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テック 2016.11.25

【VRDC2016】「全てが周りにあるのは、周りに何もないのと同じ」360度動画制作で嵌りがちな罠を回避する方法

現地時間2016年11月2日・3日に、アメリカはサンフランシスコにて「VRDC 2016」が行われました。

VRDCとはVirtual Reality Developers Conferenceのこと。会場では世界各地のVR開発者が集い、企業によるデモの展示、パーティによる開発者・企業間の交流、そして開発に関する知見を共有するセッションが行われました。

本記事ではその中で、『From Branded Content to Immersive Fiction: Directing Techniques for Better Storytelling in VR』と題されたセッションのレポートをお送りします。登壇したのは、360度コンテンツの制作などを行っている「The Soap Collective」からローガン・ドワイト氏。

セッションでは、360度動画において、体験者の視線を誘導するための方法が紹介されました。

VRDC2016で行われた全セッションはこちらから視聴可能です。(すべて英語)

VRにルールは無い

「VRコンテンツ制作において、本当はルールなんてありません。だから私を含め、誰かの言うことを鵜呑みにする必要はまったくありません。ただ、いくつかのセオリーのようなものはあります」

ドワイト氏のそんな言葉からセッションは始まりました。

「360度のストーリーテリングにおいて、体験者の注意を引きつけることは非常に大切です」

前後左右、どちらを向いても違うものが見え、目新しいものがあたり一面に広がっている360度コンテンツは、果たして素晴らしい作品と言えるでしょうか?

どこを見ても違ったものが見え、新しい発見があるのは、一見360度全天周という性質を用いていて良いアイディアのように聞こえますが、実際はそう上手くいかないことの方が多いのだそうです。

なぜなら360度全天周コンテンツの体験は、どこを見てもコンテンツであるがゆえに、逆にどこを見ればいいのか分からなくなってしまうから。

ドワイト氏はこれについて「If everything is around, nothing is around.」(全てが周りにあるのは、周りに何もないのと同じ)と語っています。あたり一面すべてがごちゃごちゃしているとき、そのどれも、特別には見えなくなってしまうという意味です。

それでは、体験者を戸惑わせないように上手く注意を引きつけるには、どのようにしたら良いのでしょうか。

人の視線の“円錐形”

彼は「VRのストーリーテリングににおいては、使うのに適した視界の範囲がある。そこでまずなにより、体験者がどのような体勢でコンテンツを体験するのかはっきりさせる必要がある」と言います。

座っているのか、立っているのか、歩いているのか

なぜなら、それぞれの状態で、人が自然に注意を払う範囲が違ってくるからです。そして、着席→立位→移動の順に、ストーリーテリングは難しくなると言います。

この図は、体験者が座っているものと仮定したとき、体験者の視界を角度によって3つのエリアに分けた図です。

体験者の前方90度(黄緑色)は主要なイベントが起きるべきエリアです。登場人物の会話、主人公の行動など、物語の進行に不可欠なシーンはこのエリアで行います。

体験者の左右に広がるのは二番目のエリア(黄色)。人はこの左右のエリアについて、認識してはいるものの、一般に深い注意を払ってはいません。ここでガイドアクション(注意を引く新しいイベント)を起こして体験者の視線を誘導します。

そして最後に体験者の後ろに広がる赤いエリアは3番目の(その他の)イベントが起きるエリアです。

この図のように、体験者の左方の黄色いエリアで何か注意を引くためのイベント(ガイドアクション)を起こすことで、最も注意を払う緑のエリアを左へ移動させるのです。

この方法について、『Never Bout Us VR』という360度全天周ミュージックビデオを例に、具体的なやり方が紹介されました。

主人公を目印にして視線を誘導

『Never Bout Us VR』(360度コンテンツ。設定により最大4K画質まで可能)

まず、360度コンテンツを平面に展開し、先に見た「視線の円錐」3エリアに分割します。2Dのスクリーンで展開するとすべてのエリアが見えていますが、VRビューワーで見ると赤い部分は体験者の「後ろ」にあたります。以下同じように、解説は2Dスクリーンにシーンすべてを展開して行っていることに注意してください。

メインとなる緑のエリアに主人公の男が映っています。

ミュージックビデオが進んでいくと、主人公の傍らに別の男が幽霊のように、半透明の状態から徐々に輪郭をはっきりさせて現れました。これが「ガイドアクション」です。今まで主人公に注意を向けていた体験者が、少し左側へ注意を払うようになり……

現れた男が再び透明になって消えると、主人公は左へ歩き始めます。こうして視線の“円錐”が左方向にずらすことに成功しました。

その後も同様に、幽霊のように新たな人物が現れては消え、体験者の注意を移動させつつ、それに合わせて主人公も歩いていく、という流れになっています。

このような視線誘導を行うことで、体験者に「主人公に視線を向けていればいいのだ」という感覚も芽生えることになります。そして主人公はこのシーンの最後に、ドアの向こうへと姿を消して画面はブラックアウトしますが……

暗転が解けるとすぐに次のシーン。ポイントは、前シーンで主人公はドアの向こうに消えましたが、「ドアのあたり」にまだ体験者の注意が残っているうちに、次のシーンのほとんど同じ位置に再び主人公を映すことで、視線の”円錐”を引き継いでいることです。

こうして場面が変わっても、体験者は「どこを見ればいいのか」と戸惑うことなく、連続的にコンテンツを楽しんでいられるのです。仮に第2のシーンが車のフロントガラスの向きで始まったとしたら、体験者は「キャラクターはどこに行ったんだろう?」などと探さなくてはいけません。

これら視線を誘導するテクニックは、ルームスケールであっても同じように適用すると良い、とドワイト氏は語ります。

まとめ

ドワイト氏はセッションで伝えたいポイントを、以下の3つにまとめました。

1.体験者がコンテンツを体験するときの体勢を考えること

(座っているのか、立っているのか、歩いているのか)

2.視覚・聴覚などの情報で、ストーリー進行の手がかりを与えること

(これを見ろ!というあからさまなものではなく、つい見てしまうような、視線を引くものにする)

3.シーンにあれこれ詰め込み過ぎないこと

(あたり一面すべてがごちゃごちゃしていると、そのどれも特別には見えなくなってしまう)

最後に:VRにルールは無い

最後に氏は、「今回紹介したテクニックを理解したら、今度はそれを壊してみましょう。最初にVRにルールはない、といったのを覚えていますか?」という言葉でセッションを締めくくりました。


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