表現に注意しなければいけない」と説明しました。

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「感情には極性があるのです」とラザーロ氏は言います。

たとえば「気持ち悪い」という状態は、吐き気を催すことからも分かる通り、自分の外側へ向かう感情です。同じように「怒り」も、暴力を振るうなどの行動に繋がるため外向きの感情です。

一方でお腹がすいているときに何か食べたくなるように、「好奇心」は世界を自分の方へ引き寄せたくなる内向きの感情と言えます。内向きの感情が働いているとき、人は世界に没頭しています。そういったときは、HMDを外したいとは思わないのです。

音楽を使う

最後に音楽について。

ラザーロ氏はまず「VR空間で音楽を用いると、没入感を損ねることの方が多い。これは従来のゲームとは真反対の事実である」と指摘します。

ステレオ音響は、両耳から入って脳の中だけで理解されます。従来のゲームや映画はこれで充分でしたが、VRではそうはいきません。

VRにおける音響のアプローチとしてラザーロ氏は、「これは難しいことですが」と前置きをしてアイディアを語りました。

「たとえばこの教室でマイクを通した私の声を聴いている皆さん。マイクで増強された音声が、胸のあたりを揺らしているのを感じる人もいるでしょう。また、もし皆さんこの部屋を出ていった後にこの教室に恐竜が入って来たら、皆さんは足で徐々に大きくなる振動を感じることもできるでしょう。音が伝わってくる経路をデザインすることは、ひとつ大事なことになると思います」

以上5つの項目について、VR開発においてどのような手法が適しているのかを見てきました。ラザーロ氏は最後に「いずれも、4本目のクレヨン“奥行き”をどのように利用するのかデザインすることが大切です」と述べ、セッションを締めくくりました。


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